31.インフラ魔法Lv2
大方の魔物はシュリハの魔法により片付き、残敵掃討が行われていた。
上手くいってよかったな……。それにしても、頭が痛い。吐きそうだ。魔力が底をつきかけているのか、すこぶる体調が悪い。
ギルドマスターとアリアンさんの機転もあり、ウルフの進軍を食い止めることは出来たが、クマみたいな奴が殺到してきた時は焦った。
水路を塞いだ時に魔力をゴリゴリに持ってかれたので、発動できるのか怪しかったが、何とかバリアを発動できた。ギルドマスターさんがいくら強くても、あんな大群さすがに捌け無いだろうし。
「あれ! なに! 結界魔法みたいだけど違う。ブラックベアーの大群を止めた!教えて欲しい! 私の知らない術理!」
「おわ、いつつ……。どうした一体?」
ようやっと落ち着いたと思いきや、外壁の端に立っていたシュリハがこちらへと飛んできて俺の左足に引っ付いた。興奮してるのか喋り方が全然違うし、上目遣いで俺を見上げてくる。
「ちょっとそこのエルフ!くっつくんじゃないわよ! 」
「ナオさん。どうぞ」
ラミィがシュリハを引きはがそうとするも、がっちり掴んでるので中々離れない。ラミィは俺がふらついてるのを見て気を使ってくれてるのだろう。その間にハミィが俺のベルトからマジックポーションを取り出し、差し出してくれた。ハミィもよく気が利くものだ。
俺はズキズキと痛む頭を抑えながらステータスを開く。
咲多 鳴桜
レベル ・23 ▶ 34
職業 ・焼肉屋の店主
HP[357]▶ [484]
MP[644]▶ [1028/23]
AGI 69▶ 112
INT 252▶ 374
DEX 322▶ 451
VIT 92▶ 138
LUK 69▶ 100
称号 ………肉の探求者、肉の解体者、接客の魂、エンターテイナー、異世界より召喚されし者、慈悲なき罠師、狼殺し
スキル ・オリジン
・シールドLv.1
・
魔法 ・バリア魔法Lv.2
・インフラ魔法Lv.2(通信インフラ解除new!)
23て……めちゃくちゃ危ない所だった。急いで薬品管の栓を開け、一気に中身を飲み干す。……なんか腐ったお茶にミントとコーヒーを混ぜたみたいな味がする。クソマズ……。
そういえば先程水路でレベルが上がっていたのをすっかり忘れていた。MPが増えるのは有難いのだが、大台の1000を超えており、なんかもう魔道士みたいなステータスになってきている。
……お! レベルが上がったからだろうか、インフラ魔法の制限が解除されていた。通信インフラ……。これって、ネットも電話回線も無いけどどういう事なんだろう。
「へぇ、あんた結構魔力持ってるのね。まぁあたしには及ばないけど中々だわ」
「ばりあ……いんふら? ……気になる。それがさっきの?………私の知らない……魔法」
横から見るのはやめてください……。しかし、マジックポーションを飲んだが、まだ少し頭が痛い。
MPは300ほど回復したが、全回復には程遠いな。もう一本飲もうかと思ったが、マームさんから貰った物なのでもっと大事に頂くべきだろう。時間が経てば回復するしな。
気になる通信インフラ魔法の欄を見てみると、どうやらパーティーを組んだ事のある相手に対し、通話が行えるようだ。
改めてすごいなオリジンさん……。なんでもありかよ。
そういえば隊長さんからリリィの居場所を聞かないと……。
「大変です!! 門管理室の衛兵は何者かにより全滅!! 門の動力である魔晶石も根こそぎ破壊されています!!」
「全滅!? なんだと!! 10人体制で警戒していたはずだぞ……!! 主犯はどこに!? 再稼働させれるか!?」
「痕跡はありましたが、所在は未だ……。門の方も装置が完全に破壊され……。魔晶石が無ければ稼働は無理そうです……」
「くそっ! 」
苦虫を噛み潰したような顔をする隊長、門管理室って事は手動ではなく、魔法か何かで動いているらしい。あれだけ巨大な門となると、確かに人力では厳しいか。
「あの下の妙な結界。お前の仕業かい?」
「……え?」
「ジュミナ殿……」
成り行きを見守っていると、地上へと続く階段から2人の女性が上がってきた。1人は、ウルフが侵入しそうになり、外壁から飛び降りて参戦しに行ったアリアン騎士。そしてもう1人が、
「ジュミナ・クロンセルだ。冒険者ギルド、サウスブルーネ支部、ギルドマスターをしている」
「あ……。これはどうも。咲多 鳴桜です」
燃えるような赤い髪を長く伸ばし、身長は俺と同程度。非常にスレンダーで、スタイルが良く、何よりギルドマスターという肩書きが似合わない程若い。何歳かは分からないが、まだ20代なのではと思わせるような美貌だ。
しかし一番ヤバイのは、そのスレンダーな体の奥からはみ出して見えるほどの大剣を、苦もなく背負っている事だろう。
さっき下で戦ってた人はこの人か……。これを振り回せるだけの膂力があるのだろう。……異世界恐るべし。
「サイタ……ああ、リリィと一緒き来た奴ってのはお前の事かい!! ハッハッハ!! それならそうと先にいいな!!」
「あだだっ。力強っ!」
歩み寄ってきたジュミナさんに右肩を鷲掴みにされ、左肩をバンバンと叩かれた。滅茶苦茶痛い。
「ナオって名前…………覚えた。……ジュミナ氏、……先程のブラックベアーを跳ね返したのは……ナオの魔法」
「おお!! あれもお前かよ!! 助かったよ全く!! あれだけの数を捌くのはしんどいからねぇ。体力温存できて良かったよ」
「あはは……いえいえ、お役に立てて何よりです……」
あれ全部捌くつもりだったんかい!!
