48.お見送り
「ラミィとハミィに?」
「ああ。ここに来れば助力を願えると聞いてな」
目の前に佇む獣人の男性。男の俺から見てもかなりイケメンで渋い感じが漂っているナイスガイだ。狐? いや、どちらかと言うと狼の耳っぽいか?
「眉唾であったが……聞いていた話は本当のようだな」
「え、なにがです?」
「獣人を見ても変に取り乱さない、という事だ。本当に偏見がないのだな。驚きこそしたものの、警戒や侮蔑、敵意といった匂いが微塵も感じられない」
あー。なるほどな。
てか匂いで分かるんかい。流石獣人だな。俺は特に獣人さんから何もされた訳でもないし、むしろよくよく考えると俺の周りにいるヤツらはリリィもラミィもハミィもみんな獣人だからな。
「……とりあえず中へどうぞ。裏口からで申し訳ないですが!」
「すまぬ、失礼する」
立ち話もなんなので俺は狼獣人さんを裏口から入れると、スタッフルームまで案内する。裏口を開けると直ぐにバックヤードに繋がっており、食材の倉庫やら冷凍庫やらスタッフの下駄箱やらが並んでいるのだが、狼獣人さんは目をぱちくりさせながら周囲を観察していた。
「……人族の店とはかくも我々とは違うのだな。珍しいものばかりだ。……あの壁にかかった丸いのはなんだ?」
「あれは時計です。時間を見るためのものですよ。……というか、ラミィとハミィの知り合いと仰ってましたけど、えーっと……」
「ああ、すまない。我はウルファという。実はな……」
そこからウルファさんがラミィ達と知り合いになった経緯を話し始めてくれた。どうやら連れの人が相当なお転婆らしく、隙をつかれて奴隷商人へと売られてしまったと。それを追いかけるように自らも奴隷になりすまし、奴隷商人が盗賊たちに襲われた後に潜り込んだとか。
ラミィ達とはそこで知り合ったようだ。隙を見て後から全員解放するつもりだったらしいのだが、どうやら連れの人が脱出に一枚噛んでくれたようで、年少の2人組を先に逃がしてくれたらしい。
その後は俺も知っている展開らしいのだが、どうやらお連れの人がハルシャーオ行きの船で帰るのを嫌がったらしく、飛び出してしまったとか。
「全くあの方には世話をやかされる……」
あの方……? ウルファさんのお連れの人は高貴な身分の人だったりするのだろうか。
「確かにこの街では獣人差別があるみたいですからね。ラミィ達の協力があれば比較的穏便に探せるかもしれません」
特にラミィなら変身の魔法で人族に化けることができるからな。
「おお、真か! どうか協力願えないだろうか!」
「あ、はい。2人がお世話になった方なら俺としても協力するのはやぶさかでは無いんですが……」
ただウルファさんはすぐにでも動きたそうな様子であるのだが……
「む?」
「わぁぁぁん。なおさぁぁぁん!!」
スタッフルームの扉を勢いよく開けて入ってきたのはハミィであった。すぐさま俺に向かって飛びつくと、体をよじ登って背中に回りこみガクブル震え出した。
「ハミィちゃぁぁん!! お姉さん達もう帰っちゃうわよ〜?? お見送りしてくれないとお持ち帰りしちゃうわよ〜〜!!」
すぐに酔いつぶれたシャパパさんとは対照的に、酒豪なレマニエさんが手をワキワキさせながらスタッフルームを覗き込んできた。
彼女は美人なのだが、あれをしていると普通に怖いしまぁまぁ気持ち悪い。
レマニエさんが入ってきた瞬間、素早くフードを被り直したウルファさんが、頭を少し伏せ正体を隠した。
いきなりの事だったので、とりあえず俺もウルファさんを遮るように立っておく。知り合いだけど、獣人差別がある以上用心するに越したことはないからね。
「あら、お客さんがいたのね。ごめんなさい」
「いえ、人手が足りなくて希望者を面接してるんですよ〜! ハハハ……!」
「そうなのね。早くオープンして欲しいわ〜! 毎日でも来たいぐらいだもの。超絶可愛い店員さんもいる事だし!」
「あうぅ……」
目をランランと輝かせるレマニエさん怖すぎやろ。……まぁどうにかウルファさんはバレずに済んだみたいで良かったけど。
「ウルファさん、ちょっとこちらのお客さんのお見送りに行ってくるので少々待ってもらってもいいですか?」
