47.来訪者

「何だこの……はぐっ! はぐっ! ……うめぇ!

 芋!? 揚げてんのか!? 塩が効いててうめぇ〜〜……!! 」


 フライドポテトです。そんなにかきこんだら喉に詰まるぞ〜。


「ちょっとジャズ!! そんなに取るんじゃないわよ!! 私の分無くなっちゃうでしょ!! 」


 あ、シャパパさんキレた。隣でもジュミナさんがSTRにものを言わせた料理取り合戦……いや戦争を繰り広げている。


「……くっ! ジュミナ殿!! それは私のですよ!!」


「はん! こういうのは早い者勝ちなんだよ。文句があるならオカワリするこったね」


「ぐぬぬぬぬ!! おい店主!! 唐揚げおかわり!! あとこの……れも、れもなーでもだ!」


「……あ、私もオカワリ。あいすてー」


「レモネードにアイスティーに唐揚げ一丁ね。はいはい〜、ハミィ頼んだ!! ……まだ肉来ますからね。お腹開けといて下さいよー」


 前菜で出した唐揚げとフライドポテト1キロずつ。目の前の野獣のような冒険者達では相手が悪かったようだ。5分持たないかもしれない。

 そんな中でシュリハさんは大きなシーザーサラダをひと皿差し押さえて黙々と食べている。抜け目のない事だ。


「はむはむ……うま……」


 さて、唐揚げの追加と本命持ってくるか。このままだと全滅しそうだし。

 直ぐにキッチンに戻り仕込んでおいた肉皿を取りに戻る。

 上カルビ、ロース、ハラミの盛り合わせ。豚バラ、豚トロ、鶏軟骨の塩ダレ合え。牛レバー、牛ホルモン、豚ホルモンの味噌ダレ、辛味噌合え。各五人前ずつ。

 これで少しは時間稼げるかな?


 モリモリになっている皿をいつものように片手で持てるだけ持ち、残りはリリィに持ってもらう。


「器用に持つね〜」


「まぁこれが仕事だからな」


 大きめの皿を片手で5枚ほど持っていたのを見て、リリィがどうやって持ってるのか覗きに来た。どうにか真似をしようとしているが、なかなか上手くできないようだ。リリィなら器用だし直ぐに出来るようになるだろうけどね。