「……はっ!! 貴様!! シュリハ様に何を!!」
「えっ! 何って! ち、違います!!何もしてませんよ!!」
「……アリアン。うるさい。……私は新たな知識を得ねばならない。邪魔は得策では無い」
「な、なな、!! き、貴様!! シュリハ様!!
このような得体の知れない男に心を許すなどいけません!! 」
「得体の……知れない……。そう、なんて素晴らしい……。是非とも術理を……原理を……」
「ちょ、シュリハさん! まずいですって!! いや、アリアンさん、これは……」
「うるさい!! そこになおれ!! 叩き切ってくれるわ!!」
ちょいちょいちょい!! このエルフっ子、がっちりホールドして離れる気配無いし、アリアンさんは手が付けられないし!! どうすればいいのコレ!!
「まぁ、落ち着きなよアンタら。……そういえばリリィはどこいった? バルバロは? 中隊長」
「それが……バルバロ含む偵察小隊は未だ戻っておらず……」
「えっ!!!」
なんだって!? それって外に残されたままって事か!? 氾濫の真っ最中で魔物がこんだけ溢れてるんだぞ!!
「大丈夫なんですかそれ!!」
「他にも2つ戻ってない小隊が居る。バルバロ隊は定時伝令は欠かさず寄越してはいたが……。どうなっておるかは……」
中隊長が苦しい表情でそう言った。つまりその2つはやられたって事なのか?
「バルバロがいれば大丈夫だろう。引退してもあいつは元A級。それも上から数えた方が早いほどだ。仲間を死なせるような危険は犯さんし、例え襲われても大抵はなんとかなる」
「なんとかなるって……、本当に大丈夫なんですか!? こんだけ魔物がうろついてるのに、」
「絶対無事かどうかなんて分からん。この世に絶対なんて無い。むしろ冒険者であれば特に、な。だが信じてやれ。バルバロは私の古い戦友で腕は確かだし、リリィは私の弟子だ」
「弟子だからって…………え? 弟子!?」
リリィの話してた師匠ってギルドマスターかよ!!! 流石というかなんというか……。あれだけ強いのも納得だ。
「それよりナオと言ったかい? お前、あの結界はまだ出してられるか?」
「あ、はい。1度出せば壊されるか、俺が解くまで出してられます」
黒大熊が突撃してきてちょっと軋んだけど特に問題は無かった。
「強度は? 先程のを維持できるか?」
「はい、魔力を込めればもっと硬く出来るんですが、今は魔力が……」
「構わんさ。とりあえずそれだけ聞きたかった。……それよりきな臭いねぇ」
ジュミナさんが街の中を見やり、何やら不穏な調子で呟く。
「ジュミナ殿、それは門の件ですか?」
「ああ、流石にタイミングが良すぎる。狙ってやったとしか思えない。そして犯人は未だ街の中だろ……」
「…………魔物の統率が、取れすぎてる。……ウルフとベアー、仲悪い……」
「…………確かに、」
そういえば、ブラックベアーとハングリーウルフ。リリィの話でも連携して追いかけてきたって言ってたな。本来であれば、縄張りを奪い合うような仲って言ってたし。
「何か偵察隊で掴めなかったのかい?」
「は、ほとんどの隊が魔物と遭遇しておらず……。遭遇した隊は恐らくやられております。バルバロ隊ならもしやとは思いますが、今の状態では捜索にも出れませんので……」
確かに怪しい点だらけだ。ここはオリジン様の威光にあやかるとしよう。
早速先程確認した通信インフラ魔法を使ってみる。俺が今使える人は、リリィ、ラミィ、ハミィ……あれ、なんでシュリハさんも入ってんだ?
まぁ、とりあえずいいか。リリィを選び、魔法発動と念じる。
頼む、出てくれよ〜。
『接続中……。接続中……。』
ステータスの画面に新たなウィンドウが表示され、接続中という文字が出てきた。呼び出し中という事だろうか。
まんま電話だな……。
「うわっ、なんだ? ステータスが勝手に!」
リリィの声!! 無事だったか! 良かった!!
「お、繋がった。きたー! 無事のようだなリリィ!」
「え、な、な、ナオ!!!??? ナオなのか!?
」
滅茶苦茶驚いてるな。まあ突然自分のステータス画面から人の声がしたら驚くか。
「おい、リリィの声が聞こえるが気のせいか?」
「あ、あんた。それ何よ……!」
ラミィが何か信じられないものを見たような顔で頭を抑えてる。なんかいけない事してるみたいになるからその反応はやめてくれ……。
「……双方向の交信!?
「シュリハ様! その者から離れてください! 今すぐ!!」
いかん、余計に引っ付いて離れなくなったぞ、このエルフっ子。アリアンさんが俺を睨み殺すんじゃないかとばかりにこちらを見ている。こええって!
「ナオ! 師匠もいるのか!? なら伝えてくれ!!敵の首魁は恐らくエンペラーだ」
エンペラ? 何? イカ?
「……なに? ゴブリンエンペラーか!?」
「バロさん……。……あらやだ凄いわねこの魔法。まぁそれは置いときましょうか。敵は恐らく精神操作系の魔法を使って、大量の魔物をそちらに送り込んでるわん」
急に男っぽい声になった。さっき言ってたバルバロさんだろうか。オネェみたいな喋り方するなこの人。
「……道理で。組織だった動きや、大水路から攻め入ったりなんて戦略的な真似すると思ったらそういう事かい。 ……おいバルバロ、魔物はこれだけか!? エンペラーはどこだ!」
真後ろで俺のステータスプレートに向かってジュミナさんが叫んだ。俺が怒られてるみたいでちょっと
怖い。というより迫力が凄い。
「爆発は見てたわよ。もう少ししたら第3波がそっちに行くわね。気をつけなさい。これで最後だけれども、バジリスクやレッサードラゴン、キング種やヒュージ種の群れが行くわよ」
「「なっ!」」
バルバロさんの報告を聞いた一同がギョッとした顔になる。
「バジリスク……。やばそうだな。石化でもしてくるのか?」
「…………石化、猛毒、麻痺、あらゆる状態異常を使う蛇の王」
激ヤバじゃないっすか……。怖すぎる。バリアで防げるのか?
「……ちっ。面倒臭ぇ。……おい! バルバロ! お前もさっさと合流しろ!」
「ギルドと魔法薬店、露店何でもいいからありったけ状態異常ポーション持って来い!! Aランクモンスターの群れが来るぞ!! 」
ジュミナさんが舌打ちをし、衛兵の中隊長が部下達へ指示を飛ばす。
「急ぐのは分かるけどジュミナちゃん、ここは挟み撃ちしましょ。本隊が攻撃を始めたらアタシが後ろから突っ込むわん」
「え、バロさんまじで……?」
リリィがえっ!?みたいな声を出している。挟み撃ちと言っても1人で突っ込む気なのだろうか? それだけ強いのか、ネジがぶっ飛んでるのかちょっと判断しづらい。
「しっかり準備しなさいよん。数は全部で20前後だけど、黒大熊の群れなんかよりもよっぽど怖いわよ」
「リリィ……エンペラーって……あ、切れた。すいません、切れました……」
リリィへゴブリンエンペラーの特徴を聞こうと思ったのだが、通信が切れてしまった。時間制限があるのか。まあ仕方ない。
「まぁいい! それより街の冒険者を片っ端から集めろ!! 第3波に備えるぞ!!」
「ジュミナ殿。 我ら衛兵団も……」
「いや、アンタらは中だ。……エンペラーは恐らく、……もう中にいる。アタシの勘が正しけりゃあね」
「なっ! まさかそんな……。……い、いや、門を開けたのはもしや」
「…………確かに。辻褄は合う」
なるほど、門を開いた犯人がエンペラーだと。恐らく大水路から入り込み、潜伏していたのだろう
「ならば動きましょう! 悠長にしている時間は無い!」
「全員行動開始だ。エンペラーだろうがバジリスクだろうが知ったこっちゃない。全員ぶっ殺してアタシらの街を守るよ!!!」
「「「おお!」」」
ジュミナさんがドスの効いた声で檄を飛ばすと、皆がそれに呼応し、一斉に動き出す。
どちらにせよエンペラーと第3波を倒さなければ、この街に安息は来ないのだ。ならば俺達もできることをしよう。
……シュリハさん、ラミィが必死に剥がそうとしているが、俺の左足にまだくっついたままなんだけども……。
「離れなさいよぉ!!」
「……それは出来ない。ナオは魔法を開示するべき」
うーむ、俺達……大丈夫だろうか。
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