24.赤紙

 盗賊を倒した報奨金は意外にも多かった。船賃は引いて欲しいとお願いしたので、あまり期待はしていなかったのだが、渡された袋はズッシリと重たい。報奨金をくれたフィリアさんいわく、辺境伯の気まぐれ分も入っているのだそうだ。ありがてぇ。

 それに、どうやら生かして捕まえたのが大きかったらしく、犯罪奴隷として売られる分が俺の手元に入るらしい。頭や幹部を含めた3人は、そのまま絞首刑に処されるとの事だ。自業自得だな。


「あんたが盗賊を倒したなんて……なんで言わなかったのよ〜!!! 私が恩知らずの礼儀知らずみたいじゃない〜!!!」


「お姉ちゃん……礼儀知らずは元からですよ」


「うるさいバカハミィ!!」「あいたっ!」


 先程からこんな感じである。どうやら俺とリリィが捕まえた盗賊は、ラミィ達を捕らえていた奴隷商人を襲ったヤツらで、そのままアジトに幽閉されていたそうな。衛兵がアジトを捜索した際、無事に保護したそうだ。

 なんだかんだ騒いでいるが、小さい声で「……ありがとね……」と言ってくれたので、倒した甲斐もあったというものだ。


 広場に着き、とりあえずベンチに座る。辺境伯と会って緊張がほぐれ、どっと疲れが出てしまった。


「ふぅ……。あ! そうだ2人とも。教えて欲しい事があるんだけど」


「はい?」「何よ」


 ジャララ


「お金の数え方と価値が分からんのよね〜……」


「「え?」」


 そういえばリリィに聞こう聞こうと思って、結局聞くのを忘れていたお金の価値。今のうちに聞いておこう。……と思ったのだ。「え、信じられない。意味分かんない」などと言われてしまった。

 まぁ、しょうがない。ドン引きは甘んじて受け入れるとしよう。


「じゃあ僕が……」「この天才魔法少女のラミィ様が教えてあげるわ!! 感謝しなさい!!」


「お……おう。よろしく」


 小さい体にとてつもないドヤ顔で腕を組むラミィ。仰け反りすぎて後ろにひっくり返りそうになっていたのは可愛らしい。

 いじけているハミィの頭を撫でつつ、あーだこーだ言いながら俺はお金の価値を教えてもらった。

 要約するとこうだ。



 レクシア王国の貨幣はユーリア。


 貨幣には硬貨と紙幣があるが、生活シーンで使われるのは殆ど硬貨である。数え方は十進数。これは日本と一緒だ。


 1 ユーリア 銭貨1枚

 10ユーリア 銅貨1枚

 100ユーリア 鉄貨1枚

 1000ユーリア 銀貨1枚

 10000ユーリア 金貨1枚

 10万ユーリア ユーリア魔紋紙幣1枚

 100万ユーリア ユーリア聖紙幣1枚

 1億ユーリア リンシャロット鉱大聖貨1枚


 どこか日本と似ているというか、銭貨が一円玉、銅貨は十円玉、鉄貨は百円玉、銀貨は千円札と言った感じで覚えればいっか。金貨はかなり貴重らしい。

 1万ユーリア以上はあまり使うことが無いらしく、かなり高めの武具や、不動産の契約などの高額取引に、主に商人や国などが使うらしい。100万円札みたいなのがあると聞いたが、これは特殊な製法でミスリルを繊維状に加工し作っているらしく、これも大商人や国が使うような貨幣との事。

 ちなみに1億は硬貨らしく、世界でも極めて貴重な鉱石を使ってるらしい。


 銭貨……10枚で銅貨1枚分、値切った際の端数などで主に使用されるらしい。


 銅貨1〜10枚……屋台の果物や焼き鳥(1-3)、手当用布切れ(2)、燭台用蝋燭、ランプ用獣脂(3)、携帯食料(6)、刃物用携帯砥石(7)、火打石(7)


 鉄貨1枚〜10枚、宿屋や酒場でのチップ(1)、手紙の配達(2-10)、麻の服や下着(2)、飯屋の定食(3)、ナイフ携帯革ベルト(3-5)、入港勢・入領税(2-5)、散髪(5)、粗雑な宿屋、素泊まり(3-9)、etc、、、


 銀貨1〜10枚……入国税(1)、安めのナイフ、革防具(2-3)ポーションや傷薬マジックポーション(1-9)、オシャレな高級洋菓子店でランチ(2-5)、馬車便、距離変動(1-4)、中級の宿屋、食事有り(2-4)、凡庸な武器防具(5-9)、etc、、、


 金貨……初級冒険者(1-2)ギルド事務員の月収(6)、中級冒険者の月収(8-15)、等級の高い武器防具(2-100)、貴族向け高級宿屋(1-15)、娼館の利用(0.5-45)、魔道具、魔法武器(8-250〜)etc、、、


 めちゃくちゃ詳しいやんラミィ……。メモしとこ……。

 街で生活する殆どの人が銭貨〜金貨で生活しており、紙幣は人生でも数える程しか使わないとか。大抵金貨10枚以上の支払いでも、金貨だけを沢山使うとかがザラで、そんなに出回っていないらしい。

 なんでも偽札対策で国が魔法の付与をしているらしく、刷新には制限があり、偽札対策で元々使える店があまり無いとか。大商人や国などでは紙幣魔印認識魔道具というものがあるらしいのだが。

