12.サウスブルーネへ

 燃えるような陽は水平線へと沈み、街の人々や森の獣たちが住処へと帰って行く。時分は真夜中となっていた。だがそんな遅い時間にも関わらず、ナオの店「桜来軒」に珍しい客が訪れていた。ホールは窓側の一角だけがライトアップされ、肉の焼ける子気味の良い音と、香ばしい匂いがほんのりと広がってくる。

 ナオは頬杖をつきながら、目の前で口いっぱいに肉を詰め込む2人の子供を見る。奮発した国産の上カルビや、柔らかさ抜群のハラミ肉は、次々とその小さな身体に吸い込まれるように消えていき、子供たちは目を輝かせながら次の肉へと手を伸ばしている。

 俺は満足そうに料理を口にする2人を見て笑みを浮かべるも、髪の間から覗く獣耳を見て複雑な心境になった。




「……さて、どうしたもんかね」


 これからどうするべきか。目の前ではしゃぐ子供二人を見ながら、思案に暮れるのであった。




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 その日の朝。


 部屋の時計が8時を回り、アラームが鳴る。

 眠い……。昨日はあれやこれやと色々準備した後、今後取りたいスキルや魔法のことを考えていたら、夜遅くになってしまった。

 隣の部屋ではもう既に動いている気配がある。リリィが今日の準備をしているのだろう。窓を少し開けると、気持ちの良い風が部屋へと流れ込んでくる。以前は郊外に住んでたので、ここの森の匂いはなんとも気持ちが良い。車などの排気ガスも皆無である為、吸った瞬間空気が美味いと分かるほどだ。



 昨日言っていた通り、今日は街へと行く。リリィの話によると、ここから1時間程歩けば着くらしい。意外と近いようで助かった。馬やマウントリザードという馬車竜に乗ればもっと早いんだと言っていたが、あいにく俺は馬なんて乗れないので歩きで構わない。


「ナオー!! 起きてるか〜?」


「あー、今起きた! 着替えるから下で待っててくれ!」


 ドア越しから聞こえたリリィの声に、そう返事をすると、衣装ケースから半袖の黒シャツとストレッチデニムを取り出し着替える。

 外は春のような陽気で暖かい。一応長袖を持っていくつもりだけど使わなそうかな。


 着替え終わったら、既に準備してあったバックパックを背負い部屋を出る。1階に降りると、既にリリィが準備を終え、玄関の待合の椅子に座っていた。


「おはよ〜リリィ」


「う、うん……おはよ……」


 挨拶すると何故か目をそらされた。……なんかしたっけ?


「今日は猫耳じゃないんだな、やっぱり街に戻る時は偽装するのか?」


「うん、まぁね。……その、ナオは……猫耳の方が良いのか……?」


「もちろん! ……と言いたいところだけど、リリィが差別されるのは見たくないかな。今まで通りで頼むよ」


「……ん。 ま、まぁ、ここでなら……別に……」


「ん? なんか言ったか」


「な、なんでもないにゃー!!」


 今日のリリィはなんか変だな。やっぱ昨日お尻見えちゃったの気にしてるのか……? でもあれは不可抗力だしな……。

 それにしてもリリィの服装を見ると、やっぱ浮いてるな俺。



「なんて言うか……ナオの服装は異国の人みたいな格好だよにゃ。でも凄くいい生地ってのは分かる」


「やっぱ目立つか?」


「ん〜〜、多分大丈夫だと思う。サウスブルーネは他の国からも行商船が沢山来るし、異国の人で溢れてるからにゃ」


 サウスブルーネに着いたら服も買う必要がありそうだな。リリィはここに来た時と同じ革の軽鎧と、丈夫そうな革のブーツを履いていて、腰には獲物のダガーを十字に差している。いかにも冒険者といった装いだ……こういうのは男だと憧れるな。だが、俺がリリィと並んで立つといかにも浮いており、異国の商人と護衛と言った感じになる。


「じゃあ行くか、道案内頼む」


「任せるにゃ! やっと役に立てるよ!」



 いつまでもここで話してては仕方ないので、早速出発することに。うちの店のバリア魔法には、今までの倍の魔力を注ぎ込んで強化しておいた。

 この前襲ってきた狼くらいなら、難なく持ちこたえるだろう……と思う。

 リリィも多分平気だろうと言っていたので大丈夫だろう。


 黒波の大樹林に沿って草原を南に進む。左手には街道を挟んでさらに奥の方に森があり、森の奥には山脈が連なっている。確かにサウスブルーネに行くには、陸路でここを通るしかないようだ。


「A級以上のやつらだと、平気で森を突っ切るし、なんなら転移魔法持ちもいたりするんだけどね〜」


 なるほど。リリィの話を聞いてから黒波の大樹林に結構恐怖を植え付けられたけど、A級冒険者というのは中々の化け物らしい。ってか転移魔法あるのかー……。一応取得候補には入れてたんだけど、考え直さないとな〜。


