第57話:異世界ナーロッパ転生物語~おかわり~

 わたくし、セラフィー。

 コクマ連邦のお嬢様!

 今、わたくしはティファレト国のお城に来ておりますわ。

 それもこれも、全てはこの国に囚われている悲劇の王子様をお救いするため!


 少し前にこの国の王様であるショウ王様が亡くなられました。

 そしてその跡継ぎとして長男の方がいらっしゃったのですが、どうやら面倒だからという理由でそれを弟君であるユーエル様に押し付けた模様!


 しかもユーエル様がまだ未成年で独占なのをいいことに、お嫁さんを募集してるとか……。

 これはアレですわ、悪女を利用しつつ弟君を傀儡にして操って裏で悪い事するやつですわ!

 あんな可愛らしい……ではなく、カワイイお顔をした王子様をそんなことに利用するだなんて許せませんわ!


「だからわたくしはお嫁さんの選考会に来たのですわ!」


 ―――というわたくしの演説を聞いた門衛さん達なのですが、何故か急にヒソヒソ話をし始めてしまいましたわ。


「……なぁ、どうするよコレ」

「どうするって言われても……これ、まだ一桁だろ? 流石にユーエル様のお嫁さんにはまだ早いって」

「取り敢えず別室に行ってもらうか、うん」


 なんだかよく分かりませんが、わたくしだけ特別扱いしてくださるらしいですわ! 

 これもわたくしの高貴なオーラのおかげですわね。


「あー、えーっと……セラフィーお嬢さん? 案内するので付いてきてくださいね」

「もちろんですわ。 それでは皆様、お先に失礼いたしますわ、オーッホッホッホ!」


 そうして先に門を通過したわたくしを、他のお嫁さん候補の皆様は口を開けて見送ることしかできない姿は面白かったですわ。


 そうして衛兵さんに連れられて部屋で待つこと30分……何の音沙汰もないのはどういうことですの!?

 これはもしや………わたくしだけシード選手ということかしら!?

 わたくしが見てきただけで他のライバルは100人はおりました。

 なら、わたくしの出番までまだまだありますわね。


 それまでここで時間を潰すのも退屈……ではなく、こういう時こそ情報収集ですわ。

 そうしてこっそりと部屋を抜け出し、お城の中を探検していると、オロオロとしている侍女がおりましたので声をかけてみることに。


「あなた、一体どうしたの?」

「う………あ、えぅ………」


 茶葉の入った袋と水の入ったポッドを持っていたその子は綺麗な髪が地面につきそうなくらい長く、角と翼も生えていたけれども、そんなことを気にするわたくしではなくってよ。


「なるほど……迷ったのね!」

「あ、あぅ……」


 その子がしどろもどろになりながら小さく頷くのを見るに、合っていましたわ。

 さて、迷っているのなら案内すればいいけれども、この子がどこに行きたいのか、それが何処にあるのかが分かりません。


 ならば聞けばいいんですわ!


「そこの御方!」


 偶然、廊下を歩いていた兵士の御方に声を掛けてみるも……。


「失礼、任務中ですので」

「ならそちらの御方!」

「同じく、任務中でして」

「むむむむむ……!」


 どなたに声をかけても逃げるばっかり!

 どうもこの子を嫌っているというよりも、関わりたくないというご様子。

 困っている女性を放っておくだなんて、騎士が聞いてあきれますわ!


 こうなったら自力でなんとかしようと思ったところで、急に首根っこを掴まれて驚いてしまいました。


「キャー! レディをこんな持ち方をするだなんて、どなたですの!?」


 そうして振り向いた先には、2メートルを越す体格の虎顔の騎士様が!

 思わずちょろっと出てしまいそうでしたわ。


「ライラ、また、迷子」

「あ……あぅ……」


 虎の人につままれたその子はライラというお名前らしい。

 そしてその人は次にわたくしのことをジロジロと見てきます。


「迷子?」

「違いますわー! この子が困っていたから助けていただけですのよ! それよりあなた、この子のことを知ってるなら送ってあげるのが紳士の務めでしてよ!」

「タイロック、紳士、違う、従士、奴隷」

「そんなの関係ありませんわ! 女の子を大切にしませんとモテませんことよ!」


 そんなことを言って怒らせたらどうしようかと思ったが、タイロックと名乗ったこの人は牙の無い口でニヤリと笑う。


「これ、知ってる、おもしれー女」

「なーにがおもしれー女ですか! わたくしこそ、ユーエル様をお救いに来た姫でしてよ!」

「姫?、面接、もう、始まる、ついでに、連れてく」


 そう言って虎顔のお人はわたくしと女の子を肩に乗せて、ノッシノッシと移動しました。

 そして通された部屋には、わたくしのライバル候補となる女達が!


