第50話 過去からの衝撃に

 結論から言うと、あの後はグダグダだったよ。


 最初から説明すると、飛び掛かった男がテロリストの女に伸しか掛かったところ、彼女が手にしていた武器……セラミック製の先の尖った棒、一般的に言われている名では、おはし……がお互いの身体の間に挟まり、運悪く男の肋骨の間に先端が突き刺さった様だ。

 まあ、あんな凄い勢いで突っ掛かって行けば、只の棒でも立派な凶器になってしまっても仕方がない事だろう。


 武器がお箸な時点で、テロリストがなんちゃってなのはお見通しなんだけど、如何せん負傷者が出てしまっては、事をなあなあで納める事も出来なくなり、女は凶悪犯として逮捕されて行った。

 その際、女も思いも掛けず男に怪我をさせてしまった事に酷く動揺し、オロオロしながら謝ったりしていた。


 ここで、もしも男が余計な真似をしなければ、事件はお騒がせの軽犯罪に色を付けた程度で終わっていた筈だ。

 だから、神が俺をこの件に巻き込んだのは、何かあの女が将来的に大きな影響を生じさせるのを回避させようとしていたのかもしれないな。


 だが、それは失敗してしまったわけだ。

 この結果が今後、どの様に未来に関係してくるのかは分からんが、十分に注意して置かなければならないだろう。


 ちなみにだが、しばらく日数が経った後に、男がインタビューに応えている映像を偶然見かけたが、どう見てもロリコンの発する言動で、暴れた理由も幼女達に格好良い所を見せて好かれるのが目的だったみたいだ。

 結果は、怪我をして無様に泣き叫ぶ情けない恥態を皆に晒しただけに終わったんだけど。 なんだかねぇ。


 まあ、そんな訳で俺達が往還機に乗るのが、一日順延されてしまった。

 遅れたからと言って直ぐに飛ばずに一日延ばされたのは、運用効率の一番良い軌道を取るとすると、火星の自転と新コロニーとの位置関係から、そうするしかないかららしい。


 男と保母さん以外の乗客達は、新コロニーへの移動を取り止めたりはしなかったようで、全員プラットホームに備え付けの宿泊施設へ、強制的に一泊させられた。

 検疫なんかを、再度行う手間をはぶく為らしい。


 この宿泊施設は、元々往還機の運航が順調ではなかった頃から有り、今でもたまに諸事情によって出発時刻が変更された時とかに使われているので、使い心地はそれなりに良かった。


 ゼロとの二人部屋を宛がわれた俺は、それなりな味の夕食を取った後に、アミカちゃんからの通信を受けて、夜遅くになるまで雑談を交わしていた。

 そのやり取りの中には勿論、昼間の事件の事も含まれていて、貴重な当事者の証言も得る事が出来ていた。

 それによると保母さんの女性は、「ちょっとお芝居に付き合って頂戴。 」と事前にアミカちゃんに頼んでいて、事件の最中は始終、彼女の体調とかを気遣って優しくしてくれていたらしい。


 ちなみに、いつも怒っている先生とは、違う人だったようだ。


 優しい先生が居なくなって、アミカちゃんが自分のお芝居が下手だったからなんじゃないかと落ち込んでいたので、俺は最後に邪魔したオッサンのせいだよと言って慰めておいた。

 実際そうだったし。


 アミカちゃんとの通信を切ってから、一人ベッドに転がりながら、今日の事を振り返って色々と考えてみた。


 その中の一つで、なんちゃってテロリストが喋っていた主張に関してなんだけど、そこにちょっと引っ掛かかる部分が有った。

 彼女が、あんな馬鹿な真似までして訴えたかった事って、そんなにも重要な事だったのかどうかが、良く分からなかったからだ。


 その彼女が訴えていた内容とは、人間との混雑種や他種族との混血を禁止しろ、もしくは居住地を分けて交流を遮断しろと言うものだった。


 俺は最初、この主張を聞いた時は、種族主義で特権階級を認めろと言ってるもんだと思っていたから、途中から興味を失くし、発言も大体聞き流していた。

 話自体も官権の介入も有って最後まで話せなかったようで、主張の理由の全部を説明出来てはいなかった。


 俺はそこに、何か見落としが有るように思えて仕方がない。


 しばらく一人で悩んでいたが、どうにも埒が明かないので、隣のベッドに寝転んでいるゼロにも意見を聞いてみる事にして、やおら話し掛けた。


「ねえ、ゼロ。 今ちょっと良い? 」


「う~ん。 何~?

 まだ起きてるの~?

 アイマも、早く寝なよ~。 」


「少し気になってる事が有って、すんなり寝られないんだよね。

 ちょっと、話に付き合ってよ。 」


「ふ~ん。 まあ良いけど。 」


 そう言って、ゼロはごろんと身体をこちらへと向けてきた。


「それで、アイマは何を聞きたいの? 」


「昼間の事件の原因、いやそもそもテロなんかが起きてる大元の理由は何なの?

 一体彼女達は、何が目的なわけ? 」


「そりゃ、自身を取り巻く社会的環境の改善とかじゃないの? 普通。 」


「え? そんな高尚な理念でやってるの?

 お腹一杯ご飯が食べたいとか、もっと良い物が欲しいとかの現実的な欲求不満の発露じゃないの? 」


 俺の勝手な憶測を聞いたゼロは、プッと息を吹き出すと笑いを抑えず話を続けた。


「アハハ。 それってアイマの事じゃないの?

 まあ、最初にそこから始まってるって事も有るかもだけど、それだけじゃあ無いみたいよ。

 あれ? なんかアイマってば、彼女達の事を大分侮ってるんじゃない? 」


「はぁ? そこから認識が間違ってるって言うの?

 えぇ~、そうかなぁ? 」


「う~ん。

 まあ、実際に自分の目で見てないから、現実感が無いんだろうけど、一般人達の学力的な素養はそこまで酷くは無いから。

 身近な例で言うと、あなたの兄姉けいしはバカに見える? 」


 え? 急にアルフアンナの頭の出来を聞かれても、俺にも良く分かんないんだけど?

 俺が普段から思ってるよりも良い感じなの?

 俺の訝しげな態度を見て、ちょっと呆れた様な表情をしたゼロが説明を続けた。


「あなた達兄妹ってば、暇さえ有ればいつも、アニメとかの映像作品を見てるわよね?

 アレって、ただ意味も無く提供してる訳じゃなくて、ある程度の教育的目標を求めてしているのよ。

 アニメやドラマ、映画なんかの内容は概ね、一般人に伝えたい物事を統括AIが選別し、違和感なく内容に組み込ませて、いつの間にか学習している様になってるの。

 あなたの前世の時期からやってる事なんだけど、ホントに知らなかったの? 」


 ソーダッタノカー。


 俺ってばそんな事とは全然知らずに、今までただ楽しんでただけだったよ……。


 まあ、誰にも知られずに行うってのが肝なんだろうが、管轄のトップにまで黙ってる事ないじゃん。

 当時の統括AIは、俺の事を全然信用してなかったって言うのか……。 ガックリ。


 俺が、思わぬ衝撃で愕然としているのにもかかわらず、そんな事は関係ないよねと、ゼロの話は続いていく……。






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ゴー トゥー ヘル! ~神に叫喚地獄に行ってくれと言われた俺は、取り敢えず火星移住用コロニーで頑張ります!~ さんご @sango0305

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