「構わぬ。邪魔しているのはこちらだからな」
ウルファさんに了承を取り、背中に引っ付いたハミィを背負ったまま帰宅する皆さんのお見送りへと向かう。
店の入口まで行くと、酔い潰れたシャパパさんを抱えた誓約の剣の皆さんと、あれだけ飲んでいたのに全く顔色を変えてないジュミナさん、バルバロさん。そして若干不満気なシュリハさんとそれを宥めるアリアンさんが揃っていた。
「今日は来て頂きありがとうございました〜!」
「いやぁ、こっちのセリフさ。滅茶苦茶美味かったぜ? なぁバックス」
「……うむ。開店したら必ず通う事になるだろう。それほど満足のいくものだった」
「ホントさね。アタシもギルドの仕事の合間を見て飲みに来るとするよ。ここのエールは間違いなくこの街で最高だとジュミナ・クロンセルが保証してやる。あぁ、もちろん肉も最高だったけどね」
「ホントよね〜!! 私もついつい飲みすぎちゃったわよん! ハミィちゃん、ゴメンなさいね〜? 大変だったんじゃないかしらぁ?」
「いえいえ! このくらい全然大丈夫なのです!」
「……自ら肉を焼く料理屋は斬新。私が知る限り初めて。……だけどそれが楽しかった」
おお。かなりの高評価なのではなかろうか。
勿論日本輸入?のお酒や、焼肉ができるテーブル、珍しい内装やシステムなどでインパクトが大きかった事もあるのだろうが、この焼肉屋という業種は冒険者にしっかり刺さりそうで安心した。
後は冒険者専用のメニューの作成……主に量的な意味でだが……や、人での確保なんかをしっかりすればイケそうな感触はある。
今日皆さんを招いて本当に良かったと思っている。
「じゃあなナオ! また来るわ! 困った事があったらなんでも言ってくれや〜! 俺らは大体この街にいるからよ!」
「あんまり長居すると片付けの邪魔だからアタシらも帰るよバルバロ。しっかり働きなよばか弟子〜」
「ジュミナちゃんたらせっかちねぇ。じゃあまたねリリィちゃん! ナオ君もありがとねん〜!」
「ちゃんと働くって! ……もう師匠ったら相変わらず無愛想だなぁ」
誓約の剣とジュミ・バロコンビは、ひとしきり今日の食事の礼を言うと、そう言って帰って行った。
サバサバしてるなぁジュミナさん。気を使ってくれたのか大分早く帰って行ったし。もうちょっといてもらっても全然良かったけど。まぁでもギルドマスターは忙しそうだししょうがないね。
「……また、 ……また来るから。 それまでにこの未知の本を解明しておく。……だから次きた時にはナオの魔法の事を詳しく教えて」
「分かりましたシュリハさん。王都へ帰るんですよね? アリアンさんも気をつけて下さいね」
「シュリハ様の安全はこの私が守る。案ずるな。それより、その……、馳走になったな。中々美味だったぞ」
ひしっと俺の足に抱きついたシュリハさんを優しく引き剥がし、片膝を着いて視線の高さを合わせお礼を言った。今回の氾濫はこの人がいてホントに助かったからな〜。彼女がいなければ俺たちもどうなっていたかは分からない。命の恩人として今後も彼女に接していこうと思う。
そしてアリアンさんはと言うと、シュリハさんが膝に組み付いてきて怒るかと思いきや、何故かソワソワしながらそう言うと、別れもそこそこに、そそくさと立ち去って行った。
「デレたわねハミィ」
「デレたですねお姉ちゃん」
「ぬぅぅ。むむむ〜」
ただ照れくさかっただけだと思うのだが、まぁ料理も気に入って貰えたようで何よりだ。
「ナオ。 ……バイバイ。またね 」
「はい、また来てください!」
化学の教科書を脇に抱えて名残惜しそうに去っていくシュリハさんを見送り、本日のお食事会は終了だ。
後片付けが残っているが、先にウルファさんの要件だけでも聞いておくべきだろう。俺はその旨を皆に
伝えると、談笑しながらウルファさんが待つスタッフルームへと向かった。
そう。
この時は欠片も思っていなかった。
まさか戦争に巻き込まれるなんて。
店ごと異世界召喚されたので焼肉屋を開きます!〜バイトリーダーは勇者になったようです〜 いヴえる @iveel
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