35.迎撃
レッサードラゴンを討ち、士気も高揚している冒険者と衛兵の混成軍500。こいつらはCランクとBランクの近接職が350人、後方に魔道士50、衛兵団の重装兵100人で構成されている。
「前方、キングゴブリン6。キングコボルト9。ヒュージスライム2、ウルフの変異種1。以上だギルマス!」
遠目の利くホーキンスが敵の数を報告する。キング種はコイツらには重い相手だが、頭数と外壁上からの支援砲撃で何とかなるはずだ。
「各隊!! 横陣展開! 敵は20もいない!! 冒険者は会敵したらパーティー5組で連動して一体に当たれ。重装兵は前列に構えろ!! 奴らの勢いを殺せ!!」
「「「はっ!!」」」
「「「おおおォォォォ!!!!!!!」」」
野太い男たちの声が北門前の広い草原に響き渡る。直ぐに陣を作り始めた冒険者と重装兵達。北門から約150mの地点に陣を敷き、外壁上とも連携を取れるよう構えさせた。魔物共は河を渡り、もうすぐここへたどり着く。砂煙と地響きを上げて突っ込んでくる姿は、私でもちと怖いがそこは重装兵に頑張ってもらうしかないね。
「来るぞぉ!! 気ぃ引き締めろ野郎どもぉ!!」
「フーーっ、フーーっ、フーーっ!!」
「はぁ……はぁ……」
見えてる敵を待つってのは中々に辛い。だが、高揚もする。武者震いってやつさ。
あと200
足音がどんどんとでかくなる。
あと100
「ギャォォォォォォォ!!!」
「「ぐぎゃぎゃぎゃ!!!!!!」」
あと50。もう魔物共の息遣いすら聞こえてくる。
「グルォアアア!!!」
よし、今だ。
「魔道士隊! 放てぇ!!」
「
後方の魔道士部隊から放たれた魔法が、すぐそこまで迫ってきた魔物たちに着弾する。更に、次々と目の前に石壁が張られ魔物達の侵攻を阻む。そして外壁上からの魔法が……、来ない?
「外壁組!! 何をして……!!」
……馬鹿な。アタシは外壁に取り付くそれに目を疑った。
「大変ですギルマス!! 外壁上に……バジリスクが!!!」
「……クソッタレ!! 見りゃわかる!! 重装兵来るぞ!! 壁なんぞすぐ壊される!! 構えぇぇ!! 」
今は上なんぞ心配してる暇は無い。こっちをどうにかしないと、アタシらが死ぬ。
ドゴォォォン!!!
魔法で出した石壁がキングゴブリンの戦斧に容易く破壊され、破片がここまで飛び散ってくる。
「ゲギャギャギャ!!」
体格差実に3倍。石壁を破壊したキングゴブリンがそのままの勢いで戦斧を重装兵へ横なぎに振るう。
「「「「ぐぅぅぅぅぅっっっ!!」」」」
何人かが吹き飛ばされ、同時に欠けた鎧や盾の破片が舞い散る。次々にゴブリンとコボルトが突撃して場は混戦となった。
「ギルマス!! 右翼がコボルト共に押し込まれてるっす!」
ちっ、仕方ない。私が行くか。
重装兵の囲いを突破し、横陣に深く入り込まれた右翼へ馬を走らせようとすると、再び右翼で何かが現れた。
「
「
「ギャブバァ!!!」
一番深く陣に食い込んでたキングコボルトが、背後からくの字に折れ曲がって吹き飛び、一瞬で全身をなます切りにされた。血飛沫が飛び、追従していた他のキングコボルトも足を止める。
……キングコボルトを蹴りでぶっ飛ばすようなやつは、アタシの知る限りサウスブルーネにゃ1人しかいない。
「っっ、おせえぞバルバロ!! リリィ!!」
「あっらやだ〜! おまたせしちゃったかしらん!
