19.シャーミィ姉弟はご飯を所望する

「見えたぁぁぁ!! 」


 電磁ラインで空を滑るように飛びながら僅か5分。バリアの張られた俺の店、桜来軒を発見した。どうやら魔物に襲われた形跡もなく、無事だったらしい。


「よし。……ってそういえば、これどうやって止まるんだ!?」


 いざ止まろうとした時に、どうやって止まるか考えていなかったのを思い出す。慌てて店の目の前に、網のように電磁場を作り上げ、別極による引力で停止を試みた。


「ぅぅぅううう!!! ……うぇぇ! ぐへっ! いだっ………………」



 それまで高速で飛んでいたのに、いきなり止まった為Gがもろに身体にかかり、カエルを潰したような声が肺あたりから漏れ出る。

 電磁網に引っかかり、そのまま地面へとボトリと落ちた。……食べたもん吐きそう……。


「いって〜…………地面にもシールド出せばよかった……」



 最近やけに転んだりする為、膝に青アザが出来ていたりするのだが、まぁ異世界に来たししょうがないのだろうか。

 俺はぶつけた膝の砂を払うと、インフラ魔法をONにした。2階とホールの一角だけに電気が付き、真っ暗で何も見えなかった外に、窓から漏れた光が差し込む。

 気を取り直して店に入ろうとすると、何かの気配を感じた。まるでこの世界に来た時のような感覚。


「なんだ!?」


 明らかに見られている。そう感じ、すぐに後ろを振り返った。


 するといた。


 バリアのすぐ外にへばりつくようにして、何かが2匹こちらを見ている。


「うぅぅぅ〜!!」

「うう!! 」


 光をつけたばかりで目がまだ慣れておらず、逆光でそれの正体が分からない。しかし唸り声みたいなのは聞こえる。一体なんだ? 狼にしては唸り声が軽いような……?


「ハミィ! 明るいよ! 見て見なさい! 民家よ!」


「ラミィ。落ち着いて下さい! やっとここまで逃げてきたのです! また捕まっちゃうかもなのですよ!」



 え、子供……?

 …………バリアに文字通りへばりついてこちらを見ている。凄く……なんというか、キラキラした目でこちらを見る泥だらけの女の子と男の子? のようだ。すると、2人と目が合った。


「た、大変なのです! ラミィ! 目が合っちゃったのですよ!」


「大丈夫ハミィ! 私が何とかするわ! 見てて!

 ……ちょっと!すいません! そこのお人! 」



 え、俺?


 しばらくほうけていると、


「ちょっと!! 無視しないでよぉ!! あなたよあなた!! 他に誰がいるって言うのよ!!」


「あ、すいません……。んで、ど、どうされました?」


「まずはこの、……なにかしらコレ……。壁みたいなの……これを解除しなさい! そして私達を中に入れる事を許すわ!!」


「あわわ、ラミィ! そんな尊大な感じで話したら、また殴られるのですよ!! 人間は怖いのです!!」


「見てなさいって言ったでしょ! ハミィ! あなたは黙って私に任せていればいいの!!」



 あ、うーん。えーと?


 まぁとりあえずこの2人が姉弟っぽいというのは分かった。人間は〜って言ってるし……別種族なのか?

 とりあえず害はなさそうなのでバリアを通してやる。


「いたっ!」


「はむっ」


 へばりついていた2人が、バリアを通り抜け地面へ転げ落ちる。

 ……よく見ると、弟の方にチョロンと生えた尻尾のようなものが見られた。リリィは隠してた?みたいだけど、なんかちょっと先っぽが光ってる?


「……たたた。あなたねぇ! 解除する時は解除するって言いなさいよね!」


「あわわ! ラミィお姉ちゃん〜!!」


「ご、ごめんごめん。それであの……君たちは一体……?」


 顔を押さえてプンプン怒り出した姉の方が、俺に指をビシッと指した。それを見た弟が、慌てて姉の手を抑える。この2人よく見ればまだ10歳くらいにしか見えない。何故こんな時間にこんな所に……?


「聞いて驚きなさい! 私の名前はラーミィ・シャーミィ・ペルシャ!! どうよ! 恐れ入った!?」


「あ、えっと。姉がすいませんです。僕は弟のハーミィ・シャーミィ・スコティッシュです」


 ペルシャとスコティッシュて……猫やん。名前がラミィとハミィって訳か。シャーミィが家名なのかな?

 弟の方は尻尾があるけど……姉の方は普通の人の子供っぽいな。これも偽装魔法なのかな?


