第25話 天の一撃と災い

 突然、ズーーンという爆発音とも衝撃音とも言えない音が聞こえてから、急に横方向に向けての重力が発生して、私こと移民団団長【リカルド=グレイ】はよろめいて壁際に押しやられた。


「何だ?! どうした?! 統合AI、詳細を知らせろ! 」


 私が腕にはめた腕輪型携帯通信機に声を掛けると同時に、船内放送が鳴り始めた。


『ファンホァン、警告、ファンホァン、警告。』


 今まで聞いた事が無い船内放送が大音量で響き渡り、周囲に居た職員達が動揺するのが分かった。

 私はもう一度、通信機に話し掛けようとした所で、逆に誰かから接続要請が入っている事に気が付いて、先にそちらを優先する事にして通話を許可した。


「移民団団長! ご無事ですか?! 」


 相手は第一次移民団代表代理のケイミィ=キング女史だった。

 彼女は相当慌てている様で、寝巻き姿なのか際どい姿を晒していた。


「はい! 大丈夫です! ですが、まだ現在起こっている事の詳細は判明していません。」


「そうなんですか? では、私共が今掴んでいる情報をお教えしましょうか? 」


「あ、はい。お願いします。」


「私達が確認している情報は――――、――――。」


 彼女が教えてくれた事実は、驚愕すべき内容だった。


 時系列順に語って行くと、少数の隕石群が我がコロニーの近傍を通過するというのは少し前から判明していたが、特に危険ではないと判断していたという。

 その情報はこちらのコロニーにも連絡されていたが、私も楽観視していた事だ。


 だが、その隕石の内の一つが何かの弾みで軌道を大きく変えて、我がコロニーのイオンエンジン付近に衝突、爆発事故を起こしたらしい。

 更に、外部から見た限りでは何故かイオンエンジンが全基稼働し、コロニーが移動をし始めたらしい。


 それでか! この横からの重力は!


 現在の異常事態の発生原因は大体分かったが、まだ事態が終息した訳ではない。

 むしろ、これからだ。


 このままだとこのコロニーは火星周回軌道から外れて、良くて火星から遠ざかり、悪ければ火星に墜落してしまう!

 今は、なにをおいても直ちにイオンエンジンを止めなければならない!


 私は、再度統合AIに事故の詳細を確認して、イオンエンジンが稼働中なら直ぐ様停止させるように命令した。

 だが、統合AIからの返答は残念極まりないものだった。


 イオンエンジンが稼働開始時には一旦は全てのエンジンが稼働していたが、統合AIからの停止命令によって大部分がそれに従って停止した。

 そう、大部分はだ。


 現在は、隕石が衝突した付近のエンジンは相変わらず稼働し続けていて、僅かながら加速もしている状態だという。


 なぜエンジンが止められないのかという疑問に対しての返答は、エンジンへの命令系統が衝突の余波によって破壊された為らしい。


 また、燃料の供給を止められないかという命令には、エンジン自体がブロック構造をしていて、それぞれ独立した燃料タンクを有している為にそれも出来ないと。


 それじゃあ、その不良エンジンをブロックごとを切り離せないか確認したが、それも命令系統の不具合で無理だと言う。


 もうこうなったら、エンジンのある階層ごと排除できないかという提案には、そうするとコロニーの移動を停止させられなくなると返ってくる。


 それならば、前後を入れ替えるように回転させられないかと聞けば、現在加速中なので大きな周回軌道を開始するだけで、停止には結び付かないと言う。


 ならば、外部から往還機かなんかで攻撃をくわえたら、エンジンを破壊出来るんじゃないかと問えば、そんな装備は往還機には積んでいないし、武器自体が存在しないと言われた。


 後は根本に戻って、なんとか修理は出来ないのかと最後の確認をすると、最低でもエンジンを止めないと危険で近づく事も出来ないらしい。


 居合わせた職員数人と、色々な案を出してみたが全てが否定された。


 もうこのままエンジンの燃料が尽きるまで、何も手出しが出来ないのかと諦めかけていると、この後の軌道を確かめていた職員から、最悪の結果がもたらされた。

 このままだと、火星の衛星フォボスと衝突するか、それが避けられても火星に落下する可能性が高いと言う。


 わずかな可能性として、フォボスの火星側表面をギリギリで通過する事で、極小のスイングバイの効果によって火星から離れる軌道が取れるかもしれないという結果が出た。


 だが、どちらにしても大きな賭けとなり、針の穴を通すような操作が必要になるだろう。

 もしそれに失敗すれば、最低でもコロニーは粉砕消滅、火星上の拠点にも影響が出るかもしれない。


 まあ、なにをするにしても、このコロニーから住人は全員退去させなければならない。

 行き先は第一陣のコロニーか火星の拠点しかないが、我がコロニーは火星に近づき過ぎていて往還機は重力圏から脱する程の推力が得られない性能なので、火星の拠点に降りるしか方法はないようだ。


 そこまで議論が進んだ所で、件のコロニーのケイミィ女史から通信が入った。


「団長さん。

 状況はそちらの統合AIからの情報共有で分かっています。

 今、使える往還機を全機、そちらに向かわせています。

 乗船定員を無視して、住人を出来るだけ詰め込めば、なんとか全員が避難出来るでしょう。

 コロニーを火星に落とさないようにする為の繊細な操作は、我々が編成した特別対策班が受け持ちますから、お気遣い無く全員避難してください。」


「えっ?

 それは大変有り難い申し出ですが、そちらにばかり負担をお掛けする事になってしまいますが、それで良いんですか? 」


「ええ。

 私達には、既に何度も危機的状況を回避して来た実績が有ります。

 その為の特別対策班も、以前から編成済みで直ぐに出動が可能ですが、そちらはそういった部隊をまだ持っていらっしゃらないのは存じています。

 ですから、効率的に言ってこれが最善の策だと提案いたします。」


「…………、分かりました。

 申し訳ないですが、そちらに全てお任せします。」


「はいっ。

 任されましたっ。

 ではその様にっ。」


 そう言って通信は切られたが、なんだか最後の方で嬉しがっているような雰囲気がわずかにしたが、多分気のせいだろう。

 緊急措置を全権委任された事を、名誉に感じたかなんかだとは思うが、それがちょっとだけ気に掛かったが、全住人の避難を指揮する内にそんな細かい事はどこかに行ってしまった。




 ここは、第二次移民船兼短期型コロニーの火星往還機搭乗口だ。

 現在俺は、そこで案内係を担当していた。


「は~い、こちらまだ乗れますよ~。

 乗った人は、ドンドン奥に詰めてくださ~い。

 席に座れなかった人は、天井にある吊革をしっかり握っててくださいね~。

 は~い、こちら一杯までご乗船されましたので扉を閉めま~す。

 それでは良い旅を~。」


 火星往還機は最後の住人達を乗せて、コロニーから発進した。

 後はここの職員達を送り出せば、作戦の九割を達成したと言えよう。


 うん? 作戦ってなんの事かって?

 ここで言う作戦っていうのはもちろん、第二陣コロニー奪取作戦【四月一日エイプリルフール】の事だ!


 アーッハッハッハッハ! イェイ!





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