第27話 元老院議会開会
俺はヘルメット内でリカルドを睨みながら考えていた。
コイツってば拳銃なんかを取り出してしまって、この後一体どうやって決着を付けるつもりなんだ?
この事は、到底無かったということにはならんぞ。
一時の気の迷いでしたでは言い訳にもならない。
俺がハッチを潜った後、リカルドは内部コンソールから機内AIにハッチ閉鎖の指示を出していた。
ハッチが閉まって、気密状態を示している表示が赤から緑に変わった事で、機内の全員がホッと安堵した空気を醸し出した。
だが、一部の人間は俺を無理矢理に機内に引き込んだ事によって、リカルドの行動に疑念を感じている様で、顔をしかめている者もいる。
そうだよなぁ。なんでこんな強行策を取ったのか、全く理解出来ないよなぁ。かくいう俺もそうだ。
ちゃんと説明してくれるんだよな、リカルドさんよぅ。
リカルドは集団の中心に俺を押し込みながら、自分もそれに続いて進み出る。
そして全員の注目を浴びながら、この状況の説明を始め出した。
「皆、俺の話を取り敢えず聞いてくれないか? 」
「ああ、分かった。君の話を聞いてから対応を協議しようじゃないか。
皆もそれで良いな? 」
リカルドの問い掛けに応えるように、一人の老齢の男が集団から進み出て彼と対話を始めるようだ。
男の年齢はリカルドとは親子ほども離れている様に見えて、移民団の中では珍しい部類に入る。
ところで、前にもチラッと言ったかもしれないが、火星に移住しようとなんて考える奴は、大抵は地球で浮いてるような奴と貧乏人くらいだ。
だからその年齢層も高くて四十代で、若いのは二十代半ばから上だ。
そして基本的に十代の子供はいない事になっている。
その訳は、主に人権的な理由からでだな。
まあ、家族での移住といった例外も存在はするが、
逆に、老人が移民団に居る事は、例外としても有り得ない部類だと言えるだろう。
先ず前提として、そんな年寄りを火星に連れて行って、一体どうしようと言うのか。
年寄りは直ぐに身体の自由が利かなくなるし、病にも掛かりやすくなる。
火星やコロニーでバリバリ働いて欲しいのに、そんな不安要素を抱えた人材を
たまに、年寄りの思慮深い知恵が必要だとか言う戯言を吐く者がいるが、こと宇宙に関してはそれは全く当てはまらない。
宇宙というフロンティアは、若く柔軟な思考の持ち主にしか開かれていないからだ。
年寄りも、死ぬ間際になってから宇宙という過酷な環境で生きていかなければならない境遇を、自ら進んで受け入れられる精神力を持つ者なども、滅多にいないだろうし。
であるからして、今ここにいる老人もかなりの変わり者で、何かしらの秘めた使命でも背負っているのかもしれないが、俺の見た感じだとただのモブっぽいジジイに過ぎない。
まあ、言うても買い被りだろうね。
俺が変な妄想をしている内に、話し合いは始まっていたみたいだ。
「違和感は初めから感じていたんだ。
先ず、先行移民団の代表を女性が務めていた事からしてだな。
俺達の面子を見ても分かるように、代表をしているのは大体が男だ。
女性の代表なんて滅多にいないだろう。」
「ああ、なるほどな。そこは私も気になっていた所だ。
だがまあ、差別的な考えにならないようにと、敢えて無視して来た部分でもある。」
その言葉に周囲の者も頷いていた。
「俺も最初は、火星上にいる部隊が労働力的に男性を必要としていて、区分されていると思っていた。
だが、後になって分かったように、火星上の代表も女性だった。」
そうだねぇ。ゼシカが火星の拠点の代表なのは、ちょっと不味かったかもねぇ。
見た目もあんなで、お子様にしか見えないもんねぇ。
「男性も居ない訳じゃないのは分かっていたが、総じて若い。
いや、若い奴しか居ない。」
「そこも変だとは感じていたが、雑事を分担するのは若い奴だと言われれば、何とも口を挟む余地はないぞ。」
コイツらも良く見てるねぇ。見てただけだけどねぇ。
「その通りだ。
だが、違和感を覚えた俺は、第一陣移民団の代表者名簿の資料を地球から取り寄せて、その名前が一人も現行の代表団にいないことまでは突き止めてはいたんだ。
しかし、それはあちらの内部事情であって、こちらに直ちに影響するような事でも無かったので、調査はそこまでだったんだが。」
「うん? リカルド、君は一体何が言いたいんだ?