「でもこれだけ広い森だと、魔物の被害も大きいんじゃないのか?」


「それは承知の上にゃー。それらに目をつぶってでも、黒波の大樹林の資源は美味しいってことかな。サウスブルーネの外壁は砦並に高いし、ギルドの規模もレクシア王国では1、2を争うくらいだし」


 左手にそびえる雄大な山脈の間から、大河が流れてきており途中で2つに別れている。サウスブルーネの方角と、黒波の大樹林の方へと続いている。なるほど、これならば水にも困ることは無いだろう。

 水や溢れるほどの木々、森の恵み、大樹林に点在する鉱山、そして魔物の素材。魔物に対しての防衛ができるのであれば、確かに街を建てるにはいい環境なのかもしれない。


 そんな話をしながら店から1時間程歩いた所。

 目の前の大河を横切る大きな橋を渡り、再び街道に戻る。

 すると、


「……!?」


 リリィが立ち止まり、何やらキョロキョロとし始める。


「どうしたリリィ? ……ちょ、えっ!?」


 突然ダガーを2本とも抜き放つと、左手は逆手に右手は順手で水平に構え、戦闘態勢をとった。

 魔物か!?街道でも普通に出るのか!?

 ここまで何も遭遇しなかったから、普通に安心しきっていた。


「囲まれてる! ナオ、多分盗賊だ! 獣の匂いじゃない、油断するな!」


「うぇ! 盗賊!? マジかよ! 」


 盗賊て!

 サウスブルーネは大きい街で治安も良いと聞いていたのだが!?

 正直盗賊と言われても、ゲームや漫画でしか見たことない俺にはピンと来ない。どうしようかアタフタしていると、周りの林からゾロゾロと男達が出てきた。鼻から下を布切れで巻いており、如何にもといった様子だ。

 数は10人前後。バンダナもしており、目だけが出ている状態で表情は分かりづらいが、それでもニヤついているのが分かる。


「おい野郎ども! 見ろよ! ほっせぇ女の冒険者1人と冴えない野郎が1人だけ! 護衛をつけるにももうちょっと人数つけるだろ! 狙ってくださいって言ってるようなもんだぜ! ダハハハハ!!!」


「「ゲへへへっ」」


「おい見ろよ! 女の方結構いい体してんじゃん!

 身ぐるみ剥ごうぜ早く! 」


「いいねぇ!!」「ヒュー!」「俺らが気持ちよくしてやんよ! ギャハハハ!!」



 ……コイツら。登場して早々だがマジでクソ野郎だ。いきなり盗賊って言われてかなり焦ったけど、完全にイラッときた。

 リリィ大丈夫か……? って、あれ?


「お前ら……。私の事知らないの? 二本差のダガーの女冒険者って言ったら、この辺じゃ私だけなんだけど」


「はっ! なんだぁ? 知らねぇよ。俺たちゃ最近ここいらを縄張りにしてんだ! 自分の腕に自信でもあんのかぁ? ……全く、気が緩んだ商人やら旅人ばっかりでここは旨いったらありゃしねぇよ。……人数が少ないのを狙えば、証拠を消すのも容易いしなぁ?」


 盗賊の頭が舌を出し、リリィを挑発する。


「……クズども、覚悟しろよ」


 眉をピクリと動かしたリリィが、盗賊達を睨みつけた。証拠を消すって……つまりそういうことだよな。リリィの言う通り間違いなくクズだな。

 ……さて、どうするか。と言っても俺ができることなんて限られてる。


 相手は四方八方にいる盗賊、10人以上。

 こっちはリリィと、戦闘は素人の俺で2人。


 本来ならばオワタ―――!!orz……と叫んでいるところだが、生憎バリア魔法にシールドスキルを持っている。


 対人戦なんてぶっつけ本番もいいとこだけど、……こっそり夜中練習した成果を見せますか!






━━━あ━━と━━が━━き━━━━━━



ナオ「やべぇ、盗賊に囲まれるなんて……すげぇピンチだ!」


リリィ「おい!! ナオ!!」


ナオ「どうした!? 下がった方がいいか!? 」


リリィ「冒頭の国産の上カルビってなんにゃ!!

柔らかいハラミも食べたいにゃ!! 私が食べたやつはちょっと傷んでたにゃー!! 」


ナオ「お、おい、ごめ! いたっ……ごめんてー!! うぎゃーー!!」



作者「うわぁ……」



ナオ「は、話の続きが……うわっ!! リリィ、しがみつくな!!」


リリィ「食べたいにゃーー!! ……話の続きが気になる方は、♡&☆評価よろしくにゃぁ…………。にゃおーーー!!! 私にもーー!!」



盗賊達(あれと今から戦うのか〜〜…………)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る