6.新たな魔法
翌日
朝御飯を運びに行くと、彼女は既に起きていた。赤茶のショートボブに、パッチリと大きな目。すらっとしているが、まだやせ細っていてどこか儚く見える。
手足の包帯の交換もしたのだが口数は少ない。やはりまだ回復しきってないのかも。もう2〜3日は安静にしてないとダメだろう。
しかし、お昼に空いた皿を下げる時に
「美味しかった、ありがと」
と言って貰えた。うむ、良かった。
「どういたしまして。……あの、お名前まだ伺ってなかったですよね?」
「私はリリィ。あなたは?」
「あ、咲多鳴桜です。ナオが名前ですね」
「ナオ……ナオ。分かった」
とまぁ自己紹介も終え、リリィさんとちょっと打ち解けてきた感はある。
……打ち解けてるよな?
実は昨日、陽が沈みかけてから、リリィさんに事情を聞きに行ったのだ。森から女の子1人がボロボロで出てくるなんて、ただ事では無いからな。
しかしドアの前に辿り着いた時、
「うっ……アドエラ……。パズー……。ごめん……ごめんね……」
彼女のすすり泣く声が聞こえてしまった。とてもじゃなけど話を聞ける雰囲気では無かったのだ。今はそっとしておこう。落ち着いてゆっくりしてもらって、相手が話してくれるのを待つべきだろう。
っと。さて、今日は問題を2つ解決せにゃいかん。
まず冷蔵庫関係の食材をどうにかしなければいけない。業務用冷凍庫も温度が上がってきたし、冷蔵庫内の物は腐るものが出始めた。
腐臭のするものはさっき地面に穴を掘って埋めたけど、そろそろどうにかしたい。
という事でオリジン様の出番である。昨日寝る前に色々と考えたのだ。
俺は陽の光が差し込む窓際のテーブルに座りながらステータスを開いた。
「電気魔法を作って解決する!!」
これだ。これしかない!!
オリジンさんおねしゃーす!!
『電撃魔法・雷魔法と照合。……作成できません』
なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!
お、オワタorz
「電撃とは違うだろ! 電気だよ! 電気が欲しいの!」
『系統の類似性80%以上が一致。作製出来ません』
おぃぃぃぃ。マジかよぉぉぉ。
オリジン使えねぇーーー!!!
バリア魔法万歳とか言ってた昨日の俺を殴りたい!
まぁバリア魔法のお陰で生きてるんですけど!!
それとこれとは話が別!
「電気魔法ダメなのかよ……。じゃ水道魔法は!」
『水魔法と照合。系統の類似性85%以上が一致。作製出来ません』
おっふ。
……まぁ水道魔法って。名前ちょいダサいな。ストレート過ぎたか。
じゃ次だ!次!
「ガス魔法はどうだ!! 流石にないだろ!」
『気体操作魔法と照合。系統の類似性が78%が一致。作製できま……』
「だっはぁぁぁぁぁぁ…………おわたぁぁぁ」
全部だめやん! 全部はアカンやん!
1個くらいええやん!! オリジンさんよ!!
くっそ……生活インフラ全滅かよ……。ガスないと焼肉屋できねぇよ……。泣きたい……。
……ん?
インフラ?
「……インフラ魔法は?」
『作製可能です。作製しますか?』
ぇぇえええきたぁぁぁぁぁぁぁ!!!
いいんですか!! 全部を含めたインフラ魔法なんて作れちゃっていいんですか!!
オリジン使えるぅぅぅ!! ありがとぉぉぉ!! 大好きオリジンアイラブユー!!!
「勿論YESだ!」
俺の頭の中は、只今絶賛フィーバータイムである。
オリジン強すぎでは? チートか? あん?
『作製完了しました。インフラ魔法がステータスに追加されます』
あざーーーーーす!!!
早速俺はステータスを確認する。
咲多 鳴桜
レベル ・8
職業 ・焼肉屋の店主
HP[124]
MP[124/224]
STR 25
INT 89
DEX 112
VIT 32
AGI 28
称号 ………肉の探求者、肉の解体者、接客の魂、エンターテイナー、異世界より召喚されし者、罠師
スキル ・オリジン
・シールドLv.1
魔法 ・バリア魔法Lv.2
・インフラ魔法Lv.1(new!)
あったあったインフラ魔法! そして何故かバリア魔法のレベルも上がってる。ずっと使い続けているからだろうか?
インフラ魔法……魔力代替・変換により拠点におけるエネルギー供給を賄う。使用するエネルギー量と魔力は比例する。レベル上昇により用途拡大。
Lv.1……生活インフラ
おお。試してみないと分からないが、これで電気やガスを賄えるのだろうか? それにしてもLv1で生活インフラって事は……。レベルが上がれば他のインフラも解放されるって事か?
通信インフラとか出てきたら……ちょっと凄すぎるな。この世界ではかなり異端なのではないだろうか。あまり人には話さないようにしよう。
まぁとにかく使ってみるか。店のホールの照明スイッチを押してみる。
うん、つかない。
「インフラ魔法発動!」
バリア魔法を発動した時のように、体の中から何かが抜けていくのを感じた。恐らくこれが魔力なんだろう。
再びスイッチをオンにする。
窓から多少の光が差し込むだけの少し薄暗かったホールを、暖色の光が照らした。
「……ついた! ……ついたぁ……良かった……」
大学生時代に金欠で電気を止められたことがあったが、その時の絶望感たるや。今回のはその時以上に絶望していたが、何とかなって本当に良かった!
「水道は……」
キュッキュッ………………ジャーーーー!
