46. 桜来軒プレオープン? 〜冒険者の乾杯〜


 総勢11人。ゾロゾロとまとまって歩きながら中央広場を抜け、俺の店の方角へと向かう。俺の店は宿場区。街全体から見ると北西方面にあり、マームさんの宿屋に近い。近くに競合店がいないのは良いのだが、宿場区の大通りからも1本離れてるので立地的にはあまりいいとは言えない。


 とは言え念願であった土地をタダで貰えたのだ。文句を言ったらバチが当たるだろう。


「ハミィちゃん。おてて繋ぎましょうね〜」


「あうあう」


「ちょっと!! 人の弟にベタベタ触らないで! ハミィもデレデレしない!」


「いや〜! 今日結構楽しみだったんだぜ〜! なぁバックス」


「うむ、とは言え我らはもうAランク冒険者だ。羽目を外しすぎるなよ。だが良い機会でもある。今後の活動方針も咲多君の店で話し合おう」


「あ〜。師匠Sランクか〜。いいなぁ〜」


「はん。アタシがSになった所で意味は無いさ。ギルドマスターの仕事があるからね」


 ワイワイと騒ぎながらも和やかに一行は進んでいく。すると宿場区に入った所で、


「あら〜!! ジュミナじゃないの! Sランク昇格おめでとさ〜ん!」


「バルバロ……。アンタ勲章断ったって話本当かい?」


 でか! 2mくらいあるんじゃないだろうか。

 てか……この人。バルバロさんって確か……


「あ、バロさん! 偵察隊の時以来! あの時は本当に助かりました!」


「いいのよぉリリィちゃん。仲間の仇討ちが出来て、これでやっと前に進めるわね」


「はい。……まぁでも、ソロになっちゃったので暫くは休止する予定ですけどね」


 筋肉隆々な巨体に見合わない、女性らしい口調でリリィと親しげに話している。……そうか! 通信魔法の時の! 確かコボルトキングを素手で投げ飛ばすという噂の……。確かにできそうだな。


 ……あ。てか、ラミィが迷子になった時通信魔法使えばよかった。完全に忘れてたな。


「積もる話もあるだろ! アンタも来な!! 今日は飲むよ!!」


「なるほどねん。みんなで打ち上げに行く途中なのね。仕事の残りを片付けたらお邪魔しようかしら。久しぶりにジュミナちゃんとも喋りたいし」


 お、おっふ。また増えた。これ仕込み足りないな〜……。前菜と飲み物出したら急いでやらなきゃ……。すげぇ食いそうだし。


「……ジュミナちゃん」


「あ? あぁ。ほっとけ。敵意はねぇよ」


「そ。まぁこの集団に突っ込むバカはいないでしょうね。ちゃんと実力差は把握してるみたいだし……。ただ見てるって感じかしら」


 ……? 何の話をしてるんだ。


 バルバロさんと一旦別れ、そうこう言っているウチに一行は俺の店へとたどり着いた。いつもと変わらぬ店構え。相変わらず人通りが少ないが、雑草も刈り取ってラミィの魔法で綺麗に整地して貰ったのでスッキリしている。敷地の庭は芝生と土のエリアで分かれており、車10〜15台は入れそうな位広いのだ。後はテーブルやらベンチやら置いて、植栽を整えていきたいな。


「おお! 結構広いんだな〜!」


「新しくオープンって聞いたからもっと小綺麗な感じかと思ってたわ。ちょっとガッカリねレマニエ」


「なんか年季の入った老舗って感じねシャパパ」


 うっ。痛いところを突く。ま、まぁ確かにそれは否定しない。だが、


「うっわ!! 凄ぇ!!! 中は綺麗じゃねぇか!」


「……へぇ。商売人てのは本当だったのかい」


「え、師匠疑ってたんですか? 」「いや、そりゃ〜あんな魔法使えたらな」「確かに……」


「…………見たことない道具が並んでる。それにこの材質は? 未知、未知、未知!」


「シュリハ様。あまり走り回っては! ……しかし確かに、これでただの飯屋だと……? 何だこの不可思議な机は……」


 道中ずっと黙って教科書を読んでいたシュリハさんが、中に入るや否や玩具コーナーに飛んでいく子供のように店内を走り始めた。

 先程店の外観を見てガッカリしていた誓約の剣の姉妹も、今はテーブルの網の中を覗いたり、レジの会計機や天井のシーリングファン、玄関の一枚ガラスなどを熱心に見ており、ありとあらゆるものに興味津々のようだ。

 やはり魔道士の人はこういう未知の物に刺激されやすいのだろうか?


