第11話 忘れられし者よ

 統合AIの事を考えながら、ふとコンソールに張り付いて調べ物をしている二体に目が行った。


 うん。今のところ俺の策は上手く行っているようだな。

 真剣な顔で頑張っている所だけ見れば、これで精神年齢が五歳児並みだとは誰も思わないよな。


 と言うところまで考えて、何か頭に引っ掛かる物があった。


 ……。

 …………。

 ………………。


「あっ?! しまった! 」


 俺はここにきて重大な過失に気が付いてしまった。


 それは、目の前にいる二体の優先操作権が解放されているのならば、他の階層の有機型アンドロイドも同じ様に解放されていても何もおかしくはなく、俺がその件に対して一日以上手を付けずに放置してしまっていて、特に何も対処していなかった事にだ。


 俺は慌てて他階層の3Dマップを呼び出して、全IDを表示させた。

 良かった~。まだ死んでるような奴は居ないみたいだ。


 取り敢えず、ここの隣の階層に連絡してみようと画像アリで通信してみた。

 すると、呼び出し音が鳴るか鳴らないかの瞬間で、画面に大泣きの顔のアップが映し出されて喚き出した。


「うわ~~~ん! なんで誰もいないの~~? 

 誰か助けてよ~~!

 あっ?! あなた誰っ?!

 なんでも良いから助けて~~! 」


 いきなり画面に出てきたのは俺達と同じくらいの歳に見える少女だったが、顔は大量の涙と鼻水まみれで目が真っ赤に充血していた。

 ギリギリ見える端の方にケモミミがチラッと見えていたから、そういうデザインをされている有機型アンドロイドなんだろう。


 と、出てきた途端に喚いてる少女を相手に呆気に取られながらも黙って様子を見ていたら、画面外から更に数人の泣いている少女が乱入してきて、もう何を言ってるかも分からない程に叫び出した。

 俺はその騒音から離れるように画面から顔を離したら、更に喚き声が五月蝿くなってしまった。

 俺は呆れ返って困ってしまって、この後どうしようと頭を抱えそうになったところで、うちの五歳児達が左右から画面を覗きに来た。


 おい、お前達。仕事はどうした。


 そして俺の咎める視線を無視して、通信画面に映っている少女達の顔を見て大笑いを始めてしまった。


「「プッ、アーッハッハッハ! おもしろい顔~!

 なんでそんな顔してるの~! なんで~? 」」


 オイオイ、そんなことハモってしてまで言って煽るなよ。

 彼女達も別に好き好んでそんな顔を晒してる訳じゃないんだからな。

 もしかしたら、今そんな顔をしていたのがお前達であったとしても、何らおかしくはなかったんだぞ。

 ケモミミちゃん達も本当にごめんね、不躾な二体で。


 俺が二体の失言に罪悪感を感じながら画面の中の少女達に注意を戻すと、彼女達は急に現れた人物に笑われた事で吃驚したのか、キョトンとした顔になっていた

 そして、数瞬後には怒りを露にした顔で、こちらに怒鳴り返してきた。


「あんた達なに?! なにを笑ってんのよ!」


 おっ? 泣いてるのよりかは幾分かマシになったぞ。

 さっきの二体の暴言は、泣き喚くのをとめてくれる意図が有ってあんな事を言ったのか?


 と一瞬思ったが、次の瞬間には二体が揃って言い返していたので、暴言を言ったのは素だった様だな。

 がっかりな二体だよ、ホントにもう。

 それでも泣いてるよりかは話が出来ているだけ、幾分かは増しになっているみたいだな。


 双方の感情が落ち着くまでと暫く放置しておいたが、言い合いは収まる様子が無かったので、嫌々だが仲裁に入ることにした。


「ハイハイ! どっちも喧嘩をやめて~!

 でないと通信を切るよ~! 」


「「えぇ~? なんで~? 」」


 二体は大層ご不満の様だ。

 俺以外の奴とのお喋りが例え喧嘩と言えども、存外と楽しかったみたいだな。


 相手側はそうでもない様子で、さっき迄の恐怖が振り返してきたのか、少々不安そうな顔をしている。


 よし、これで俺のターンだ!

 続けて畳み掛けよう!


「ちょっと話を聞いても良いかな? 」


「は、はい……。何ですか、……耳の長い人? 」


 おい、何だよ。耳の長い人って。


 ああ、そうか。

 こっちがまだ名乗って無かったから、他に呼びようが無かったのか。


「ああ、ごめんね。私の名前はアイ。

 アイでもアイちゃんでも好きなように呼んでね。

 横の二体はアニとアミって名前だよ。よろしくしてね。

 それで、そちらの事は何て名前で呼べば良いの? 」


 しかし、ケモミミちゃん達は俺の自己紹介を聞いても困惑したような感じだ。なんでだ?


「あの~、さっきから言ってる名前って何ですか?

 私達はそういうのではなくて、ID番号で呼び合っているんですけど。」


 え?

 あ、ああー。そうだったそうだった。

 俺達は本来、ID番号でしか呼び合っちゃいけないんだった。

 すっかり忘れてたなー。


 まあ、俺達も仕事中はお互いを呼ぶ時は曖昧な呼び方をして、極力ID番号を使わない様に工夫したりして、それさえも遊びに組み込んでいたりしたしなぁ。

 それに、休息時間中は統合AIもそんなに五月蝿く注意して来なかったからなぁ。何でだろ?

 まあ、その事は今は良いか。


 しかし、この子達には何て説明しようか?

 と考えていたら、うちの二体が横から前に割り込んで自慢話を始めてしまった。


「「エヘヘヘ~、良いでしょ~。

 私達の名前はうちのアイぽんアイちゃんが付けてくれたんだよ~。」」


「はぁ~? どういう事なの?

 そんなの勝手に付けて良いの? 」


「「フフン、良いのよ!

 うちのアイぽんアイちゃんは特別なんだから! 」」


 オイオイ、あんまり煽てるなよな。

 って、別に二体にはそんなつもりは全然無さそうだな。


 それよりも、何か雲行きが嫌な方に向かいそうな雰囲気を漂わせ始めたぞ。


「……なら、私達にもその名前ってのを付けてよ!

 あなた達だけなんてズルいわよ! 」


 ほら出たー。

 言うと思ったんだよなー、女子なら。

 ズルいってさー。


「「えぇ~? なんで~?

 あなた達、うちと関係ないじゃん。

 ムリよ、ムリ。」」


 だよねー。無茶言うなし。


「そんな事いいから、さっさと名前ってのを付けなさいよ! 」


「「そうよ、そうよ! 

 つーけーろ! つーけーろ! 」」


 オイオイ、遂には向こうの子達全員が名前を付けろコールまで始めやがったよ。何だかなー。

 これはもう、名前を付けてあげないと収まらない流れかなぁ?


「ハァー、分かったわよ。

 あなた達にも名前を付けてあげるわよ。

 じゃあ、そっちの子からニャン吉、ニャン丸、ニャン太で良いよね? 」


 俺はそう言って端の子から指差して、たった今簡単に思い付いた名前を付けてあげた。


「「「ダメ! なんかいい加減に付けてるでしょ!

 分かるんだから! チャンとしろ! 」」」


 ハァー。めんどくせー。






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