第24話 火星芝居の敵役
「ようこそいらっしゃいました、第二次移民団の皆さん。
我々、第一次移民一堂はあなた達を歓迎いたします。」
連絡挺から降りたケイミィが、居並ぶ第二次移民団代表達に向けて挨拶をする。
にっこりと笑った彼女の眼にはカラーコンタクトレンズが装着されており、チャームポイントの縦割れ虹彩は確認出来ず、一般の人類にしか見えない。
ただし、その容貌は除く。
「こちらこそ、我々の移民船へようこそ、ケイミィ=キングさん。
いや~、こんなにも麗しいご婦人が代表代理だったとは、夢にも思いませんでした。
私が移民団団長の【リカルド=グレイ】です。
以後、宜しくお願い致します。」
若い細身の神経質そうな男が、集団から一歩前に出て挨拶を返して来た。
「まあ、お上手です事。
オホホホホ。」
「いえいえ、アハハハハ。」
それぞれの代表者たる二人は、お互いの思惑を計りつつ無難に初会合を果たした。
この後は、それぞれの情報を共有する為の会議を行い、親交を深めるべく何度かの食事会を経て、火星への移住に向けての作業に移って行く。
俺は、連絡挺に同乗した警備兵もどきの体で、全体の様子を俯瞰して観察する。
奴等の統治体制は代表者の一強のようで、他に会話にしゃしゃり出て来る様な人物はいないみたいだ。
こちらとしては今後は一人だけに対応すれば良いのなら、手間が省けて言う事はないので大歓迎だな。
さて、歓迎会等の裏で情報収集目的の潜伏調査員の投入も無事に行えたので、後はこちらのAIを如何に従えられるかだな。
第一次移民が地球を出てから、AIの進歩が飛躍的に進んでいても何もおかしくはない。
そこで、取り敢えず一基でもサンプルを手に入れて、早急に俺達のAIのバージョンアップを行って、土台を同じ高さまで引き上げる必要がある。
そうでないと、思わぬ所で足を掬われるかもしれないからな。
早速ケイミィさんの威力を遺憾無く発揮して戴いて、AIを一基パクって貰わないとならん。
そして、奴等の統合AIに同期を名目としての接続をして乗っ取りを仕掛け、俺達のAIの管理下に置いてからが本当の作戦開始だ。
これは、ある代表会議中の様子だ。
俺は、他の警備兵と共に壁際に突っ立って、会議を盗撮していた。
そして、心の中で突っ込みを入れていた。
「すみません。
私達の代表が、移住計画の概要を既に勝手に決めてしまっていて。
そちらで考えていた方策が宜しいのであれば、こちらで準備していた仮拠点等は、使用されなくても全く構いませんですから。」
(構うよ! 逆張りされたらどうする! )
「いえいえ、とんでもない!
我々の方こそ到着時において、既に移民が可能なまでに整備された仮拠点が頂けるなんて思ってもいませんでしたから、文句なんてこれっぽっちも有りませんよ!
それじゃあ、直ぐにでも仮拠点に移住したいと言う者を、火星に降下させられるという事で良いんですね? 」
(そりゃ文句も無いだろうよ。だけど、お前の存在価値はゼロだな。)
「はい、そうして下さって構いません。
私達が、こちらに初めて訪ねて来た時に使用した連絡挺と同型の大型火星往還機も、既に複数準備出来ておりますのでそれを使って下さい。
ですが以前にも言いましたが、開発開始位置の選定に同意して頂けるという事が前提ですが。」
(そうそう。素直に言うこと聞けよ。)
「はい、分かっています。
もう既に開発がかなり進められている土地に、後から来た者が苦も無く移住すると、お互いにわだかまりが発生して、統治に悪影響が出るという懸念は大いに理解出来る所です。
その事に当初から気付いていて、事前に準備されていたとは素晴らしい慧眼で、感心しきりです。
この事は、代表の方がお一人でお考えになられたのですか? 」
(別にするのは第一陣の人類が壊滅状態だから、会わせられんだけだ。)
「いえ、幹部会義で決められた事です。
私共の代表はそこまで頭が良いという訳では有りませんよ。
ただ、決断力や実行力がずば抜けているというだけです。
あまり持ち上げ過ぎると図に乗ってしまうので、周りの方への喧伝はお控えくださいね。」
(なに言ってんの! もっと俺を
「そうですか。了解しました。
それにしても、この大陸の東西の端から、お互い中央に向けて開発を進めるという案は秀逸ですね。
どちらにとっても、良い事しかない。
それでは、この方針に乗っ取って進めて行きましょう!
今後とも、宜しくお願い致します! 」
(そりゃそうだろうよ。先に取ったもん勝ちなんだからな。)
「はい。お互いにこれから頑張って生きましょう。」
(最後の言葉違ってない? )
今の会議の様子で、俺達の大体の方策は分かって貰えたと思う。
いくら俺達の方針が「強行策、上等」なんて掲げているといっても、毒ガスで全員抹殺なんて事は、出来るけどやらないよ。
別にコイツらに恨みなんて無いしね。
まあ、それはそれとして。
方策の詳しい説明を始めるよー。
先ず前提として、大陸の東西の拠点の一方の西側にある方は、第一陣の人類の生き残りが居る辺りの事だね。
ここ実は廃墟同然の階層が三基、海岸沿いにあるだけで人類はほとんどいないんだけど、パッと見には分からないからね。
そして東側が俺達が新たに準備した、居住だけに特化した拠点群だ。
そう、居住だけだ。
今ある工場や離着陸用プラットホームは移動式で、臨時に持って来ているだけで、時期が来たら俺達の拠点に帰還させる予定だ。
ああ、俺達の拠点はこの大陸ダストンとは別の大陸ヘルシングにあり、距離的にはそれぞれ火星の円周の三分の一ほど離れているので、近代的な移動手段がないと到底辿り着けないよ。
彼等には、生きられるだけの設備を与えて自力で文明の維持、発展を成し遂げてもらうつもりだ。
まあ優秀な技術者なんかはいないだろうから、数世代も時間が経てば言語は兎も角、生活水準なんかは格段に落ちて、ともすれば近世、悪ければ中世にまで文明が衰退してしまうかもしれないけどな。
うん? 地球の勢力が、そんな事を放って置く訳がないって?
そりゃそうだろうが、それはその情報が相手に届いてから初めて起こる話だ。
だから俺達は奴等に通信設備等は一切与えないし、開発する道具なんかも原始的な物しか用意しないよ。
やりたければ自分達で、もう一度科学技術を発展させて作ってくれ。
俺達はそこまで邪魔するつもりも、興味も無いから好きにしてもらって構わないよ。
そして暫くの間は、地球側には開発が一進一退を繰り広げる長編ドキュメンタリー風映画でも作って見せてやれば、それによって一喜一憂して楽しい時間を送れるんじゃないかな。
まあそうなるには、先ずは第二陣の人類を全員、火星に降ろせるかどうかに掛かっていて、今から始まるその作戦の成果次第でもあるけれどね。
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