11.6.勇者の決断と銀霊剣

「まずはこちらの都合でそなたをこの世界に喚び出してしまった事、心より詫びる」


「王!」


 王様が頭を下げた途端周囲がざわつき、貴族らしき人たちが驚愕している。やはり王様が謝罪をするというのは滅多にない事なのだろうか。


「事情はルミアーナさんから伺いました……。私に魔人族や魔物の侵攻を防いで欲しいと。……恐れながら私は平和な時代に生まれた者です。喧嘩だってろくにしたことないので努まるかどうか……」


「勇者殿の事情は分かった。だがそなたには勇者の加護が備わっておる。かつての勇者達もそうであった。縦横無尽に戦場を駆け回り、聖剣で敵を斬り払い、数多もの魔法を操り民を助けたと伝え聞く。ルミアーナよ」


「はい。勇者様のステータスはレベル1で既に平均200に達しております。これは訓練した精鋭の騎士にも匹敵する数値です。更にSTRにおいては既に300を超えております」


「おお……」「なんと、あのようなうら若い女人が……」

「さすが勇者様だ……」


「どうだろう勇者殿。戦い方や魔法基礎についてはレクシア一の者を付けさせる。我がレクシア王国の民を助ける為、協力しては頂けないだろうか? 無論最大限の支援と便宜を約束する」


 これだけの人前でその問いをする時点で既に逃げ場など無いのだろう。否と言えば帰る為の手がかりを得ることは難しくなり、最悪国から追い出されるかもしれない。

 王様とルミアーナさん、その他数人からは好意的な視線で見られているのを感じるし、言葉の節々からも気を使っているのだろう、配慮を感じる。だが、刺すような視線や、殺気に似た気配も感じる。王国も一枚岩では無いみたい。……ってなんで私こんなに視線に敏感に?

 どんな意識を向けられてるかも何となくわかるし、直感……みたいなものがすごくよく働く。これも勇者になったからなのだろうか。


 それはともかく、どちらにせよ私の目的は日本に帰ること。その為に出来ることをしなければいけない。ならば、


「分かりました。どうぞよろしくお願い致します。白雪、……凛 白雪と申します」


「おお!! 引き受けてくれるか! 勇者……いや、白雪殿!! レクシア王国が国王、レオルニダ・フォン・ドルチェビスタ・ヴィ・レクシア。伏して感謝申し上げる」


 私が名乗り頭を下げると、王もそれに続き、再び周囲の貴族がざわつく。が、次第にそれは拍手と変わっていき、玉座の間は喝采で満ち溢れた。


「しからば、勇者殿にこれを授ける。レイレナード」


「はっ。こちらを」


 王様が隣に控えていた身分の高そうな人を呼ぶと、一振の剣を侍従から受け取り国王へと渡す。

 それを見た瞬間、私は何故か目が離せなくなった。何故か懐かしいような気さえするその剣は、銀色の煌びやかな鞘に収められており、他の兵士と持つ剣と変わらぬ大きさながらも、存在感が桁違いであった。


「この剣の特異さに気づかれたか。これは110年ほど前の事。前代の勇者、カイト・コバヤシが使っていた国宝、銀霊剣アニマ。この剣にはかつての主達のスキルや魔法が眠っていると言われている。……白雪殿こちらに」


「はい」


 銀霊剣アニマを丁重に持つ王様へと歩み寄る。それに近づく度に私の中の何かが……まるで共鳴してるような、なんと言えばいいのか分からない不思議な感覚が伝わってくる。


 そう、まるで体の一部のような。


 少しづつ、そっと近寄ると銀霊剣は淡い光を発し始めた。

 誰かが息を飲む音が聞こえる。いつの間にか静まり返った玉座の間で、王様は私にスっとそれを差し出した。

 吸い込まれるようにその鞘を掴んだ瞬間、銀光が玉座の間に閃いた。




 何かが。


 何かが私の中に流れ込んでくる。


 ああ、そうか。これは記憶。過去の使い手たちの


 そして察したのだ。私は自分のやるべき事を。


 魔物から人々を守り、魔王を滅ぼす。そうする事でしか帰ることは出来ない。



 魔人は……殺さなければいけない。





『その通りだ。お前が新しい主か。貧弱そうな女だ。精々油断して死なぬように気をつける事だ』




 

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