第15話 長の座する場所

 有機型アンドロイド達が居住している第壱号コロニーの統括司令室には三基のAI筐体が設置されており、それを上から俯瞰する高い位置に司令官席がもうけられている。

 その席の正面には大画面のホログラムモニターが映されており、良く分からん数値が随所で上下しながら、ちゃんと仕事をしてますよ感を演出している。


 う~ん、良いね~。

 やっぱり司令室と言ったら、これしか無いよね~。


 ただし、今ここに居るのは俺だけで、他にオペレーターとかの人員とかは一体も存在していないんだけどね。

 もっとも、その役目は三基あるAIが十全に果たしており、なんならモニターに疑似人格のキャラを出演させたりしてくれていて至れり尽くせりだったりもする。


 そんな風に俺がいつも通りと変わらない司令官席の座り心地を堪能していたら、モニターに件のオペレーターキャラが急に映し出された。


「アイ総司令、第弐号コロニーのケイミィ副司令から定時連絡です。

 お出になりますか? 」


 それは赤ブチ眼鏡を掛けた出来るキャリアウーマンっぽい容姿をした女性で、ケイミィからの通信に応対するのかを俺に尋ねながら眼鏡をクイッと持ち上げた。


 うん。いつも思うんだけど、このキャラってばオペレーターって感じじゃなくて、まんま社長秘書だよな。

 まあ、AIの持つ記録庫にちょうど良いキャラが無かったから、出来るだけ俺の要望に沿った形なんだろうけれど、ちょっと場違い感が否めないよね。


 おっと、そんな事よりケイミィからの通信に早く出ないと、またネチネチと小言を言われて怒られるぞ。


「ア、ハイ。繋げて頂戴。」


 俺の返事が終わるか否かのタイミングで画面が切り替わり、ケイミィの顔がどアップで映された。

 だが、なんか不服そうな表情をしている。

 なんだ? またなんか不具合でも有ったのか?


「ちょっと、アイ! なんで直ぐに通信に出ないのよ!

 こっちはちゃんと、アイが司令室にいるのを確かめてから、連絡しているんだからね!

 まさか、また居留守を使おうとか思ってたんじゃないわよね?! 」


「は?! 違う違う! そんな訳ないでしょ!

 ちょっと考え事をしてて、出るのが遅れただけじゃん!

 イヤだなあ、もう。」


 俺は、ケイミィの突っ込みに冷や汗をかきながら、無難な言い訳を言う。

 実は以前、司令室で暇にしていた時に、ちょっとアニメを見ていて良い所だったから居留守を使ったんだけど、直ぐにAIにチクられて、しこたま怒られた事が有ったりする。


 それを、何時までもネチネチと。

 俺も反省して、ケイミィの定時連絡時間近くでは、アニメを見ないようにしてるのに!

 まあ、アニメを見るのは止められないけれども。


 俺は、まだ不審そうな顔をしているケイミィに、今日の用件を聞いて誤魔化しに掛かる。


「それで? 何時もの定時連絡じゃないの? 」


「フン。まあ、今回はもう良いわ。

 それじゃ、今日の連絡事項ね。

 遅れてた火星往還機の参号機が、ようやく完成したわ。」


「あらそう。やっと定数が満たされたか。

 じゃあ、例の如く壱号機の運用データを移植しておいて頂戴。」


「了解。でも、もう既に取り掛かってるわよ。

 それが終わったら、遂に火星に往還機離発着用プラットホームを降ろすのよね? 」


「うん、そう。

 やっと三機体制になったからね。

 これで余裕を持って往還機を運用出来るから、計画を次の段階に進められるってもんよ。」


「分かったわ。じゃあ、そっちの準備も始めるわね。」


「はい、お願いね~。」


 そんな感じで、ケイミィは次の仕事が与えられた事で、やる気を漲らせながら通信を切った。


 現在は始まりの時から数えて既に約七年、六万時間を越える時が経過している。

 火星移住への限界点の十年にはまだ大分早いが、やる事の無い時間という物は、俺達の精神に余計なストレスを与えている事が分かったので、移住計画を前倒しする事にしたんだ。

 なんか皆、情緒不安定気味になって、ちょっと怖くなって来たから仕方なくね。


 それで、今進めているのがコロニー内の物資の余裕がある内に、火星往還機を使って足りない資源を地表からコロニーへと補充する計画になる。

 それが叶えば、コロニーの使用限界を更に伸ばす事も出来るし、更に完成体の総数を大幅に増加する事も可能になるからね。

 厳ついオッサンでも無いけど、やっぱり戦いは数だと思うし。


 うん? 勿論戦う予定なんかは全然無いんだけれど、万一の時の準備をしておいて、その時に「こんな事も有ろうかと」って言う台詞を、一度は言ってみたいじゃん。

 その為の苦労は、苦労の内には入らないよ。

 皆には秘密だが、これは遊びの準備だからね。仕事なんかじゃ全然ない。


 えっと、どこまで話したっけ。ああ、そうそう。


 火星に降ろす予定の往還機離発着用プラットホームについてなんだけど、これの事はまだ一度も話していないと思うけど、それも仕方ない事情がある。

 まあ、大した事情でもなくて、ただ単に最近思い付いたからなんだけどね。


 それまでの計画だと滑走路が事前に準備できない事から、最低でも最初の一機目は不時着に近い形の降下を余儀なくされると考えていたんだよ。

 だけど、いずれ火星にはコロニーの階層を幾つか降ろす予定だったのに気が付いて、試しに廃棄階層を降ろしてみてその予習をするのと共に、それを滑走路に流用出来ないかという案が出されたんだ。ケイミィから。


 いやぁ~、うちの副官は優秀だね~。感心感心。


 それでその案を一部改善して、発射カタパルトを備えた階層を宇宙空間で開発してから地表に降ろして、そんなに時間とコストを掛けずに運用しようという感じに急遽決まったんだ。


 それじゃあ、その構造について簡単に説明して置こうか。

 まず、階層を地表に設置する時には通常、円盤表面を上下に設定するよね。

 その上側になる方を着陸用滑走路に使えるように事前に表面を平らに整えて置く。

 そうする事で階層降下後には事実上、三百六十度どの方向からでも着陸が可能になり、風向き等による影響を極力押さえる事が出来るようになる。


 次に打ち上げに関しては、ちょっと複雑な仕組みになる。

 まず往還機を、空気抵抗が極力少なくなる形のケースに収納する。

 それを階層内部の円周上に施設した真空になっているチューブの中で、レールガンの弾丸の様に電磁力によって速度を上げて周回させておく。

 そして、速度が限界に到達したら、先端を上空に向けて施設されたカタパルトに進路を変えて、宇宙に向けて発射される。


 当然、空気中に出た瞬間は空気抵抗が激しいが、その為の外装を覆うケースであり、高空に達し速度がある程度低下したら、ケースは分解離脱しパラシュート等で降下速度を下げて地表に落下させて、何度も回収し再利用する事になっている。

 因みに電源は、無難に核融合炉を作って対処するつもりだ。

 地表には資源が幾らでもあるしね。


 取り敢えずそんな感じなんだけど、他にも話して置こうと思った事は次に回すか。





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