38.戦いを終えて

「おーい! ナオ! 言われた奴買ってきたよ〜」


「お、リリィ帰ってきたか! キッチンに置いといてくれ! ……ラミィとハミィも呼んで飯にしようか」


 果物や野菜が入った紙袋を片手に、リリィが雑草だらけの庭へと入ってきた。午前中はずっと草刈りしてたけどなかなか終わらんなぁ……。腰いてー……。

 桜来軒もすっぽり収まる程広い土地を貰ったのはいいけど、これなら駐車場も作れそうだよ。車なんてないけどさ。


「やったー! やっとナオのご飯が食べれるにゃー!! 」


 リリィの語尾ニャーも久しぶりに聞いたな。最近は街の復興や大量の魔物の後始末で、俺達や街の人たちも忙しなく動いている。特にコボルトやゴブリン達に大きな被害を受けた大水路沿い商業区は、大工や依頼を受けた冒険者達が崩壊した各店舗の復興に励んでいる。だが、そんな中でも破壊された店先には急造の露店が設けられ、メインストリートにも負けない程の多くの人が物資を求め集まっていた。全く逞しいことこの上ないな。


 どうやら復興費はブルーネ領の財政から捻出され、各ギルドを通じて人々に復興の依頼が出されているらしい。

 中央広場では1日に1回大規模な炊き出しが行われ、家や職を失った者、復興に励む職人や冒険者が多く集まっていた。これらも全てシャルル辺境伯名義で出された依頼が発布され、街の主婦層を中心に行われている。参加した者には銀貨1枚と鉄貨3枚が支払われ、その日を凌ぐには充分な日当を得ることが出来るらしい。


「あれ、リリィさん帰っていらしたんですね。お帰りなさいです〜」


「出たわね猫娘!! フシャー!! 」


 ラミィよ。お前も猫娘だろうに。


「お、ハミィちゃんお疲れ〜! ……ラミィちゃんはまだ怒ってるの?」


 店から出てきたハミィがリリィを見るなり威嚇を始めた。多分昨日の晩飯でラミィが最後に食べようと取っておいた炙りロースをラミィが食べてしまったのが原因だろう。


「食べ物の恨みは恐ろしいのよ!! 覚悟しなさぁぁぁい!! ふにゃあああ」


「ほら喧嘩しない。喧嘩する子は昼飯抜きだぞー」


「「え!?」」


 ラミィもリリィもそんな顔で俺を見るな。必死か。


「それにしても良かったですねナオさん。土地を貰えて」


「端っこも端っこじゃない。……ナ、ナオがいなければこの街は落ちてたんだからもっといい場所くれてもいいんじゃないの!?」


「あっ、お姉ちゃんまた名前呼ぶの照れてるです」


「うるさぁぁぁい!!」「ひぇぇ〜〜!!」


 落ちてたってのは言い過ぎだろう。最前線を張った兵士や冒険者の人達。それに1人でキング種やレッサードラゴンを倒し、冷静沈着な指揮で第3波に大きな打撃を与えたジュミナさん。

 第1波、第2波に大魔法で壊滅的な打撃を与えたシュリハさん。そしてなんと言っても


「まぁゴブリンエンペラーを倒したリリィが最功労者だよな」


 今回のエンペラーは街に潜んでたらしく、俺が外壁で気を失い目覚めた時、丁度リリィのパーティーののイオニスさんから魔法で伝令が来たのだ。


 すぐにハミィの魔眼でエンペラーの場所を確認し、シュリハさんが残り少なかった魔力で探知魔法をジャミング。ぶっつけ本番ではあったが、マームさんからもらったナイフに帯電磁界エレクトリフィケイションを付与し、電磁ラインで思いっきり射出した。

