第23話 愚者と竜の逆鱗
今まで、地球からの連絡が一度も無かったのは変だと疑問に感じている節もあるだろうが、それには勿論理由がある。
先ず、俺達が捨てられた時、コロニーには外部との通信手段が一切無かった。
そう、火星に降りた人類は俺達と接触する気が微塵も無かったという事だ。
奴等は、地球との通信手段を全て火星に持って行って、俺達の都合等は見向きもしていなかったんだ。
じゃあ、今はどうして通信出来ているのかと言えば、俺達も火星にいる仲間との連絡手段が当然必要なので、指向性のアンテナを火星に向けていたんだけど、それに偶然電波が届いたりしたみたいだ。
運が良いのか悪いのか判断もつかないがな。
話を戻そう。
奴等の予定では、火星上から地球との交信が十分に行えるものと思っていたんだろう。
だがそれは、今までに分かっている様に失敗続きで、その手段は失われてしまっていた。
そう考える根拠は、今来ている交信要請という形の通信の概要からでも推測できる。
もし、通信が出来る環境だったのなら、自分達の現在の危機的状況を伝えていない筈はないし、向こうが聞きたい事もどのような支援が必要なのかという類いの緊急性のあるものじゃないとおかしいだろう。
これらに該当していない事から地球との通信が出来ていないものと判断したが、僅かな可能性としては自分達の不手際の責任を取りたくなくて、連絡を取っていなかったという事もあるかもしれないが、その確率は微々たる物だろう。
いや、そうでもないか?
わざわざ自分の失敗を報告しても、直ぐに助けが来る訳でもないし、たとえ通信越しだとしても叱責されるというのは、到底気分が良いものでもないという事を俺はよく知っているしな。遠い目。
まあ取り敢えず、通信が出来ない状況だと仮定して対応を進めよう。
それに、地球からの交信要請が来ているのに、返事を返さないままというのも少々不味いだろう。
そこでAIに地球からの通信内容を聞くと、画像を一方的に送り付けるメールだったようだ。
内容については、秘匿性が高いものだった場合に備えて、閲覧許可が出されていない状態なので、まだ確認出来ていないと言う。
俺もその可能性を考えていなかったし、そもそも有機型アンドロイド達には対応が出来ないだろうから、自分一人でそれを確認する事にした。
俺は会議室から一人で司令室に移動し、メールの画像を再生してみた。
「移民団団長!
経過報告が途中から届かなくなっているのは、一体どういう事だね!
報告義務も、契約内容にちゃんと含まれていただろう!
君は地球にいた頃からいい加減な性格をしていたが、心を入れ替えたと言っていたのは、あれは嘘だったのかね!
くどくどグチグチ…………、
…………、
…………兎に角、今後は定期的に報告を上げるように!
あ、後第二陣の移民船が地球を出発したから、そちらに着く前に受け入れ準備を完了しておいてくれたまえ。
頼んだぞ。」
再生された画像を見てみると、見知らぬオッサンが一人で喋っていて、その内容は経過報告が来なくなった事に対する苦情と、最後に移住希望者の第二陣の出発を告げるというものだった。
オイオイ、嘘だろ。
そりゃ火星移住計画が一度だけな筈がないのは分かってはいたけれども、こんなに間隔を空けずに送って来るとは全然予想もしていなかった。
あるとしても、最低でも第一次移住者が火星に順調に降りられて、拠点なんかの設営が上手く行ってからになるものと思っていた。
っていうか、今俺達がその状態じゃないか?!
ああっ! 俺は馬鹿か?!
そうだよ! 火星には以前から観察用の衛星とかが幾つも打ち上げられていて、俺達の行ってきた事は地球の奴等に全部見られていたんだ!
どうする? 今更だが、全ての偵察衛星を破壊するか?
そうだな。やっておいた方が今後の為にも良いだろうな。
だが、表だって俺達が壊しまくってるのを知られるのも不味いよな。
どうするか。これはなにか良い方法がないか、詳しく調べてから考えるか。
それよりも第二次移住者の方が問題だ。
画像メールの話を統合すると、どうやら奴等は俺達有機型アンドロイドだけが移住を成功させていると言う事実には、全く気が付いていないみたいだ。
そりゃそうだろう。
人類達が俺達を捨てて火星に降りて行くなんて事は、当初の計画には欠片も無かった事なんだから、そんなのは想定外だろうしな。
まあ地球側の連中の入手した情報の範囲では、失敗は幾度か有ったものの、地表に拠点の設営も済んで計画は順調に進んでいる様に見えていたんだろう。
だから火星移住計画に対しては、大きな改善をしなくても良いと判断して、同じ手法を踏襲すれば問題は無いとして、第二陣の準備にも時間が掛からなかったんだな。
そして今回、念の為にこちらにも第二陣出発の連絡をして来たということか。
そいつらが火星に着くまでには、俺達と同じ時間が掛かるとしても四年位か。
地球との位置関係によってはもう少し前後しそうだが、そんなに時間は残されていないな。
今は俺達の取るべき態度をどうするかを早急に決めて、その準備を始めなければならない。
わざわざ俺達に重要情報を教えてくれた奴には、聞き心地の良い欺瞞情報でも送ってやって、暫く良い気分にさせて置いてやろう。
そして俺達は全アンドロイドによる全体会議を行って、取り得る態度を決定した。
それには思ったよりも時間が掛かり、全体の意識を共通化するのにも手間が掛かった。
その理由は、第一ロットのアンドロイド達が異様に人類を恐れて、抵抗する事なく全てを受け入れようという姿勢の者が多かったからだ。
ただし、その中でも家族を持っていた者達は、その存在が人類に受け入れられない可能性を示すとその意見を覆して、徹底抗戦を主張するように変化したが。
まあ、ねえ。
自分達は兎も角、愛する我が子が物の様に扱われるとしたら、そりゃ激怒もするよね。
かくいう俺とシロちゃんもその仲間だ。
そんな訳で俺達の反抗作戦【
因みに作戦名は、親バカケイミィの怒り様から付けられたのは公然の秘密だ。
それからは、たまに来るメールに適当に返事を送りつつ、疑われないように徐々に偵察衛星を無力化して行きながら、作戦の準備に明け暮れた。
準備の内容は大型の火星往還機を複数用意したり、住居用の階層を降下させたり、離着陸用プラットホームを移動させたり、最後の手段用にレーザー銃なんかの武器も多数作製した。
必要な資材は後の事を考えないで、全てを使いきる感じで用意した。
この作戦が上手く行かなかったら、元も子も無いので全力投球だ。
後は、第二次移住船兼短期型コロニーが到着するのを待つだけになって、漸くこちらでも相手が視認できる距離まで近付いて来たのが分かった。
さて、ここは頭の回転が速くて口の上手いケイミィさんの威力を、存分に発揮して貰いましょうかねぇ。
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