4.行き倒れの冒険者


 どこかも分からん異世界に飛ばされて、翌日。


 狼が食い損ねた焦げ肉を昼飯にして、昨日の内に試せることは試した。

 まずバリア魔法。これはMPの注ぎ方次第で、防御力が随分と変動するらしい。魔力?が少なければ小さく、薄く。多ければ大きく展開することができる。

 恐らくレベルによって出来ることが変わってくるんだろうが、レベル1では店を覆う程度が限界だった。


 夜中、日をまたいだら再びオリジンが使用可になっていた。

 スキルとの違いを検証するため、今度はスキル・シールドLv1を取得した。

 正直、先に食材の保存をする魔法が欲しいので勿体なく感じたが、身を守れる手段は沢山あった方が良いという事、スキルと魔法の知識が現状少なすぎる事。

 それに冷凍庫は電気が切れた状態だが、扉さえ開けなければあと1〜2日は凍った状態をキープできそうな事もあり、先にシールドスキルを選択した。

 冷蔵の肉は……まぁ営業終わったタイミングで召喚されたってのもあって、冷蔵庫に在庫はあまり無い。

 足が早い肉からチョイスして今日の昼飯にした。電気がつかないのでガスもダメかと思ったんだが、テーブルの着火レバーをオンにしながらチャッカマンで火をつけるとちゃんと火がついた。

 店の裏にあるガス管が尽きるまでは火が使えそうだ。……てか昨日今日だけでチャッカマン活躍しすぎてマジ感謝である。



「スキルは同じ感じで使うのか……? シールド! ……MPを食わないっぽいな」


 手をかざし、シールドと唱える。魔法を使った時のように気だるさは感じない。

 念じた瞬間、瞬時に目の前に半透明の大盾のような物が現れた。バリアと同じように半透明で奥が透けて見える。そして地面からせり上がるようにして立っており、支えは必要ないらしい。

 MPを確認すると、やはり今外に展開しているバリア分以外は減っていない。


「形は……多少変えれるみたいだな。即時発動はありがたいや」


 その後も色々試してみたが、今の所のざっくりとした検証によると


 シールドスキル


 ・MP消費がない

 ・即時発動可能

 ・回数制限がある。約10枚前後? (半日程で再び使えるようになった)

 ・5分ぐらい経つと勝手に消える

 ・大きさが大人1人〜2人を守れる程度(大きくしようとしたが変えられなかった)



 バリア魔法


 ・消費したMPが回復しない代わりに常時展開可能

 ・MP消費次第で防御力や展開時の大きさを変更可能

 ・MPが続く限り効果は永続。

 ・発動時に少し時間がかかる



 という特長がある。……ゲーマー目線から言うとスキルは近接戦とか高速戦闘戦向き? とかだろうな。

 MP消費が無いのはかなりデカいが、その分耐久性が心配だし、回数と時間制限がある。

 魔法だとMPを消費し続ける変わりに永続っぽいが、昨日の狼との戦いを思い出すと、発動に時間がかかるのは少し心もとない。

 拠点防衛とか後方支援魔法と言った印象だな。

 どちらも一長一短なので正直両方取得しといて良かった。結果オーライ。



「さて〜どうすっかね〜」


「ガルァ!! グルルル!!!」

「アォーーン!! ガッ!!」

「グルルルルッ……!!」



 目の前には俺が張ったバリアに群がる狼の群れ。周囲を伺いながら様子を見る奴や、爪をたてたり噛みついたりしているのもいるが今の所破られてはいない。

 ……実は昨日煙が籠るので店の外で七輪を使って肉を焼いていたのだが、バリアを張っているとやはり煙が籠る。

 どうしようかと考えたのだが、ふとバリアのてっぺんに穴を開ける事を思いついたのだ。

 しかしいざ実践してみれば……この有様である。きっと肉の匂いがそこら中に広がったのだろう。



「ガルルラァッッッ!!」


 見るからに凶暴な狼が一心不乱にバリアを攻撃するも、バリアはゴムのような粘性で狼を跳ね返す。

 マジでバリア魔法取っといてよかった……。朝起きたらこれだからな。本当にビビった……。

 ……でもこれどうやって追い払うんだろう?




 と、その時。

 店の周囲の狼が、一斉に森の方へと顔を向けた。

 一体何事かと俺が森の方を見やると、


「……や、やっと……。見つけ……見つけた」



 ……え!? 人!?

 森の中から人影が現れた。しかも……傷だらけだ!


「にお…………いの……す…………」


 すると女性らしき人影がすっと地面へと倒れ込む。

 まずい!! 気を失ったのか!?!?


「ガァッ!!!」


 周囲にいた狼が一斉に倒れ込んだ女性へと飛びかかった。 俺は反射的に彼女に向かってスキルを放った。


「っっ!! シールドッ!!」


 狼の群れが飛びかかる寸前、正に間一髪の所で女性の前にシールドが現れる。4枚のシールドが四方を囲み、倒れた女性を守る。


「ガウアッッッッ!!?!」


 シールドに突っ込んだ狼が跳ね返され地面に転がり込んだ。バリア魔法の方が安全だが、MPがギリギリ過ぎて俺がどうなるか分からないので最終手段としてしか使えない。

 そして倒れた狼は直ぐに起き上がると、女性の周りを取り囲んだ。


 ガッ!! ギャリギャリ!! ギャイン!!