はっきり言ってくれないと、皆も分からないぞ? 」
周りで話を聞いている者達も訝しげな様子だ。
「それじゃあ、俺の考えを言いましょう。
彼等は何らかの理由で、旧体制と対立か若しくは既に排除してしまっているんだろうと。」
リカルドはそう言うと、俺の方を観察するようにジロッと目を向けてきた。
オイオイ、酷い言い掛かりだな。
逆だよ、逆。俺達の方が排除されたんだよ。
でもまあ、コイツらには少しも信用されないだろうけどねぇ。
全くもって悲しいねぇ。
「そうか。
君の推測は多分、的を射ているんだろう。
彼女から動揺などが一切、感じられない事からもそれが伺えるしな。」
老人も俺をチラ見してから、再度リカルドへと向き直る。
「それで、それが今回の人質事件へと、どう繋がるのだね? 」
リカルドはその言葉を受けて一つ頷くと、周りを見回してから大上段から結論を打ち撒けた。
「我々は騙されている!! 」
辺りがシーンとする。
「我々は彼女等に騙されている!! 」
大事な事なので、二度言いました~ってか?
「これまで言ってきたように、彼女達は嘘が上手い!
まるで息を吐くように、嘘を吐いていると言っても過言ではないだろう! 」
オイオイ、酷い言われようだな。
まあ、その通りなんだけれども!
「それで何を騙されているんだ? 」
「全てだ! 今回の事故、いや事件の最初から最後までの全てをだ! 」
「はぁ? 君は何を言ってるんだ?
現にコロニーは爆発、暴走しているじゃないか。」
「いや、それはそう思い込まされているだけで、誰も実際の事故現場などを見た訳ではないんです!
コロニーも端から見ればただエンジンが稼働していて、移動しているだけじゃないですか! 」
老人は、暫し考えに沈んでいたようだが、頭を上げるとキッとした目付きで俺の方を睨み付けてから、ゆっくりと言葉を発した。
「なるほど。
リカルドの言っている事に対して、間違っていると反論できる部分は見受けられないようだな。
だが、何故そんな嘘を吐いてまでして、事故を装っているんだ?
そもそも、彼女等の目的は一体何だと言うんだ? 」
「そうですね。
これまでの経緯から推測すると、我々全員をこのコロニーから排除する事か、若しくは最終的に抹殺する事ではないかと思われます。
現在でも、既に火星上に降りた住民達の生殺与奪権を握られているのと変わらない状態とも言えますし。」
リカルドの言う危機的状況の説明に、周りの代表者達が息を飲む音がそこかしこで聞こえる。
いやいや、幾ら何でも俺達もそこまで鬼畜って訳じゃないよ!
そんな事をするくらいだったら、もっと簡単に手間を掛けずに皆殺しにする手段なんて、幾らでも有るんだからね!
例えて言えば、コロニーから空気を抜く、二酸化炭素を回収しない、暖房を切る等、宇宙ではちょっと手を抜くだけで直ぐ殺せるんだから!
今まで黙って話し合いを聞いていた俺だったが、殺人者集団の汚名を着せられる事は到底我慢出来なかったので、一言文句を言ってやろうと息を大きく吸い込んだ。
「ま、まあ。
我々を殺すと言うような過激な行動は、取らないとは思いますが。
少なくない可能性が有るとでも考えていて下さい。」
すると、リカルドが俺の雰囲気が変わったのを察知したのか、即座に今の発言を撤回してきた。だったら言うなよな。
俺は文句を言う変わりに、フンッと鼻息を強く吹き出すだけに留めた。
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