第26話 発着場内での乱

 イェーイ! ダーマサーレター! アーッハッハッハッハ!


 俺は、【ドッキリ大成功】と書かれた看板を持ち、ヘルメットを被った格好で騒ぎ出したい気分だったが、まだ全てが終わった訳ではないと、再度気を引き締めた。

 そうだ。まだここの運営陣が少数だが残っているんだ。

 喜ぶのは、そいつらを追い出してからにしよう。

 そのそいつらというのは、このコロニーの各階層の責任者で、総数では五十人に届かないくらいだな。


 今回の事件が無事に終息した後、コロニーに帰還出来た時の為に、戸締まり宜しく他者に侵入されないよう鍵を掛ける必要が有ったんだけど、俺達が後でゆっくり美味しく頂くからあまり意味は無い。

 まあ、解除にはちょっと手間が余計に掛かる程度なんだから、好きにしてくれても良いんだけどね。


 さて、そんな事を考えていたら、件の人物達が代表のリカルドを先頭にしてゾロゾロと現れた。

 ここ、往還機発着場は一応は与圧をされているが、壁一枚向こう側は宇宙空間だというのに、こいつらは皆気密服というのを着ていない。

 まあ、全員が着られる数は無いから、仕方がないとも言えるのかもしれんが、政治の中枢を担っている者達くらいは、念の為に着ていても良いと思うんだけど、歪な平等主義というものは全く愚かだねえ。


 それに対して、避難誘導をしている俺達特務隊員十人程は、全員が気密服にヘルメット姿で、ヘルメットのバイザーは表情が確認しにくいマジックミラー仕様だ。

 会話時や任意の時に、ヘルメット内部のライトが点いて、その時だけ表情が見える仕組みになっている。

 だから今、多分仲間達の顔は小馬鹿にしたようなニヤケ面をさらしてるんじゃないかな。見えないけど。


 最後の往還機に乗り込もうとやって来た人間達に、通信モニター上のケイミィが労りの声を掛けた。


「皆さん、お疲れ様です。

 皆さんが出発次第、私達の特務隊がコロニーの軌道制御に取り掛かり、何としても無事にお返し出来るように奮闘致します。

 ですが、万が一の事が起こらないとも限りません。

 是非皆さんも作戦の成功を祈っていて下さい。

 では一旦、火星上の往還機発着場まで移動していて下さい。」


 ケイミィが、お前らとっととどっか行けよって感じで人間達を送り出そうと声を掛けたが、どうやら事はそう簡単には進まない様で、代表のリカルドが異論を唱えてきた。


「その事なんですが、この場にいる者達で緊急に話し合った結果なんですが、我々もが火星上に降りなくても良いんじゃないかと思うのです。

 一度重力圏に降りてしまうと、戻った時の体調管理が面倒になるものと予想されますし、手間も余計に掛かるんじゃないかと。

 ここは一つ、そちらのコロニーに一次的にお世話になる訳には行かないでしょうか?

 ここにいる少数なら、そんなにお邪魔にはならないと思うのですが。

 どうでしょうか、ケイミィ女子。」


 オイオイ、中々小癪な対抗策を引っ張り出して来たな。

 コロニー内の全員避難が必要だったから、大分時間的に余裕が出来て、少し冷静になった奴もいたようだな。


 まあ普通ならその案を採用するのが妥当なんだろうが、俺達のコロニー内には有機型アンドロイドしか存在していないって事は秘密なんだよ。

 それがバレたら、俺達はたちまち人間達の奴隷に逆戻りだ。

 そんな事は、当然看過できる様なことではないから却下だな。

 そしてそんな事態も有ろうかと、対策等もちゃんと準備は出来ているけどね。


 俺は小声で、統括AIに対して【プランC】の発動を要請した。

 ここで言う【プランC】とは、人間の強制退去の作戦名だ。

(ちなみに【プランB】は人間の殲滅だったりする。方法は色々有る。)


 すると、間髪入れずにコロニーに鈍い衝撃と音が伝わって来て、次いで周囲に警告音が鳴り響いた。


『ファンホァン、警告、ファンホァン、警告。

 エンジン付近で新たな爆発が発生しました。

 至急、対応が必要です。速やかに実行して下さい。』


 俺はヘルメットの外部スピーカーの音量を最大にして、周囲に指示を出す。


「至急、特務隊は所定の作業対応を開始せよ!

 最優先事項だ!

 代表殿達は、取り敢えず往還機内に避難をお願いします!

 ここでも何時、気密漏れが起こってもおかしく有りません!

 さあ、こちらへ!」


 俺が有無を言わさぬ態度で誘導すると、全員命が惜しいのか我先にとハッチを潜っていく。


 ククク、あの慌てきった顔ったらないね。


 特務隊の方は、素早くコロニー側の気密室を抜けて中に入って行った。

 俺は代表団全員が往還機に乗ったのを確認すると、ハッチを閉めるように機外コンソールから往還機のAIに指示を出そうと振り向いたら、機内からリカルドが出て来て急に文句を言ってきた。


「おい! 機内に誰かそちらの人員は乗らないのか?!

 外との連絡はどうしたら良いんだ?!」


「取り敢えずの避難なので、しばらくはそのままお待ち下さい!

 状況が判明次第、対応を取りますので!」


 これは真っ赤な嘘で、あーだこうだと理由を付けてコロニー外に排出予定だけどね。

 大人しく言うこと聞けよなと思いながら、リカルドを機内に押し込めようとすると、逆に俺の腕を掴んできた。


「おい! お前で良い! 一緒に乗れ!」


 やれやれ、無茶言ってんじゃないよ。

 俺は特務隊なんだぞ。

 そんなに暇じゃないってのが分からんのかねぇ。


 俺はあきれ返って、もう知らんと突き飛ばしたら、リカルドは急に右手を俺に向けてきた。

 何の真似だとその手を良く見たら、どうやら拳銃っぽいものをこちらに向けているようだ。

 しかも、質量弾を発射するタイプみたいだな。

 材質は樹脂製のようで、3Dプリンターででも作ったんじゃないかと思われる。


 お察しの様に、射撃精度なんかは無いも同然で、取り敢えず弾が前に飛ぶよって位の物だが、如何せんここは往還機発着場だ。

 ちょっとした事で気密漏れが起こるかもしれない所で、ヤバイのは気密服を来てないそっちの方だぞ。

 一体、こいつは何を考えているんだ?

 人間には頭がおかしいのがたまにいて相手にもならんな。


 ところで、こんな非常事態の最中でなんだが、ちょっとコロニーでの武器の取り扱いについて話しをして置こうかと思う。


 基本的に、コロニー内には銃器は置いていない。

 というか、誰に向かってそんな物を使う気だ?

 宇宙人でも攻めて来てるのか?


 そもそも、コロニー内では皆で助け合って生きて行かなくてはならないのに、対立し合ってどうすると言うのか。

 全く話にもならんな。


 え? 今の状況はなんなんだって?

 これは別のコロニー同士の対立だからなぁ。ノーカンノーカン。


 だからコロニーには銃器は無いし弾丸も無い筈なんだけど、さてはコイツ密輸したな。

 まあ、銃弾数発くらいならいくらでも誤魔化せるか。

 代表をするくらいだから、自決権を持って置きたいってのも有るのかもしれないが、質量弾はなぁ。

 もし変なところで暴発でもしていたら、即大事故だぞ。

 持つにしても、レーザー銃くらいにしておけよな。ホントに。


 まあ何にしても、こんなところで発砲でもされたら洒落にもならん。

 俺は両手を上に挙げて、取り敢えずの降参の意を示すのだった。





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