40.ミスリルのナイフ
「親方!! 」
「ガタガタバタバタ五月蝿くて集中できやしねぇ!
俺の店で騒いでる奴ぁ誰だ! 」
野太い声を上げて奥の扉から現れたのは、受付のドワーフを更に一回り大きくしたような精悍なドワーフだった。蓄えられた立派な髭を弄りながら、鋭い目つきで舐めるように辺りを見回していると、ふと俺と目が合う。
「あぁ? なんだぁ? これぁ……」
「親方……その」
親方……恐らくこの人がバウルバーグさんなんだろうけど、お弟子さんがバウルバーグさんに近づくとゴニョゴニョと何かを耳打ちした。次第に怪訝な顔から怒りの表情へ変わると、俺の下で伸びてる3人組を見てから俺たちの方を向いてため息を吐く。
「…………ハァ。よく見りゃ戦線回帰の瞬双もいるじゃねぇか」
「やっほー! バーグさんお久!」
「お久じゃねぇ! お前は毎度毎度面倒事に首突っ込みやがって……、まだお前らに喧嘩を売るような馬鹿がこの街にいるたぁな」
「好きで絡まれてる訳じゃないし! ここら辺の冒険者じゃないみたいだよ。ていうかこいつら倒したのはこっちのナオだから」
「あぁん? このモヤシみてぇな小僧が?」
バウルバーグさんが俺へと視線を移すと、再び怪訝な顔をするも
「んん〜〜〜。ダッハッハ!! 細っこいのにやるじゃねぇか!! 」
「いでっ! いた!! 力つよ!!」
ガハガハと豪快に笑いながらバウルバーグさんが俺の肩を叩く。力が強すぎて叩かれる度に前のめりになり肩が抜けるかと思った……。さすがドワーフ、やはり力はかなり強いらしい。
「おい、ビブラ。衛兵呼んでこいつらを突き出しとけ。営業妨害だっつってな」
「へい親方!!!」
バウルバーグさんが近くにいた弟子を呼び、衛兵の詰所まで走らせる。こいつらは電磁界がまだ機能しているのでこのままでも心配ないだろう。
というか今走って行ったお弟子さんも、髭のせいかバウルバーグさんと同じぐらいの歳にしか見えない。ドワーフとは若くてもあんなに髭モジャなのだろうか。
「さて、用があんだろ。中に入んな」
「え! いいの!?」
リリィが驚いた声でバウルバーグさんを見る。
「どーせ衛兵が来たら事情を聞かれんだし、お前とは1年やそこらの付き合いじゃねぇからな。茶ぐらい出してやる。……そこのガキ共とモヤシも一緒でいいぞ」
「モヤ……」
「ガキじゃないわよ!! これでも立派な大人のレディなんだから! 失礼しちゃうわ!」
「ほら、お姉ちゃん。早く行くですよ。他の方のご迷惑になってますから」
モヤシという呼び名は解せぬが、とりあえずお言葉に甘えよう。周りのお客や受付も止めてしまってるみたいだし。
「ほらナオ、リリィちゃん行くよ〜。お邪魔しまーす」
そんなこんなで俺たちはバウルバーグ工房の中へとお邪魔することになった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「なんだこりゃあ……」
モワッとした空気と鉄を叩く音が木霊する中、広い工房内の端に置かれた事務机の椅子に腰かけ、バウルバーグさんは銀の短剣を不可思議な物でも見るかのように眺める。彼の太い指からは想像もできない程繊細な手つきで、木製の柄を外し燭台へと近づけ幾つも穴が空きボロボロになった短剣を照らした。
頭に着けていた片目のゴーグルのような物を、慣れた手つきでさっと装着すると、短剣と目がくっつく程に穴の部分を注視している。
「ミスリルと鋼……いや、鉄も混じってるな。合金か……。だがミスリルの部分だけ残ってやがる……。他の部分は……腐食じゃねぇな。火……いや、もっと何か別のもんで溶けてんのか……?」
見ただけで素材が分かるのは凄い。流石ドワーフだ。
「すいません……。俺がレールガンでそれを打ち出したのが原因で……」
咄嗟の事とはいえ、撃った後の事を考えるべきであった。後で拾ってくれたイオニスさんにはお礼を言っておかなければ。
「あ? れーるがん……? なんじゃそら。何かの魔法か?」
「あ、えーっと。そうですね。電磁力を使った魔法なんですけど、……お見せした方が早いですかね」
こっちの世界には電撃はあっても電気を利用したり磁界とかの概念は無い。だからこそ電磁魔法を作れたのだが……。
俺は机の隅にジャラジャラと置いてあった5cm程の長さの金属棒を取り、壁へ向けてミニチュアの電磁ラインを2本伸ばした。危なくないように小さめに設定したが、念の為周りにミニバリアも張っておこう。
「うわ、なにこれ……。見た事ない魔法だけど……。もしかしてさっきのもこの魔法で……?」
「…………」
「お姉ちゃん?」
リリィが壁へ伸びた電磁ラインをツンツンと触っては手を引っ込めている。俺は術者だからか何も感じないのだが、多分ビリビリするんじゃなかろうか。そして、バウルバーグさんは興味深そうに俺の伸ばした電磁ラインを観察しており、ラミィは珍しく黙ってじっと見ていた。
「
電磁ラインだけだといまいち安定しないので、伸ばしたライン周辺の磁界を強化する。これをしないと上手く物が乗らないんだよね。そして中央に金属棒を乗せる。あとは電気を流すだけだ。
「よっ」
スパァァァァン!!
壁から1m程離した金属棒が目にも止まらぬ速度で発射し、壁に突き刺さった。
レールガンは実はそこまで難しい原理では無い。簡単に言うとフレミングの法則で弾を飛ばしているだけだ。まぁ素材とかは電気を通しやすいものじゃないといけないんだが。確か弾速は音速を軽く超えると聞いたことがある。うろ覚えなので定かでは無いが、確かマッハ2まで出るってのをテレビで見た気が……。
「おいおいおい、とんでもねぇな……」
バウルバーグさんが壁に刺さった棒を恐る恐る触っている。というか俺もビビっている。
相当力は弱めたけどこの威力。マジで使う時は気をつけよう。
「これがエンペラーの腹に風穴開けてたアレ……道理で……」
「どういう原理なのよこれ……。魔法ではあるけど……魔法というより、事象改変による現象の利用ね……。魔法陣の反応が欠けらも無い。何か、こう
「です。魔力の流れは見えますが、この電磁らいん?以外には魔法が現象を改変してないです」
メチャメチャ観察してる……。魔法は使ってるんだが、化学との応用だからな。後で家に行ったら化学の本を貸してあげるとしよう。
「表面がかなり熱いな……。おいモヤシ。お前これをどんだけの速さで撃ち出した?」
え、分からん。適当にやってたんだが。
「えーっと。……ハミィ?」
「魔力量で威力が変わるのであれば、恐らく今の25倍程ですね」
さすが魔眼。てかこれの25倍ってヤバいな。全力でやったらどうなるんだろう……。
「なるほどな。そりゃあ……あぁなる訳だ。道理だぜ。んで? お前さんはコレを元通りにしろと?」
「はい、お願いできないでしょうか?」
俺の不注意とはいえ、これはマームさんから貰った大事な短剣だ。出来れば元通りにしたい。
「出来なくはねぇが……、高いぞ? 」
「うぇ」
「コレを元通りにするにはミスリルを使って打ち直すしかねぇ。さらに言えばミスリルは希少で加工がえらく難しい。それを使って満足に仕事を出来るやつはこの工房には俺しかいねぇ。どうする?」
「ちなみに……おいくらほど」
「そうだな、材料費と加工費で……大体25万ユーリアって所か」
「うぇぇ!!」
今の俺の全財産が6万ユーリアだから約4倍弱……。マジか。ミスリルってメチャメチャ高いじゃん……。ゲームだと簡単に手に入るのに……。
「一から作ったミスリル剣なら200万はするぜ。原型は残っとるし、打ち直しに必要な分だけだからこれでも安い方だぞ」
「うわぁ。とはいえ結構お高いねぇ。どうするナオ? 私、一応貸せるよ?」
「ミスリスで出来てたとは驚きです。ミスリルは貴重ですからね。マームさんの旦那さんは高ランクの冒険者だったのかもです」
これは……。今の俺には到底手が出せない金額だ。とはいえリリィに借りるのはちょっと申し訳ない。だが相手は鍛治で有名なあのドワーフ。マームさんのナイフを直してもらうにはこれ以上ない相手だし……。
うーーーーむ。こうなったら……
「営業して稼ぐしかないか!!」
俺が金を稼ぐと言ったらこれしか思いつかん。
「お店始めるのです!?」
「いいんじゃない? 元々商売人なんだから商売で稼ぐのは道理よ。まぁ手伝ってあげなくもないわ。ねぇ、ハミィ」
ラミィがドヤ顔で鼻を鳴らしながらハミィを見る。ハミィも頷いてくれた。
「おぉ! ついに始めるんだね! 私も手伝うよ! ナオ!」
リリィが待ってましたと言わんばかりに俺の肩を叩いた。
ありがたい、どっちにしろ1人じゃ無理だったから3人には手伝って欲しいとお願いしようと思っていたのだ。
「あぁ? 店? おめぇ何かの商売人だったのか?」
「えぇ、まぁ一応……」
召喚されてからドタバタ続きだったが、土地を手に入れ店も構え、電気もガスも水道も目処がついてる。
これはやるしかないだろう!!
「なんの店だ?」
それはもちろん……
「焼肉屋です!!!」
そう、俺は桜来軒の店主、焼肉屋だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます