第22話 遠き者からの声
失敗の原因は、大気圏突入時から階層の姿勢を水平にしていたせいで階層全体が高温になってしまった為に、大量に積んでいたイオンエンジン用の燃料がタンクから漏れて、それに引火して爆発が引き起こされたものと判明した。
前回の【硬貨投入】では、階層は大気圏突入時から垂直に近い姿勢であった為に、円周外縁部しか高温に晒されなかった事から、今回の様な結果にはならなかったんだろう。
これは、外縁部を補強する資材と姿勢制御用の燃料をケチった為に引き起こされたもので、過失などではなく怠慢が主な原因だ。
だけどなぁ。俺達ってば生まれたばかりのひよっこで、そんな責任なんてものとは縁もゆかりもない有機型アンドロイドだぞ?
そう言うのは製造者責任がある人類が取るって事で昔から決まってるんだから、なんで俺は今床に正座させられているんだろうか? 解せぬ。
現在、ケイミィさんが激おこである。
わざわざ、俺の居る階層まで出張って来ての叱責である。
損失は階層一つと、AI一基、工場用機械各種、大量の燃料と資材等が挙げられるが、どれも俺達にとっては大変重要な物資だ。
そんな事は言われなくても、痛い程に分かってるよ?
だけど言い訳させて貰うと、今行っている事は全てが初めての案件で、参考に出来る様な事などは過去にも存在していないんだ。
それを手探りでここまで成し遂げているんだから、本当ならもっと誉めてくれても良いと思うんだよ。
そこら辺をもう少し勘案してくれませんか、ケイミィさん?
いや、ケイミィ自信も俺と同じでひよっこだって言うのは分かってるし、その外見から求められている役割をただ演じているだけだって言うのも理解出来るけれど、もう少し穏やかな感じで行こうよ? ダメかな?
俺の煙に巻く説得で、なんとかケイミィの怒りを無事に回避できた。ふぅ~、やれやれだ。
でも実際には新しい事をやる時には、もっと慎重に事を進めるべきだったのは言い訳も出来ない事実であるし、前回の思わぬ大成功に浮かれてしまっていたと言うのも有るだろう。
今後の作戦は、もっと慎重に慎重を重ねて進めていく必要がある。
俺達には、立ち止まっている暇などは微塵も無いのだから!
ケイミィの眼前で、新たな決意表明を高らかに行った俺はそそくさとその場を離れて、アオちゃん達の待つ楽園に引き揚げた。
え~ん、アオちゃ~ん。
ケイミィに苛められたよ~。なにか道具を出してよ~。
アオちゃんを抱き締めて、頬をすりすりして癒される。
うん! これで明日からも頑張れるよ!
アオちゃんのお陰で鋭気を養った俺は、再度精力的に階層降下作戦に力を注いだ。
今回の失敗を何時までも引き摺っている訳にも行かないし、俺達が持つ火星移住を成し遂げるという大望を貫きたいという信念の発露でもあったしね。
その後、暫く時間を空けて行われた二度目の工場階層の降下は、無難に成功実績のある【硬貨投入】方式を採用して無事に成し遂げられた。
あと、確実に遂行して置かないと行けない案件は、居住用階層を最低一つ降下させる事なので、それも同じく【硬貨投入】方式を使う事にしている。
それが達成出来たら後は取り敢えずは余剰分なので、その時々の要請に応じて対応していけば良いだろう。
俺達の火星移住計画は一定程度の進捗状況を達成した事によって、新たな段階を迎えようとしていた。
あれから時は進んで、現在は海岸周辺に一時拠点を作り、更に内陸部に大規模拠点を作る準備をしている。
そんな手間を掛けずに、一時拠点をそのまま大きくすれば良いんじゃないかと思うかもしれないが、今後更に階層を降下するかもしれない時に失敗して大津波とかが起こったら、折角上手く機能している一時拠点に被害が出かねないからやめたんだよ。
やっぱり、こんな事も有ろうかとの心構えが大事だよね。
ところで、今まで火星表面の事を詳しく説明して来なかったから、ここでして置こうか。
大分前に、火星の海に意図していない植物型微生物が発生していたと説明していたと思うが、現在もそれは遠浅の海岸線を中心に繁茂していて、毬藻状の集合体を成している場合も有る。
そこから分かる様に、火星上での植物の繁殖は期待出来るとして人類の移住に先立って、色々な植物の種子や菌類等を地球から多数ロケットで持ち込んで、火星全体に撒き散らしたりしていた。
まあその大部分は、気候や土壌が生育に合わなかったからか上手く行かなかったが、繁殖力の高い数種類が海岸線や平地、湖沼等で大量発生している。
後は、大型の樹木等が大地を覆えば土壌の流出や崩壊を抑えられて、一気に開発がし易くなるものと思われるが、それにはまだまだ時間が必要だ。
それに加えて、動物型微生物を増殖して海に撒いて増やし、いずれは魚や動物をも解き放したいとも思っているが、それには何十年、何百年という年月が掛かっても不思議ではないだろう。
だから、俺ことアイが生きている内には実現出来ないかも知れないが、アオちゃんが生きている内にはその夢が叶っていれば言うこと無いんだけどなぁ。
まあ、あまり期待せずに頑張って行こう。
因みに魚類や動物等を増やすのは、俺達有機型アンドロイドと同じで培養槽を使って行う。
だから最後の手段を取らなければならなくなったなら、大型培養槽でも作ってそれらを無限に産み出し続けて、火星を蹂躙するって言うのも有りかも知れないね。
まあ、そんな狂ったような事には多分ならないんだろうけれど、可能性はゼロではないから。
これ、フラグじゃないよね?
穏やかな時が過ぎていく。
開発も順調で、無理な方策等も行わないから、大きな失敗や障害も起きていない。
このまま時間さえ掛ければ、俺達に運命付けられた使命は達成出来ると思われていた。
そんな時に、ある報告が俺達司令部にあるAIから上がって来た。
それは、地球にいる火星移住計画立案者達からの経過報告の催促の通信だった。
今まで、地球側からそんな通信など一度も来ていなかったので、俺は最初は何を言っているのか分からなかったくらいだ。
その時はちょうど幹部連中と会議をしていた所だったので、周りには他の奴等が数人居たんだが、その報告を聞いた途端に急に呆けたようになってしまった。
そして、その状態は暫く続き、その後行う予定だった仕事は全て中止しなければならなくなった。
その時俺は、有機型アンドロイドがこんなにも人間に強力に支配されるように作られていたという事を実感して、凄まじく困惑していた。
そして、この呪いは果たして解く事が可能なのかと考え始めていた。
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