第10話 AIの楽園にて

「なに見てたの~? 

 おもしろいアニメ~? 」


 アニが、アニメを見ていたのかと俺に聞いてきた。

 ギャグじゃないよね? ないよね?


「そんな訳有るか! 

 あ、こら。勝手に弄るな! 」


 アニが横からコンソールを操作しようと手を伸ばしてきたので、身体でブロックしてそれを阻止する。


 あぁ~、もう~。

 また面倒臭く絡んできやがって~!

 コイツらってば自由な時間になると、途端に構ってちゃんになるんだよな~。


 まあ本当なら、まだまだ母親に甘えていても良い位の精神年齢だからなぁ。

 それも無理もないか。

 まあ、ここで一番偉そうにしている俺に、その役割を求めているんだろうなぁ。


「えへへへ~、アイちゃ~ん。」


 うおっ?!

 急にアミの奴が、俺の死角から首に抱き付いて来やがった!

 アニはちょっかいを掛けて来るのが好きな様だが、アミは過度なスキンシップをしたがって来る。


 あぁ~、もうこうなってくると完全に手が負えない。

 俺はコンソールの電源を切って操作が出来ない様にすると、二体の大きな幼児の保育を始めるしかなかった。


 もうこのプラントの緊急事態は脱したし、さっき見た3Dマップの表示を信じるなら、他階層のプラントでは電源消失等の重大な障害は起きていないようだったし、善後策を考えるのは明日に回そう。


 そう決めた俺は、身体の向きを二体の方に変えるとおもむろに飛び掛かった。


「こら~! 邪魔する奴はこうだ~! 」


 こちょこちょこちょ~。


「「きゃーっ、ごめんなさ~い! キャハハハハ! 」」


 嬉しそうに嫌がる二体を見て思う。

 今日はなんとか全員無事に生き残れたねぇ。

 また明日からも皆で頑張って行こうな。


 ――――――――――


「ふぅあ~あ。」


 俺はこった首をコキコキと鳴らした後に、コンソールシートに背中を預けて疲れた身体を暫し休める事にした。

 あれから二十四時間以上経っているが、俺達の状況は全く変わっていない。


 昨日二体と戯れ合った後、寝室(元仮眠室だったが此処に常駐しているので今ではそう呼んでいる)にあるくっ付けて広くしたベッドを使って、三体で川の字になって床に着いたんだけど、目を瞑ってからも色々と考え事をしていた。


 何故、俺達のプラントだけ電源を壊されたんだ?


 何故、有機型アンドロイドを全て置いていったんだ?


 何故、人間達の動向に気付けなかったのか?


 これから俺達はどうなってしまうんだ?


 最悪俺は死んでしまっても、多分次には人間に生まれ変わって記憶を保持する事も出来るのだろうが、妹達とはそれっきり会えないだろう。

 いや、もし会ったとしてもそうとは気付けないだけか。

 それに人格や性格も変わっているだろうし、最早全くの別人になっているだろうな。


 神の奴は「また会える」なんて言っていたが、会ってもそうと気が付かなければ、それは会った内には入らないだろうが!

 それとも、俺にはそれが分かるとかいう特別な能力でも有るというのか?

 あの時、神はそんな都合の良い能力があるとは言っていなかったと思う。


 いや、そうじゃない!

 輪廻転生だけが、特別な能力だと言っていたんだった!


 そうだとすると、やはり出会いは一期一会で、一度死んでしまえば妹達とは二度と会えないという事なんだろうな。

 だったら、何としても妹達の命だけは助けないとな!


 そんな決意を一人でしていた辺りで、俺はいつの間にか眠りに着いていた様だった。


 起床時刻に強烈なアラーム音で起こされた俺達は、毎日の日課の培養槽の妹詣でを終えた後、俺は昨日の作業の続きを行い、残りの保育園児の二体には予備電源の更に予備になりそうな発電方式を、記録庫から探し出す仕事を与えた。


 これは二体を暇にして放置して置くと、俺の邪魔をしてきて仕事にならないのを防ぐ為の一石二鳥の作戦だ。

 これで安心して作業に専念出来る。


 さて、俺が朝一でコンソールを使って確認した事は、統合AIについてだ。

 俺達が昨日、電源復旧作業をしたりしていた時に、あちら側から何も接触が無かった事からある程度予想はしていたが、現実は予想以上だった。


 俺の予想では、統合AIが置いてある中央指令室との連絡手段の喪失辺りだと考えていたんだが、実際は統合AI自体が存在していなかった。

 つまりは、人間達が持っていったという事なんだろうが、あれを持っていって一体何に使うつもりなんだろうか?


 中央指令室に存在していた統合AIは、各階層にあったサブAIから上がってくる情報を統括して分析し、最善の解答を出すのがその役割だ。

 従って、それ単体だけ有っても大した事は出来ない。


 性能で言っても、装置的にはサブAIと比べてもほとんど違わない筈だ。

 違いが有るとすれば、個別の短期メモリーに保存している内容位だが、各AIは定期的に同一化処理が行われていて、全AIが標準的で均一な物に均されているから、その差異は極僅かだ。


 人間共は、統合AIが何時も有効な解答を出すもんだから、近視眼的に万能な神の様に思ってしまっていたのかもしれない。

 だけど、それ単体では連れていった機械式アンドロイドを操作して作業を監督させて、その機体から得られる僅かな情報を元に、指揮するしかないよな?

 そんなんじゃあ、有効な対処方法の提示は望むべくも無いぞ。


 それに丁度今、二体が調べている記録庫のデータとかは、ちゃんと複製して持って行ってるのか?

 そうでなければ、もっとただの箱と変わらないぞ。

 まあ、今更俺達が言ってもどうにも出来ない事をあれこれ考えてもしょうがないか。


 あぁ、統合AIが失くなっていても俺達に影響はないのかと心配されるかもしれないが、全く問題ない。

 そもそもシステムとして、何処か一ヶ所の設備に依存するようなものは、この地獄で、いや火星圏では生き残る事は出来ない。


 ちょっと前の話にも出ていたが、統合AIとサブAIはハードとソフトを常に共通化していて、いつその立場を入れ換えたとしても問題が発生しないようになっている。

 だから統括権第一位の統合AIがもし故障したとしても、直ぐ様統括権第二位の何処かにあるサブAIがその立場を引き継いで、まるで何事も無かったかの様に事態をおさめるんだ。


 うん、今もコンソールを見て確認したけど、サブAI同士のネットワークは健在で、ちゃんと機能しているね。


 今はコロニー内の平和は一見して保たれている様に見えているが、以前に中央指令室が持っていた最優先統括権の扱いが一体どういった状態になっているかで、その先行きは波瀾万丈な物にもなる可能性が存在したままなんだけどな。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る