 普通だったら当てられなかっただろうが、ハミィが魔法で視覚を共有してくれたのと、電磁ラインの生成をラミィが手伝ってくれたので何とかなった。

 まぁその後また魔力が切れて、丸1日気絶してしまったらしいのだが……。


「いやいやいや、どう考えてもナオでしょ! ナオがいなかったらサウスブルーネは陥落してたって聞いたにゃ!?」


「え?」


 そんな話は初耳なんだが……。


「大水路からの侵入経路封鎖、門への破壊工作をバリア?魔法で塞ぎ第2波の侵入阻止、バジリスクを単独で2体討伐、北門を魔法で無理やり閉じてキング種達の侵入を阻止。首魁であるエンペラーの討伐支援……。どう考えても一介の商売人が立てれる功績じゃないわよ……」


「確かにです。それに通信魔法でバルバロさん達と連絡を取れたのも大きかったのですよ?」


 大水路にいた魔物はラミィが倒してくれたし、バリアはなくてもジュミナさんがいたから大丈夫だったろう。保険的なつもりで設置したつもりだ。エンペラーはともかくバジリスクも外壁上のメンバー達が総出で戦ったのだ。というより俺は一匹吹き飛ばした所しか記憶にないのだが……。


「今回の氾濫鎮圧に際して功績があった者には、明日中央広場で領主様や師匠から直々に報奨授与があるらしいって〜。さっきレノアが言ってたのにゃ」


「え、それって……」


「勿論ナオも出席にゃ。師匠からは縛ってでも連れてくるよう言われてるから逃がさないよ〜?」


 マジか……。実は負傷者テントで気絶から目が覚めた時、領主様に会ったんだよな……。みんな知らないけど……。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…………うっ」


 何処だここは。寝てたのか俺……。体が重いので顔を傾け周囲を見回す。

 仮設テント? 街の中か。いくつもテントが連なってて、ベッドが沢山並んでいる。神官ぽい服の人や衛兵団の詰所の事務員さんみたいな人が走り回ってるな。

 俺何してたんだっけ……。蛇みたいなやつを倒して、門を閉めて……。

 そうだ、エンペラーが見つかってリリィを援護するためにマームさんから預かったナイフで……。ダメだ頭いてぇ……。


「起きたか。ナオ・サイタ」


 痛む頭を抑えながら、ふと誰かに呼ばれ体を起こす。


「……う。え、えっと」


「無理はするな。まだ寝ていろ」


「り、領主様!?」


 あの時外壁上で指揮をとっていたシャルル辺境伯だ。何故こんな所に!?


「領主とは名ばかりだ……、あまり役には立たなかったよ。だが皆がよく頑張ってくれた。今はこうして今回奮闘したものを労っていたのさ」


「そ、そうなんですね。恐縮です」


「ナオ・サイタ。君の働きは聞いている。大水路や門の結界、それに私の目の前で討伐したバジリスク2体。開いていた北門の再封印。そしてエンペラー討伐の支援。正に獅子奮迅の働きだ。この街を治めるものとして礼を言う。助かった」


「い、いやいや! 頭をあげてください! 成り行きと言いますか……! それに……リリィの住む街だったので、俺も出来るだけの事はしようかな……と。住んでる街が無くなってしまうのは悲しいですからね」


「……ふ。そうか。友のため……という事かな。君はいつも人の為に動くのだな。……君には望むものを褒賞として与えたい。何か望みはあるか? 私に出来ることならば用意して見せよう」


「えぇ! いやいやいや、大丈夫ですって! そんな……」


「?? 信賞必罰は世の常であろう? 何を謙遜する必要がある。好きな物を申してみよ」


「あぁ……ん〜。……では、私は元は焼肉屋なんですけど、サウスブルーネでお店を始める許可など頂けたらなと……」


「何? そんなことで良いのか? 土地はもう借りているのか?」


「いえ、これからですね」


「ならばすぐに土地を用意しよう。君のような人材が移住するのはサウスブルーネにとっても益のある事だ。建築ギルドにも人を派遣するよう話を通しておこう。好きに使うがいい」


