第9話 緑の髪の少女達

 アプリに対しての愚痴はこれ位にして、とっとと周辺状況を確認するか。


 素早いキータッチでコンソールを操作し、コロニー内の3Dマップを表示させて、何か今までに無い変化とかが起きていないか見てみるが、特に警報なども発せられていないし問題は何も起きていない様だ。

 という事は、隕石の衝突等という外的要因が電源消失の原因ではないのか。


 そりゃそうか。

 もしそんな事が起きていたとしたら、普通はコロニー全体に警報が出ていて、俺達が居たプラントにも五月蝿く鳴り響いていた筈だからな。


 そこで俺はふと気になって、このプラントが施設されている階層で現在行動している人物のID識別情報を表示させてみたところで驚きすぎて腰を抜かしそうになり、そして意識が一瞬遠のいた。


 そう言えば、なんで俺達は電源消失後に直ぐに統合AIへ連絡を取ろうと思わなかったんだ?

 今、何かが掴め始めてきた様な気がする。


 ああ、話が飛んでしまって悪いな。

 さっき、俺が何に驚いていたかなんだが、それはそこに俺達有機型アンドロイド三体のID識別情報番号が表示されていたからだ。

 すなわち、現在この階層には俺達以外の人間が、何故か一人も居ないって事を証明している。


 俺はこのプラントへの電源を切られた時に、ただプラントだけが不要だと判断されたものだと思っていた。

 だから、プラントの電源を復旧しさえすれば、取り敢えずこの問題は解決すると考えていた。

 だが、事態は俺が思っていたよりも更に深刻なようで、何故か管理していた俺達ごと見捨てられて、ここに置いていかれたのだと思われる。


 えぇ~? ウソだろ~?

 なんで置いていくんだ?

 まだロールアウトしていない妹達ならいざ知らず、俺達三体は別に居ても邪魔にはならないだろ~?


 ああ、いや、そうか。

 統括AIの奴、俺達の事が良く分かっていやがる。


 もし、妹達を廃棄するなんて事を一言でも口走っていたら、俺達三体が反乱してでも抵抗すると予測したんだろう。

 まあ多分、その予測通りになっていただろうし、そこまで行かなくても潜在的な不安要素を抱える事にはなっていたよな。


 待てよ? と言うことはなんだ?

 まだまだ準備が必要だと思っていた火星上への移住は、とっくに実行可能になっていたと言うのか?

 いやいや、それは無いだろう?

 確か前にチラッと見た工程表では、後二年位は準備に時間が掛かると記載されていたと思う。


 確認の為にコンソールを操作して工程表を見てみると、確かにそうなっている。

 うん? 幾つか付随資料というのが参考情報として載ってるな。

 なんかそれが気になって、それらを表示させてみると案の定だった。

 その資料の最後には、本当の工程表がしれっと隠されて記載されていた。


 はぁ、これは見事にしてやられたなぁ。

 しかし俺達に隠した理由や手法はまあ分かったが、そもそも何故行程を早める必要が有ったんだ?

 そりゃ準備が整うのに早いに越した事はないのは分かるけれど、何事も余裕を持って当たらなければ、思わぬ結果を招きかねんぞ?

 何故そんなにも慌てて準備したんだ?

 全く訳が分からないな。

 何か緊急事態な状況でも起こったのか?

 いや、工程表を隠してまで準備をしていた事から、用意周到だったのは間違いないんだからそれは無いな。


 おっと、そう言えば火星への降下には往還機の利用が必須なんだから、この階層の人員が最後だったと言う訳でもないだろうから、他の階層にはまだ人が残ってるんじゃないか?

 さっきのID識別情報を表示させる対象を全コロニー内に変更して調べてみると、俺達以外に人が全く居ないなんて事もなく、各階層にパラパラと存在していることを表していた。


 俺はそれを知って、最悪の状況では無かった事に少しは安堵したが、その異様さにも直ぐに気が付いてしまった。

 それは表示されているID識別情報番号が全て似通っていて、俺達のID識別情報と同類だと簡単に類推出来る文字列だったからだ。

 即ち、コロニー内に残っている人員は全て、有機型アンドロイドだけだったという事になる。


 おいおい、どんだけ俺達は嫌われているんだ?

 何がそこまで気に入らないと言うのか。


 いや、ここまで来たら俺にも薄々だが心当たりが思い浮かんできた。


 前にも言ったが、俺達の容姿は目茶苦茶可愛い。

 性格についても、統合AIに管理監督及び遠隔操作されている時は従順で、素直な良い娘を演じている。

 まあ、休息時間にはそれぞれ個性があってそうでもないんだが、そういう裏側まで知っている奴は凄く少ないだろう。

 唯一知っているのは、統合AIだけだと言われても納得するしかない位だ。


 それに比べて、普通の人員の容姿はそれなりだ。

 逆に悪いとまで言っても怒られない、いや本人達には激怒されるか。


 そんな訳だから、まあ大多数の奴等には嫉妬でもされていたんだろうなぁ。

 だけど、それでもここまでやって完全に排除しようとするかぁ?

 たとえ大多数の人員がそう判断したとしても、子細を見ていた筈の統合AIが合理的判断からみて、それを看過するとも思えないんだがなぁ。

 一体、どういった事があってこんな事が引き起こされたというんだろうか、全く理解が及ばないな。


 俺が一体で難しい顔をしていたのに気付いたからか、培養槽に集っていた二体がいつの間にか近付いて来ていた。


「アイぽ~ん、どうしたの~?

 何かあったの~? 」


 休息時間に俺の事を【アイぽ~ん】なんて呼んで来るのは【アニ】だ。アイぽんて。

 俺はコンソールの表示画面を覗いてくるアニに、ID表示画面を見られる前に他の表示に切り替えておいた。


「赤ちゃん凄く可愛いよ~?

 一緒に見ようよ~、アイちゃ~ん。」


 変わって【アイちゃ~ん】と呼んでくるのは【アミ】だ。

 こんな風に一寸ずつ個性があって違っている。

 て言うか、素体が可愛いのは十分知ってるよ!

 それに赤ちゃんて。もう子供と言ってもいい体格に育っているだろ。

 いや、自分も子供だからそれより小さいと赤ちゃんとしか呼べないのか。


 アミに気を取られていたら、コンソールの画面を覗き込んできたアニの髪が、さらりと前に流れた。

 アニの髪は肩に届く位の長さで、キレイ好きな性格でよくシャワーを浴びているからか、いい匂いが漂った。

 対してアミはボブカットと呼ぶのか、ふんわりと丸っぽい髪型で同じくキレイ好きな感じだ。


 ついでに言っておくと、俺の髪は肩の途中ぐらいまである長髪で先端はパッつんと揃えてあり、前髪もパッつんだ。

 特に気を遣っている訳でもなく、横着して伸ばした結果であって、パッつんなのも面倒臭かったからの選択だ。

 それを作業の邪魔にならないように、ポニーテイル風に後ろで縛っている。


 因みに髪色は全員同じで、薄く緑がかった金髪という有り得ない有り様をしている。

 これもエルフ耳と同じ目的でデザインされた結果だな。






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