「お待たせしました〜! 火をつけますよ〜!」


「「「おおー!!!」」」


 皆が薔薇のように盛られた大量の肉を見て歓声を上げると同時に、血走った目で肉をロックオンしている。いつぞやのデジャブだ。


「うわ! 火がついたぞコレ!」


「ここで焼くんだろうなと思ってたけど、随分凝った魔道具だねぇ」


 ジュミナさんも目を丸くして驚いているので、恐らく他には無い仕掛けなんだろう。

 ていうか焼肉屋自体珍しいんじゃないかな?基本焼いたものが出てきそうだし。


「げ、原理を……原理を教えて……」


 若干1名見慣れないものが多すぎて、原理の探究者と化してる銀髪エルフがいるが、アリアンさんに任せてスルーしておく。


 ジュウウ…………


「うおぉ!! くぅ〜!! 良い音だぜ!」


「自分達で焼くなんてって思ってたけど、楽しいわねコレ」


「……!!! 美味しい!!! ちょっとレマニエ!! この肉めっちゃ美味しいわよ!!」


「ちょっとシャパパ! それ私の肉よ」


「シュリハ様!! そんなに乗せたら焼けません!! 私にお任せを!」


「任せた。早く食べたい」


 最初はおっかなびっくりで焼いていたが、直ぐにシステムに慣れたのか、和気あいあいと楽しんでくれてるようで何よりだ。

 アリアンさんもシュリハさんの世話を甲斐甲斐しく焼けて満足みたいだし。

 やっと店を開く目処がついたなぁ。長かった……。

 そんな感慨にふけながら皆の食べる様子を見ていると、


「良かったね」


「ん?」


 リリィが俺を覗き込むようにしてそう言った。


「お店やっと開けたね」


「ああ、みんなのお陰だよ。……ありがとなリリィ」


 本当にどうなる事かと思ったけど、こうしてお客さんを入れる事が出来たのは正真正銘みんなのお陰だ。


「へへーん! でもこれくらいじゃ恩を返せたとは思ってないから。これからも私、お店手伝うよ! ……たまに依頼もこなさなきゃだけどね」


「それは有難いけど……、いいのか? せっかくAランクになったのに」


「ん〜。今はソロだからね。どっちにしろ1人じゃ出来ることは限られてるし……、それに少しゆっくりしたかったし!」


「……そっか。じゃあ頼むよ! 頼りにしてるぜリリィ」


「おうともさ!」


 出会った当初はどこか影のあったリリィも、口調や仕草振る舞いも大分明るくなってきた。こっちが元々の素なんだろうな。


「ナオくーーん! オカワリ貰えるー?」


「あ、はーいシャパパさん! ……よし、じゃあリリィ、おかわりの注文よろしく!」


「あいよー!」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「ナオ! ジャズの所と師匠のとこ、料理無くなっちゃう!!!」


「了解! すぐ盛り合わせ出す! ラミィは大丈夫そうか?」


「ハミィ〜!! 生4丁!! いや8丁だわ! 早めにね!! 風精霊よシルフ!!お料理全部運びなさい!」


「ひぇぇです!! あわあわあわ!」


「「「このエールうめぇぇぇぇ!!!!」」」



 乾杯から1時間程経つが、鬼のように忙しい。いや、料理のオーダーはそうでも無い。だがキッチンは俺1人で回しているのだ!! 死ぬぅーー。

 冒険者舐めてたーーー!


「ゴクッゴクッゴクッ!! 〜〜っかぁぁぁ!!!信じられねぇくらいうめぇぇぇ!! おいバックス!! 飲み比べしようぜ!!」


「ふん。ジャズよ。……望むところだ。叩き潰してやろう」


「あっら〜!! 私も参加しちゃおうかしらん! 」


「おいバルバロ! ……ったく、ガタイのいい筋肉質な男を見るとすぐこれだ……。飲みすぎるんじゃないよ!」


「コラッ!一気飲みはやめなさいって言ってるでしょーーー! ハミィが死んじゃうでしょ!!」


 立ち上がり飲み比べを始めたジャズさんとバッカスさんへ、ラミィが突撃する。


「やーん!! ラミィちゃん可愛い〜!! こっちに来て一緒に飲みましょ〜!」


「わぁぁぁ! 持ち上げるなー! 離しなさーい!!」


 シャパパさんは腐女子な気配を見せていたが、どうやらかわいい女の子も大好物らしく、ひたすらラミィを構い倒している。


「ハミィくん〜!! お姉さんの膝の上おいでー!」


「あわあわあわ!!! 仕事中なのです〜!!」


「こらーーっ!! 弟を篭絡するな〜!!! 」


 混沌カオス

 酔っ払いカオスオブ混沌カオス

 冒険者の胃袋舐めてた。マジで。10人程度でこれとは……。本格的に人雇った方がいいな〜。

 やれやれ、今日の後片付けは大変そうだ……。


 その後、やっと満腹になったのか和やかムードになり、ジャズさん達は潰れているシャパパさんを介抱しながら今後の方針を話し合い、途中で合流したバルバロさん、ジュミナさんとシュリハ、アリアンさんが、王都の魔物対応について真面目な話を始めている。


 やっと一息つけそうなので、俺はラミィ達に一言断りをいれて外の空気を吸いに行った。

 ぐったりして動けないシャーミィ姉弟に特濃オレンジジュースを手渡し、労うことも忘れていない。


「ふぅ〜〜〜!! 疲れたーー……」


 店の裏口から横に回り、木製の簡素なベンチに腰掛ける。年季の入ったベンチがギシりと軽い軋みを上げて俺の体を支えた。


「オープンする為には人の採用が必須だな。俺たちだけじゃ無理だ。10人程度でこれだもんな〜」


 まるで存分に酒を飲み、肉を食らう社会人ラグビーの巨漢達を相手にしているかの如きオーダー。

 普通の一般的な日本のお客さんとは訳が違った。これは何か考える必要がありそうだ。


「飲み放題だとマジで全部持ってかれるな。単品にした方がいいかも……。料理はコースとかにして順次出していくか……。仕込みもしやすいしな。この街のどのエールより遥かに旨いってジャズさんもバックスさんも言ってたし、付加価値は申し分ないだろうし」


