第48話:幕間:願いを叶える呪われし剣

 ショウ達が合流したのを遠くから確認したメナス達は、地下祭壇へと戻っていた。

 そんな3人を【俊速】のチートを持つアングリムが出迎える。


「やぁメナス、王子様が死んだのを確認したかい?」


 何を隠そう、鐘を鳴らしシンデレラを目覚めさたのはこのアングリムである。

 かつてショウが来ることを知り、大勢の犠牲が出ることを知り、自分には対処できないことを知りながらも、彼は亡国の怪物を目覚めさせた。


 何故そのような事をしでかしたのかと言えば、彼の性根の問題である。


 チートを貰う前のアングリムはとにかく弱く虐げられることが当たり前であった。

 そんな人物だからこそ教祖は彼にチート能力を与えた。

 力を手に入れた彼は今までとは立場が一点し、力を振るう側となった。

 恩を感じた教団に一層献身的になりながらも、エゴを肥大化させた彼は自身の思うがままに振舞うようになった。


 かつて弱者であり、強者になったからこそ己よりも強い者を極端に恐れる。

 だから彼はシンデレラを利用し、信者諸共ショウを亡き者にしようしたのだ。


「いいや、生きてるよ」

「ハァッ!? どういうことだよ!」

「灰は灰に、シンデレラは理想の灰の中へと消えていった。 だから王子は生きている」


 その言葉を聞きアングリムが焦り顔でメナスに掴みかかる。


「なんで! あいつを殺さなかったのかって! 聞いてんだよ!」


 アングリムからすれば確実にショウを殺す為にシンデレラを起こし、メナスも向かったというのに、何の成果もなかったのだから怒声が出るのも仕方ないだろう。

 パルマとアズールはアングリムを無理やり引き剥がそうとしたが、メナスが手でそれを制止したので不機嫌そうに下がった。


「彼がここに来たなら戦うよ。 シンデレラは関係のない人達にも襲い掛かるからこちらから出て行ったけどね」

「こ……の……ッ!」


 アングリムはメナスの達観した態度に歯軋りをするも、事態は何も解決しない。


「ああもう、どいつもこいつも使えない!」

「そこまで言うのなら、キミが戦えばいいんじゃないかな?」

「勝てるわけないだろ!? あっちは大量のチートを持ってて、こっちは【俊速】のチートだけだぞ!!」


 実際にショウの持つチートは【万能戦闘技能】のみであるが、複数のスキルを最高水準まで使えるというのはそれだけチートの幅が広いということでもある。

 それ故にこうやって勘違いをするのも無理な話ではなかった。


「クソッ! クソッ! せめて……せめてチート装備があれば―――」

「あるよ」

「―――は?」


 メナスがアズールに目で合図をすると、彼女は手を叩き一振りの剣を手元に召還した。


「昔、3つの願いを叶える代わりに持ち主に死の運命が訪れるという剣があった。 ある転生者はその呪われた剣を浄化せず、さらに呪いを強くした。 その結果、死の運命が反転して"鞘から抜く毎に願いを3つ叶え、相手に死の運命を押しつける"ものになった」


 呪われし剣はその能力と裏腹に、神々しく光り輝いていた。


「剣の名はティルフィング、僕には要らないからキミにあげるよ」

「は……はは、ははははハハハハハ! なんだよそれ、最強じゃんか! アハハハハ!」


 アングリムは王に授けられるかのように両手でティルフィングを受け取り、狂ったように笑い上層へと消えていった。


「ねぇ、あんなのに渡しちゃってよかったの?」


 その後姿を見ていたアズールがメナスに尋ねる。


「うん?」

「あいつがもし裏切ったりでもしたら……」


 アズールとパルマの2人が心配そうにメナスの小指を握る。

 メナスは2人がまだ小さかった頃を思い出し、小さく笑った。


「大丈夫だよ。 あの剣じゃ僕は死なないし、死ねなかったよ」

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