第14話 煌めく未来の夢

 俺達が身体の自由を得てから、既に一万時間以上が過ぎている。

 地球時間で言えば、一年と一ヶ月ちょっとだね。


 因みに火星の一年、つまり一公転周期は地球時間で六百八十七日で地球の倍近く、一自転周期は二十四時間三十九分でこちらは地球とはそんなに変わらない。


 ところで、それとは関係ない話なんだけど、火星に移住してからの時間の扱いって一体どうなってるんだ?

 火星の一自転周期時間を二十四分割したものを一時間とするのか?

 俺達はまだコロニーにいるから良いが、火星に行った奴等はどうしているんだろうな。

 まあ、そんなどうでも良い事は放って置いて状況説明の続きだ。


 今では俺達有機型アンドロイドの規模も拡大し、総数で百五十体を越えて更に増えつつある。

 コロニー内の様子は以前と比べても、大分様変わりして来ている。

 それに関しては、後で詳しく説明する事にしよう。


 これまでの期間中、事の発端になったコロニーから消えた人間達からの連絡等は一切無いが、彼等に関する情報は少ないながらも集まって来ている。

 コロニーからは、火星地表上の様子を詳しくは窺えないが、地表が夜側になっている時に小さな光がたまに観測される事もあるから、まだちゃんと生きている奴もいるんだろう。


 なんか俺達が人間達にあまり関心がある様には見えなくて変に思うかもしれないが、ぶっちゃけて言うとそんなものには別段興味も持っていない。

 もし何か気になることが起きて詳しく知りたくなった時には、ドローンとか観測機を使って調べれば良いし、今はそこまでする必要性を特に感じていないからね。

 まあ、頑張ってくれていればそれで良いんじゃない? って程度だ。

 コロニーの方は、懸念事項だったエネルギー問題も解決して、当分の間困る事は無くなったから、何事にも余裕を持って対処出来る様になっているしね。


 じゃあ、これ迄の変更点を順に解説していくか。

 まず、三十階層あると思っていたコロニーだが、人間達が地表の拠点や工業施設として三階層分を火星に降下させていたので、その分減って二十七階層になっていた。

 その内、工業施設用の階層一つを除いて、各階層にはそれぞれ有機型アンドロイド製造プラントが有ったので、それを統廃合する事にした。

 そのままだとエネルギー効率が悪いからね。


 なので、居住階層は三階層分になった。

 移籍時期は、素体が完成して強制教育が完了してからだったから、約五ヶ月前かな。

 そして完成体が百五十体を越えて、マンパワーが充実してから一気に発電装置の設置と運用を開始した。

 設置作業が始まるまでの間は、工業プラントを使っての部品製造に費やしたが、人手が足りなくて準備出来たのが期限ギリギリだった感じだ。


 それで、俺達が採用した発電装置の仕組みなんだけど至ってシンプルな物で、太陽光で液体窒素を温めて気体化させ、その圧力でタービンを回して発電するというものだ。

 これは太陽光発電パネルの様な、特に何か希少な材料や電子機器とかを使用しないし、昔ながらのモーターを回して発電するという方式なので、修理とかも簡単に出来てお手軽なんだ。


 準備が必要な材料は液体窒素とそれを通すパイプ位で、後は今までの機材を流用する事でまかなえられる、とても素晴らしい発想だった。

 これには、俺達が居住しない階層を一つ使用して発電専用に割り当てている。


 仕組みを簡単に説明すると、コロニーの外装の内側に液体窒素を充填したパイプを設置して、太陽光が当たって暖まった外装の熱を有効利用して液体窒素を気化させて、その圧力を使って発電機のタービンを回して発電している。

 この方式の最大の利点は、システムの簡素化もさる事ながら一度作ってさえしまえば、燃料等を特に必要とせずに二十四時間半永久的に発電出来るという点にある。


 何故なら、太陽の光は常にコロニーに当たっていて、コロニーは半永久的に回転する事で外装を繰り返し寒暖させて、円周の約半分が常に発電に寄与している事になるからだ。

 まあ、液体窒素の量が足らなくて発電施設が階層一つ分しか用意出来なかったので、発電量もそれなりなんだけどね。


 ああ、因みに液体窒素は居住階層を減らした時に、住まなくなった廃棄階層から回収したものだよ。

 あと廃棄階層からは、他にもパイプやらの資材や燃料の他にも植物等の有機化合物とか何でも回収している。


 その中でも、サブAIの事について詳しく説明して置こう。

 現在俺達の居住している階層は三階層分だと前に言ったが、これは新たに制定された運営方針に従って決められたからによる。


 その運営方針とは、全ての物に【正】【副】【予備】を用意して対処すると言うものだ。オタクには常識だよね。

 だから居住階層も三階層に分けられていて、その階層に設置されるサブAIも三基に増やされ、一分の隙もない陣容になっている。


 俺達が自由になった時点でのサブAIの数は、各階層に一基ずつ配備されていたので総数で二十七基有り、それを現在は居住階層三層に九基、工業階層二層に六基、発電階層一層に三基を振り分け、残りは今後作られる予定の火星との往還機とかに自動操縦装置用として搭載される事になっている。

 まあ今後はサブAIとは呼ばれないだろうけれどね。


 そんな感じで現在コロニーの運営は順調なんだけど、この後俺達はどういった方向へ進んで行けば良いのかが問題だ。


 取り敢えず今の体制で生きていくだけなら、約二十年位は持つと予測されている。

 それも完成体をどんどんと増やして行っての話だから、総数を管理して抑制するならばその倍は生きられるだろう。


 または火星に降りると言うのなら、その後の現地での生活の準備を含めると半分の十年までが限界点で、それまでに一体どうするかを決断しないといけない。

 もっとも、二十年で全員死亡する未来を選ぶ程、アンドロイド生に悲観している訳でもないので、取る道は既に決まっている様なもんだけどね。

 まあ、それまでにしっかりと準備して、先行している奴等を観察でもして予習して置けば、万事抜かりはないだろう。


 どっちにしても、まだ十年の余裕が有るんだからそれまではゆっくりと、火星往還機の準備でもして時間を潰せば、退屈を紛らわせられるんじゃないかな。


 は? そんなに待つ事なく、最速で準備をして火星に降りるべきだ?

 オイオイ、それじゃあ俺達を捨てて行った人間共と同じになるじゃないか。

 それが最適解なら特に俺が言う事はないが、結果としてそれで失敗しましたじゃ、アホ過ぎて話にもならないだろ。

 だから意地でも俺達は成功しなければならないんだ。


 これは有機型アンドロイド全員の総意であると思ってくれて構わない。






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