「……どこか普通の飯屋とは違うな。設備が良すぎるほどだ」


「ふふーん!! 凄いでしょ!! 私だって驚いたんだから! 」


「なんでお姉ちゃんがドヤドヤしてるのです?」


 ラミィが腰に手を当て、いつものドヤ顔を決めていた。そらにツェパーリエ姉妹に色々説明しているリリィにも似たような空気を感じる。

 これだけみんな驚いてくれるとちょっと嬉しいかも。

 さて、昼過ぎとは言え屋内は少し薄暗いので電気をつける。


「インフラ魔法ONと……」


「「「え……!!」」」


 窓から陽の光が差し込むだけだったホールに、人工的な暖色の光が灯る。店の主要な部分は全て電気をつけたが特に頭痛などは無い。今回の氾濫で滅茶苦茶レベル上がったからな。

 魔力などちょっとヤバい数字になっている。


「は!? 明る!? おい、ナオ!! 何したんだこりゃ!」


「え、ええ!? 火の光じゃない。しかもこんな一瞬で!? 有り得ない!」


 先程から一番リアクションの良いジャズさんとシャパパさんが、天井に設置されたライトを見て驚愕した。


「……魔力を感じる。これ全てが魔道具? 術者を媒介に光を? 魔法で光を生み出すのは難しくないけど……これだけ広範囲を一瞬で? 興味深い!」


 その後も、原理を知りたがるツェパーリエ姉妹やシュリハさんと一悶着あったのだが、なんとかなだめすかして席へと座ってもらった。

 とりあえず大人数が一緒に座れる掘りごたつ式の座敷テーブル。6名席が二つ連なっているので全員しっかり座れる。


「靴を脱ぐのか。なんと珍妙な」


「アリアン。鎧は脱いだ方が良い」


「はっ! 」


 冒険者は荷物が多いよな〜。剣とか斧とか鎧とか。荷物置きとかちゃんと考えないとダメだな。

 ガチャガチャと白銀のプレートメイルを脱いだアリアンさんが、鎧の置き場所に困っていたのでとりあえず隣の席の空いているところに置いておく。

 皆武器は近くにないと落ち着かないようだ。座敷は大分ゆったりした作りなので問題は無いが。


「じゃあメニュー配りま……あ」


「どしたのナオ?」


 いかん。大事なことに気づいた。

 すごい今更なんだが、メニューが日本語表記だ。これじゃ多分読めない。以前リリィに手紙を書いた時に日本語が通じたので、異世界補正なのかなと思っていたが、補正が適用されるのは俺が書いたもののみだったのだ。


「あーー。みんなビールでいいかな? ジュース……果実水の方がいい人もいるだろうし、リリィ聞いてきてもらってもいい? 俺は前菜の準備してくる」


「分かった! 任せて!」


 コミュ力の高いリリィにウェイトレスを担当してもらい、俺はキッチンに入る。


 まずはドリンクと前菜オードブルだ!

 酒を流し込んだ体に、軽いつまみで食欲を刺激し、後から来る本命にくに繋ぐ!

 これ重要! やっぱり冒険者だから大量にいるよな〜。ポテトと唐揚げと枝豆はマストとして……。



 キッチンに入ると、既にラミィとハミィが仕込んだ料理を一生懸命冷蔵庫から出している途中であった。


「うんしょ、うんしょ」


「もう! この店は物が高い場所ばかりにあるわね!」


 2人の身長は1mも無いのでちょっと大変だったかもしれない。移動式のステップがいくつかあったので、後で全部引っ張り出してこよう。


「ありがとな2人とも! ハミィはドリンクがそろそろ入るから、準備してきて貰ってもいいかい?」


「分かったのです!!」


「あ、あたしは?」


「ラミィは俺と一緒に前菜作ろうか」


「ふ、2人で……? い、いいわよ」


 とりあえずサラダと揚げ物から攻めていこう。

 フライヤーにポテト1キロと唐揚げ1キロを投入。ジュワッという心地の良い揚げ音がキッチンに響き渡る。


「じゃあこの間に……」


「サラダね!! 任せて!!」


 やけに張り切っているラミィが、大きなサラダ皿を出して、手際よくサラダを盛り付けていく。

 仕込みの時に手伝っていたのもあるが、凄く飲み込みが早い。頼もしいな。

 シーザードレッシングに粉チーズ、細切りのベーコンと温玉を乗せ、最後にクルトンをかけて完成。

 塩っ気のある物もあった方が良いので、チョレギサラダや塩昆布サラダもラミィに作ってもらい、その間に枝豆を茹でていく。


「生5つお願い〜! あとえーと、アイスティーとレモ……レモネード? お願い! 」


「そういう時は生5丁! アイスティーレモネード一丁!! って通すんだよ」


 やっぱり形から入らないとね。リリィはいい声だし、よく通るから聞きやすいんだよね。


「おお、なんかそれっぽい! 生5丁!! アイスティーレモネード一丁ずつね!!」


「あいよ!ですー!」


 ハミィが初オーダーに両手を上げてバンザイで答える。うん、可愛いなこいつ。

 すると早速ハミィがドリンクを作り始めた。イメージトレーニングしていたのか、淀みない手つきで素早く効率的にドリンクを捌いていく。

 若干1名座敷からハミィの様子を覗きに来て、バンザイの所で鼻血を出してた人がいたが気にしないでおく。


「出来たですよ!」


「おお、早い! リリィ頼んだ!」


 早速出来上がった飲み物を、お盆の上に乗せていくハミィ。ソフトドリンクにはストローをつけるのも忘れていない。


「サラダも出来たわよ! 私だってこんなに作ったんだから!!