 部屋についたら肩から降りた女の子がお茶の準備をして、他の女の人達へと配膳しようとする。

 しかしその手つきがあまりにも危ないので、わたくしも下りて一緒に手伝うことに。

 それを見て手伝ってくださる女の方もいれば、そうではない御方も。

 そうしてドタバタとしながらも配膳が済んだ頃、扉が大きな音を立てて開け放たれてしまいビックリ!


「おいコラァ! そいつを見つけたなら報告しろやクソ奴隷!」

「大丈夫、ご主人、いない方が、面接、順調」

「進行役がいなくて進むわけねぇだろうが!」


 扉から入ってきた入ってきた方は大仰な鉄兜を被っており、その口調と振る舞いはまるでチンピラそのもの。

 そうしてチンピラさんは一際豪華な椅子にどかっと座り、机に置かれた紅茶をすする。


「……おいライラ、これ淹れたのテメェか!」

「えぅ……」


 大声に驚いて、女の子が虎の人の後ろに隠れてしまいましたが、チンピラがその子の手首を襟首を掴んで無理やり引っ張り………。


「ポッドに水を補給した後は必ずこのボタンを押せつっただろうが! そんで茶葉の量はこのメモリ! んで淹れ方はこう!」


 何か乱暴でも働こうならお嬢様タックルを仕掛けるつもりでしたが、予想とは裏腹にそのチンピラは綺麗な手際でお茶を淹れてしまいました。


「茶のひとつくらい、そろそろ満足に淹れられるようになりやがれ!」


 とはいえ、あのような言葉遣いは許容できませんわ。


「ちょっとあなた! そんな乱暴な言い方をしているせいで怖がってるじゃありませんか! せめてその兜くらいは脱ぐべきではなくって?」

「アァ?」


 チンピラはこちらを睨むも、わたくしの言い分が正しいと理解したのか黙って兜を脱ぎました。

 しかし、その下に隠されていた顔は―――。


「おら、これで文句ねぇだろ」


 あまりにも美しく整っており、下手をすれば一目ぼれしてしまうほど絶世の美青年でした。

 けどあの女の子にはそれも通じないのか、また虎顔の人の後ろに隠れてしまいました。


「こんなお顔をしていて、どうしてあんな汚ねぇ立ち振る舞いしてたら怖がられても仕方がありませんわね~」

「なんだとこのクソガキャ!」


 笑えば女人はイチコロだというのに、怒っているせいでちっともよろしくない。

 あぁ勿体無いですわ。


「おいタイロック! このガキは何なんだ!」

「おもしれー女、拾ってきた」

「犬猫を拾ってきたのとは違ぇんだぞアホウ!」


 ふむ……このチンピラ、打てば響くタイプですわね。

 わたくしの地元にもこういうのが沢山いましたわ。


「で……ガキ、てめぇは誰だ」

「わたくしはセラフィー、ユーエル様が悪い魔女に誑かされないよう、求婚に参りましたわ!」


 それを聞き、小さな笑い声がいくつか聞こえてきた。

 それが気に食わなかったのか、チンピラが思い切り机を叩く。


「ガキが夢と理想を語ることの何が悪い、言ってみろ」


 部屋がシンと静かになってしまい、チンピラが言葉を続けました。


「よしんば荒唐無稽なことだろうと、それを嗤うような奴に用はねえ。 11番、27番、今すぐ出て行け」

「あ、あの……その……」


 番号を呼ばれた女の人が立ち上がって抗議しようとするも、チンピラに眼力に負けてしまい、そのまま肩を落として部屋から出ていってしまいました。


「性根が道頓堀みたいだと思ってましたけど、ギリギリ魚が住めるくらいには綺麗ですのね!」

「ガキィ! お前そろそろいい加減にしねぇと―――待て、お前いまなんつった?」

「ドブ川よりもマシな心の持ち主というお話でしょうか?」

「ちげぇよタコ!」


 う~ん、口調こそチンピラみたいですが手が出ないのを見ると比較的マトモっぽい方ですわね。

 そんなチンピラさんがしばらく考え込んだ後、小声で何かを呟きました。


「………33対4」

「それは! 今! 関係ありませんわよね!?」


 再びの沈黙。

 そして2人同時に口を開け――――。


「テメェ転生者かよ!!」

「あなた転生者ですの!?」

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異世界ナーロッパ転生物語~世界最後の転生者~ @gulu

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