 狼の鋭い爪が交わり、鈍い音がシールドから響く。……まずいよなこれ。耐久性の検証はまだ出来てないからいつまで持つか分からない。

 さっさとあの人をこっちに回収しないと。



 狼の数は軽く10匹以上、しかも救出対象は100mは離れてるし、誘き出すにしてもこの前みたいに肉を焼いてる暇は無い。

 俺が使えるのはバリアとシールドだけだし……少しだけでも気が引ければ……。


 ……そうだ!


 ある事を思いついた俺は、すぐに店の中へと走り込む。レジの戸棚からあるものを取り出した俺は、ついでに使いかけの消化器も持ってバリアの外へ飛び出した。



「くらえぇぇぇ狼共!! 」


 俺は戸棚から持ち出したある物を、思いっきり狼の群れに投げつけた。



 ピロリロリロリロリロリロリロリロリロリロ!!!!!!!!!!!


 バリアに群がっていた狼たちが、突然鳴り響いたけたたましい音にギョッとし飛び退いた。


 防犯ブザーである。

 店の防犯対策の1つとして置いていたのだ。



 思いっきり投げたので壊れないか心配だったが、ちゃんとここからでもうるさい。いきなり大音量で鳴る物体が空から降って来たからか、かなり慌てふためいているし、数匹逃げ出したようだ。



 今がチャンス!


 すぐさま走り出す。左手に消化器を抱え、右手にホースを。また消化器かよ!と思うかもだが、消化器は使ってみて割と強いと思った。煙幕はれるし、敵の顔に当てれば視界は潰せる、呼吸は出来ない。一方的に時間を稼げるのだ。


「おぉおぉぉっらぁぁぁ!!」


 俺は全速力で走りながら、パニックになっている狼にホースを向け、消化器のレバーを強く握りしめた。



 シュウウウウウ…………シュコ……


 止まった!? 前に使いすぎたか!?

 3秒ほど白い粉を発射した所で、消化器の勢いが止まってしまった。


「マジかよ!!! ッッだぁ!」


「グォンッ!?」


 軽い絶望感に襲われながらも、既に狼の群れの中。軽く煙幕は張れたのですぐに消化器を近くの狼に向かって投げ捨て、倒れていた女性を囲うシールドの中に入る。


「おい! 大丈夫か!?」


 肩を揺らし呼びかける……が、反応は無い。顔も真っ青だ。このままではまずい。呼吸を確認したところ、ほんの僅かに浅く息をしていた。

 店に運ぶしかない!

 俺は意を決して女性を抱える。お姫様抱っこと言うやつだが、俺でも軽すぎるぐらい簡単に持ててしまった。見れば手足もかなりやせ細っていて頬もこけている。


「……ふぅーーー。……ふぅーーー」


 ビキッ



 軽く深呼吸し、息を整える。


 ビキッビキッ


 既にシールドにヒビが入り、狼たちも防犯ブザーを無視してこちらを見ていた。


 ビキッビキッビキッ……パリンッ!!


「行くぞ!!」


 バリアが割れ、破片が宙に舞い粒子となって消えていく。

 その瞬間、俺は全速力で走り出した。


「…………うっ……」


「すまん!! 少しだけ、がまん、してくれ!!」


 呻き声を上げる女性。傷が痛むのだろう。だがスピードを落とす事は出来ない。


「「ガルルルルァ!!!」」


 すぐ後ろから、数えるのが嫌になるほどの狼が追いかけてきていた。

 嫌な気配がして、左にスっと避けると狼が後ろから右へ飛び込んできた。目を血走らせ、倒れ込む瞬間もこちらをじっと凝視している。


「こえぇよ!! くそ、シールド!!」


 あと半分の距離。


「シールド!! シールド!!」


 すぐさま後方にシールドを張る。見ている暇などないが、何匹か壁にぶち当たるような音がした。

 が、気配は依然として途切れない。

 地をかける足音と、荒い息遣いが嫌という程聞こえてくる。


「ハッ……ハッ……きちぃ!! シールド!! シールド!!」


 全力で走るなんて何年ぶりだろうか。肺が裂けそうだ。軽いと思っていた女性も、気づけば重たく腕にのしかかってくるようだ。

 足が重い、後ろが怖い、だが苦しさに止まれば多分死ぬ。


「あと……あと、、少し! ……だぁぁぁぁぁ!! 」


 バリアがもう出ない。回数制限だ。

 だけどもう目の前、あと少しで家に入れる。

 その瞬間足に鈍い痛みが走る。


「ハッ……ハッ……ハッ……ガゥアッ!!」


「ぐぁっ!! いってぇ!! 」


 噛み付かれたのか、爪で裂かれたのか。生暖かい何かが吹き出す。

 何が起こったのか分からない。分からないが、まだ走れる。走れ、走れ!!



 永遠とも思える数秒、数十秒。俺は気づけばバリアの境界線に飛び込んでいた。

 咄嗟に抱えていた女性を守るように抱きしめ、宙を舞う。


 体が回転し、後ろにいた狼の群れと瞬間目が合う。血走った目で涎まで盛大に垂らしやがって。

 何匹いるんだよ。全く、勘弁しろよ異世界。




「はぁ……はぁ……はぁ……っっ。……だっはぁ……。残念だったな。ワンコ共」



 バリア越しにいる狼たちには悪いが、そう簡単に食われる訳にはいかない。

 俺と彼女は、無事にバリア魔法の中へと滑り込んだのだった。





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