13.盗賊の末路

「バリア」


 盗賊達が油断しきってる間に、すぐに俺はリリィを含む範囲でバリア魔法を使う。半透明の膜が俺たちをドーム状に覆い、盗賊たちを隔てた。


「あぁ? んだこりゃ? ……ッハハハハ! いっちょ前に魔法使うぞコイツ!!! 時間稼ぎのつもりかぁ? ……お前らやっちまえ!!女の方は殺すなよ! ……後でじっくり可愛がってやる 」


「ナオ……?」


「まぁ見ててよ」


 こんなヤツらにむざむざやられてたまるか。リリィも怪我から回復したばかりだし、ここは俺が頑張るしかない。

 勇気を振り絞れ!男を見せろ咲多鳴桜!!


「はっ! お前らみたいなチンケな盗賊に壊せるかよ? バーーーーカ!!!! 」


「んだとぉ!!? 構わねぇ!! 男はぶち殺せ!!」


「「おぉ!!」」「ヒャッハー!!」


 よし、きたきたきた。安い挑発だけどまとめてかかってきたぞ。俺を完全に舐めきってる。

 ……フゥ。手が震える。大丈夫だ、上手くいく。

 まずバリアにMPを多めに注ぐ。目の前に張られたバリアが、少しずつ強度を増していくのが感覚で分かる。


「ぶち殺せぇ!!」「死ねやぁ!!」


 盗賊達が剣を抜き放ち、バリアに殺到した。


 ガキィィン!!!