 日本にいた際の桜来軒は、飲み放題、食べ放題コースがあったのだが、冒険者相手にそれをするのは正に冒険が過ぎる。今日身をもってそれを知った。

 どうしてもという声があれば飲み放題コースを作っても良いのだが、かなり値段設定は高めになってしまうだろう。


「そうだ……。魔力の方は……ステータス」


 ブォン


 咲多 鳴桜

 レベル ・41

 職業 ・焼肉屋の店主


 HP[652]

 MP[2173/1822]


 AGI 132

 INT 492

 DEX 571

 VIT 183

 LUK 105


 称号 ………肉の探求者、肉の解体者、接客の魂、エンターテイナー、異世界より召喚されし者、慈悲なき罠師、狼殺し、子鬼殺し(new!!)、蛇殺し(new!!)


 スキル ・オリジン

 ・シールドLv.1

 ・異次元収納ブラックウィンドウ

 ・オペレーティング(new!!)




 魔法 ・バリア魔法Lv.2

 ・インフラ魔法Lv.2(生活・通信)



「オリジンさん。さっきの2つのテーブルでどのくらい魔力喰ったか分かる?」


【イエス、マスター。当該テーブルにおける魔力の消費量は、MP換算にて183です。これは1時間43分におけるガス、電気、水道を最高率で変換した代替MP総量であり、余分な部屋のエネルギーをカット。詳しい内訳は……】


「あ、いやいや! 大丈夫。ちなみに全卓冒険者のお客さんが来たら俺のMP持つかな?」


【ノー、マスター。今回の例を参考に全卓でシュミレーションした結果、1時間15分で魔力が欠乏します。これはガス、電気、水道を通し、厨房器具を常に稼働させた状態での限界時間です】


「くぁーー。魔力食いすぎぃぃ〜……。滅茶苦茶増えたと思ったけど足りないとはな〜〜」


 ステータス欄の数字の羅列がみるみる変化し、オリジンさんが詳細な魔力の消費量を教えてくれる。


 スキル、オペレーティング


 俺が氾濫の後目覚めて、最初に取ったスキルだ。

 なんの知識も知恵も無い俺が、異世界で生きていく上で有効なスキルや魔法の習得。また、一般常識なんかを教えてくれる「ヘルプ」のような機能が欲しいと思い取得したのだ。

 正直予想以上に役立ってくれており、異次元収納に入っている物のリストやお金の総金額。人物リストや簡単なメモ書き。魔法使用時の魔力消費の最適化や、今後の取得希望スキル、魔法の相談から取得まで。全てステータス画面から管理できるようになっている。めちゃ便利かよ。

 至れり尽くせりだ。何故もっと早く思いつかなかったのか……。ちくせう。


【マスター。魔力消費時における消費魔力減衰、または回復に類する魔法、スキルの取得を希望しますか?】


 え、そんなのあんの?

 それは有難い。YESっと……。の前に取らなきゃいけないスキルがあるんだよな。

 えーっと。食材やらドリンクの……



「……ここの家の者だろうか?」


「……はい?」


 俺がステータスを操作していると、庭の入口の方から男の声がかけられた。

 ふと顔をあげると、


「シャーミィ姉弟に言われてやって来た。ご助力願えないだろうか?」


 切れ長の目つきに彫りが深くシュッとした顔立ちで、その上には灰色の毛並みに立派な獣耳。首筋から覗くふさふさな体毛。

 フードを取り現れたのは、なんと獣人の男であった。


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