45.お約束
どうしてこうなった!!
「ナオ! ジャズの所と師匠のとこ、料理無くなっちゃう!!!」
「了解! すぐ盛り合わせ出す! ラミィは大丈夫そうか?」
「ハミィ〜!! 生4丁!! いや8丁だわ! 早めにね!!
「ひぇぇです!! あわあわあわ!」
「「「このエールうめぇぇぇぇ!!!!」」」
鬼のように忙しい。いや、オーダーはそうでも無い。だがキッチンは俺1人で回しているのだ!!死ぬわ!!
「ゴクッゴクッゴクッ!! 〜〜っかぁぁぁ!!!信じられねぇくらいうめぇぇぇ!! おいバックス!! 飲み比べしようぜ!!」
「ふん。ジャズよ。……望むところだ。叩き潰してやろう」
「コラッ!一気飲みはやめなさいって言ってるでしょーーー!」
「やーん!! ラミィちゃん可愛い〜!! こっちに来て一緒に飲みましょ〜!」
「ハミィくん〜!! お姉さんの膝の上おいでー!」
「あわあわあわ!!! 仕事中なのです〜!!」
「こらーーっ!! 弟を篭絡するな〜!!! 」
冒険者の胃袋舐めてた。マジで。
やれやれ、今日の後片付けは大変だな……。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「次で最後の表彰だ!! ブルーネの旦那!」
「うむ。最後は大龍翼輝勲章の授与である!! 私が持ちうる権利で与えられる最高の勲章だ。該当者は3名だ!!」
ザワッ!!!!
ジュミナさんがブルーネ辺境伯と司会を代わると、辺境伯は紐に括られた羊皮紙を解きそう告げた。
「大龍翼輝勲章って……確か」
「ああ。名誉爵位の授与も有り得る程デッケェ勲章だぞ!!」
「マジかよ!! お貴族様になれんのか!? 冒険者が!?」
隣の解説おじさん達が目を丸くし驚く中、観衆もにわかにざわつき始めた。 どうやら今回の表彰のMVP的な勲章らしく、一番の目玉らしい。
「1人目は……」
辺境伯が手元の羊皮紙をめくりあげ、静かに言葉を溜めると、観衆もそれにつられてざわめきが静まる。
そしてブルーネ辺境伯が目を羊皮紙に走らせると、その口が開かれた。
「宮廷魔道士団団長。
「……ん? 誰か……呼んだ?」
ですよねーーー!!!!
当たり前である。何せ第1波、第2波の尽くを吹き飛ばしたのだ。第1波の時には俺は居合わせなかったが、魔法が放たれた外壁の外は地獄の有様だったのを覚えている。
銀髪のサラサラ髪を煩わしそうに耳へかけ、シュリハさんが呆けた顔で俺を見つめる。
いや、呼んだの俺じゃなくて。あちらの方から呼ばれてますよー。
「面倒……。ナオ、代わりに貰ってきて欲しい。私はこれを読むのに忙しい」
「いやいやいや! 行かないとダメですよシュリハさん! ……うわ、みんなめっちゃこっち見てる!」
ベンチの上で芋虫のようにヤダヤダとごねるシュリハさんに困りつつも周囲を見てみると、誰も彼も完全にこちらを凝視していた。いや、俺何もしてませんからね?
「シュリハ様ぁぁぁぁ!!! 参りましょう!!!