……まだ起きてくるかおんどりゃあああ!!! 」
「師匠!! お待たせしました!! 参戦します!!」
「
倒れたキングコボルトに待機していた冒険者パーティーが次々と襲いかかる。3倍近い相手に素手で肉弾戦を挑み、冗談みたいに吹き飛ばしていくアイツの戦い方はいつ見ても爽快だね。
「正面ウルフ変異種1!!キングゴブリン1!! 抜けるっす!!」
あらかた全ての魔物が横陣と接敵し、場は混戦となっていたが、戦力の関係上薄くせざるを得なかったアタシの持ち場へハングリーウルフの変異種が飛び込んできた。元の通常種よりふた回り大きい変異種は、巨躯とそれに見合わぬ速さで戦列をぐんぐん抜けてきており、キングゴブリンも一匹追従していた。
「行かせるかよォ!!! ジャズ隊!! ゴブリンをやれ!! ウルフは私がやる!!」
「おう!! オメェら! さっきみてぇにみっともねぇ戦いはすんなよ!!
「おう!」「当たり前よ!」
先程大水路で敵の侵攻を止めていた「誓約の剣」のリーダー、ジャズ・レングスリーは、仲間たちへそう言うと身体強化魔法を使い、キングゴブリンへ会心の突きを放つ。
危ういところでそれをかわしたキングゴブリンの足に魔導師の炎弾が直撃し、よろめいた所へ他の仲間が切りかかる。いい連携だ。
「ガルルルルルァ!!!!」
「さて、こっちもやるか。|鬼纏《おにまとい」
アタシはいつもの強化魔法をかけた。勢い良く向かってくる犬っころが。いい度胸だ。
「ガゥア!!」
バシュミアートを正眼に構える。魔力を注ぐほどコイツは火力を増し、燃え盛る大剣となって敵を食らう。
「
ドラゴンの羽すら叩き落とす一撃。手応えアリだ。
「……ガ」
正中線で真っ二つ。……いや、少しズレたな。腕が鈍ったか?
別にちっとも全然本気じゃなかったが、死んじまったならもう遊べないな。しょうがないね。
「うわ……ウルフのヒュージ種が真っ二つだぞ……」
「とんでもないな。龍墜……」
なんか気に食わんあだ名で誰かに呼ばれた気がするが、まぁいい。横陣に食い込んだ魔物たちは、チームで纏まって抗戦してる冒険者達にだいぶ押されている。旗色は良さそうだな。
「ホーキンス、伝令を出せ」
「うす、誰にっすか?」
「バルバロ達のパーティーだ。直ぐに街中に入って魔物を討てと」
「街中は確かもう殲滅部隊が出されてるっすよね?」
「……エンペラーだ。衛兵隊だけじゃ心許ない。それに……恐らくこれは、戦線回帰の仇になる奴だとリリィに言っておけ」
「あ…………、了解っす!!」
アタシの言葉を聞き終えた途端、意図を察したホーキンスは隠形のスキルを使い、右翼へと走り去って行った。
だが、シャルルの所の精兵も中々やる。一度はつき崩されていた所もあるが、冒険者達の援護もあり、今じゃしっかりラインを構築してキング種を抑えてる。大盾を駆使して、即死だけは避け、鎧や盾が壊されたら直ぐに前後を入れ替える。
アタシが出るまでもなかったかね。
しばらく戦線は膠着し、キング種達も粘りを見せた。だが、魔導師の援護もあり、タフなキング種共もジワジワとダメージを蓄積している。リリィ達が門をくぐったのを確認したし、あと心配事は外壁上だが……。
ドゴォォォォォォォン!!!!!!!
