36.秘策

 ビキビキビキビキッ!


「ちょっと! ホントに大丈夫なの!? 失敗したら大変な事になるわよ!」


 その通りだけど……、恐らくこのままでもヤバい。


「どっちにしろもうバリアも持たない!! 頼むぞ!」


「……動きを……止めればいいの? ……それ位の魔力なら……まだ」


「お願いします! ……ふーっ」


 シュリハさんも手伝ってくれるなら心強い!大きく深呼吸をして体の緊張を解す。


「兵を下に集めよ!! バジリスクを囲め!! 」


「キシャァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


 ビキビキビキビキ!!!


 そろそろ破られる。……気合い入れろよ俺!


「結界、破られます!!!」


 バキォィィィン!!!!!!!


「今だ!! 止めろぉぉ!!」


麻痺魔眼パラライズ・アイ!」

風性拘束エアロバインド

炎の鎖フランマ・カテーナ!!」


 内側のバジリスクをシュリハさんが、外側をハミィが魔眼で動きを止め、ラミィが顕現した炎の拘束鎖でキング種達の足を縛り付けた。


 さて、頼むぞ!、


「インフラ魔法発動!!!」


 うっ!!? 滅茶苦茶吸われる!! ……ヤバい。だがそんなこと言ってる場合じゃない。ここで気絶でもしたらサウスブルーネにあのデカイのが流れ込む。


 ぐうううぅぅぅぅぅ!! キッツイ…………!!!

 まるで栓の開いた入れ物に水を流し込んでいるように魔力が消えてく。



 インフラ魔法。電気やガス、水道を復活させるために取得したが、説明文にはこう書いてあった。


 インフラ魔法……魔力代替・変換により拠点におけるエネルギー供給を賄う。使用するエネルギー量と魔力は比例する。レベル上昇により用途拡大。



 拠点におけるエネルギー供給。ここの巨大な門は、別で管理室があってそこにある魔晶石から魔力を抽出する装置を使い、魔法が使えない兵士でも門の開閉ができるようにされていた。

 だが、このエネルギー供給をインフラ魔法で賄えるなら、門が閉めれるのでなはいかと考えたのだ。

 …………案の定どうやら上手くいったらしい。


 ゴゴゴゴゴ


「門が……管理室は破壊されたんじゃ…… 」


「門が閉まってるぞぉぉぉ!!」


「何故!? ……とにかく攻撃を続けろぉ!!」


 外壁が揺れている。恐らく門が閉まってきてる。

 この調子だ……うっ!


「うおぇ…………ハァ……ハァ……」


 魔力を流しすぎた代償。今日何度目か分からない頭痛。突然の襲ってきた吐き気を抑えられず、胃の中の物を吐き出してしまった。


「おい、大丈夫か!!」


「シャルル様!」


 誰かが俺に駆け寄ってきた。

 やべぇ……頭がクラクラしてき……。ってあれ、この人……領主様!?


「魔力切れか! 誰か! マジックポーションを持て!!」


「す、すいませ……」


「構わん。それより早くこれを」


 口に添えられた瓶を一息に飲み干す。頭痛が少し楽になり、思考がハッキリしてきた。


「門を動かしているのはそなただろう? ……頼むぞ」


「はい……!」


 俺は両手にさらに力を込める。


「っっ……もう限界よ!! 急ぎなさい!!」


「ああ……!! ふーっ……。いくぞ!! オオオオオォォォォォォ!!!」


 俺が持つありったけの魔力を注ぎ込む。あの巨大な北門。魔力という力で、1人であの15mの巨大な門を押しているような途方もない感覚だ。だが、少しづつ動いてる。手から、足から、血管のように通う魔力の流れを全て掻き集め、一つにして注ぎ込む。


「ハァ……ハァ……何か……なにか詰まってる……? なんだこれ……」


「シャ!! ギギギッ!! ギィィィ!!」


「バジリスクが……」


 門が閉まっていく途中で、何かが突っかかっているような感触を感じた。誰かが何か言っているがよく聞こえないし、確認している余力などない。

 そのままいく!!!



「ハァ……ハァ……うおおぉぉぉぉ!!!」


「ギィィィィァァァァァァァァ!!!」


 グシャリ


 ピコン『レベルが上がりました』


 レベル……? 上がった?

 突然魔力の余剰ができたのを感じ、俺は何も考えずそれらも全てインフラ魔法へぶち込んだ。


「閉まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



 ガシャァァァァァァァン!!!!


 何かが閉じる音と共に、魔力が底をついた俺は、目の前が真っ暗になり意識を閉ざした。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 10m以上あるサウスブルーネの巨大門が徐々に閉まっていく。本来であれば毎日日暮れの後に見られる光景ではあるが、その仕組みをよく知る者たちからすれば、とても信じられない事であった。


「……もしかしてもっといい方法ってコレ……?門の魔導回路サーキットに直接干渉した? ……北門管理室は壊されたんじゃ……?」


「ええ……。たとえ直接干渉できたとしても……」


 シュリハが閉じられた北門を見て、ブツブツと何かを呟きながら考え込む。だが、同じく様子を見ていたアリアンが有り得ないと首を振ってシュリハへと同意した。門を動かしていた北門管理室は、サウスブルーネの地下に流れる龍脈の一部から魔力を回収し、魔晶石を介して使用している。それは例え龍脈のほんの一部だとしても、人にとっては膨大な量である。

