41.誓約の剣
「おお! お前もしかしてバジリスクをやったって言う……瞬双の連れか!」
「見てたぜチキショウ!! うちのパーティーに欲しいくらいだわ!」
「あっ、どうも〜。ハハハ……」
バウルバーグさんに短剣を預けて一時保留にしてもらい、3人組のバカトリオを衛兵に引き渡した俺たちは、街中をブラブラと散策していた。
しかし、途中やけに知らない冒険者達に声をかけられる。初めはリリィの知り合いかと思ったが、どうやら知らない人もかなり混じっているとの事。
「ナオ。相当派手にやったみたいだね……。ちらほら高ランクの冒険者が声掛けてきてるよ」
「いや……、……ただただ必死だったというか……」
「でも魔法をちょっと楽しんで放ってた節はあるわよね、大水路の時とか。周りの冒険者たち口あんぐり開けてたわよ」
「確かにです」
くせっ毛がひとふさピョコンと飛び出たハミィが、姉に同意するように頷いた。確かに手加減せず電磁魔法を大っぴらに使えたので、ちょっとテンションが上がっていた事は否めない。
「冒険者は職業柄どうしても武偏重な所があるからさ。力がある者に対しては好意的に見るんだよね。ナオのことを見かけた人は、ナオに対して一定の敬意と好意を持って近づいてくるんだろうね。バジリスクとタイマンはるくらいだし」
「いや、あれはだなぁ……」
思い返すとマジで震える。あの時はアドレナリンどばどばの状態だったから、バジリスクを前にしても魔法をポンポン放てたんだが、今それをやれと言われたらちょっと怪しい。いや、絶対無理だろう。
そんな事を話していたら、再び前から冒険者の集団4名がやって来た。そのうちの一人がこちらをチラリと見ると、笑顔でこちらへと歩み寄って来る。
「あれ、大水路の時にいた人です?」
ハミィの左目が僅かに光り、首を傾げながら前から来る集団を眺めて呟いた。
「おう! リリィ!! お前も無事だったか!」
「ジャズじゃん!! ゴブリンキングとやったって聞いたけど!」
ジャズと呼ばれた戦士風の風貌でスラッとした体格、短い髪を立たせたイケメン君がリリィを見て手を上げた。その後ろからも魔法使いのハットとローブを着たスタイルの良い女性2人と、ガタイが良く大盾を背負った
「あらぁ〜!」
「リリィちゃん、久しぶりね」
「…………瞬双か」
「シャパパにレマニエ! バックスも相変わらず!
元気だった? 」
親しそうに話しかけたリリィが振り返り、彼らを紹介してくれた。戦線回帰と同じくBランクパーティーの「誓約の剣」というチームらしい。
戦士職で
「あら、男連れ……子供まで……。あらあら、いつの間にリリィちゃん……」
「だぁぁ、違うって!! そんなんじゃないから!! たまたま知り合った人達で、助けてもらったんだって!」
魔道ハットから覗く金髪ロングを風になびかせるシャパパさんに、リリィが顔を赤らめて抗議する。
「可愛い〜! 見てよシャパパ!! 君たち何歳なのかな〜?」
「あうあう……。あのぉ、10歳なのですけど……」
「ふん! 私は12歳よ!! 子供じゃないんだから!!」
「やーーん!! 可愛すぎ!! この子達持って帰りたーーい!!!」
シャーミィ姉弟の抵抗も虚しく、綺麗な緑ボブのレマニエさんに迫られた2人が、がっちり捕獲され顔をスリスリされていた。
顔を真っ赤にして、俺に視線で助けを求めるハミィであったが、レマニエさんの勢いが凄すぎてちょっと近づけない。羨ましいぞ、ハミィよ。
「すまねぇなうちの連れが、レマニエは子供が大好きでな……」
「…………孤児院の出身で面倒見も良い奴だ。…………心配ない」
バックスさん、かなり怖い顔つきでガタイも良いのだが思ったよりも優しい感じで話しかけてくれた。寡黙な二枚目って感じでなんとも渋い雰囲気だ。
「いえいえ、リリィとは以前からのお知り合いなんですか?」
「あぁ、リリィというより戦線回帰と……って感じだがな。同じランクで昔から競い合うように切磋琢磨してきた仲だ。……だが、ギルマスから戦線回帰の事は聞いたよ」
戦線回帰の話題になると気さくな感じで話していたジャズさんの顔が陰る。戦線回帰は友達……と言うよりかは戦友と言った方が正しいのだろう。昔からの知り合いとなると、それなりに気心のしれた仲だったのではなかろうか。
「…………パズーは良い戦士だ。我が好敵手であった……」
バックスさんが空を見て感傷にふけるように言葉を絞り出した。そう言えばパズーさんも大盾を使うとリリィから聞いたのを思い出した。
「冒険者ってのはいつ死ぬか分からねぇ仕事だ。それは分かっちゃいるんだがな。パズーとアドエラは気のいい仲間思いのヤツらだったからな。アイツらの死を悼む奴は多いぜ」
「…………2人は数百のハングリーウルフとブラックベアーを屠り、リリィを救ったと聞く。…………さすがだと感心した」
どうやら戦線回帰の2人がどのような最後を遂げたかも、既に周知されているようだ。
「ところでお前……。どこかで会った事ないか……
?」
「えっ?」
いきなり話題が変わり、思わず固まる。
大水路の時にいた冒険者さんってのはハミィが言っていたが、あの時は結構空高く飛んでたし顔は見られてないと思ったんだが……、バレたか?