 異世界でも偽札とかあるんだな……と思った。


「まぁこんなものかしら。レクシア、パナキア、コルモディーラなんかはユーリア貨幣だけど、国や大陸が違ったりすると貨幣もまた変わるわ」


 なるほど。国によって貨幣が違うと。まあそのくらいは予想していたので想定内だな。


「各国には国が定める為替所があり、外国商人は為替所でお金を変えてから国に入るです。ちなみにサウスブルーネにもありましたですよ。さっき見かけたです」


 ほえー。まあ貨幣が違って商売できませんなんて事になったら国交出来ないからな。てかよく見てるなハミィよ。


「あんた! それ私が言おうと思ってたのに! こんのぉ! えいっえいっ!!」


「あわわ、ふにゃあぁぁぁぁ」


 ラミィがハミィの後ろから抱きつき、チョークスリーパーを決めているのを眺めながら、俺は頑張って報奨金がいくらあるのか数え始めるのであった。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 サウスブルーネ北門外壁付近 氾濫対策支部


 外壁沿いに設営されたテントが立ち並ぶ北門前。冒険者を中心に編成された偵察隊2個中隊が、黒波の大樹林に潜り、既に4時間が経過していた。街道は既に封鎖され、旅人や商人の行き交う姿は無い。レクシア大河を挟み、奥に広がる大樹林は不気味に静まりかえり、まるで嵐が来る前の海の水面の様だ。



「第2偵察中隊第8小隊のバルバロより赤紙です……」


 偵察隊には1時間に1回鳴る鐘の音を合図に、定時連絡を寄越すよう命令が出されている。召喚鳩には番号と色のついた紙が括り付けられ、その小隊の探索報告と無事が対策支部に確認される。

 しかしながら、氾濫偵察隊・臨時指揮官マルコ・バネッサは、召喚鳩に括り付けられた赤い紙を見て苦い顔を見せた。


「元A級のバルバロか……。なんと言っている」


「ハンランノ、チョウコウ、カクジツ、ソクジ、ブタイ、シュウゴウスベシ」


 元A級のバルバロは冒険者ギルドマスター、ジュミナ・クロンセルの古い知り合いであり、歴戦の冒険者である。今回参加している偵察隊の中では1番腕が良い。そのバルバロから届けられた赤い紙は、氾濫の兆しがあるという疑惑を確信へと変える充分な判断材料であった。


「……。他の偵察隊の定時連絡は?」


「9時の鐘の時点では全部隊からの定時連絡を確認していましたが……」


「……なんだ?」


「10時の鐘が鳴ってから第1偵察中隊の第3と第6から連絡が未だ来ておりません……」


「なんだと……? くそっ! 対策支部より全偵察部隊に伝令! 即時帰還せよ! 正午に集合し情報を精査するつもりだったが致し方あるまい……。戦闘を避け、全速で戻れと伝えろ!」


「了解!!」


 1時間毎の定時連絡は9時の時点まで正常に機能していた。しかし、10時の鐘が過ぎて大分経つのに2つのパーティーから連絡は無い。今回集めたチームは機動力や探索能力に優れた冒険者を選出している。だが、それがやられたという事は、逃げきれないほどの速さを持つ何かに会ったのか、物量で押しつぶされたのか。いずれにしろ、サウスブルーネにとって禄でもない事は確定している。



「第3と第6には伝令を送り続けよ。その他の小隊が戻り次第捜索隊を編成する。他の部隊から魔物発見の報告は?」


「ありません……」


「どうなってるんだ……、魔物の氾濫地点を補足する為来ているというのに、その魔物を1匹も見つけられないとは……」


 氾濫対策支部に控えていた予備隊の魔道士が、各隊へと迷い妖精の囁きフェアリーウィスパーを発動させる。予め対になるふたつの触媒を用意し、魔法をかけると、再び発動した時に触媒から触媒へと一方通行の通信が可能となる。

 捜索にあたり全てのパーティーには、これを1組ずつ持たせていた。貴重な品で数は用意出来ないが、各小隊には魔道士がいるため問題ない。


 しかし、連絡が消えた小隊以外の者達からは、魔物発見の報告は上がっていなかった。小競り合い程度は起きているのであろうが、多少まとまった数の群れがいてもおかしくは無い。しかしそれすら見つかっていない。

 前回の氾濫を経験しているバルバロが、兆しを確信している以上、恐らく氾濫の出現は間違いは無い。

 だが、尻尾すら見つけられずにいるのが逆に不気味であり、マルコの判断を悩ませていた。


 半刻ほど時が経ち、息を切らせた冒険者の小隊達が戻ってくる。各小隊が集めた情報は、対策支部の情報官へと伝えられ、本部の元で精査される。大樹林南東から偵察に入っていた第1中隊はやはり第3と第6小隊の姿は無かった。すると少し遅れて、大樹林北東方面から偵察に入っていた第2中隊が続々と帰投した。だが、大半の偵察隊が戻ってきた所で臨時指揮官マルコ・バネッサは首をかしげた。


「……? 第16、バルバロ小隊はどうした?」


「まだのようですが……」


「……。まさか……な」


 やがて11時の鐘が鳴り響く。第3、第6小隊を除く全ての小隊が集まった。


 だが、バルバロ含むリリィの小隊の姿はそこには無かった。



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