第36話:捨てられた地、クリフォト大陸

「聖剣のクセに根性なさすぎだろ」

「ショウ様、聖剣、根性、求める、違う」


 タイロックからのツッコミを無視して折れた剣を見つめる。

 借り物だから壊しちゃまずいってことは分かる。

 だが使ってなんぼの武器を壊して何か言われるのも違うだろ?


 結論として、何も見なかったことにして剣を鞘に収めることにした。


「イタズラ、隠す、子供」

「うるせぇ!」


 今騒いだところで解決しねえ問題に頭抱えても意味ねえんだよ。


「あの、王子ぃ、代わりにこれとかどうでしょうかぁ」


 そう言ってキリエが血でベトベトに汚れた剣を持ってきた。


「なんだこの献上したら即不敬罪になるくれぇヤベーもんは」

「ほら、勇者遍歴記に剣を突き刺して沈めたってあったじゃないですかぁ。 だから体の中を探してみたら出てきましたぁ」

「そーかそーか、出てきたか。 汚ねぇから今すぐ洗ってこい」


 キリエが肩を落として海水で剣を洗うが、錆びねぇのかあれ。

 まぁ何百年も魔物の体にあったんだし今更か。


 というか魔物を殺したらその中に剣があるとか、まるで八岐大蛇だな。

 じゃあアレは草薙の剣か?

 だが元は勇者の使っていた剣で、こっちには聖剣がある。

 アーサー王が引き抜いた選定の剣の方が近いかもしれねぇな。


 なんか俺の道中を記録するだけで神話が作れんじゃねぇか?。


「………くだんねぇな」


 そんな馬鹿な真似してる暇があるならさっさと親父殿の首を取り戻せって話だ。


 そういやあの女はどうしてるのかと思い探してみると、遠くの山を見ていた。


「おら、黄昏てねぇでさっさと行くぞ」

「まぁいいけどね。 ところで、あのオッサンも連れてくの?」

「あぁ、置いていく。 この旅にはついていけそうもないからな」


 俺たちはオッサンに留守番を頼む書置きを残し、クリフォト大陸へと踏み出した。

 とはいっても、歩いてスグのところに集落のようなところが見つかった。

 だがお世辞にも文明レベルが高いとはいえねぇ粗末な掘っ立て小屋ばかりだ。


「アンタ、本当に変装しなくていいの?」

「コソコソ隠れるのは趣味じゃねえ、襲ってくるならむしろ大歓迎だ」


 襲うべき相手が俺だけに集中した方が動きやすい。

 下手に攻撃が分散しちまったら守るのが面倒だ。


 集落に近づくと、白いローブを羽織った奴らが異物であるかのように俺を見てくる。

 フードを被っているせいで顔はよく見えねえが、獣っぽかったり鱗があったり、肌の色も体格も何もかもが違う奴らばかりだ。


「聖務遂行者、アルフよ。 アングリムは何処かしら」

「おぉ、遂行者様! アングリム様でしたら―――」


 女と年寄りが話している最中だったが、俺はすぐに首根っこを掴んで引き寄せる。

 瞬間、先ほどまで話していた年寄りが縦に四分割された。


「オイオイ、駄目じゃないかアルフ。 キミはセフィロト大陸を大混乱に陥れて殉死するまでが役目だっただろう」

「アングリム、あなた……ッ!」


 腰に刀を携えた男が顔と反比例するくらい下卑た表情で語りかけてくる。


「おい女、アイツが親父殿の首を持ってんのか」

「ええ、そうよ。 【俊速】のチートを持つ戦うことを任せられた数少ない信者のひとり」


 それを聞いたせいか、アングリムというクソ野郎が腰にぶら下げた袋を見せびらかしてきた。


「この首がそんなに大切なのかい? 止めなよ復讐なんか。 やったところで生き返るわけじゃない、褒めて貰えるわけでもない」

「アァ?」


 あまりにもお花畑な発言、そしてその中身は空洞すぎて何も響いてこない。

 いや、言っている奴もそんなことは知っていると言いたげな顔をしている。


「大体、この大陸に住む人々を見てみなよ。 誰も間違った事してないのに、こんなみすぼらしい生き方しかできず、死んでいく。 それに比べれば愚王の首が落ちるのなんて妥当な結末だろう?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺はこいつを"殺す"リストから"あらん限りの苦痛を与えてから殺す"リストに入れた。


「それじゃあまるでウチの親父殿がよォ、まるで殺されるのが当たり前だったみてぇに聞こえるじゃねぇか」


 あぁ駄目だ、我慢できねえ。


「あのショウ王14世が! 殺されていい理由なんざ! あるわけねぇだろォ!!」

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