第26話:魔弾の死

 無残な穴だらけのチーズのようになってしまった草原に影が2つ残っていた。

 1つは男、そしてもう1つは白いローブを羽織った少女である。


「……なんでアタシだけ生かしておいたの?」

「テメーには苦しみ抜いて死ねつっただろうが、楽に終わらせるわけねぇだろ。 さぁこれから楽しい楽しい拷問タイムだ」


 男は不敵な笑みを浮かべて少女へと手を伸ばす。

 少女はその手から逃れようと後ずさりながら、降参するかのように片手を上げた。


≪カァン!≫


 その瞬間、男の被っていた鉄兜が弾かれて宙へと飛んでしまった。


「んだぁ、今のは?」


 怪訝な顔を浮かべる男の素顔とは対照的に、今度は少女が勝利を確信するかのような笑みを浮かべた。


「念のために伏せておいて正解だったわね。 回避不可能、防御不能、魔弾のチート持ちよ。 アナタがどんな呪文を使おうと魔弾は必ずアナタを殺す、そういうチート」


 草原から遠く離れた森の中、そこに切り札たる魔弾のチートを持つ狙撃手がいた。

 その銃はかつて製造関連のチートを持つ転生者が作ったもの。

 放たれる弾丸の貫通力は城壁すら貫通し、どれだけ撃とうとも排莢不良などの不具合は一切発生しない。

 故に撃たせないことが攻略法と言えるが、どこに潜んでいるのかも分からない相手にそれは不可能である。


 狙撃手はスコープ越しに男を見定め、再び魔弾を放つ。

 放たれた魔弾は真っ直ぐに無防備になった男の頭へと吸い込まれていくが、恐るべきことに男はそれ反応して魔弾を掴んでみせた。

 しかし魔弾は止まらずに進み続け、男は魔弾の威力を殺すことも逸らすこともできなかった。 


「おいおいマジかよ掴んでもまだ進み続けんのかよ! これこそチート能力に相応しい力ってやつだな!」


 状況とは裏腹に男は歓喜の声をあげていた。

 なにせ男はこれまで一度も自分のチート能力を十全に使ったことがなく、これが初めて本気になれるかもしれないと期待していたからだ。


 もしもこれが最初から男だけを狙っているものであれば、男はその勇気を称えて正面からその挑戦を受け、遊びに興じたことだろう。

 そうして十分に楽しんだ男は彼女らをそのまま生きて帰したことだろう。


 けれども彼女らは男の父を殺した。

 それだけで男が待望の強敵との戦いを捨てて本気になるには十分すぎるものであった。


「クハハハハ、異世界転生してここまで興奮したのは始めてだ! だが、それもここまでだ!」


 男の手は徐々に魔弾に押し込まれ、遂に額へとめり込み………血が出たところで止まった。


「やっぱりな。 相手を必ず殺すチートなら、初弾で俺の頭をブチ抜いてなきゃおかしい。 魔弾とか言いながら、実際は見えてる場所に必ず当てる程度のチートってことだ」


 その銃とチートはかつて10万の軍勢と2つの国を滅ぼしたと伝えられているほどのものだ。

 それを単独で、しかも素手で防いでみせた男に少女は絶句した。


「クッ……魔弾は1発限りじゃないわよ!」


 魔弾が男を殺さなかったとはいえ、血が出ているのならば殺せるはずだと少女は再び狙撃手へと合図を送る。

 その直後に5発もの魔弾が男の頭へと放たれた。


「もう種が割れてんだよ、いくら撃っても無駄無駄無駄ァ!!」


 男は【反応】【身体強化】【格闘】のスキルを上げて魔弾を迎え撃つ。

 防御も回避も不可能……だから男は頭に当たり魔弾の効力が失われた瞬間にその弾を掴んでみせた。

 それも5発、全てだ。


 それを見せられた少女は目の前で起きていることが信じられず、言葉を失ってしまった。

 そして男はスキルによって既に何百メートルも先にいる狙撃手を探知していた。


「そんで失敗したなァ? 狙撃する時は位置バレしないようにこまめに移動しろって習わなかったかァ!? そんだけ撃ちゃあどこにいるのか丸分かりだ芋スナ野郎!」


 【投擲】【身体強化】のスキルを最大限まで乗せ、男は掴んだ5発の弾丸を投げ返した。

 その弾丸は銃で発射された時よりも速く、狙撃手は反応する暇もなく頭に5つの穴が空いてしまった。


「クハハハハッ! オートAIM程度のチートじゃあ俺にゃ勝てねぇよ! 次からは即死チートでも貰ってくるんだなァ!!」

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