さあ!! 大龍翼輝勲章ですよ! これで会う度に小言を言う豚のような文官も静かになります!! さあさあさあ!!」
「あ、アリアン。落ち着いた方が良い……、あ、あうううう〜〜…………」
どうしようか困っていると、いつの間にか現れたアリアンさんが感極まった顔でシュリハさんの手をがっちり掴み、無理やり連行して行った。連行と言うよりかは……引きずって行ったな。
「貴殿は周囲の者と協力し、氾濫の魔物第1波、第2波が現れた折、類稀なる大魔法にてコレを殲滅した。その数はなんと約2000以上。圧倒的な大戦果であり、この結果はサウスブルーネ防衛戦の趨勢を大きくこちらに傾けた。この功績は比類なき物であり、よってこの大龍翼輝勲章と、報酬金120万ユーリア、更にブルーネ領が保有する
「うおおおおおおおおお!!!!」「120万!? マジかよ!!」「マジックアイテムだってよ!!すげぇ!」「ちくしょう、俺もあそこに立てていたら……」「お前じゃ無理だろ」「シュリハちゃん可愛いなぁ」「シュリハちゃーー……ほげぇぇ!!」
大歓声。破格の報酬に観衆は色めき立ち、あちこちから黄色い声援が飛び交っていた。若干おっさんぽい声援が途中、白銀の鎧の女性によって腹パンで黙らされていたのはきっと気の所為だろう。
無理やり演説台まで登らされたシュリハさんは、教科書片手にフラフラしながらもブルーネ辺境伯から勲章をしっかりと受け取り、直ぐに階段を降りてきた。
「……ふぅ。疲れた」
……何故ここに戻ってくるシュリハさん。ていうかさも当然のように俺の膝の上に座らないでください。遠くからアリアンさんが阿修羅の表情でこっち見てるって。ヤバいってあれ。知らんぞ。
「続いて2人目!! …………冒険者ギルド、ギルドマスター。
「「「「オオオオオオオオオオォォォォ!!!!」」」」
おお! リリィの師匠にして冒険者ギルドのギルドマスター。合流したのは途中からだったが、街中でも相当に活躍していたらしい。
「えぇ! アタシかい? ……っち。アンタ……、最後の勲章だけ司会を変わったのはそういう腹づもりだったのかい……全く」
「フ。貴様が賞されなければ一体誰が勲章を受け取るというのだ。…………いや、1人いたか。まぁいい。大人しく受けるんだな」
「はいはい、分かりましたよ。辺境伯殿」
何やら肩を竦めて両手を上げると、二言三言何かを話した
ていうかこの人ホントに美人だよな。スタイル抜群だし。一体何歳なんだろ……ひえっ!!
……なんか今猛烈な殺気が飛んできた気が。
「ふん。 ……この者は! 街に魔物が浸入せしめた際にも、多くの冒険者を一瞬で統率し、並外れた指揮と戦闘力にて瞬く間に魔物を殲滅。その後今回の氾濫の主戦力となった第3波に対し、迎撃部隊隊長として陣頭に立った。防衛、殲滅、指揮。どの点から見ても比類なき戦果を挙げ、サウスブルーネの冒険者ギルド、ギルドマスターとして使命を見事に果たした。よって、現在のランクAからSへの昇格。報奨金120万ユーリアを与え、
「おおお!!」
「ギルマスが
「そ、そんな!!」「すげぇ事だろ!! 冒険者が叙爵なんて夢があるじゃねぇか!!」
リリィやシュリハさんの時も凄かったが、爵位の叙爵が褒美ということを聞き、歓声がいっそう高まった。
「おい。言っておくが」
「分かっている。お前が爵位などに興味が無い事などな。だが勲章が勲章だ。こうして民に功績の対価を示さねば格好がつくまい。後で断るなり好きにせよ。……代わりと言ってはなんだが、私の秘蔵のボトルをくれてやる」
「はっ! 分かってるじゃないか! 言っとくが1本や2本じゃ晩酌にもならないからね! ……悪いねリリィ。並んだのは一瞬だったみたいだね」
「ふぬぅ! ……はぁ。流石師匠か〜」
どうやら演説台の上でやり取りがあったみたいだがよく聞こえない。しかしジュミナさんも辺境伯も最後には笑顔で勲章の受け渡しをしていた。
遠くに見えるリリィはどこか悔しそうな顔をしていたが。
「次で最後だ!! この者は……」
最後の1人の発表に、集まっていた人々も再び静まり返る。あと一人となると、臨時で部隊の指揮を務めたアリアンさんや、リリィと一緒の偵察隊にいたバルバロさんも候補だろう。確か身の丈の3倍近いコボルトキングを投げ飛ばしていたという話も聞いたし。本当に人間なのだろうか……。
「この者は大水路にて食い止めていた魔物を一掃。然る後、魔法で侵入経路を塞ぎ街への被害を抑えた。その後も外壁部隊と合流し、城門管理装置を破壊する事で街へと魔物を流れ込ませるエンペラーの計画を結界魔法にて防ぎ、外壁へと上り詰めたバジリスクを討伐。更には一点突破を計り突撃したAランクモンスターの群れを、城門を魔力で無理やり閉じることによってこれを防いだ!」
は?
「バ、バジリスク討伐!? 単身で!?」
「いやいや、無理だろ!! 石化の魔眼で石にされちまう!! 」
「てかサラッと流したけど、大水路の魔物を一掃!? 」
「城門閉じるって……。どんなゴリラだよ!!」
いやいやいや! それやったのラミィだから!!
おいおいおい、マジか。マジなのか!?
てか異世界にゴリラいるの!?
「更にエンペラーと相対したバルバロ隊への援護。エンペラーの動きを封じ、見事討伐のサポートを果たした。街の者からも襲われていた所を結界魔法により助けられたと報告が入っている。これらの活躍は人名救助、拠点防衛、魔物討伐の観点から見ても非常に大きな戦果である。よって大龍翼輝勲章を授与するものとする!! 咲多 鳴桜!! 前へ!!」
…………。
………………。
ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!
