第48話 飛び交う情報の伝達力

 前世のアイだった頃、首の後ろやや上の辺りに、外部記録庫と統括AIからの指示を統制する機能を兼ねた機器が装着されていた。

 形状は薄い板状で、ある程度の柔軟性を持っていたので、首周りの可動状況には違和感がなく、その存在を忘れる程だった。


 そしてその機器には性質上、有機型アンドロイドのコロニー内での位置情報等が、常に統括AIに送られる様に設定されていた。

 まあコロニーでは、何時重大事故が起きても可笑しくはないので、それぞれの位置が把握されているというのは、基本的な対応だと思う。


 その状況は現在のコロニーでも同じで、コロニーに滞在している者全ては、位置情報を発信する機器のいずれかを身に付けていなければならない。

 そのいずれかの機器の一つが、さっきの腕バンドなんだと。

 ただ、わざわざそんな物を装着するならばと、ついでに色々な機能も盛り込んでいて、その内の一つがメールや通話等の携帯電話機能だったりする。


 ちなみに他の機能には、身体情況を監視するバイタルチェック等がある。

「脈拍」「呼吸」「体温」「血圧」「意識レベル」の五つのバイタルサインと、酸素飽和度や血糖値等の血液中の成分検査なんかも随時行ってるってさ。

 至れり尽くせりで、まったく結構な事だね。


 そしてそんな重要な物を、何故さっさと俺に渡さないのか、ゼロさんは一体何を考えてるんだ?

 俺にも詳しく教えて欲しいところだ。


 それで、アミカと交わしたID交換というのは、携帯のアドレス交換みたいな物だったんだと。

 早晩、なにか連絡して来るだろうね。

 面白い道具を手に入れたばかりっていうのが楽しい状況なのは良く分かるし。


 ところで件の腕バンド等は、正式名称を【個人認証システムpersonal authentication system】と総称していて、普段は略してPASパスと呼んでいるそうだ。

 正式名称から分かるように、元々はID確認用に作られた機器を流用しているんだと。


 そんな話を聞いている内に、一つ疑問が生まれて来たのでゼロに聞いてみた。


「ねえねえ。 

 パスってID認証に使ってるんなら、当然登録作業とかは厳重にしてるんじゃないの?

 なんか私に渡された時って、そんな面倒な事をせずに、ただ巻いただけで使えたみたいなんだけど? 」


「ああ、そうだったね。

 もちろん事前に面倒な登録作業を終えていたから、直ぐに使えたんだよ。 」


「えぇ?

 私はそんな事をした記憶は、一切無いんだけど? 」


「そりゃそうさ。

 登録作業をしたのは、アイマ・セカンドだよ。

 彼女と君は遺伝子的には同じ存在で、言ってみれば一卵性双生児と変わらないからね。 」


「はぁ?

 そんなんで、認証をすり抜けられて良いの?

 裏技を使えばザルだなんて、全然当てにならないじゃないの。 」


「まあ、わざわざ双子を作りたいなんて、変わった思考を持ったヤツもそうは居ないだろうし、そんな事が可能な権力者は、影武者を作って混乱の種を蒔くような真似は、余程の馬鹿でもなければしないだろうさ。 」


「ちょっと、ゼロさん?

 なんだか現在、その様な事態を招いている私をディスっている様に聞こえるんだけど、自分の気のせいかなぁ? 」


「えぇぇ?

 ちょっと深く勘繰り過ぎでしょ?

 そんな考えは……少し位は有ったかもしれないけど、そこまで怒るような事でもないでしょ? 」


「まあ、それはこの際良いけどさあ。

 それって、フラグじゃ無いよね?

 後でなんか起こったりしないよね? 」


「だと思うけど。

 でも、それでも良いじゃない。

 何もない人生よりも、波瀾万丈の人生の方が面白そうじゃない。 」


「自分に直接関係ないからって、呑気にしてるんじゃないよ!

 面倒な目に遭うのはこっちだってのに!

 これだから快楽主義者は手に負えないよ。 」


 はぁ、とため息をついている間にも、往還機の搭乗手続きなんかも済んで、いよいよ往還機離着陸プラットホームへの移動の為の送迎用旅客機に乗り込む段になった。

 旅客機はただ、プラットホームに移動する僅かな時間にしか使用しない物なので、座席なんかは各々自由に決めても良いらしいので、俺達は乗って直ぐの辺りに陣取る事にした。

 その方が降りるのも早くなるだろうって、ゼロが言ってた。


 まあ今更、窓からの景色が観たいとかは特に無いから俺も賛同したけど、他の人達は窓際の席を取り合うように走って乗り込んでたりした。

 子供達なら兎も角、大人が我先にと争う様子は小さい子達の教育に悪いんじゃね?

 と、呆れたのは仕方が無い事だと思うよな。


 そうこうする内に全員が乗り込んだのか搭乗口が閉められ、機体からエンジンの振動が伝わってきたなと思ったら、急に女性の大きな悲鳴が客室内に響き渡った。


「キャーーーーーーーーーーッ! 」


 オイオイ、えらく典型的な悲鳴だなぁ。 なんて考えていたら、ドスの効いた女のダミ声が続けて聞こえてきた。


「静かにしな!

 この旅客機は、我々【火星の風】が乗っ取った!

 歯向かうと、この人質の命は無いよ! 」


 オオゥ。 物凄く昔の映画を観てるような、アホなテロリストが現れたぞ。

 声のした方を観るために座席に登り、首を伸ばして騒がしい辺りを窺ったら、保母さんの格好をした女の人が園児を抱えあげて、首の所に何かを押し当てている状況が目に入ってきた。


 うん、保育園のお遊戯のお芝居かな?

 なんとも微笑ましい事だ。 もっとやれ。


 なんてシラケた感じでボケッと見ていたら、人質になっている園児の顔がようやく確認できた。

 うん、まあ。 やっぱりアミカちゃんだったね。


 そうじゃないかと最初から思ってたよ!

 なんだよ! このご都合主義は!

 俺を馬鹿にしてんのか?!

 オイ! これってゼロの仕込みなんじゃないだろうな?!


 隣の席で、顔を騒動の起こっている方に向けて、事態の成り行きを見守っていた呑気なゼロをキッと睨むと、俺の怒りに気付いたのかフルフルと首を振って、自分の関与を否定していた。


 そうかい。 まあ今回はそうなんだろうが、同じ様な事をしでかしてくれるなよ? とは忠告しておいた。


 さて。 となると、今起きてるのは、野生のテロリストの仕業と言うわけなんだろうけど、ゼロが前に言ってた田舎の方にしか出ないという情報は、間違ってるか鮮度が低いということか。


 う~ん。 ゼロってば、身体を得てからの情報収集能力が、格段に落ちてるって事を自覚してるのか?

 このままだと、こいつの言う事はあまり当てにしない方が良いかもしれんな。

 変な所から、パートナーの信頼性に関する問題が浮上してきたよ。


 まあ、それは一先ず置いといて、なんとかアミカちゃんを無事に助けられるように、頭を使って助力しようかね。

 今の俺には、残念ながらそのぐらいしか出来る事はないだろうし。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る