「ありがとうございます! それだけして頂ければ、私にもう望むものはありません」


「ふむ、欲の無いことよ。……今回の氾濫鎮圧に関して功績のあったものは近々褒賞授与を執り行う。貴殿も参加せよ」


「……え? でも褒賞は今土地を……」


「それは私個人からだ。褒賞式は各ギルドや組合を通して行われる。日程は追って伝える。土地に関しては今日中に使いの者を送る。ではまた会おう」


「あ……」



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 という感じで今に至る。最初はかなり広いし草ボーボーだし結構驚いたが、リリィに聞くと賃貸でも月金貨5枚は下らない土地だと言っていた。ギルド事務員の平均月収が金貨6-7枚ということを加味すると滅茶苦茶高い所なのではないだろうか……。


「はむっ、はむっ、……けほけほ! 」


「ほら、ゆっくり食えよラミィ」


「お姉ちゃん水です」


「……ゴクゴク! 取られる前にお腹一杯食べるわ!!」


「アハハ……。ラミィちゃん、もう取らないから安心して……」


 せっかく天気が良いので、草を刈ってスッキリした所に机を出して外での昼飯にした。相変わらずラミィがすごい勢いで豚の生姜焼きをかきこんでる。リリィもかなり食べるほうだが、ラミィの食べっぷりにちょっと遠慮してるのが面白い。

 今度から皿は分けて出してやるか……。


「ムグッ……。ふぅ。……そういえばアンタは今日どうするの? 褒賞授与式は明日なんでしょ?」


 ラミィが水で口いっぱいの生姜焼きを流し込むと、俺の方を見てそう言った。


「あー、俺はコレを直しに行こうかなって」


「ナイフ……です?」


「それって……エンペラーの時の」


 俺は異次元収納ブラックウィンドウから取りだしたナイフをみんなに見せた。柄や刃の所々がボロボロになっており、ナイフと呼べるかも分からないが、一応原型は保っている。

 電磁魔法を習得した時から電磁砲レールガンのように物を飛ばせないかどうか試行錯誤していたのだが、石や岩などでは全力で打ち出すとボロボロに砕け散ってしまうのだ。それに真っ直ぐ飛ばないし……。あの時は動けなかったので手近にあったナイフを撃ち飛ばしたのだが、こんなボロボロになるとは思わなかった。

 これではマームさんに申し訳が立たない。鍛冶屋があるのであれば直して貰えないか聞きに行くつもりだった。


「あっ! それなら私の知り合いの鍛冶屋を紹介するにゃ〜。私もこの後暇だし」


「なっ、アンタは草刈りでもしてなさいよ! しょうがないからこのラミィ様が付き添ってあげるわ!」


 腰に両手を当て、どやぁとラミィがしたり顔でこちらを見る。口にタレがついているので拭いてからドヤ顔して欲しい。


「ラミィちゃんこそ草刈りがいいって! 魔法とかでパパっとできるじゃん! 」


「あんたこそ! その2本のダガーで出来るでしょ!! 」


「お姉ちゃん……」


 何故かリリィも張り合い始め、机の上でワーキャー小競り合いが始まった。しっかり者のハミィは頭に手を当ててため息を吐いてる。大変だなお前も。


「ほら、喧嘩するなよ〜。晩飯抜きにするぞー」


「「えっ!」」


 光の速さでこちらに顔を向ける両者。冗談なのでそんな絶望した顔でこっちを見るのはやめて欲しい。


「みんなで行こうな。みんなで。建築ギルドにも顔出さなきゃだし、手伝ってくれるだろ?」


「勿論にゃー!」


「あったりまえよ? 感謝しなさい!」


「はいです!」


 よし、じゃあさっさと飯食って街に出るか!



━━━━あ━━と━━が━━き━━━━━


作者「これで第一章は終了になります!」


白雪「え! すいません! 私の出番は……」


作者「あっ……」


白雪「もしかして忘れてたんですか? ひどいです!」


作者「いや、その〜。何となくキリのいい所で登場させようと思ってたらこんなところになってしまったというか……、明日! 明日出しますんで!! すいませーーーーーーー…………」


白雪「あ!! ちょっと!! ……はぁ。ここまでご覧いただきありがとうございました! 宜しければ☆評価、♡を頂けると作者のやる気につながります。宜しくお願いいたします!」

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