11.獣人であるという事

 涙を流しながら語る彼女は、話を終えると、しばらくの間俯いていた。

 何か訳ありだとは思っていた。だが、森から出てきた彼女が、仲間を失ったばかりだとは思わなかった。明るく振る舞っていたように見えたが、心の中では深い悲しみに暮れていたのだろう。


「とりあえずこれ飲んで」


 ドリンクサーバーからホットココアをついで、彼女へと差し出す。リリィは黙ってそれを受け取ると、手のひらで温かさを感じるようにマグカップを包み、少しずつ口をつけた。


「……美味しい」


 その後、気を紛らわす訳では無いが、彼女が落ち着くのを待って色々な話をした。

 今いる場所の事、近くの街、地形、国、話にでてきた冒険者ギルドや錬金ギルド、冒険者パーティーの事など。


 どうやらここはレクシア王国の最南端に位置する、ブルーネ辺境伯が治める領らしい。店の右手の方に見えた街は、サウスブルーネという大きな港街だそうだ。黒波の大樹林は、サウスブルーネの北に広がっており、更に町や村を経由し中央の方に行くと、広く広大な高原と王都があるそうだ。

 ただ、黒波の大樹林を通過するのは至難の業らしく、船で東北の方に大回りしウルキア大河を西に登るか、馬車などで大樹林を大きく迂回するのが一般的だとか。


 しかしながら、黒波の大樹林は様々な薬効のある貴重な植物や、珍しい鉱石、多種多様な魔物が生息する為、レクシア王国の資源の宝庫と言ってもいい土地で、サウスブルーネには自国だけではなく各国から冒険者や商人が集まるそうだ。



「ナオには命を助けて貰った恩がある。だけどサウスブルーネの冒険者として今回の件をギルドに報告しなきゃいけない……。すまないけどサウスブルーネに行かせて欲しい」


「もちろんだ。と言うより、俺もついてっても大丈夫か?」


「え?」


 どちらにせよ俺には情報も少ないし、近くに大きな街があるのであれば行くしかないだろう。

 店にはバリアを設置しておけば多分大丈夫だろうし。


「ナオがついて来てくれるのは心強い。お願いしてもいい?」


「いやぁ、こっちからお願いしたいくらいだし。道も分かんないから助かる、よろしく頼む」


 そういえば身分証とか無いけど……大丈夫なのだろうか。うーむ……。

 と、そういえば


「気になってたんだが……、リリィって獣人だったりするの?」


「……!!」


 話にもチラッと出てきていたが、時折語尾に「にゃ」とかつくし、もしやと思っていたのだが


「………………そう。私は獣人だよ。故郷、獣人国ハルシャーオの猫人族キャットピープル、リリィ・フィングレン。……」


「おお!!! やっぱり!! でも見た目は普通の人間なんだな! ……その耳とか」


「え……あ、あぁ。耳は魔道具で偽装してるんだ。…………ほら」


 リリィが右手の指輪を外すと、それまでの耳さっぱりが消え、ショートボブの髪の隙間からひょっこり可愛らしい猫耳が現れた。


「!!!!」


 思わず目を見開き固まる。


「ど、どうしたナオ……?」


 意を決して魔道具を外したリリィは、俺が固まったのを見て、どこかしょぼんとした雰囲気を見せた。

 隠していた事に罪悪感でもあったのだろうか?


「いやぁ、ファンタジーだなって……。ちょっと感動した……」


「ふぁんたじぃ……? それに感動……? ナオは嫌じゃないのか……? 私が獣人で……」


 ん??? 獣人が嫌?


「え、なんで?」


「なんでって……、レクシア王国では獣人族の差別が根強いからさ……」


「はぁ!!? 差別!? 獣人に!? 猫耳に!?

 こんなに可愛いのに!?」


 獣人族って差別受けてんの!? こんな……モフモフで可愛らしい見た目なのに……ありえん!! ファンタジーお決まりの猫耳! 差別!?!?


「え!?!? か、可愛い……!?」


「いや、可愛いだろ。……差別なんて知らなかったけどさ。リリィの大事な仲間達もリリィの事を獣人って知ってて信頼してたんだろ? ならリリィは信頼出来るやつだよ 」


 少なくとも、涙を流しながら語った過去に嘘があるとも思えない。リリィと会ったのは単なる偶然だろうけど、でもそれは縁があったという事だ。こういうのは一期一会だし、ジジイからもそう教わった。そして猫耳は正義である。


「それは……、確かにパズー達は私のことを知っても良くしてくれたけど……。でも嘘かもしれないじゃん!? 疑わないの?」


「え、嘘なのか?」


「え、いや……嘘じゃないけど」


「じゃあ良いじゃん。リリィの仲間たちが信頼していたリリィを俺は信頼するよ。それに……猫耳は正義だ!! 数ある獣人の中でもいっちゃん可愛いと思うぞ!! 俺は!!」



 ゲームのキャラクリでも、猫耳がいれば必ず使うと言っていい程の猫耳ヘビーユーザーの俺が、リリィを差別するなど断じてない。ないったらない。



「か、かわい……い……、そんな事……アドエラ位しか言ってくれなかった……」


「……んぁ? ……なんか言ったか? え〜っと……じゃあ街に行くのは明日でも良いかな? ちょっと準備とかしたいし」


 なんかボソボソ俯いて呟いているが、そんなに変なことを言っただろうか?

 とりあえず、今からでも準備しないと。何が要るか分からないから、早めに支度を済ませてしまおう。

 また色々必要なものを聞かないとな。



「うん、分かった。ここからだと鐘2つ分は時間がかかるからにゃ。明日の朝出発しよ!」


「うし! じゃあ早速準備してくるわ!」


「私は……なんかお風呂に入ったら眠くなっちゃったから、ちょっと仮眠するにゃ〜。何かあったら起こしてね!」


 語尾にちょこちょこ「にゃ」がついてくるの新鮮だな。リリィって結構クール目な冒険者かと思ってたけど、一気に可愛らしくなった。

 それにしても、結構長いこと喋ってたからな。風呂にも入ってリラックスした後だったし、疲れが出たのか。夕食は奮発して国産牛でも出してやるか。

 そう思いながら2階に上がっていくリリィを見る。


「ぶっっ、……ってリリィ! お前……女の子なんだからちゃんと下着ろよ! 風邪ひくぞ〜!」


 さすがに下着は履いてるのかと思いきや、どうやらシャツ1枚だったらしく、ヒラヒラと揺れるシャツから、焦げ茶ブチが入ったフサフサのアプリコットの尻尾が飛び出ており、尻尾がシャツを持ち上げて可愛いお尻が見え隠れしていた。

 すぐに目を逸らし、ちゃんと服を着るように注意する。

 ……リリィっていくつぐらいなんだろ……。色気すごいよな……。猫耳だからか……? っと、いかん。自制しろ。白雪がいたら白い目で見られそうだ。


「えっ……あっ!! ……ニャハハハ……ごめんゴメン! すぐ着るから〜!!」


 そう言うと、リリィはチラリと一瞬こちらに振り返り、駆け足で風呂場の方へと走っていった。


「さて……荷物何に入れてこ……、リュックとかだとこの世界じゃ目立つかね〜……」


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 ダッダッダッ……バタン。


 洗濯機が回る音と、激しい心臓の鼓動の音だけが聞こえる。


「はぁ……。なんだこれ……」


 赤みがかった茶色のショートボブから、ピョコンと出ている猫耳を手で抑えた。熱い。


「可愛いって……言われた……」


 目的があって人族が住む地方に来てからは、獣人という事を隠して生きてきた。中には人族とは違う種族である獣人を、奴隷として扱う国もある。勿論獣人に偏見が無く、パズーやアドエラのように、良い人間がいることも分かってはいる。が、差別が根強く残る人間の国では、悪い記憶の方が多い。


「ナオが良い人ってのは分かってたけど、本当に嫌そうじゃなかったにゃ……」


 今までは耳を見られるだけで、侮蔑の対象として見下される事もあった。そんな事が多かったからか、はたまた獣人の直感からか、リリィは自分に対して嫌悪感を持つ人間は、匂いですぐに察することが出来る。しかし、ナオは正体を明かしても、嫌がるどころか、心の底から嬉しそうにリリィと話していた。

 人族の地に来てからは、生まれて初めての事であった。


「こんな人間もいるんだにゃ〜……」


 火照った耳を冷ますように、ピョコピョコと猫耳動かすと、どこか嬉しそうにリリィは呟いた。

 そして洗濯機の上に置かれた着替えを手に取ろうとした時、


「うぁあ! 私ったらなんて格好!?」


 シャツ1枚のみの自身の格好を、目の前の鏡で見て、盛大に慌てふためいた。特にパーティーメンバーといる時も似たような格好をしていて、アドエラに何度もたしなめられた事もあったが、何故か今だけ無性に恥ずかしさが込み上げてくる。


「さっきまで別に平気だったのに……ナオは良い奴にゃ、命の恩人……でもそれだけ。なのに、にゃんだろう、どうした私……?」


 耳だけでなく、尻尾や顔も熱くなってきた事を感じる。自分の中から溢れる初めての気持ちに戸惑いながらも、リリィはそそくさと着替えを済ませるのであった。







 ━━━あ━━と━━が━━き━━━━━


 作者「ナオって猫耳好きなの? ケモナーだったんかいお前!」


 ナオ「そ、それは! ……まぁだって、モフモフで可愛くて、撫でると気持ちよさそうだろ? ……実は猫とか犬が大好きなんだよ……。あのフサフサな耳! 自分の感情に素直に動いてしまうモフモフな尻尾! あんなのが人についてるんだぞ!! 羨ましいだろ!!」


 作者「お、おう……。お、落ち着け。ナオはケモナーっと……。あ、リリィ来た」


 リリィ「お、作者じゃん。なぁ、ナオ〜。ケモナーってなんにゃ? 美味しい料理の名前かにゃ?」


 ナオ「げぇリリィ! な、なんでもないから!! マジで気にしないで!! (作者余計なこと言うなよ!!) 早く次の話行くぞ!」


 リリィ「な、なんか必死……。分かったのにゃ……。……さて、ここまで読んでくれた方ありがとにゃ〜! 続きが気になる方はイイネ♡&☆評価をしてくれると作者が元気になるらしいよ! ヨロシク〜!」


 作者「ヨロシクお願いします!!」

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