 だがナオは、自らの魔法で北門に干渉しそのまま閉じて見せた。原理もそうだが、必要な魔力の量から見ても、アリアンにはとても理解できない現象であった。


「信じられん……。ただのお人好しの冴えない男だと思っていたが……。私の目が節穴だったようだな……」


 サウスブルーネ辺境伯シャルルは、眼下で下半身だけとなったバジリスクの残骸を見て戦慄していた。

 内開きの北門が動き出し、街側にいたバジリスクが北門の動線に引っかかり一時は門の動きが止まったものの、圧に耐えきれず口から大量の血を吐き出し息絶えた。

 そのままの勢いで閉じられた門は、バジリスクの体を両断しサウスブルーネに入り込まんとしていたキング種達を完全に隔てたのだ。


「門が閉まったぞ!! 袋のネズミだ!! やれぇぇぇ!!」


「グギャッ!!?」「ガウァアアッ!!」


 あと一歩の所で締め出されたキング種達が、魔道士隊の砲撃を筆頭に、重装兵や冒険者の一斉攻撃を受けていた。必死に門を破壊しようともがいているが、重厚な造りの北門は魔物たちの斧や棍棒などではビクともせず、一匹また一匹と倒れていく。


 シャルルはアリアンやシュリハ、シャーミィ姉弟が介抱しているナオをじっと見つめる。シュリハの魔法により第1波は壊滅したものの、北門が何者かの手によって開かれたままになってしまい、あわや第2波の魔物が街に入り込んでしまいそうになった。だが、ナオのバリア魔法により大量の黒大熊やハングリーウルフの侵入を防ぎ、再びシュリハの大魔法により壊滅した。

 そして第3波に至っては、結果的に奇襲してきたバジリスク2頭を討ち、インフレ魔法を使うという機転で門を閉め、キング種の群れを抑えた。要所要所で絶大な働きをしていると言っても過言ではなく、むしろナオがいなければサウスブルーネへと魔物の侵入を許していた可能性が高い。


「…………救われたな」


 気絶したように眠っているナオを見てふと呟く。


 最後のキング種を討ち終え、ジュミナ指揮の迎撃隊と、アリアンの外壁部隊が鬨の声を上げる。既に外の魔物は討たれ、残るは内部に残存する少数の魔物とエンペラーのみとなった。シャルルは、胸の内に燻っていた緊張と不安を吐き出すように大きく深呼吸すると、すぐに切り替え、喜びに湧く部隊長達へテキパキと指示を出しつつ、サウスブルーネの街を見下ろすのであった。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 サウスブルーネの街中を走る人影が3つ。全員が身体強化付与を施しており、凄まじいスピードで閑散とした街を駆け抜けていく。


「イオニス! どう!?」


「反応ありません!!」


「くっ!」


 走りながら器用に探索魔法をかけていたイオニスであったが、集団で巡回する衛兵すら反応しない。探索魔法自体がキャンセルされており、リリィは苦虫を噛み潰したような顔になった。


「街を全部探すのはこの人数では無理ねぇ。衛兵隊も探してるみたいだけど……」


反転魔法アンチマジックも使ってるしね……。分散して探そう!」


「……エンペラーは狡猾だからむしろそれが狙いかもしれないわ。各個撃破される可能性があるわねん」


「……くそっ! ならどうすれば! こんな広い街の中探しきれないよバロさん!!」


 先のホーキンスによる伝令を聞いた瞬間、リリィはいてもたっても居られず真っ先に走り出した。それを見たイオニスはすぐに追いかけ、バルバロも組み付いていたキングコボルトを投げ飛ばし後を追いかけた。

 氾濫の首魁であるゴブリンエンペラーが街の中に居るかもしれないと聞いたのである。何がなんでも討伐したい、だが場所が分からないという状況に、リリィは焦りにも似た感情を覚えていた。


「落ち着きなさいリリィちゃん。焦れば相手の思う壺よ」


「だけど……。パズーとアドエラの仇がここに!!」


「分かってるわ。だけど焦って隙を見せたらあなたも殺られるわよ。仇を取りたいなら冷静になりなさい。出来ないなら今すぐ外壁に戻りなさい。いても邪魔なだけよん」


 焦燥を見せるリリィに、バルバロは冷静に、だがキッパリとそう告げた。一瞬唖然とし、その後悔しそうな顔を見せたリリィであったが


「………………ごめん。その通りだね。ふーっ」


 パチン!


「……もう大丈夫。探そう」


 リリィは深呼吸をすると、両頬を思い切り両の手のひらで叩いた。頬が赤く染まっていたが、目つきはいつもの彼女へと戻っていた。


「いい子ね。衛兵隊の包囲網も狭まってきてるからすぐに見つかるわよ。大丈夫、ワタシがいるもの。エンペラーの首根っこ捕まえてリリィちゃんの前に引きずり出してあげるわ。……ねぇイオニスちゃん?」


「ゼハァ……ゼハァ……お2人とも……はや……速い……」


「あら」


 バルバロが後ろを振り向くと、息を切らしたイオニスが立ち止まり、2人も足を止めた。彼女も身体強化付与をかけてはいるが、本来魔導師であるため長時間の全力疾走は慣れていない。


「これだと移動は厳しそうだね……。一旦止まってどうするか考える? 」


「そうねぇ。ガムシャラに走っても見つかるとも思えないしねぇ。ワタシがイオニスちゃんを担いで運ぶっていう手もあるけど……」


「あ、……あの!」


 すると何かを思いついたようにイオニスが2人へ呼びかけた。




「実は……、ゴブリンエンペラーの居場所に心当たりがあるのですが……」



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