第47話 等価交換の摂理

 海上に有る往還機離発着用プラットホームに行くには、近場の港町から出ている送迎用の垂直離着陸旅客機に乗らなければならない。

 と言うか、往還機搭乗の為には、先ずチケットを買わないと話は始まらない。

 そもそも往還機は、好きな時に誰でもが乗れるといった様な代物でもないし。


 基本的に現在の往還機は、新コロニーに行く目的が有る時にしか使用していない。

 他に行く可能性がある箇所と言えば旧コロニーだけなんだけど、今は閉鎖中という扱いだからその選択肢は存在していない。


 現在往還機を定期的に運航しているのは、使わないでいると不具合がいつ起きるか予測出来ない為、メンテナンスを定期的に実施する事の言い訳にしているだけだそうだ。

 なので、たまに乗客が一人も居なかったりもするんだってよ。

 まあ、そういう時は補給物資を多めに積んだりして、出来るだけ効率化を図ったりしてるそうだ。


 それで、今回の運航の搭乗率はどうなのかと言うと、珍しく人が多く乗っていくみたい。

 搭乗前の検疫というか、身体検査というのかを受ける場所には大勢の人が並んでいて、こんなに多くの人を一度に見るのは久しぶりの事だったりする。


 そんな中で、俺とそう変わらない年齢の幼児達が結構な人数、居るのが目に入った。

 それぞれの格好は制服なのか一様に揃っており、どこかの保育園の遠足かと言った様相だ。


 え? 本当に遠足なの?

 なんか保母さんっぽい人が、旗を持って幼児を誘導しているのが確認できる。

 マジか。 火星に来ても、そこら辺は変わらないのか。


 と言うか、コイツらの目的は何だ?

 まさか、新コロニーの見学とか言うんだろうか?


 いや、まあ。

 別にその事に文句がある訳ではないが、そこまで気軽に行き来出来る程、往還機の使用は安定感のある移動方法になってるの?

 言っとくけど、一応俺の前世の死亡原因なんだけど?


 はあ。 百年に渡る重大事故の発生率を見ると一万分の一以下になってて、信頼性はかなり高いんだとよ。

 世紀が変われば、状況も変わるって事なのかね。

 しみじみと時の流れを実感したよ。


 園児達を傍観しながらなにやら余所事を考えていたら、知らぬ間にその園児達の内の一人がトコトコと俺に近付いて来て話し掛けてきた。


「ねえ、あなたもうちゅうに行くの? 」


「え? わたし? 」


 急に同じ歳位の知らない幼女に話し掛けられるのが初めてだったのも有って聞き返してしまったが、状況的に言って他に対象となる人物は周りにはいないので、ここは無難に返事をしておく。


「えっと、多分そうだと思う。 」


「そうなんだ。 わたしはアミカ。

 あなたはなんて言うの? 」


 えっ? 行きなり名前を聞いてくるのかよ?!

 本物の幼児のコミュ力は半端ないな!


 そこで初めて話し掛けて来た園児の姿に注目して、上から下まで観察してみた。


 種族は、少し短いがエルフ耳のようなので、エルフ濃い目の混血種だろうか。

 彼女も、俺がエルフ種だっていう事で、話し掛け易く見えたのかもしれないな。


 見た目、耳が若干長い位で他の種族特性は伺えないが、なんだか前世で姉妹だったアミの面影を感じる。

 名前のアミカに引っ張られてそう感じたのかも知れないが、世代が離れ過ぎているのでアミの係累である可能性は高いが、そんなのは別に珍しい事でもないし気のせいだろう。


 俺が考え事に意識を向けて長いこと黙ったままでいると、首をコテンと傾げて不思議そうにしている幼女が目に入ったので、しょうがなく返答する事にした。


「えっと、私の名前はアイマよ。 」


 そう返事をしてから、ハッと気が付いた。

 俺の現在の名前は、継続してアイマを使っていて良いのか?

 身分を入れ換えたんだから、別の名前が設定されているんじゃないか?


 そう思った俺は、直ぐ傍に立っていて、幼女同士の会話をニヨニヨしながら盗み見ていたゼロの服の袖を引っ張って、そのだらしない顔を寄せるようにうながした。


「なに? なんか用? オシッコ? 」


 ちゃうわい!


「俺って今、なんて名前で名乗れば良いの?

 今、アイマって言っちゃったけど、大丈夫? 」


「ああ、【アイマ・ゼロ】で登録してあるから、それで良いわよ。

 一応私の妹設定でね。 」


「うん? アイマ・セカンドじゃなかったっけ? 」


「アレは私達関係者が同席した場合のみの通名よ。

 登録してから、アイマともゼロとも略称出来ない事に気付いたけど、面倒臭いから呼び名だけ変える事にしたの。 」


 なんちゅうやっちゃ!

 どんだけ面倒臭がりなんだよ!

 電子的生命体なら、チョチョイのチョイだろうが!


 とは一瞬思ったが、良く考えるとゼロは今生身の身体で、それが出来なかったんだっけ。

 うん。 登録作業ってのは、何時になっても面倒臭い物だからね。 仕方ないね。

 まあ、アイマがそのまま使えるのなら問題無しって事で良いよ。


 安心した俺がアミカちゃんの方に目を向けると、ゼロとの内緒話が済むまでじっと待ってくれてた彼女が、満を持して話し掛けて来た。


 会話の結果入手した情報によると、アミカちゃん達は新コロニーの遊戯施設に無重力体験とか、宇宙遊泳とか色々な遊びをしに行くって事らしい。

 らしいって言うのは、幼女の語る言葉が感覚的な物が多く、翻訳するのが大変難しかったからだ。


 そうこうしている内に身体検査の順番が来たのか、アミカちゃん達が保母さんに集まるように呼ばれていた。


「せんせいが呼んでるから、もう行くね。

 のそのそしてると、あの新しいせんせいって直ぐ怒るから。

 あ、ID交換しよ。 」


 そう言って、アミカちゃんが腕時計っぽい物が巻かれた左手を差し出してきた。


 え? なになに? どういう事?


 その動作を見て困惑した俺は、まだ横に立っていたゼロの顔を仰ぎ見た。


「ああ、ハイ。 これがアイマのだよ。

 手首に巻いてから、お互いの端末を近付ければ普通にID交換出来るよ。 」


 ゼロの言う通りに、左手に端末と呼ばれる機器を装着してから、アミカちゃんと腕を絡める感じで手を組んだ。

 別に機器を近付けるだけでも良いような気がするが、これがこの子達の間での友達関係の表明なんだろう。


 ピロンと可愛い音がして、「ID交換登録が完了しました。 」と音声が流れた。

 アミカちゃんは、「やったぁ、また増えたぁ! 」と喜びを露にしながら、「また後でねー。 」と言いながら園児の群れに戻って行った。


 俺はその後ろ姿に手を振って答えながら、ゼロに向けて「色々と、聞きたい事が、噴出して、来たんだけどぉ、どうするかなぁ? 」とドスの効いた声で呟いたら、何処からか「ヒェッ。 」て音が漏れ聞こえてきた。


 俺は、世界は相互扶助で成り立っていると思っている。

 即ち! 目には目を、歯には歯をだ!






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