「水でたぁぁぁ!! てことはガスも安心か!」
シンクに流れ出る水を見ながら感動して少し涙ぐむ。店の在庫のドリンクは結構あったが、純粋な水の蓄えはかなり少なかったのだ。
心の安心感が半端ない。
「……うぉ。なんだ? 目眩が……」
安心しきっていた矢先、突然頭痛に苛まれふらついた。
「ステータス! ……なるほど……そういう感じか」
MP[62/224]
MPがヤバいほど減っていた。消費がやばい上に、一瞬で重い風邪をひいた時のように体が気だるくなっていく。
気づけばキッチンの全ての冷凍庫、冷蔵庫の起動音もするし、付けっぱなしにしていた換気扇やらも回っている。その他の家電の待機電力もMPを食っているのだろう。
「インフラ魔法……解除!」
うっ、きぼちわる……。……あぶねぇ〜。
インフラ魔法で死ぬところだった。
とりあえずライフラインが使えることは確認できたから、暫くは最低限の冷凍庫、冷蔵庫一台ずつとトイレ、風呂、俺の部屋だけ残してブレーカーを下げておこう。
ふぅ……。こうなってくるとMP常時回復とか欲しいな……。今後の取得スキル候補に入れておこう。
バリア分はいいとして、無くなったMPってどんぐらいで回復すんだろ……。
とりあえず分電盤だけいじってから……仮眠でもとるか。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
その後客席のソファーで横になり、2時間程が経過した。
寝る前に最低限の生活スペースだけブレーカーを入れ、待機電力を食いそうな家電も全てコンセントを抜いた。
ただ店内のホールは一応照明だけつくようにしている。夜とか真っ暗で電気つかないのは不便だからな。
そしてステータスも確認し、MPも回復してきている。1時間でおよそ全体の4分の1、50前後戻った。現在ではインフラ魔法を使う前のMPに戻っている。
さて、もうひとつの問題も片付けなければいけない。
それは……
「ガルルルルァ!!」
「グルルル……」
「ガウッ! ガッ!!」
狼の群れである。
俺が外に出た途端、吠えまくって威嚇を始める狼たち。依然としてバリアは破られていないため問題は無いのだが、いずれこのままだと破られるかもしれない。
早めに対処しておきたい。
追い払えればそれでもいいんだけど、外に出た途端また狙われるのは御免なんだよな。
さてどうするかぁ。
俺が頭を悩ませていると、
「ナオ。何をしてるんだ? 」
「リリィさん、大丈夫なのか起きて!?」
「ああ、リリィでいいよ。ナオは命の恩人なんだからさ」
先程まで休んでいたリリィが玄関を開き外に出てきた。
「狼!? まだいたのか!! ナオ、下がれ!」
「あぁ、大丈夫だよ。バリア魔法でアイツらは入れないからとりあえずの危険は無いよ」
「ば、ばりあー……? ナオは魔法使いなのか?」
狼を見つけた途端、素早い動作でダガーを抜き放ち戦闘態勢を取るリリィ。だが、俺がバリアの説明をするとすぐにバリアの障壁に気づき、怪訝な顔を浮かべた。
「えーっと……そういう訳じゃないけど、たしか結界魔法? てのと似てると思う」
「結界魔法!? 宮廷魔術師でも使えるものが少ないのに!? AやS級の冒険者でもなきゃ聞いた事ないよ! ?……ナオは何者なんだ? 」
「え、おれ? えーと、一応焼肉屋の店主だな……。只今休業中だけど……」
「こんな所で焼肉屋だって……!? お前正気か!? ……まぁそのお陰で匂いを辿ってここに来れたんだけど……」
俺もこんな所に来るつもりはなかったんだが……。まぁそりゃあ怪しいよね。森のすぐ横だし。
「所で体調は大丈夫なのか?」
「ん、ああ。まだ本調子とは行かないな……。力も入んないし……」
「まぁそうだよな。なら好きなだけウチにいればいいさ。客も来るわけじゃないし」
起きた途端、じゃあさようなら!……ではあまりに酷だ。幸い部屋もいくつかあるし回復するまでゆっくりしてけばいい。
「その……いいのか? 迷惑じゃ……」
「全然いいよ。俺も聞きたい事がいくつかあるし、食べ物も腐るほどあるし。それにライフラインも復活したから快適になったしな」
「ら、らいふらいん? 」
別に1人同居人が増えたところで問題ない。スペースはあるし、それにこの世界の事をもっと知っておかないと。色々質問させて貰おう。
「まぁそれは置いといて……。こいつらどうするかぁ」
「……申し訳ない。私が連れてきてしまったみたいだ。私も倒すのを手伝うよ」
「それは……有難いけど。まだ無理させる訳には……。…………あっ」
思いついてしまった。バリア魔法とインフラ魔法しか持たない俺が、目の前の狼の群れ……軽く30匹はいるコレらを一網打尽にする方法。
「なんだ、どうしたんだナオ?」
こちらを見るリリィにニヤリと微笑む。
「思いついたんだ。 ……こいつらを一掃する方法がな!」
━━━あ━━と━━が━━き━━━━━━
作者「お前! インフラ魔法とかインチキすぎるって! このチート野郎!」
ナオ「いやいやいや!! アンタが異世界とか飛ばすから!! 電気とかないの大変なんだぞ!」
作者「ぐ……それは。まぁそうなんだが……。そういえば昨日は夜どないしたんよ。明かりとか」
ナオ「いや、ロウソクでしのいだよ?非常用の。あと懐中電灯」
作者「まるで電気止められた若かりし頃の俺だな〜。ははは〜! まあどんま……「焼肉屋チョーーップ!!!」ぐっはぁぁぁ!!」
ナオ「はぁ……はぁ……。さて、ここまでご覧頂き誠にありがとうございます! 是非☆評価や♡を頂けると、そこでピクピクしてる作者が喜ぶと思います! どうぞ宜しくお願いします〜!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます