39.バウルバーグ鍛治工房のテンプレ

 俺の店は、位置的にはマームさんの踊る山猫亭よりさらに裏なのでメインストリートまで出るのに少し時間がかかる。

 だがそんな道のりも、


「るんるんるーん!」

「ふんふんふーん!」


 やけにご機嫌なシャーミィ姉弟が先頭を歩きつつ、それを微笑ましく見ながらリリィと2人後ろを歩く。

 こうしていると、ホントに仲良しなただの子供にしか見えないんだよな〜。とても凶悪な魔眼や各種殲滅魔法の使い手とは思えない。


「そういえば、リリィ。猫人族キャット・ピープル猫妖精族ケット・シーってどう違うんだ?」


 ふと気になった事をリリィに聞いてみた。実際リリィとラミィやハミィの違いって、素だと尻尾の先がちょっと光ってる位しか分からない。


「ん〜。なんて説明したらいいかな。すごーーく簡単に言うと、キャット・ピープルの祖とも言うべき種族ってとこかな?」


「そ? ……祖先て事!?」


「うん、キャット・ピープルはケットシーから派生した種族なんだ。はるか昔にケットシーの王女が神の使徒と恋に落ちた所が起源って言われてる。猫人族に限らず、獣人族全体も祖先は妖精族で、他種族との交配によって今に至るんだ。だから獣人は精霊魔法に対して親和性が高いんだよ!」


 なるほど……。それは大分希少な種族なんじゃないか……? こんな所でブラブラしてても良いのだろうか?


「まぁはるか昔の話だからね〜。猫妖精族はケットシー簡単に言えば妖精の血が濃いというか、そのものだから。だから魔法の扱いに長けてたりするんだ 」


「そうよ! お爺様なんか魔法でドラゴンと戦えるぐらい凄いのよ!」


「僕みたいに魔力が体の一部にこびりついて変異することもたまにあるみたいです〜」


「へぇ〜。じゃあ似てるようで全然違うんだな」


 手を繋ぎながら歩いていたラミィとハミィが振り返ってそう言った。さらっと流したけど今ドラゴンって言った? え?


「お、見えてきたよ! サウスブルーネ冒険者御用達のバウルバーグ鍛治工房!」


 そんなこんなしてる間にどうやら目的の場所へと到着したようだ。


「大っきいですね!」

「人がうじゃうじゃいるわね……」


 メインストリート沿いに建てられた店舗は、周囲の店を2〜3件合わせたかのような大きさで、多くの冒険者が入り乱れていた。扉などは無く吹き抜けになっていたが、敷地内に入るとムワッとした熱気を感じる。壁には所狭しと飾られた武器防具を眺める冒険者や、受付のヒゲモジャおじさん……多分ドワーフの人達と交渉する人もいた。奥の方からカンカンと子気味の良い鉄の音が響いてくるので、作業は奥の方でしているのだろう。


「あちゃー、氾濫の後だからやっぱ混んでたか〜……」


「みんな武器の手入れに来ているですね」


「早く受付済ませちゃいましょうよ」


「そうだな。混んでるみたいだし」


 預けるだけ預けて、後はお任せしよう。俺もあんまり人混みは苦手なんだよな。

 と思ったその時であった。


「おうおうおう。なんだてめぇら。ここはガキの来るところじゃねぇぞ? あん?」


「お前のガキか? 早くそれ連れてさっさと帰んな。ここはお前みたいなモヤシが来るところじゃねぇよ」


「へへへへ」


 受付に進もうと思った矢先、ガタイのいい世紀末みたいな3人組が前ににゅるっと出てきて、俺にそう言った。……面倒くさそうで溜め息がでる。てか異世界にモヤシあったのか。


「おい聞いてんのかおめぇ? あぁ!?」


「兄貴! こいつぶるっちまってますぜ!」


「ゲハハハハ!! そうだろうよ。このゴゴンガ様にビビらねぇやつなんていねぇっつーんだ!」


 ビビンバみたいな名前だな。

 3人が俺を見て下品な調子で高笑いする。俺ってそんな絡まれやすいような感じ出てる……?

 てか俺の後ろの3人組から感じる殺気がヤバい。穏便に終わらせられるなら終わらせたいんだが……。


「あのー……。俺たちナイフを直しに来ただけなんで……道を開けて貰えると……」


「あぁ!?!? なんだお前!! ゴゴンガ様が帰れって言ってんだろうが! 目障りなんだよ!! それとも痛い目見ねぇと分からねぇか!?」


「まぁまてザンガ。そのナイフを見せてみろよ?

 これでも俺らは王都じゃ超有名な冒険者様だからな 」


 取り巻きが大声をあげるので周りの人達も何事だとこちらを見始めた。迷惑そうにするものや、中には面白そうに眺める者もおり、干渉してこようとはしない。売られた喧嘩をどうするかまるで品定めでもしているようだ。


「ぶわっはっはっ!! どうしたらこんな状態になるんだよ!! 武器の扱いもド下手くそじゃねぇか!! だっはっは!!」


「おいドゴン。あんまり笑ってやるな……ぷ。ぷぷっ……〜〜〜!!」


 俺がナイフをちらりと見せると取り巻きが大笑いを始めた。確かにナイフは酷い状態だが、礼儀ってものが完全に欠けているようだ。

 だがなんでだろうか。日本にいた時の俺なら明らかにガタイのいい強そうな3人組に囲まれでもしたら、……今も取り巻き2人が俺の前でメンチをきっているが、こんな事があれば直ぐに萎縮していただろう。だが何故だろう。今は全然怖くない。


「こいつらやっちゃっていい? やっちゃっていいわよね? ね?」


「わ、わ、わ!! お姉ちゃんがやったら殺しちゃうのです!! ちょっと待つですー!!」


「なお〜。あたしが分からせよっか? ね! こいつら顔知らないしサウスブルーネの冒険者じゃないよ。あたしが流儀ってものを……」


「ああ、大丈夫だよ。なら全然」


 ラミィとハミィの掛け合いに、周囲の野次馬で笑いが起きたが、俺がそう言うとゴンガガだかゴゴンガど呼ばれていた大男が眉をピクリと上げ反応した。


「このくらい……だと? それは俺たちに言っているのか? あぁ?」


「舐めてんじゃねぇぞガキがぁ!!あぁ!!」


「殺されてぇのか!!」


 大きい声を張りあげればビビるとでも思っているのだろうか。……あぁ、そうか。俺もちょっとイライラしてるみたいだ。マームさんのナイフを笑われたからか、仲間が馬鹿にされたからか。まぁいい。さっさと終わらせよう。


「寝てろモヤシぃぃ!!」


「おっら!!」「げひひっ!!」


 3人纏めて俺へと飛びかかってくる。全く、もやしもやし言う割に3人がかりとか……どうなってるんだ。


帯電磁界エレクトリフィケーション


 俺はナイフを見せた事を少し後悔しながら仕舞い、直ぐに電磁場を発生させた。


「にゃ!?!?」


 ハミィとラミィがうわぁって顔をしていたが、後ろでリリィがぴょんと飛び上がる。電磁場に気づいたのかな? 流石獣人の感覚だ。


 そして俺の目の前に不可視の電磁の網を走らせた。発生させた電磁場は床に付与してある。後は、


「っらああ……あ? 」「ガッ……体が!?」「あ、アニキィ!! 動けやせん!!」


 網を通り過ぎれば完了だ。


「な、何したてめぇ!!!」「ゴラァ!! 答えやがれ!!」「う、動けねぇ!!」


 殴り掛かる寸前でまるで彫像にでもなったように動きを止めている3人。このままだと煩いので、


 パチン


 ドゴォォン!!!


「「「ぶべぇぇ!!」」」


 指を鳴らすと三バカが勢いよく床ペロした。顔からいったようだが、暴力を振るおうとしたので自業自得だろう。


「ぶずぶべべ!」「でべぇ!! ばびじゃがヅダ(何しやがった)」「グがげ……」


「あなた……えぐいわね……」


「いや、お姉ちゃん。上級魔法ブッパなそうとしてたですよね。ダメですよ街中で! ちゃんとTPOを弁えるです!!」


「え……、な、えぇ?!」


 リリィがワナワナ震えながらこちらを指さしている。周囲もシンと静まり返ってしまったようだ。

 そういえばリリィに電磁魔法見せるのは初めてのような気がする。氾濫でそれどころじゃなかったしね。

 あまり目立ちたく無かったのだが、殴りかかってきた以上正当防衛なので仕方がない。


 さて、これどうしよう……。


「おい、ガタガタガタガタうるせぇぞ。俺の店で暴れてる奴ァどこのどいつだ!!」


「親方!!」



 すると奥から騒ぎを聞きつけ現れた精悍な肉体と立派な髭を蓄えたドワーフ、店の店主が現れた。

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