3.オリジン

 一面真っ白な粉で彩られた地面を横目に見つつ、目の前のステータスウィンドウを眺める。目の前50cm前方に現れたそれは、四角い画面で半透明。上に映る白い雲と青空が透けて見える。

 ゴシック体で表示された文字や数字は日本語で、いくつかのメニューが映し出されていた。




「何とか狼は撃退したのはいいけど……まさかレベルが上がるなんて。まるっきりRPGだな……」



 どうやら念じるだけで操作でき、詳細も見れるようだ。


「ほぇ〜……称号、異世界より召喚されし者って事はやっぱ召喚されたんだな俺。……てか肉の探求者って……解体ならまだ分かるけど。華麗なる調理者とかの方がまだ良かったな」


 肉の探求者の部分を選択するように念じると説明が映し出さる。


 肉の探求者……肉の美味さを常に求め続ける、飽くなき調理者に送られる。肉の調理時のみ補正効果が発生。


 肉の解体者……肉の美味さを損なわぬよう、細心の注意を払い調理してきた者に送られる。肉解体時のみ、全ステータスに補正効果が発生。



 ……焼肉屋としては追加効果もあるみたいだし良い称号っぽいな。全ステータスが上がるとどう良いのか分からんけど……ありがたく貰っとくか。


 それにしてもこのオリジンってスキル……。なんかやばい匂いしかしないんだが大丈夫か?


 スキル ・オリジン(new!)

 ▶︎この世界のあらゆる魔法、スキルが使えなくなる。習得も不可。その代わりこの世界に無い魔法、スキルを創造する事ができる。1日1回のみ。創造可能なスキル、魔法はMPに依存する。



 まず魔法とかスキルがあるんですね! って所から話が始まるんだが、お決まりすぎて驚かない。この手の話はアニメや漫画で散々使われてるからな。

 まぁ見るのと実際に体験するのでは全く話は違ってくるんだが……。

 しかもこのスキル……。この世界のあらゆる魔法、スキルが使えなくなるって……。

 特殊すぎて使い方をよく考えないと。汎用性はかなり広そうだけど、ヤバそうな匂いしかしない。

 さっきも狼に襲われたばっかだし。まずは身の安全を確保しないといかんよな。召喚されたばかりで即死亡とかシャレにならん。

 しかも店ごと転移とか……。この店は何としても守りたいし……。

 ファンタジーな世界なら結界とか作れないのかな?



 ピコン



『結界魔法は既に存在しています。創造不可』



 おう……。左様ですか……。てか声にも出てないのに思考に反応するステータスウィンドウさん凄いっすね……。

 さすがファンタジー。結界魔法は既にあるのか〜……。

 ん〜。ならバリアとか? 障壁とか……。シールド……。似たようなものだろうけど、これらはどうだろうか。



『バリア魔法、シールドスキルは創造可能です。作製しますか?』


 おお! バリアはいけるのか! てことはバリア魔法はこの世界には無いんだな〜。まぁそもそものバリアって概念が結界魔法と似通ってるからか?

 ……っと、バリア魔法とシールドスキル? どう違うのかよく分からん。

 とりあえず作製してみるか。


「バリア魔法作製!!」


 俺は映し出されたステータスウィンドウに現れたYESの欄を選択した。



『バリア魔法生成中……。…………完了。バリア魔法Lv1を習得しました』



 ピコン



 おお! できたらしい! オリジンすげぇ! めっちゃ便利じゃん!! ……なんか身体が少しだるい気がするけどバリア魔法を作ったからか?

 まぁなにはともあれ早速使ってみるか。


 大の字になりながら寝転んでいた体を起こすと、俺は後ろに佇む自分の店へと向き直る。

 木造二階建て。1階が店舗、二階は居住スペース。バックヤードや倉庫は後から増築したので、1階に占める部分ががやや大きい。

 ちゃんと全部囲めればいいけど。



 …………。



 えっと?



 どうやって使うん? 魔法て。



 うーむ。


「バリア!! 発動!!」



 うぉ!! なんか身体からごっそり何かが抜けていく……感じがする……!

 ちょっと気持ち悪い……。

 ……っと、そんな事より。見る見るうちに俺の店が何か膜みたいなのものに覆われていく。

 ドーム状に俺の店を覆うそれは、透明だがハッキリとそこにあるのが分かる。シャボン玉? みたいな感じだ。

 指先で触れてみると、水面のように波紋が表面に伝播する。……なんか弱そうだがちゃんと守れるのだろうか。

 試しに思いっきり殴ってみる。


「うぉ!?!?」


 振りかぶった拳はバリアの表面に当たると、ゴムのように少しめり込んだ後、まるで勢いを反射するかのように俺の拳を跳ね返した。跳ね返された拳の勢いで俺の体は思いっきり後ろに転げた。


「いった〜……っつつ。……すごいなコレ……」


 これなら安心……とまでは行かないかもしれないが、何も無いよかだいぶマシである。


「それにしてもこれって……中に入れるのか?」


 だが、何も考えずに魔法を使ったので俺が中に入れていない。俺はバリアの表面をポンポンと叩いてみる。


 ブォン、ブォン


 ズプリ。


「うわっ!! あだぁっ!! ……ったく、今日はよく転ぶな……」


 俺が入りたいと念じた途端、すっと俺の体がバリアにめり込む。バリアの膜はまるでゼリーの中に入るみたいな感触で俺の体を中へと通した。

 壁がいきなり消えたみたいにまた地面へと転がり込んだが、まぁ結果オーライなので良しとしよう。

 服についた砂埃を払い、俺は再びステータスを確認した。


 咲多 鳴桜

 レベル ・8

 職業 ・焼肉屋の店主


 HP[124]

 MP[124/224]


 STR 25

 INT 89

 DEX 112

 VIT 32

 AGI 28


 称号 ………肉の探求者、肉の解体者、接客の魂、エンターテイナー、異世界より召喚されし者、罠師


 スキル ・オリジン


 魔法 ・バリア魔法Lv.1



 MPが減っている。恐らく体の気だるさはこのせいだろうか。

 バリア魔法もちゃんとステータスに追加されている。レベル1という事は今後レベルが上がればもっと強力になる可能性があるぞって事だろうな。


「もっと性能を色々確かめないとな〜。命にも関わるし……」


 何ができるかは早急に知っておかないと……。どうせ営業もできんし。客がこんな所に来るわけないしな〜……。


「はぁ……。とりあえず飯食うか……。……あ! やべ! 火つけっぱだ!! ガスもったいねぇ!!」


 そういえば狼を誘い出すためつけたテーブルの火がそのままだった。

 肉を焼くためにつけた火を消すため、俺は急いで店の中に戻るのであった。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「ハァ……ハァ……」


 鬱蒼と茂る森の中、陽を遮るほど背の高い大樹が密集し、鳥の鳴き声が木霊する。

 大樹の根一つ一つが人よりも大きいそれらを避けながら、1つの人影が歩を進めていた。


「身体が重い……。もう2日……か」


 見ればその身体は傷だらけであり、所々血が滲んでいる。身体に纏う革の軽鎧はボロボロで、腰には2本のダガーを差していた。

 そして重い足取りで進む彼女に、いくつかの気配が様子を伺うように付きまとう。


「鬱陶しい……。襲って来れば返り討ちにしてやるのに……」


 腰に差したダガーに手を当て周囲を睨む。人の耳の様に偽装された獣の耳が、せわしなく辺りを探るように動き、透明の尻尾が張り詰めた空気に緊張する。だが、気配の主達は決して襲ってこない。

 彼女が力尽きるのを待っているのだ。


「……ハァ、ハァ。………………にゃ?」


 息も荒く、精も根も尽き果て周囲も敵に囲まれている。そんな彼女の鼻が、ふとある匂いを感じ取った。


「肉の焼ける匂い……? なんていい香りにゃ……」


 思わず立ち止まる、鼻腔をくすぐる美味そうな匂い。その抗い難い程暴力的な香りを、彼女の鋭い鼻が一瞬嗅ぎとったのだ。

 こんな辺境の森に人は住んでいない。どこかの冒険者が休息でも取っているのだろうか。そんな思いが脳裏に過りながら、頭を振り、朦朧とする意識を力づくで覚醒させる。


「死ねない……まだ……」



 彼女は再び歩き出す。先程よりも確かな足取りで。微かに匂いのする方向へ。


 傷だらけの彼女が、自身の運命を大きく変える存在と出会うのは、そう遠くは無い。








━━━━あ━━と━━が━━き━━━━━



作者「オリジンなんてスキル……めっちゃチートやん。いいスキル手に入れましたね〜!」


ナオ「いや、あなたが考えたんでしょ……。てか、召喚される場所、もうちょい平和なとこにしてくれよ!」


作者「いやぁ……。何となく面白そうだな……と。ね、オリジンさんもそう言ってるよ。ほら」


ナオ「ええっ!?」


オリジン『そのような事実は確認されておりません』


ナオ「むむ……。てかオリジンさんてAI的な何かなんですかね? 」


作者「さぁ? どうなんやろ」


オリジン『そのような事実は確認されておりません。……ここまでご覧頂き誠にありがとうございます。作者が☆評価や♡を貰えた場合の喜ぶ確率を照合……100%。是非とも評価を宜しくお願い致します』


ナオ「ほら!! AIっぽい!」


作者「確かに……AIっぽい」


オリジン『そのような事実は確認されておりません』


ナオ&作者「あ……はい、すんません」


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