無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!
なんでぇぇええええええ!!!
「……ぐっじょぶ。まあ来るとは思っていた」
膝に乗ったままサムズアップするシュリハさんが完全に他人事だ。おのれ。
「ほら!! 貴様!! 早く行かんか!! 辺境伯閣下に対し無礼だぞ!! ……シュリハ様? 私が代わりに椅子になりましょう!」
「鎧は硬いからイヤ」
「なっ…………」
あ、アリアンさんが石になった。ドンマイ……。
……ってそうじゃない! うわぁ。マジかよ。行くしかないのか。
慌てて周囲を確認すると、俺の名前に聞き覚えがないのか誰なのかと探すものと、実際に現場におり知っているものの2つに反応が分かれた。
対面を見るとリリィがこちらに向けて大きく手を振っており、その頭にはよじ登ってこちらに何やらまくし立てているラミィが見えた。うん、ごめんなさいラミィさん。あなたの手柄が何故か俺の物になってしまっている……。
仕方ない。行くしかないか。腹を括れナオ。
人混みを縫うように進んで行くと、次第に演説台への道が自然と開かれていく。周囲の視線がこそばゆい。てかガン見されてる。
「思い出したぁ!! シャパパ!! あいつ、大水路の上を飛んでた子連れだ!!」
「…………え、気づいてなかったのかしら? ジャズ?」
「……へ? 知ってたのか?」
「…………俺も分からなかった。ジャズよ。まさか瞬双の連れだったとはな」
「あなた達。ハミィちゃんとラミィちゃんで1発でわかったわよ? 背丈一緒だったでしょ〜? 」
((そっちかよ!!!))
演説台の近くにいた誓約の剣の皆さんが、俺を見て騒いでる……。完全にバレましたこれ。誤魔化せると思ったのに……気が重い。
人混みを抜けると、広場中の視線が俺に集まっている事に気づいた。レベルが上がってから人の視線にどこか敏感になったように感じるので、感覚としてかなりむず痒い。
なんとマームさんもこちらを見ており、目が合うとニコリと笑い手を振ってくれた。良かった。特に怪我もないようで安心した。バリアを出したかいがあったな!
俺は気を引き締めながら演説台への階段を上る。演説台の階段は急ごしらえながらも、しっかりと作り込まれており軋みなどは皆無。また所々に飾られた生花や、高級そうな飾り布によって彩られ、舞台としての役割を全うしていた。
集音拡声器の前に立つ辺境伯へと近づく。無礼にならないよう若干頭を下げつつ……ペコペコしながら寄ってしまうのは日本人の性だろうか?
「おめでとう。そして改めて感謝を。君がいなければ、この街は落ちていただろう」
「……!! いや! 俺の……じゃなかった。私の力だけでなくラミィやハミィ達の協力のお陰です!!
俺一人ならやられてました…… 」
「そうなのかもしれない。だが、周りの者が出会ったばかりの君に懐いている事もまた事実。それも含めて君の力なのだろう。誇りたまえ」
「あ……。ありがとうございます」
「……さて、この勲章は結構大きなものでね。1代限りの世襲無しとは言え、君を貴族にすることも出来るのだが……。どうする?」
「え!? いやいや、貴族!? 貴族ですか!? いや〜、それはちょっと……」
「それはちょっとなんだい? 国からちゃんと年俸も支払われるし、領地も与えられないから自由だぞ。まぁ地位に対する責任は付きまとうがな。どうする?」
「あぁ〜……。う〜ん…………」
貴族かぁ……。いやぁでもな〜。この世界に来てまだ1週間やそこらだし。何も分かってない状態でそんなのが務まるとも思えない。それに……
「……やっぱりお断りします。今回の件は自分一人ではなし得なかったことですし、それに」
「……ふむ」
「それに、私は焼肉屋ですから。お客さんを腹一杯にして笑顔になってもらう事。そして、唯一無二の時間を過ごして頂く。それが私の仕事というか使命ですので。今はその使命をこなすために色々する事がありますので」
「…………ふ。フハハハハハ!! ……そうか、まぁ貴族になっても出来ると思うのだが……、それが君の決断ならば私はそれを尊重しよう。……ふふ。唯一無二の時間を過ごして頂くか……。ならば……後で書状を届けさせよう」
「はい?」
「私……、ブルーネ辺境伯直筆の商業許可証だ。卸売り問屋との優先交渉権や、店舗の資材割引き、融通。都市通行手形としても使える上、年間の商業税もかなりの額が免除される。これを持っているだけで商人としてはかなり上手く立ち回れる。これを持つ者はサウスブルーネにも片手の指で事足りる程しかいない」
「おお、マジすか……」
え。ヤバくない? 普通に嬉しい。流石すぎる辺境伯。
「時間が出来たら私もお邪魔するよ。サウスブルーネを一緒に盛り立ててくれ」
「はい、ありがとうございます!!」
勲章を胸につけ、保管用の瀟洒な木箱をギルド員の女性から受け取ると、俺はお辞儀をして振り返った。
「「「オオオオオオオオオオォォォォ!!!」」」
「若いのにすげぇな!!」
「バジリスク討伐なんて何者なんだよ! 」
「何処のパーティーだ!?」「勧誘できるかな?」
「キャァァァ!! こっち向いたぁぁ! 手を振ってぇ!!」
鳴り止まない喝采。これが全部俺に向けられたものなんて信じられない。
リリィやラミィ、ハミィ達やジャズさん達、マームさん含め皆が笑顔で俺に万雷の拍手をしてくれている。
異世界に来ていきなり魔物に襲われて……初めはどうなるかと思ったけど、店も魔法でなんとか動かせそうだし、リリィやシャーミィ姉弟と出会って、街で色んな人達と関係を持って、
「意外に悪くないな。異世界!」
そう思い始めるのであった。
「これにて、報奨授与式を閉会する!! これからもサウスブルーネに安寧と平和がもたらされん事を切に願う!! 」
そして、色々あった授与式は辺境伯の宣言により終わりを告げた。
10分後。
「ちょっとアンタ!! 私を置いてくなんてどういう了見よ!!! バカ!!バカ!!」
「いたたたた!! ごめ、ごめんって!! 悪かったよラミィ!!」
俺は幼女から暴行を受けていた。
「あわわわ!! お姉ちゃ〜ん!! はぐれたお姉ちゃんも悪いのですよ!」
「うるさいバカ!!」
俺へ向けていたヘイトが、グルンと獲物を見つけたハイエナの如くハミィに跳ね、ラミィが弟へと飛びかかる。
「ナオ!! ジャズ達このまま来るってさ! 連れてきちゃうよ?」
「いててっ……。あ、ああ。よろしく頼む!!」
ボコスカにタコ殴りされていた頭を抑えつつ、誓約の剣がたむろしていた噴水から走って来たリリィにそう言い、俺は暴れるラミィを拾い上げる。
「おいおいおい。なんだい打ち上げかい? あたしを誘わないなんてどういう了見だい?」
「げ! 師匠!!」
「今日Sクラスに上がっちまった師匠さ! 残念だったなラミィ〜〜。アタシに並べたと思ったのになぁ〜??」
「ぐぬぬぬうざい〜〜〜!!! バカ師匠!! 知らない!」
まるで生き甲斐のように煽り散らかす赤髪の女傑は、耳ざとく打ち上げの話を聞き付けやって来た。まぁ1人増えるぐらいなら全然問題無いけどな。滅茶苦茶お世話になったし。
「ここから…………美味しそうな予感がする」
は!! レベルの上がった俺の危機感知を抜けてくるだと……!?
……マジでこの人食い意地すごいよな。こんなに小柄で可愛らしい外見してるのに。人は見かけにはよらないな……。
「シュ、シュリハ様! 荷物を纏めて帰る準備をしませんと」
「いや。アリアン嫌い」
「なあっ!?!?!? ぐガハッ……。……おのれ! シュリハ様をたぶらかしおって!! 貴様のせいだぞ!! 焼肉屋!!」
「いやいや!? 俺何もしてないってアリアンさん!」
一瞬で振られたアリアンさんが心の中で血を吐き倒れると、いつもの調子で俺へと指をさす。
「……私も行く。ご飯食べる。美味しいご飯」
「ぐぬぬぬ……。焼肉屋!! 私も行くからな!!
貴様がシュリハ様によからぬ事をせぬか監視せねばならん!! 」
なんかどんどん増え始めた。ま、まあ仕込みも結構したし大丈夫……だろう。……多分。
「おい、バックス! 変態姉妹〜! 早く行くぞー!」
「ハミィちゃん。レマニエお姉さんって言ってごらん?」
「れ、れまにえお姉さんです?」
「ギャァァァァァ!!!!! 尊い..............ジュルジュル……」
「早くしろ!! この変態魔道士!! ナオが待ってんだろ!!」
「あ、えーと。だ、大丈夫ですよジャズさん。ゆっくりでー(棒)」
演説台の前に自然と集まった仲間知人友人。 女3人集まれば姦しいと言うけど、もう暴風域入ってます。
うん。カオス。こちら収拾つきません。
意外に悪くなくなくない ?異世界……。さっきの演説台での感動が風と共に盛大に飛んで行った。この後大丈夫だろうか……。
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