第8話 移住者の深淵を
俺が説明するべき事柄も残り僅かだ。
火星移住をするに際して、当然火星にはテラフォーミングが行われている。
まあ、そのまま人類が移住出来る環境では無いので当たり前だよな。
そして基本として火星には水が足りない。
次いで水から派生して生成される酸素と二酸化炭素も足りないし、地球の大気の主成分の窒素も同じく足りない。
それらの問題を解決する方法として採用されたのが、火星と木星の間に存在する小惑星帯、いわゆるアステロイドベルトの資源を利用することだった。
その利用方法とは大雑把に言って、火星へのゴミの不法投棄とでも言えるような方法で、小惑星を確保してその主成分を確認し有用な物質を含んでいたら、一定の質量の弾丸状に形状を加工した後、それをドンドン火星に撃ち込むっていう凄く荒っぽい物だった。
だがまあその有効性はかなりの物だったようで、数百年も掛かると思われていたテラフォーミングが、遥かに短時間で成果を達成して、その掛かった年月はと言うと百年にも満たなかった。
その理由はまあ色々と有るのだろうが、首脳部の執行者達は原因よりも結果が全てな様で、諸手を挙げてその成果を受け入れた。
イヤね? 俺としちゃあもっと慎重に判断した方が絶対に良いと思うんだけど、彼等は無為な時間が減って事業の進捗が大きく前倒し出来た事で浮かれまくっていたんだろうね。
そして最終工程である小惑星ケレスからの、氷を大量に撃ち込むという作業が完了すると、火星移住計画を大々的に発表し希望者の募集を始めて、移民船の建造完了、そしてその就航と遷移して現在に繋がっている訳だ。
ここでテラフォーミングの際に起こった、ある思わぬ事象の事を説明して置くべきだろう。
それは火星表面の気象現象が落ち着いてから判明した事なんだが、なんと浅い水深の海辺の海水の色が緑っぽくなっていたことだ。
最初は何かの鉱物が水に溶けたことによる発色かと思われたが、探査機による調査で原始的な植物型微生物の増殖が原因だと分かった。
これには世界中が驚愕した程だという記録が残っていて、にわかに地球上の生物の外来起源説が脚光を浴びる事にもなった。
そして少なくとも小惑星ケレスに、生命起源の謎が隠されているんじゃないかと目され、その後からは無断でのケレスの水の使用が制限される事にもなってしまって、今後の水不足対応の難しさにも繋がっている。
まあそういう学者界隈の話は、俺達現地人にはどうでも良い話でもあるので、頭の片隅にでも置いておけば良いだろう。
そんな訳で長い事掛かった俺の脳内説明会も、終了の運びとなったからかは分からんが、今度はアミが俺に報告する事が出来たのか近付いてきた。
「アイ、報告します。
旧型の予備電源の稼動に成功しました。
これにより当プラントを通常稼動状態に移行できました。」
「おう、成功したか。
これで妹達の成長行程も取り敢えずは心配無い訳だな。」
「はい。
ですが元々が予備電源でしたから、これの更に予備は当然ありません。
ですので他の電源設備を更に探すか、製造して置かないと今後の運用に不安が残ります。」
「だろうな。
じゃあ引き続き新たな電源を探すか、若しくは製造が出来るのかを検討する必要があるな。
だが予備電源も今すぐどうこうなるって訳でも無いんだろ? 」
「はい。
ですが燃料を用意出来なければ、使用可能期間は八千時間から一万二千時間位までなので注意が必要です。」
「分かった、最低八千時間というと……地球時間で一年位という事だな。注意して置こう。
それよりもだ。
アニ、アミ、有り難う。
良く対応してくれたな。」
「「い、いえ! 礼には及びません!
これも全て妹達の為なのですから! 」」
そう言ってアニとアミは、培養槽の妹達の方に優しい眼差しを送った。
「良し!
取り敢えずの危機は脱したと見て良いだろう。
後は俺達の食料とかが不足するかもしれないだろうが、配給食プレート製造装置に問題が無ければ、三人位なら一年は持つ筈だ。
それでも妹達が順調にロールアウトすれば状況も変わるだろうが、まだまだ先の話だからそれまでに対応を考えよう。
さて、急な異常事態が発生してから、二体とも気を張って働き詰めだっただろ。
更に問題が発生しなければ、期間未定で休養に当てるからゆっくり休んでくれ。
じゃあ、解散! 」
「「了解! 」」
二体は元気な声で答えると、キャイキャイとはしゃぎながら妹達の様子を見に培養槽に近付いていった。
あいつらも俺と同じで、妹達が大好きだからな。
良く休憩中に、覗き窓に二体してぶら下がっているのを見ているから丸分かりだよ。
もしかしたら、この好意や保護欲も遺伝子にデザインされた物なのかも知れないが、全く興味を持たず無関心なのと比べたらよっぽどか良いんだから、この位は妥協すべきだろうな。
さて、二体にも出来る単純作業を分担して貰ったからには、俺の方は複雑な状況判断が必要になるかもしれない頭脳労働でも始めるか。
先ずはこのプラントを含めて全体の状況はどうなっているのかの調査だな。
これも別に二体に調べて貰っても良かったんだが、外部を調査した時にこのコロニーに対して何か致命的な障害が起きていたら、現在精神年齢が下がっている二体がショックを受けて、パニックを起こされても面倒だったから避けたんだよな。
それに外部の調査をするには、俺の管理者権限を一時的にでも貸与しなければならなかったし、その作業自体が面倒臭かったというのも有る。
俺は二体が先程まで使っていた、コンソールパネルのシートに腰を下ろすと、俺の管理者権限解放コードを打ち込んだ。
OS起動処理の後に表示された画面は、さっき迄の作業者権限の物と違って、他の階層やプラントの情報が閲覧出来るだけあって、画面構成も複雑でとても理解しにくい物だ。
まあ、俺はもう慣れたけどね。
しかし、このアプリケーションを作った奴は相当なカスだな。
使う奴の事など、全く考えてもいないのが良く分かる作りだ。
俺は最初にこれを使えと言われた時は激しくめまいがしたね。
それに、自分で使いやすいように改良しようとしたら、他の部署との同期が取れなくなるかもしれないから、そのまま使えと来た。
アホかと思ったね。俺達がそんなへまなんぞするか。
俺達、有機型アンドロイドは主に頭脳労働させるように、それに特化してデザインされて作られているんだぞ。
それに加えて、強制教育装置で半端ない知識まで植え付けられてもいる。
それが信用出来ないって言うなら、元々俺達なんか作るなよなって話だ。
まあ、こんな事が罷り通っている原因にも心当たりがちゃんとある。
それは火星移住者の大半が、地球人の底辺層の奴ばかりだったからだ。
こんな辺鄙な所まで来るような奴等は周りから浮いているか、借金まみれのクズしか居ないってのが定番なんだからな。
それに加えて、女性を見下している奴が殆どなのも原因だろう。
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