第30話:失敗作の集大成
「お待ちください、ショウ様!」
城を出てすぐのところでメレクが追いかけてきた。
「まさかとは思うが、お前もついてくるとか言うんじゃねぇだろうな?」
ただでさえ足手まといが居るってのに、ただのお嬢さんまで加わったら面倒見切れねぇぞ。
「いえ、流石にそこまでワガママは申し上げられません。 ただ、これを私だと思って頂ければと」
そう言ってメレクがなにやら袋を手渡してきた。
こういう時のお約束、重い奴なら髪の毛とかそういうの、普通ならお守りとかだろう。
だが中身は俺の予想を大きく裏切るものであった。
「なんで金貨がギッチリ詰まってんだよ」
「今のショウ様は稼ぐ手段をお持ちではないはず、ですからこういった物が一番役に立つかと」
「それはそうだが」
「あと、この金貨を使う度に私が身銭を切ってると思い出して頂きたく」
「身銭を切るってのはそういう意味じゃねぇだろ」
これぜってェ昔の転生者が伝えた言葉がどっかで捻じ曲がってるぞ。
俺ぁ国語の教師でもないから直す理由もないから放置するが。
「まァありがたく使わせてもらうか。 ついでと言っちゃなんだが、ユーエルと母上のことも頼むぞ」
「ッ!?……はい、お任せください!」
そうしてメレクに見送られながら、俺たちは南のクリフォト大陸へ向かう為にマルクト王朝へ向かう列車に乗り込んだ。
「ところでよ、なんでメレクは最後涙声だったんだ?」
列車での移動時間の暇を潰す為に適当に選んだ話題だったのだが、俺以外の奴らから信じられないようなものを見る目で見られる。
「……なんだよ、お前ら分かんのかよ」
「あのぉ、ショウ様に頼りにされたのが嬉しかったんだと思いますけどぉ」
「アァ? 普段からユーエルや母上の世話をしてくれるから頼りにしてるぞ」
「ああやって口に出されることはほとんどないからですよぉ」
そうだったか?
ちょいと苦手意識があるから避けてる部分があったのかもしれねぇな
頭をかしげる俺を見てタイロックがやらやれといったジェスチャーをする。
「ショウ様、メレク様に、お礼、言ってない、失望された」
「うるせぇ! 帰ったら利子つけてちゃんと礼してやるわ!」
国がしっちゃかめっちゃの時に無責任に投げちまったところもあるからな、相応の何かは準備しといた方がよさそうだ。
「で、なんでテメェまで得意げな顔して俺を見下してんだ女ァ!」
「バレちゃった、でもあんなのも分からないだなんて王子様失格よ」
「そんな肩書きさっき投げ捨てたわ!」
この騒動の原因のひとりでもあるこいつに笑われるのは死ぬほどムカつくなチクショウが。
「あの目を見れば分かるでしょ。 好きな男が危険な旅に出ることを見送ることしかできない悔しさと、それでも最後に頼られたことの嬉しさが混じった涙を我慢してたのよ」
「ハァ? 馬鹿か、俺がアイツに昔かけたニコポとナデポはとっくに解除済みだ」
「馬鹿なのはそっちよ、洗脳チートが掛かってなくたって人は人を好きになるものよ」
「じゃあ聞くが、テメェは洗脳してくるような奴を好きになれるか? チートの実験で」
そう言うと押し黙っちまった、なんだコイツ。
「アルフは好きになれないわ……でも、アンタはアイツラとは違うでしょ。 なら、やっぱりそうなのよ」
「ワケが分からん、ちゃんと言えや!」
「まぁアンタに恋愛はまだ早いってことは分かったわ。 それよりも、アナタ達はあっちの大陸についてどれだけ知ってるのかしら?」
この女、露骨に話題を変えやがった。
とはいえ、このまま広げるような話題でもないからいいか。
クリフォト大陸……別名、転生者に見捨てられた大地。
異世界転生者ってのはあっちこっちでポンポン出てくるもんだが、その失敗作の集大成があの大陸だ。
例えば獣人の奴隷解放をかざして戦ったチート持ちがいたが、最終的に今度は人間側が奴隷にされて立場が逆転。
人間の奴隷が当たり前になった頃に再びチート持ち転生者がやってきて、内乱が起きて国が滅んだらしい。
他にはどんなゴーレムでも作れるチート持ちが家を作り、次に村を作り、ドンドンと発展させていった。
そこで話が終わりゃあ良かったんだが、そうはいかない。
転生者が死んでから数年後、街の再開発をしようとすると転生者の作ったゴーレムが妨害してきた。
主人の街を守るって命令を忠実に守ってな。
今まではゴーレムのおかげで外敵から守られていたが、今度はそのゴーレムが邪魔になってきた。
そんでこれからは自分達の手で発展させていこう!
……ってやろうとしたが、結果はゴーレムに敗北。
一応、ゴーレムが反乱を起こしたつって周囲の戦力もかき集めたらしいが全滅。
そして街は見捨てられ、今では何も残っていない荒野で存在しない街を守る為にゴーレムが徘徊しているとかなんとか。
マジで失敗作の集大成って言葉がピッタリだよ。
そんな厄介なもんがゴロゴロ転がってるのがクリフォト大陸だということを伝えたところ、まぁあっちの人間にとっても同じ認識らしい。
「あっちからすれば、こっちの人間は羨ましくてたまらないんでしょうね。 だって凄くマトモなんだもの」
鉄道走ってたりチート装備がゴロゴロ転がってたり野良ダンジョンがあったりしてるが、それでも向こうよかマシらしい。
「他にもあっちには色々あるわよ。 豊穣のチートで自然を取り戻したんだけど、効き過ぎてむしろ植物に侵略された土地とか、それを何とかしようと地獄の炎を司るチート持ちが焼いたら植物の再生能力と拮抗して今でも燃え続けて黒煙の森って呼ばれてたり」
「異世界転生者ってのはマジでいらんことする奴らばっかだな」
「それ、ブーメランになってない?」
「だから言ってんだよ」
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