第39話 幼児的就職活動

 わらにもすがる思いで、役に立つのか分からないイントル(分体)に頼ってみた。


「イントル、今話せる? 」


 テレビの前に行き、イントル(分体)に話し掛ける。

 イントル(分体)は今、テレビに常駐しているようで、声を掛けるだけで電源が入り、イントル(分体)が画面一杯に表示されて現れた。てかもう(分体)は要らんよな。


「は~い、暇ですよ~。 」


 何か前よりも大分砕けた話し方なんだけど、これって個性ってやつか? まあ良いけど。


「ねえねえ、何か良い仕事無い? 」


 無職のニートが楽して稼げる仕事を探してる様な聞き方だが、まあ幼児が職探しをしている変な状況なんだから、さもありなん。


「そうねえ。 あっ、こういうのはどうかしら? 

 ひたすら穴を掘って、掘ったらそれを埋めてくっていうの。 」


「ゥオイッ!

 それって戦争捕虜にさせる様な無駄な労働作業だろうが!

 どこから、そんな要らん知識を拾って来てんだよ?! 」


「え~? 統括AIの記録庫に普通に入ってたよ~。

 アレじゃない? 火星移住者が犯罪ばかり起こしそうだと思われてたとかじゃない? 」


「あー、何か有りそうな感じだわー。 」


 俺もイントルの散々な予測に賛成するしかない。


「そもそも重機とかが有るのに、無駄に肉体労働をさせるってどうなのよ。 」


「そりゃ、身体を鍛える為に決まってるじゃん。

 身体は鍛えなければ、ドンドンと虚弱になって行くんだし。

 地球よりも重力が弱い火星で怠けていたら、それこそ大昔の映画みたいに、軟体動物の火星人みたいに退化しちゃうわよ? 」


 あー、有ったなー。 そういうの。

 タコみたいな宇宙人が出て来て、地球に攻めてくるって感じのが。


 でも、そうか。 重力が弱い星の生物はそうなってても可笑しくないのか。

 こりゃウカウカしていたら、火星移住者全体が地球人よりも体力的に劣った存在になってしまうぞ。

 まあそうは言っても、俺達有機型アンドロイドは世代を重ねても遺伝子的に強化されていて、簡単な訓練を行うだけで肉体を鍛えられるんだけどな。


 そう言えば、そういった普通の人類とは違っている部分に対してイントル達は同化時に支障とかは無いんだろうか?


「ねえ、ちょっと今の事とは関係が無い話なんだけど、素体に備わっている電脳化処理とか、エネルギーチップの存在とかは同化時には問題無いの? 」


「何だか今更な質問ねぇ。

 まあ、結論から言うと問題どころか、逆に強化するのに適している様な感じよ。 」


 おっ、何か美味い話の予感がするぞ?


「へえ、そうなのか。 どう言った感じなの? 」


「じゃあ順に説明して行くわね。

 先ず電脳化処理。

 これが有ると有効なのは、生体の記憶能力じゃあ徐々に忘れていくような重要でない記憶も取り敢えずって感じで確保しておけたり、後で必要になるのが分かっている記憶を前もって用意しておく事が出来て、効率良く動けるって事よね。

 後、決まった行動を登録しておけば何時でも再現が可能だから、同じ作業を繰り返す時なんかには便利よ。

 まあこれは、統合AIがあなた達を操作して作業させていた時とほとんど内容は同じなんだけどね。

 でも、これ等は宿主には感知出来ていない機能だから、効果の実感はないんじゃないかしら。

 ただ、記憶力が良くなったとか、作業に直ぐに慣れたとか思っているんじゃない? 」


「ああ、そうか。 イントル達は宿主に対して何も操作とかが出来なかったんだったよね。

 じゃあ、ただお節介に補助をしてあげてるだけな感じなのか。 」


「そうよ~。 それでも宿主がそれを理解しさえすれば、もっと上手く活用できる筈なのにもったいないわよね~。 」


「ふ~ん。 そう上手くは行かないって事か~。 」


 何だ、期待外れだったか。


「えっ、そうでもないわよ?

 ただ、私達的にはどちらでも良いから放置していただけの事だから、なんならこの機会に使い始めてみる? 」


「はあ?! ちょっと!

 そんな大事な事をなんで今まで黙ってたのよ! 」


「え~? だから言ったじゃない。

 私達的にはどっちでも良かったからって。

 後、当然として使うのには条件があるわよ? 」


「何よ、その条件って?

 なんか難しい事なの? 」


「そうでもないと思うわよ~。

 先ずは、私達の存在を公にする事ね~。

 それとさっきの話に出て来た電脳空間に、私達の簡易分体を常駐させる事の許可かしら~。 」


 うん? どういう事だ?


「もう少し詳しく教えて。 」


「そうね~。

 取り敢えずは個人用の個別の補助AIが開発されていて、既に全員の電脳空間に常駐し、日常生活の補助をしているって感じで説明しておけば良いわ。 」


「それって態々あざわざ言うことか?

 イントル達が同化していても、俺達にはそれって分かんないんだろ? 」


「まあ、これは保険みたいなものよ。

 後で分かっちゃうと拒否感が酷くなりそうだから、先に言っておいたわよって感じね。 」


「まあ自分の身体の中に、知らない内に誰かが入り込んでいたと知ったら吃驚びっくりするだろうし、恐怖を感じても可笑しくは無いよね。 」


「私達も、同化している人に嫌われてまで補助したくは無いからね~。

 本当は、AIとして認識されるのも微妙な事なんだけど、電子的生命体という存在を簡単に説明すると、AIと何処が違うのかと突っ込まれると思うから妥協してるのよ~。 」


 妥協してるのか。


「はぁ、そうですか。 」


「後、既にこの星に居る全人類には私達が漏れ無く同化済みですから! 悪しからず。 」


 だと思ってたよ!

 ちょっと知り合っただけでも、好奇心旺盛な奴等だとは分かっていたから、そうなんじゃないかとは思っていたけど、面と向かって言われると、この先の事を考えると不安しかない。

 それじゃあ俺にも今現在、同化中なのか。

 何だかなぁ。


「じゃあ公表するって言うのは、同意なく同化していた事に対する建前的な言い訳ってことか? 」


「まあ、有り体に言って、そうとも言うわね~。 」


 イントル達って、知識量が豊富で頭が良いと言えるのかもしれないけど、本質的にはバカ寄りだよね。


「それで、残りの簡易分体の方の話はどう言った事なの? 」


「あ~、それはちょっと細かくなるけど良い? 」


「遠慮無くどうぞ。 」


「さっきの話の中で、電脳空間に記憶を確保したり、行動を登録して置いたりって言うのは、統合AIがしていた素体の操作とほぼ同じだよね? 」


 うん? 俺に当時の事を聞いているのか?


「まあ、そうだね。

 とは言っても、操作されている時の俺達には自由意思が働かなくなっていて、電脳を使っているという感覚も特に無かったな。

 だけど自分の持っていない知識が有ったり、知らない機械の操作を難なくこなしたりするのを体験して、多分電脳を使っているんだなとは思っていたな。 」


 当時のおバカな妹達アニとアミが気付いていたかは、聞いた事がないから分からんけども。


「そんな感じだよね。

 だから、電脳空間には簡易分体が必要なのよ。 」






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