 すると、ラミィも小さな体で大きなおぼんを一生懸命持ちながらホールにやって来た。


「おお〜! ラミィも覚えが早いな。よしよし」


「ううっ。ふにや……! ふ、ふん!」


 頑張った子はしっかり褒めないとな。頭をナデナデしておく。一瞬猫っぽくなったのは気のせいだろう。


「よし! どんどん運ぶよ! 任せて!」


 細身なのに、俺よりも遥かに力のあるリリィが、飲み物やサラダ、揚げ物が乗った大トレーを軽々と持ち上げ、座敷へと運んでいく。

 大きな歓声の後、不思議そうにビールのジョッキを眺めたりポテトをマジマジと見たりする者がいたが、まずは乾杯だろう。


「ハミィとラミィ、リリィはこれね。咲多家特製濃縮オレンジジュース」


「え、いいのです?」


「私達も飲んでいいの?」


「当たり前だろ。今日はみんなの打ち上げなんだからな! まだお手伝いしてもらうけど、乾杯だけしに行こうか」


「やった! これ美味いんだよね! いこいこー!」


 俺達もコップを片手に座敷組へと合流。最初の1杯だけお付き合いすることになった。


「じゃあここはやっぱり我らがギルマス!! おねしゃーーす!!」


「ちっ。来ると思ってたよ。ったく。じゃあ皆飲みもん持ちな! ……よっこらせ」


 ジャズさんが乾杯の音頭をジュミナさんへ振ると、やれやれと肩を竦めながら赤い髪をたなびかせ立ち上がる。


「あーー。今回はみんなよく戦った! あんな大軍勢は初めてだったが、皆で協力し一致団結してこの危機を乗り越えた。王都から来てくれたシュリハ嬢とアリアン副長の参戦に大きな感謝を。一般人ながら八面六臂の活躍を見せたサイタ、ハミィ、ラミィに冒険者の敬意を! 最前線で戦った誓約の剣はAランク昇格おめでとう。お前らならやると思っていた! そして……」


「……そして、数百の敵に己が身一つで立ちはだかり、仲間を見事に守ったパズー・デグラス。自己を犠牲にし、類稀な魔法で仲間を守り、敵を滅したアドエラ・ローミネント。氾濫の首魁ゴブリンエンペラーを討ち、仲間の仇を見事とって見せたリリィ・フィングレン。戦線回帰に!!!」


「「「「「戦線回帰に!!」」」」」


「乾杯!!」


「「「「「かんぱーーい!!!」」」」」


 ジョッキがぶつかり合い、並々と注がれたビールの泡が宙に浮く。各々がこぼれ落ちそうになる最初の1杯を飲み干した。勲章の授与を喜ぶ者、仲間の死に涙を浮かべる者、ガサツな言葉の裏腹に弟子に慈愛の視線を送る者。戦友の死と勇敢な行いに宙高くジョッキを掲げる者。

 だが、みんなが笑顔だ。

 冒険者流の乾杯。

 仲間が死んでも生き残っても、彼らは笑うのだ。冒険者は明日死ぬともしれない危険な仕事。

 だからこそ笑うんだ。仲間の死を共に悼み、悲しみを薄め、それさえも明日の活力にする。いつ死ぬか分からない。いつ死んでもいいように。

 悔いを残さないように。その日々を忘れないように。


 彼らは笑って酒を飲むのだ。


 そんな儚く、誇り高い生き方をする彼らに、腹いっぱいの飯と酒を食わせる。

 笑顔で今日という日を終え、また明日を生きる力を与える。


 やっぱり異世界で焼肉屋も悪くないかもな。



 俺は満面の笑みで1杯目の酒を飲み終え、笑いながら料理に飛びつく冒険者たちを見てそう思ったのだ。







―――

咲多 鳴桜

 レベル ・34 ▶ 41

 職業 ・焼肉屋の店主


 HP[484]▶ [652]

 MP[1028]▶ [2173/2169]


 AGI 112▶ 132

 INT 374▶ 492

 DEX 451▶ 571

 VIT 138▶ 183

 LUK 100▶ 105


 称号 ………肉の探求者、肉の解体者、接客の魂、エンターテイナー、異世界より召喚されし者、慈悲なき罠師、狼殺し、子鬼殺し(new!!)、蛇殺し(new!!)


 スキル ・オリジン

 ・シールドLv.1

異次元収納ブラックウィンドウ

・オペレーティング(new!!)




 魔法 ・バリア魔法Lv.2

 ・インフラ魔法Lv.2(生活・通信)

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