「こんばんは。2人ともこんな時間に森にいたら危ないんじゃないか? なぜこんな所に?」


「ハミィ!」


「うん、わかったよラミィ。……えっと、実は……」


 ラミィに促された弟、ハミィが言うにはこういう話であった。

 ハミィは偽装魔法が上手くできず尻尾だけ隠せないらしく、それを見つけた人間に捕まり奴隷商人に売られたらしい。2人と同じような境遇の奴隷達を載せた荷馬車が、サウスブルーネに向かう途中、今度はそれを盗賊たちが襲ったとの事だ。奴隷商人は殺されてしまったらしいのだが、檻に入れられたままのラミィ達は金になるからと、そのままアジトに連れていかれたらしい。それが一昨日の事だと。

 そして昨日の朝、盗賊達が出ていったのを見計らい抜け出してきたらしい。なんでも、一緒に檻に入っていた奴隷のお姉さんがなんとか逃がしてくれたそうだ。

 ラミィとハミィは道も分からず、命からがらここまで逃げ延び、暗くなったところでこの店を見つけた。との事。


「……なるほどな。とりあえず、立ち話もなんだから、中にどうぞ!」


「……あら。そう? じゃあお言葉に甘えるわ!!」


「あ、ありがとうございます! もう、なんでラミィはそんなに偉そうなのです〜!?」



 姉のラミィはお嬢様みたいな口ぶりだな。泥と砂だらけで服も真っ黒だが、どこかこの世界のものと比べると作りが良く、金髪のサラリとした髪や所作は、気品のようなものも感じる。弟のハミィも同じ金髪で日本の今どきのナチュラルなオシャレおかっぱみたいな髪型で、服も姉と似たようなものだ。

 どこか貴族の所の子供だったりするのかもしれないな。


「とりあえず〜、あそこの席に座ってて。……あー2人とも嫌いな食べ物とかある?」


「え、えっと。そんな、僕達お金もってないです!」


「いやぁ……でも」


 ぐぅぅぅぅぅぅ〜〜〜……


「な、何よ!! 悪い!? だって何も食べてないんだもの!! お腹すいてるの!!」


「もう、お姉ちゃん〜〜!!」


「じゃあそこでちょっと待ってて。ご飯作って来るから」


 先程からちょくちょくお腹がなっていたのに気づいていたのだが、何となく指摘する雰囲気では無かったので、さり気なくご飯食べさせようと思ったのだが……。

 まぁ、言われた通りに席に着いてくれたのでよしとしよう。……尻尾の感じや名前からして猫っぽいのだが、リリィと同じ猫人族なのかな?

 それならば肉も好きなはずだ。飲み物は……オレンジジュースとかで良いかな? 肉はハラミとロースが在庫多かったからそれでいいとして……、最近営業してないから久しぶりに一通り作るか。何が好きか嫌いかも分からんし。余ったら俺が貰おう。


 てか風呂も入れてやらないとな〜。服も真っ黒だし、泥だらけだ。準備しとこう。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ハミィ……油断するんじゃないわよ。ちゃんとなさい」


「うん。でもお姉ちゃん。あの人、全く悪意とか無いよ? 多分大丈夫だと思うです」


「わっかんないでしょ! もう、バカね。人の心は移ろいやすいのよ……。この男だって……」


「ん〜そうかなぁ。……でもでもあの人。なんか普通じゃない……? ような……なんだろう。変な感じです」


「変な感じって何よ! もう、ハッキリしないわね。……私達が猫妖精族ケット・シーって事はバレちゃいけないんだから。分かってるわね?」


「わかってるですよ! ラミィお姉ちゃん!」



 30分後



「何このシュワシュワ美味しい!! こっちの柑橘みたいな果汁も美味しい! こんなの飲んだことないわ!!」


「お姉ちゃん!! この色とりどりの野菜みたいなの乗った麦飯も美味しいです! 熱いけど! ふーっふーっ! うまぁぁぁです! 」


「「でもなにより……」」


「「このお肉最高」」「だわ!!」「ですー!!」



 喜んでくれたようで何よりだ。


 目の前で肉やら石焼きビビンバやらを口いっぱいに詰め込む2人の子供を見る。網の上の肉は次々とその小さな身体に吸い込まれるように消えていき、子供たちは目を輝かせながら次へと手を伸ばしている。

 俺は満足そうに料理を口にする2人を見て笑みを浮かべるも、いつの間に現れた髪の間から覗く猫耳を見て、複雑な心境になった。




「……さて、どうしたもんかね」


 これからどうするべきか。目の前ではしゃぐ子供二人を見ながら考える。

 まぁあれだな。今はお腹いっぱいになってもらって、お風呂に入れてサッパリする。それから考えるか。今日中に戻るつもりだったけど、なんか……気が抜けて俺も眠いし。



 その後、食事を食べ終えて満足そうになった2人を抱え、お風呂場に連れていった。洗濯機やシャワー、浴槽に溜まったお湯に驚きながらも、身体中の汚れを落としてサッパリした2人は、着替えを終えると、そのままスイッチが切れたように脱衣所で横になってしまったようだ。

 出てこないなと思い、心配になって見に行った俺は、仲良さそうに背中合わせで眠る2人を見て少し笑いつつも、起こさないようにベッドへと運び、そのまま自分も部屋のソファーで眠るのであった。

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