第12話 神の掌の上から
ケモミミ娘達の名前を付けるにあたって、やはりそれぞれのID番号を参照する事にしたので、改めて3Dマップに表示されているそれを確認してみた。
するとID番号の末尾が【b-002】【b-003】【b-007】だったので、名前は順に【バニー】【ベス】【ビーナ】とした。安直だったかな。
それにしても、彼女達は猫を想起させるデザインで生まれているのに、付けられた名前が【バニー】で良いのか。
まあ、本人も気に入っている様子なので、ここは黙っておこう。
それよりも気になる部分が別にある。
それは、何故ID番号が【b-001】から順に付けられていないのかという事なんだけど、それについて率直にバニー達に聞いてみたら直ぐ様その答えが返ってきた。
だが、それは全く予想もしていなかった内容だったので、その答えを聞いてから俺は酷く困惑してしまった。
その困惑した理由は何かといえば、欠番になっている番号の素体が正常に育たなかった為に廃棄したからだと説明されて、俺の頭の中が疑問符で一杯になってしまったからだ。
はぁ? ちょっと待ってくれよ?
じゃあなんだ?
バニー達三体の完成体を製造する過程で、つまりは七体製造してその内の四体を廃棄しているって事なのか?
そしてそれは、要するに歩留まりが五割を満たしていないと?
オイオイ、一体どうなっているんだ?
俺は視線を壁際にある培養槽に一瞬向けてから、考えを巡らせる。
俺達のプラントでは今迄の所、素体の製造に失敗して廃棄したなんて事例はまだ発生していない。
そう、一度もだ。
俺はそれが当たり前の事だと思っていたが、他のプラントでは違うと言うのか?
いや、そうだと言われてみれば、今までの結果が異常な事なんだというのは至極納得できるものだったりもする。
いわゆるこの世の物事は全て、成功と失敗とで成り立っているからだ。
例えばコインを投げるとすれば、必ず裏と表が半々くらいの確率で表れる。
どちらか一方が出続けるなんて事は、絶対に起こり得ない事象なんだ。
だが現実はコインとは違うから、一方に確率が片寄ってしまっていても何もおかしい訳では無いが、それが十割だなんて事には決してならない。なる訳がない。
では、今実際に起こっているこの現実は一体なんだというんだ?
全く訳が分からないぞ。
勿論、この事実が到底受け入れられないとか言う話ではないし、むしろ歓迎すべき事柄なんだけれども、常日頃から数学の神を信奉している自分としては、心に折り合いを付けるのに苦悩するばかりではある。
つまり、何が言いたいのかと言うと「神の奴ちゃんと仕事しろよ! 」って言葉だったりする。
……え?
まさかこれって、神の恩恵を受けて輪廻転生した俺が、直接関わっているからとかいう理由で起きている訳じゃないよな?
神の奴も、俺の転生特典は記憶継承だけだと言っていたし。
いや、待てよ。
神は、何故俺にその転生特典をくれるのかの明確な理由については、何かはぐらかした感じで詳しく説明してくれていなかったよな。
つまり、あれか?
俺の転生は、何か秘密にすべき理由か目的が有って行われていて、今回の事についても俺用の素体が確実に製造されて輪廻転生をしていなければ、到底解決出来ない事案とかがあったと言うわけか?
そしてその為には、ここのプラントの有機型アンドロイド製造装置の製作精度を、端から見たら異様に思える程に上昇させなければならなかったんだとしたら……。
なる程なあ。
何にでも理由がちゃんと有るもんなんだなぁ。(遠い目)
そして、それはある事実にも強力に結び付いてしまった。
つまり、どうして俺達のプラントが運営側から排除されそうになってしまったのかという件なんだけど、多分彼等から見ればここは異様な魔窟か何かだと思われていたんじゃなかろうか。
まあ、ここのプラントの稼動状況の報告書を見れば、俺だってそう思うだろうし。
なんか思わぬ所から解答を得られた気分だが、実際はまだ確定してはいない訳だし、後から何か物証でも出てくるまではこの事は棚上げして置こう。
俺達には他にやらなければならない事が、まだまだ待ち構えているだろうからな。
そんな訳で、そのやらなければならない事の筆頭が、各階層の有機型アンドロイド達に連絡を取り、混乱を終息させてそれぞれに仕事を割り振ることだ。
まあその仕事って言っても、各階層に残っている資材の数なんかを調べてこちらに報告する事なんだけど、ぶっちゃけその仕事なんてものは何でも良くて、ただ忙しくさせておいて他の余計な事を考える暇を与えないっていうのが本当の目的だったりする。
何しろ奴らの根幹は、ただの五歳児の集団に過ぎないんだからな。
保育園の保母さんの苦労が、身にしみて感じられて言うこと無いね。
さて、バニー達にも仕事をするように促しておいたので、取り敢えずもう問題はないだろう。
後は他の階層についてなんだけれど、連絡を取る度に名前を付けろだなんだとか言われたりしてその都度対処していたら、時間が幾ら有っても足りない。
だから、遺憾ながらアニとアミにも手伝わせる事にしたんだ。
ただし! 絶対に名前に関する事は口にするなと厳命しておいたのは、もう言うまでもないだろう。面倒臭いからな!
そんな訳で、二体が上手く連絡出来るか暫く観察していたが特に問題無さそうなので、俺も自分の担当分の階層に通信を繋げた。もしもーし。
「なに? スン いまさら連絡してきて。 スン」
通信画面に出てきたのは一見キリッとした見た目の美人さんで、縦に割れた虹彩の有る目を真っ赤にさせながらも、若干嫌味っぽい言葉で返事してきた。
髪は長いが普通の金髪のようで、ちょっとカールしている感じだ。
ちなみに「スンスン」と言ってるのは鼻をすすっている音だ。
「あぁ~、ゴメンね。連絡が遅くなってしまって。
こっちも色々と有ってね。
取り敢えず、もう泣かなくても大丈夫だから、安心してね。」
「別に泣いてないし! 特に困ってないし! 」
彼女はそう言ってツンと横を向いた。
ウワァーオ。すんごいツンツンなお嬢様キャラだ。狙ってるな?
まあ、それはそれとしてしっかり連絡事項を伝えておくか。
「そう。 スン それでこの先どうするつもりなの? スン」
うん? なんか話し方から窺えるように、思っていたよりも精神年齢が高目にデザインされているのか?
それに見た目も中学生位に見えなくもない様子だし、何よりも画面内の辛うじて見える範囲に有る胸部装甲に確かな厚みがあるぞ?
俺は自分のと画面内のとを見比べるが、その差は歴然だ。
え? そんな事あるの?
有機型アンドロイドの見た目は、十歳くらいに固定されているもんなんじゃないのか?
俺は、また何か要らん事に気が付いてしまったのかもしれない。
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