第49話 囚われの幼女は如何にして生き延びたか
さて、問題の【アミカちゃん救出作戦】をどんな感じの物にしようかと考えに耽っていると、隣の座席に妙に落ち着いた雰囲気で座っていたゼロが、首を傾げながら俺に聞いてきた。
「あれ?
アイマってば、さっきまで文句を言ってた割に、こういう案件に自分から首を突っ込んで行くスタイルなの?
面倒臭い事は嫌いだって、前から言ってたじゃない。
違うの? 」
おうっ。 ゼロからの鋭い突っ込みが、俺の
まあ、そうだよな。
なんだかんだ言いながら、俺ってば物語の主人公を気取って、周囲の状況をブン回したりして、見事に事件を解決してやろうって腹積もりなんだから、呆れられてもしょうがないか。
でも、これが知らない人達が被害者だって言うのなら、俺も少しは自重をしたと思うけど、今回はそうじゃなかったからなぁ。
まあ、あからさまに
また何か後になってから分かる事情で、俺が関わる事が意味を持つようになってるとかなんじゃないかねぇ。 知らんけど。
だがまあ、ゼロも神の事は知識としては知ってはいるのだろうが、俺にそこまで
それもまた仕方がない事なんだろう。
この俺の勝手な予測が、正鵠を射抜いていると断言出来る証拠なんて物は、一切無いんだからな。
ともあれ、取り敢えずゼロの問いには、それなりに誠実に答えておくか。
「このおバカ!
アミカちゃんが可哀想だとは思わんのか、この薄情者!
見損なったぞ、ゼロ! 」
小声で怒鳴る俺の素晴らしい技前を見よ!
「えぇ~?
それをアイマが言う~?
まったく、信じられないよ! 」
ヤレヤレといった風のゼロさん、悪かったね。
「信じられようが、信じられなかろうが、そんなのはこの際どうでも良かろう!
事を無事に納められれば、それだけで万事解決なのだ!
分かったらなんか良い案でも実行しろ! 」
俺の全力の無茶振りを受けてみろ!
「それなんだけどさぁ。
別に私達が何かしなくても、そう大事にもならないんじゃない? 」
うん? こいつ何言ってんの?
「いやいや、 現状でも結構な大事になってるよね?
ゼロには、今の状況が良く分かってないの? 」
馬鹿なの? 死ぬの?
「ちょっと良く考えてみてよ。
こんな自動運転のチョイ乗りの旅客機をジャックしても、この後どうしようも無いでしょ?
現に何やらと喋ってる内に、もう目的地のプラットホームに着きそうだし。 」
うん、そうだね。
人質事件の推移に一切関係無く、旅客機は静かに離陸しており、そろそろ予定時刻通りに目的地に着きそうだ。
そして着陸したら、警備員さんが大挙してお出迎えしてくれるんだろう。
「それに、そもそもこの旅客機は、近場にしか行かない事を前提にして運用しているんだろうから、燃料だって稼働効率を考えて、少ししか積んでないんじゃない?
もし運良く乗っ取れたんだとしても、そんなに遠くまで飛んで行けないし、利用する為には大量の燃料を調達する方法を用意しないと難しいだろうから、この先の使い道にはほとんど将来性は無いよ? 」
あ~、だからこの旅客機の警備はこんなに雑だったんだな。
俺も、普通はもっと警戒していても良いのにとは思っていたよ。
って事は、コイツ等が底抜けの馬鹿じゃないのなら、その目的は機体の調達って訳じゃないのか。
それじゃあ、標的は人物ってことなのか?
いや、もし誘拐目的ならば、逃げようがない機内では事を起こさないだろうし、それも違うか。
暗殺の可能性の低さも、言うに及ばずだろうし。
そうなると、消去法で残る可能性が存在する事象はと言うと、まさか身代金目的とかなのか?
おいおい、嘘だろ?
この火星上でも勿論の事、貨幣経済を採用しているが、実際には貨幣を持ち歩いている訳じゃなく、全て電子的決済で支払いをしている。
だから、お金が欲しくて犯罪を犯して首尾良くデータ上の所有金額を増やしたとして、実際に使おうと思った場合に、その口座が既に取引停止とかになってたら、そこに価値等存在しないだろ。
もしかして、極限まで腹が減っていて、現物支給を要求しようとしてるとかなのかね?
だが、そんな事を急に言われても、元々物資が潤沢に有るわけでもないからなぁ。
まあ、無い袖は振れないよねぇ。
もしや、そういった事情とかを全然理解していない訳じゃ無いだろ?
え? その可能性も微レ存なの?
あぁ~。だからいつもは、田舎にしか出ないと思われてたのか。
とかなんとか、意味の無い考察を脳内で繰り広げていると事態は思ったよりも順調に進んでおり、既にテロリストが官権との交渉に及んでいた。
うん。 それを近場で観察していた結果分かったのだが、奴等が要求する事は特に無く、と言うか自分達の存在を公に広める事自体が目的のようで、人々の話題になればなる程意義があるみたいに思っている感じだ。
おい、これって只のお騒がせ事件なんじゃないか?
いわゆるプロパガンダと呼ばれる手法で、政治的宣伝とも言われる奴だろ。
ああ、だから大勢の乗客の眼前で、つまらない茶番劇を繰り広げているという訳ね。
取り敢えず、この事件に立ち会っている人達には、自分達の主張を無理矢理にでも聞かせられる事だし。
なんだか、なんちゃってテロリストは、官権の説得に素直に応じるようで、人質の解放に向けて着々と事態が進んでいる様だ。
なんか、マジになってた俺がアホらしくなって来たな。
ゼロは、最初からこうなる事を予測していたのか?
だから始終、余裕たっぷりの態度だったと?
くそっ、だったら俺にも一言言って置いてくれれば良いのに!
性格が悪いと、周りの人からよく言われてるだろ、お前!
ああ、周りの奴は全員が自分の分体だから、それは無いのね。 しょうもな。
一人でガックリと落ち込んでいると、どうやらテロリストは人質にしていたアミカちゃんを無事に解放したようだ。
床にそっと下ろされたアミカちゃんは、嬉しそうにキャーーッと叫びながら、どこかに向かって走り去って行った。 ……いや、別に良いんだけどね。
その走り去っていく後ろ姿に目を向けていると、急に大きな声が鳴り響いてきた。
「ウオオォーーーーーッ! 」
驚いて音の出所に目を向けると、テロリストの近くに座っていたガタイの良い男が急に立ち上がって、彼女に向かって体当たりをしようとしているのが目に飛び込んできた。
オイ! もう事件は終わりそうだって言うのに、なんで事を蒸し返そうとしてるんだ、このバカは?!
まあ、こんな下らない事に付き合わされて、時間を無駄にしたという鬱憤が溜まっていたからだと言われれば、俺も頷くしか無いけども。
「グァァッ……。 」
そして案の定、負わなくても良かった筈の怪我をしている様で、痛そうなうめき声も続けて聞こえて来る。
あ~ぁ。 これ、この後どうするよ?
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