「ジャズよ。……知り合いだったのか?」
「いや……、知り合いじゃねぇが……。……んん?? んん〜〜〜? 」
まじまじと顔を見られ、唸り声をあげるジャズさん。ちょ、近い近い!! そんな寄らなくても顔は見れるでしょ!!
「シャパパ、あんたまだその気持ち悪い癖治ってなかったの……」
「お、おぉ……。グヘ、グヘヘヘ……!」
なんかシャパパさんがこちらをガン見しながらヨダレを垂らしてる。怖っ!! 何やら腐った何かの気配を感じるような……。それにジャズさんはどうにか思い出そうとしているためか、俺の顔を見てずっと唸ってるし……、ここは話を変えた方が良さそうだ。
「あ、あの!」
「……お? どした?」
「あ〜、今度みなさんでウチの店にご招待しますので、是非いらして下さい。おもてなししますので 」
「……ほう」
ちょっと無理やりな話題変換だが、実は店を開くにあたって現地人の細かな意見を聞いておきたいと思っていた。知り合いだけ呼んでプレオープンみたいな感じで営業するのもありかなと思っている。
貨幣もまるっきり違うし、それに価値も違うのだから商品の値段設定も決めないといけないしね。
「お前商売人だったのかよ! あ、いや。失礼したな。えーと……」
確かにリリィと一緒だったら冒険者だと思われるよな〜……。っといかんいかん、そういえば自己紹介がまだだった!
「ナオです。咲多 鳴桜。焼肉屋をやってます。……あ、やる予定です」
「焼肉屋……。飯屋か! いいな!! 俺はジャズ・レングスリー。改めてよろしくな」
「…………申し遅れたな、バックス・ギャンザウッドだ。……酒は飲めるのか?」
「双子の姉シャパパ・ツェパーニエで〜す」「妹のレマニエ・ツェパーニエだよ〜」
双子だったんかい!! お姉さんちょっと腐った匂いしますよ!! レマニエさん!!
「もちろん、キンキンに冷えたヤツ出しますよ! 宜しければ明日の式典の後とかいかがですか?」
「おぉ!! マジかよ! いいのかお邪魔しちまって!? 」
「まぁ1組様なら全然余裕ですよ。色々お話も伺いたいですし」
日本とこっちの世界の人。味覚や味の趣向が完全に一致するとも思えない。色々と料理を試させてもらう意味でも丁度いいだろう。
「ふふーん。大丈夫でーす!私も手伝うもんね〜!! 」
「えぇ! お前が料理すんのか!? 大丈夫かよ…………」
「なにをー!!! ジャズ!! どういう意味よぉぉ!!! 」
ジャズさんが悲惨な顔でそう言った瞬間、リリィが怒髪天を衝く勢いでジャズさんへと襲いかかった。するりと華麗に避けたジャズさんが、素早い動きでリリィの目にも止まらぬパンチを鮮やかに捌いていく。……さすがB級冒険者。
「僕も手伝うですよ! ナオさん!」
「あぁ、よろしくなハミィ。今日色々教えるからな」
ハミィがにぱっと笑顔を咲かせてこちらを振り返る。サラサラの金髪の下に覗くあまりの天真爛漫な笑顔に思わず頭を撫でてしまった。今日この後仕込みもするし教えるには丁度いいね。
「いや〜ん!! お姉さんも行く〜!! ハミィちゃんがサービスしてくれるの〜?? お姉さんお金使っちゃうぞー!!」
「わ・た・し!! もいるから!! 手伝うんだから!! 私にも教えなさいよ〜!! 」
レマニエさん、子供好きって言うよりか……どっちかって言うとショ……。姉妹でちょっと危ない匂いがするな……。
「ナオの料理はマジウマだから!! ジャズ! バックス! 覚悟した方がいいよ……。飛ぶよ……?」
「へぇ、ハードル上げるねぇ」
「…………うむ、楽しみにしておこう」
ラミィがレマニエさんの腕の中でジタバタしながらハミィに対抗するように叫び、リリィは男性陣に手をワキワキさせながらそう言った。
「あぁ、もちろん。頼りにしてるぞラミィ。リリィもよろしく!」
これは張り切って仕込みしないとな! さて、何を手伝ってもらうか決めないとな。こっちの人って日本に比べてメチャメチャ食うし、久しぶりに焼肉屋の腕が鳴るぜ!!
━━━━あ━━と━━が━━き━━━━━
作者「やっとお店パート始めれる…………。なんでここまで長引いた!! ゆったり系でいこうかなって思ってたのに!!」
ナオ「それはこっちのセリフだよ……。1ミリもゆったりしてなかったし」
ハミィ「全部ゴブリンエンペラーの仕業ですです。悪いのは全部エンペラーさんですよ?」
作者「あいつぅぅ。絶対許さねぇ!! 次会ったらケチョンケチョンに……」
ラミィ「もうあの世へ行ったわよ!! もうちょっと計画立てて書きなさいよ!! おバカ作者!!」
作者「あ……そうだった……。南無……エンペラー」
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