第13話 残され者達の顔

 縦割れ虹彩ちゃんは、最初に思ったよりも大分頭が良いみたいだ。

 これなら名前の事を話題に出しても、俺に付けてくれとは言い出さないだろうと高を括っていたら、そんな訳がある筈もなく、ましてや名付けをされてしまった。


 何だよ、命令って。

 その理由を聞いたら、自分の方がお姉さんなんだから当然でしょうと胸を張って言われた。


 オイ! なに自慢してんだよ!

 そんなの別に偉くなんか無いぞ! チクショーめ!


 まあその後、じゃあこの状況の終息をお願いしますと言ったら、どうぞどうぞと指揮監督権の保持を了承されたけれど。


 ついでに、やっぱり名前をお強請りされたよ。

 だけど、嬉しいことに一体分だけで良いんだってさ。


 訳を聞くと、そこのプラントでは彼女以外の有機型アンドロイドを製造出来ていなくて、今まで一体だけで全ての仕事をこなしてきていたらしい。

 因みに今までに廃棄した素体の数は、九体にも上ると言う。


 オイオイ、そこのプラントってどんだけ生産効率が悪いんだよ。

 って言うか、もしかして俺の所のが異様に高いことの皺寄せが、そっちに行ってるんじゃないよな?

 お願いだから、ないと言ってくれ!


 まあ、そんな事の検証なんかは当然出来もしないんだから、ただ俺の心の負担を軽くする為だけの事なんだけどね。


 それで付けた名前なんだけど、例の如くID番号を参照して、【k-003】だったから【ケイミィ】とした。

 初めは【カーミラ】にしようかとも思ったが、なんか畏れ多いしね。


 ホントいつも思うが、俺ってば安直過ぎるよな。

 だけど、これも仕方がないんや。


 皆、俺の前世の名前を覚えてるか?

 俺は、あれのお陰で小さい頃から周囲に揶揄われて来ていて、こと名前に関しては酷い拒絶反応を示すまでになっていたんだ。

 だから、名付けなんて最も避けて通るべき案件で、今までに一ミリも考えた事が無かったんだよ。


 それを、もう生まれ変わったんだから大丈夫でしょと言うかの如く、バンバンと俺に捩じ込んで来ると言うのは、一体どういう了見なのか。


 名付けごうとでも言うようなものが、前世から溜まっていたとかなのか?

 そう言えば、神は輪廻転生しても前世の業とかが引き継がされるとかされないとかは、特に言っていなかったよな。(因みに業とカルマは似て非なるものだよ。)


 じゃあ、安心だなとは全然思えない。

 やっぱり、神の奴が否定していなかった事については、当然有るものだと考えて行動しなければならないだろう。

 全くもって、周りくどい存在だよ。神って奴は。


 兎も角、命名ケイミィちゃんはと言えば、今までぼっちを貫いていただけ有って精神的にも肉体的にも優秀な様で、俺が言った事を直ぐ様吸収して、対案まで示してくれる程だった。

 こりゃ思っていたよりも良い拾い物だと直ぐ分かったので、勿体無くも俺の副官に任命してやった。有り難く思うように。

 まあ、本当は俺にそんな任命権などというものは微塵も存在しないんだが、後で言い訳をしなければならなくなった時には、緊急避難的措置だったとでも言って誤魔化しておけば良いだろ。


 何はともあれ、ここでのお仕事もあらかた終わったので、次の階層に移ろうかと思ったら、何だかケイミィちゃんがしつこく引き留めてくる。

 その様子を繁々と観察すると、いつの間にかスンスン言ってたのはもう収まっていて、それにちょっと頬が赤くなっている様にも見える。


 ははぁ~ん。ケイミィちゃん、俺に惚れたな?

 まあ、それも仕方ない事でもあるか。

 俺みたいな頼れる奴が、颯爽と危機に現れて助けてくれでもしたら、そうなるのも頷けるってもんだ。


 でも残念だが、俺は皆の物で一人だけに構う訳には行かないのさ。

 ここは素直に諦めておくれ、お嬢さん。


 何てすかして言ってるが、ケイミィちゃんが俺の趣味から少し外れてしまっているのが、本当の理由だと言うのは内緒だ。

 それに、俺にはその年頃の娘さんの相手は、手に余るんだよ。悪いね。


 お遊びはそこまでにして、ケイミィちゃんとは一時サヨナラをして、各階層との通信を再開する。

 残りの階層では、特筆するようなやり取りは起きなくて、すんなりと連絡網の構築が完了した。

 それにより、各階層にいる有機型アンドロイド達の詳細が判明した。


 以下がそれを表にした物の一部だ。


 no.ID型式  形態     成体数(素体数) 代表者

 01 a-xxx  エルフ耳   3(10)    アイ

 02 b-xxx  猫耳(黒)    3(5)     バニー

 03 c-xxx  猫耳(白)    3(4)     クロノ

 04 d-xxx  猫耳(三毛)   3(5)     ダミアン

 05 e-xxx  犬耳(黒)    3(6)     エバ

 06 f-xxx   犬耳(白)    3(5)     フィーナ

 07 g-xxx  犬耳(垂れ)   3(4)     グロリア

 08 h-xxx  ウサギ耳(黒)  3(4)     ハンナ

 09 i-xxx   ウサギ耳(白)  3(3)     イシス

 10 j-xxx   ウサギ耳(短)  3(4)     ジェニー

 11 k-xxx  縦割れ虹彩  1(3)     ケイミィ

 12 l-xxx   横割れ虹彩  1(2)     ルシア

 13 m-xxx  赤色白眼    2(4)     ミク

 … ………  ……………  …………

 … ………  ……………  …………

 … ………  ……………  …………

 25 y-xxx   鱗肌(赤)    2(2)     ヨミ

 26 z-xxx   鱗肌(青)    3(4)     ゼシカ

          総数   33(135)


 なんかエルフ耳だけ仲間外れ感が強いが、これは元々統率役を任せるつもりだったとかの理由で、分かりやすく区別した為なんじゃないかな。


 それにしても、三十三体とは結構な数が置いていかれたもんだ。

 更に、まだ生まれていない素体の数も百三十体を越えるのか。

 全部が無事に生まれてくるとは限らないからただの予測に過ぎないが、おそらく五千時間後位には、総数が百体を越えているだろう。


 食料的には、配給食プレート製造装置の作る合成食料が有るので特に心配はしていないが、ただ無駄飯を食わせるだけというのも考え物だよな。


 それに、今俺達は全数が女性体だ。

 このまま有機型アンドロイド製造装置が、十全に稼動し続けられるとも限らないし、必要になるエネルギー量の問題が発生したり、原材料が尽きてしまうって事も考えられる。

 ここはやっぱり男性体も製造して、行く行くは自然交配での成体数の増加を目指すべきだろうな。


 ただし、俺は除く!

 理由は言わなくても分かるだろう? ムリだよムリ!


 まあそれは置いといて、目標達成の為には、最初にアニとアミに探させていた代替エネルギーを得る方法を早急に見つけて、事業化に着手しなければならない。


 そして将来的にはやっぱり、火星への移住を検討しなくてはならないだろう。

 何故なら生物は皆、重力に引かれる様に作られていると神も言っていたしな。

 俺が行くべき叫喚地獄も、地表に行って初めてと言えるんじゃないかな。


 まあ、俺達の歩むべき道の先は、まだまだ長いって事だね。






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