「外壁からだ!」
「おい見ろ……バジリスクが……すげぇ」
猛烈な衝撃と、何かが崩れる音に振り返ると、片方のバジリスクが吹き飛ばされ、外壁沿いの山肌に食いこんでいた。そのまま雪崩のように崩れる岩に存分に体を打たれると、外壁からはみ出す下半身の重みで北門の外側へと落ちていき、そのまま動かなくなった。
「なんだいありゃ……とんでもないね」
シュリハ殿か、騎士団副長……には無理だな。それか……もしかすると……。
「大変っす!! ギルマス!!」
「なんだ? ……おいおいおい」
「進ませるなぁ!!! 背を討て!!」
「こいつ逃がすかよ!! ……うっぐ!!」
ホーキンスの叫び声に慌てて前へ振り向くと、ゴブリンとコボルトのキング種10体が一斉に門に向けて走り出した。今まで交戦していた冒険者や重装兵をまるで無視して、なりふり構わず体格差を使い、押しのけるようにして陣を横切っていく。
「オラッ!! だァッ!! ……くそっ!! 突いても突いても止まらねぇぞ!!」
「……ジャズ隊! 右翼を立て直しな!! 重装兵は奴らより先回りしてラインを再構築し直せ!! 急げ!! 奴らの目的は門の突破だ!!」
どいつも一斉に、それも示し合わせたように動き出しやがった。これは……支配魔法かなんか受けてるね。それも、痛みじゃ覚醒しないようなとびっきり強いヤツを。
「ギルマス、来るっす!!」
目の前からキングコボルトが2匹。無傷なら面倒だけど、手負いなら
「魔道士隊を下がらせろ!! その後両翼から出て来たやつを狙い撃て!! アタシがやる!」
「聞いたっすか!! 魔道士隊は二手に別れて両翼の援護を! 急ぐっす!!」
「「グガルルルアアア!!!」」
「けっ、正気を見失った目だな。まぁいい。
バシュミアートから放たれた熱により、瞬間的に熱せられた空気が、光を屈折する。そしてその中に溶け込むように消える。アタシを見失ったら終わりだ。
「グガァッッ!!」
2匹のキングコボルトが私を威嚇するように叫ぶ。どうやら殺気を飛ばしまくってる私を無視しきれなかったのか場所もわからず大刀を振り回している。隙だらけだ。
「
一瞬の交錯。流れるように合間を縫う。2匹のキングコボルトの首が風でこぼれるように地面に落ち、発火して炎に飲まれた。
こいつのコツは流れに任せ、刃を滑らせ、力を入れない事だ。
「ゲヒッ…………カ……」
首を失った大きな体が2つ、地に倒れ伏す。残ってるのは……4、5、……6匹。魔道士隊と冒険者隊が何匹か仕留めたみたいだが、全ては止めきれない……! 一心不乱に北門を目指し走っているせいか、速度もかなり早くて追いつけてない。攻撃は続いているが、どれだけ血を流しても限界まで走るように命令されてるって所か。
「門の反対側からも……バジリスクか! 結界魔法がどれだけ強いか知らんが、これじゃあ持つわけが無い!! 魔道士隊を門に対し扇状に並ばせろ!! 集まったキング共を合図でぶっ飛ばすぞ!!」
なりふり構わない魔物の突撃に、重装兵のライン構築も全く追いつかず、既に横陣を突破され、門に張られた結界へ一直線に走っている。反対側も、上にいたバジリスクが既に反対側に降りており、結界へ攻撃を加えていた。
最早結界が壊れる前に一斉掃射で殲滅するしかない。コイツらを支配してるエンペラーは性格がひねくれてやがる。中に入られたらバラバラに街を破壊しながら逃げ回り、とんでもない被害が出るだろう。
クソが!! 耐えろよナオ・サイタ!!
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「シュリハ様! 行けますか!?」
「……ん、流石に魔力切れ……ごめん」
「いえ、シュリハ様はよくやってくれました! 魔道士隊! 魔力が尽きるまで放て!!」
魔道士隊が下門へ次々に魔法を放つ。だが、後から来たキングコボルト3体が、拾ってきた大盾で上手く防いでおり致命打にはなっていない。
「「ガァッ!! ガアッ!! グガアッ!!」」
バリアがどんどんと削られていく感覚が、体へと伝わってくる。追加で魔力を込めているが全然間に合ってない。片側だけだったら何とかなったかもしれないが、バジリスクとキングゴブリン達が容赦なく両端から猛攻を浴びせているせいだ。
くそっ……このままじゃ破られる。
「仕方ないわ!! 上級魔法で吹き飛ばすわよ!!」
「お姉ちゃん!! そんな事したらここまで被害が来るですよ!」
「この拠点が抜かれるよりはマシでしょ!! …深き森……霊峰の頂にて……我は 」
……拠点? ここは外壁上だよな……。門は魔晶石で管理されてるけど今は壊れて魔力が送れない……。待てよ……?
「ハミィ! 魔物共を止めることは可能か!?」
「あ、はい。でもアレらが相手だと数秒持てばいい方ですよ?」
「構わない! 俺が合図したらやってくれ!!」
「……ちょ、アンタまたなにかする気? 結界に集中しなさいよ!!」
「いや、結界は捨てる」
このままではジリ貧だ。
「「えっ!?」」
そりゃあ驚くよな。だが……
「……もっといい方法を思いついたんだ!!」
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