「あ?」


 ……よし、ビクともしてない。

 ちょっと心配だったけど上手く行きそうだ。


「オラッ!! オラァ!! ……っち。意外に硬ぇぞ」


「何してんだ! 早く殺せ! 衛兵に気づかれるぞ!!」


 盗賊の頭は動かず、じっと遠巻きに叫んでいるのみだ。

 ……仕方ないか。


「ふぅ…………バリア!!」


 俺が2回目のバリアを発動させると、俺とリリィを取り囲んでいた盗賊たちの周りに、新たなバリアが出現した。


「は?」「おいなんだこれ!」


 異変に気づいた盗賊達が振り返り、新しく張られたバリアに激しく剣をうちつける。

 バリアは、金属同士が激しく擦れ合うような音を響かせるも、壊れる様子は全く無く、盗賊達を一瞬でバリアとバリアの空間へと閉じ込めた。


「ニャハハ!! ナオやるなぁ! あいつ以外全部捕まえちゃったじゃん!」


 俺が何をするか怪訝な顔をしていたリリィが、成程と得心した顔で笑う。

 成功だ。狼が襲ってきた時にも試していたので、上手くいくとは思ったが、成功して良かった。

 実は寝る前に部屋でこっそりバリアの練習をしていたのである。

 そしてこんな事もできるようになった。


「おい!! ふざけんな!! 出せコラァ!!」


「お、おい! ちょっと待て……この壁……狭くなってるぞ!!」


「開けろぉ! おい!! ぶち殺すぞ!!」


 バリアとバリアの間隔が、徐々に狭くなってきた事に気づいた盗賊が、ギャアギャアと騒ぎ始めた。

 実はレベル2に上がってから、バリアの可動範囲が増えたのだ。穴を開けたり、目の前のように小さくしたり、動かすことも出来る。


「ちょ、待て待て待て!! やべぇ! 出らんねぇぞ!!」


「くそ、何やってんだてめぇら!! おい! 今すぐコレを解かねぇとぶち殺すぞ!!」


 徐々に空間は狭まり、既に隙間は30cmも無い。

 外で盗賊の首領がバリアを壊そうと騒いでるが、多分壊せないと思うのでほっとこう。


「うげぇ……つ、潰れる……」


「だ、たずけで……く、ぐるじぃ……」


「……こんなもんか、うし」



 バリアが限界まで縮まり、盗賊たちが全く身動き取れなくなった辺りで収縮を止める。

 まだ縮められそうではあったが、ちょっとスプラッタな事になりそうなのでやめておいた。


「……あっという間。ナオのバリアは本当にすごいな……。これ、形も変えられるのか?」


「ん、ああ。でも味方って俺が認識してればそのまま素通りできるみたいだ」


 俺が味方と認識していると、誰でも通れるらしい。逆に敵意があったりすると、目の前の盗賊のようになる。便利な仕組みだ。


「そうか……よし。ナオはそこでコイツらを抑えといてくれ」


「あぁ……。って何を……? お、おい!」


 すると、止める間もなく拘束された盗賊達の横をすり抜け、リリィは首領の方へと向かって行った。


「クソが! 情けねぇ奴らだ! ……あ? なんだお前。俺とやろうってのか? 」


「馬鹿だなお前……。精霊の身体強化加護エレメンタルブースト……」


 わざわざバリアから出てきたリリィを、盗賊の首領が訝しみ、大声で叫ぶ。

 リリィがダガーを手のひらの上でくるっと回し逆手に切り替えると、何事かを呟き、体勢を低く構えた。

 まるで山猫が獲物を狙うかのように。


「おい!! 聞いてんのかくそアマァ!!」


獣斬スラッシュ


「……あ?」


 盗賊の首領がリリィへと歩み寄った瞬間、リリィの姿は消えていた。


 ボトリ……。


 慌ててキョロキョロと辺りを見回す首領が、自らの体の異変に気づく。


「う、あ、あぁぁ!! 腕が!! 俺の腕ぇ!!」


 剣を握りしめたまま地面に横たわる己の腕と、血が滴る右腕の切り口を交互に見て、正気に戻った首領が腕を押さえて叫び声を上げた。

 腕を失い体の重心が狂ったのか、少しよろめくと尻もちをつき騒ぎ立てる。


「いでぇぇぇ!! くそっ!! くそぉぉ!!」


「散々旅人やら商人やら殺してきたんでしょ? 自業自得よ」


 リリィつっよ……。

 だが、こういう場面を見てしまうと、日本とは倫理観が根本的に、異なっているという事を自覚させられる。

 今の俺も防衛手段を持ってなかったり、リリィがいなければ、きっと殺されてたんだろう……。気を引き締めなければいけない。


「リリィ。コイツらどうすればいい?」


「ん〜、ナオが捕まえてる奴は衛兵に引き渡すかな? こっちの奴はその内失血で気絶するか死ぬと思うし……。とりあえず衛兵呼ばなきゃだね」


「ん、分かった」




 ここから街は遠くない。

 俺たちは失血で虫の息になった首領を、無理やりバリアの中に押し込むと、サウスブルーネまで走り衛兵を呼んだ。

 現場検証と聴取をするのでついてきて欲しいと言われ、衛兵20人前後と共に、元の位置まで馬に乗せてもらう。賊の捕縛、軽い聞き取り調査を済ませ、全てが終わった頃には、腕時計の針は15時を過ぎていた。

 尚、盗賊を倒したことで報奨金が出るらしく、後日詰所を尋ねて欲しいと言われた。

 嬉しいのだが、少し複雑な気持ちが無いわけでも無く、俺はため息をつきながらサウスブルーネに入ったのであった。



 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 サウスブルーネ 北門詰所


 慌ただしく兵士が入り乱れるサウスブルーネ衛兵団北支部。白塗りで街の景観を損なわぬ外装、建物自体も3階建てで大きく、先程大きな捕物もあった為多くの兵士が出入りしている。

 詰所2階にある指揮・補佐官執務室にて、ある報告が行われていた。


「中隊長。こちらが報告書です」


「ああ、ご苦労。見せてくれ。…………ふむ、話には聞いている。最近報告にあった賊だな。しかし旅人が捕らえたと聞いたが……」


 現場担当の兵士から報告書を受け取った、サウスブルーネ衛兵団中隊長、マルコ・バネッサはその内容を見て怪訝な顔を浮かべた 。


「はい。旅人というのは2人。1人は戦線回帰のメンバー、リリィ・フィングレン。そしてもう1人は……焼肉屋の店主と名乗る、ナオ・サイタというものです」


 わずか2人で、10人以上からなる賊とその首領を捕らえたという旅人。それらは、最近ここ周辺を騒がせていたという盗賊団である。その内容は残忍で狡猾。犯行の痕跡は残っているものの、被害者がまとめて消されており、証拠集めに苦心していた案件であった。

 それを、ただの旅人が倒したという。眉をひそめるのも無理は無い話であった。


「リリィ……? 瞬双のリリィか!」


「ハッ……。Aランク間近であった戦線回帰のメンバーであると、冒険者ギルドからの確認も取れています」


「他のメンバーもいたのか? 」


「いえ……。他のメンバーについては確認が取れておらず、瞬双1人であったと。しかしながら……その、」


「……ん? なんだ?」


「衛兵が賊を捕縛しに行った所、結界魔法のようなものに閉じ込められていた……と」


「なに!?」


 結界魔法。支援上級魔法に分類されるそれは、王都に仕える宮廷魔道士、A〜Sランクの冒険者が習得している高度な魔法。レクシア王国随一の港街であサウスブルーネにも使える者は一人もいない。四重奏クアドラプルのアドエラも含め、だ。

 であるならば、



「……その一緒にいた、……焼肉屋の店主が使ったと言いたいのか?」


「……その可能性が高いかと」


「……ふむ」


 マルコは少し考える様子を見せた。それ程高位の魔道士であれば、名を知らない筈が無い。しかしながらその者の名を知る者は無く、それに加え当人は焼肉屋の店主などと名乗っている。

 Aランク間近の戦線回帰の名は、サウスブルーネでは轟いているし、知り合いに高位の魔道士がいても不思議では無いが……。

 正直怪しい事この上ないが、高位の魔道士であれば、是非ともサウスブルーネに取り込みたい所。

 どう接するのが良いか考えあぐねた挙句、マルコは1つの答えを出した。


「……明日報奨金を受け取りに来ると聞いているが?」


「はい、瞬双もおりましたので間違いなく来るかと」


「ならばその時に私が会おう。予定を空けておけ」


「かしこまりました。それと、盗賊団の拠点からこのようなものが見つかったのですが……」


「ふむ、どれどれ」


 盗賊達が捕縛された、ほど近い林の奥に、アジトとして使っていた拠点が発見された。盗品などが隠されていた場合、基本的には持ち主が判明すれば8割を返還し、所在が判明しない場合は国が接収するという法律がある。だが、


「……これは」


 マルコは盗品目録に目を通すと、再びどうするべきか深く考え込むのであった。


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