第38話 職業選択の自由と高齢化社会
オイオイ。イントルの奴、いきなり訳の分からん事を言い出したぞ。
生身の身体を持つって、誰かの身体を乗っ取るって意味か?
だが、さっき聞いた説明では取り付くだけで、操る事はできないって言ってたと思うんだけど、あれは嘘だったのか?
俺が疑念の
「ああ、別に誰かの身体を乗っ取るって訳じゃないのよ。
それ専用の素体を作って、それに同化するの。 」
「うん? その素体にも意識が有るんだろうから、同じ事だろ? 」
「ちょっと聞きたいんだけど、私達は生まれた瞬間から意識が有るけど、人間は生まれた瞬間から意識が有るものなの? 」
「いや。良く分からんが、そんな事はないと思うぞ。
俺みたいに前世の記憶でも持っていれば違うんだろうが、普通は育つ間の環境によって形作られるんじゃないか? 」
「そうよね。 私も産まれたばかりの赤ちゃんに憑依した時には、身体の操作が僅かばかりだけど可能だったから、その時点では意識は無かったんだと思うのよ。 」
「なんだよ。その時そのまま憑依し続けていれば良かったんじゃないのか? 」
「え? まあ、今考えればそうかもしれないけれど、その時は身体を動かせない状態が長期に渡るのが、詰まらなそうだったから止めたのよ。
それに、そうすると本来宿る筈だった意識というか魂にも悪いかとも思ったりもしたし。
だけれど、今度は素体が受精卵から胎児になる辺りまでに同化するつもりよ。
それなら、他の意識体の居場所を奪った事にはならないでしょう? 」
「そうだな。
でも、誰か妊娠している人の胎児じゃなくて、有機型アンドロイドの素体だったんなら、そんなに気を遣わなくても良かったと思うぞ。
あれは元々、存在自体が部品扱いだったからな。」
「あなた達はそれで良いの?
私から見ると、どちらも違いが有るようには見えないんだけれど。 」
「人間にとっては、出来上がりは同じでも偶然の産物か、設計図によって作られたかというのは、それの価値を大きく左右するもんなんだよ。
悲しいけどね。 」
天然物と養殖では、なんであんなに値段が違っていたのか。
土用の丑の日に、良く思ったものだ。
「ちょっと思ったんだが、育っていく素体には別の意識ってものは出来ないものなんだろうか? 」
「う~ん、そうねえ。
初めてなんだから全く分からないけれど、多分私と同じ意識になるんじゃないかしら。
意識と言うものの境界が無くなって、二つの意識が同じ様に働く、いわゆる意識の融合ね。
もし同化を止めたら、肉体を持った私がもう一人存在する事になるのかしら。
でも一度同化を解いたら、元の一人には二度と戻れないという予感がするわね。
まあ、あくまでも推測なんだけれど。 」
「ふ~ん、そんな感じか。 まあいいや。
それで、何時から始めるんだ? 」
「え? もう始めてるわよ? 私は分体よ。
本体は当分帰って来ないわね。
素体をどの位まで育てるかによって期間が変わって来るんだけど、どうしようかしら。
本体が帰って来たら、私の扱いをどうするのか全く決めてなかったわね。
そうね。 じゃあ出来るだけ長~く、素体を育てましょう。
そういう事だから、アイマもしばらくヨロシクね! 」
ああ、そうですか。
分体によると、イントルの本体が生身の成体にまで育てられて戻ってくるのは、約一年後位になりそうだと言う。
それまで、特にやる事は指示されていないので好きにすると言っていた。
俺も、身体を鍛える位しかする事もないし、その間に何か良い金儲けの手段がないか模索しようかねぇ。
――――――――――
アオ婆ちゃんとのリハビリ運動をしながらの日々は可も無く不可も無くで、特に事件等も起こらず平和なものだった。
なので、俺としては考える時間はたっぷりと有ったんだけど、締め切りの無い仕事というものは緊張感に欠けていて、どうにもピリッとしない感じだった。
そこで原点に立ち戻って、神の存在についてもう一度考えてみた。
先ず、神とは何なのかから考察してみよう。
俺の会った神は、魂の管理を仕事にしているようだった。
太陽系の各惑星を地獄として使って魂の業を稼ぎ、一定の時期になったらその魂を次の地獄に送り出しているらしい。
現在は、太陽、水星、金星、地球と推移してきていて、次は火星を使うつもりだったようだが、何かしらの都合で上手く回らなくなっていた雰囲気だったな。
その雰囲気を感じたというのは、俺に前世の記憶を待たせたまま輪廻転生させた事から得られたものだ。
でなければ俺みたいな普通の奴に、特別待遇を与える訳がないだろう。
多分、神の権能か何かで未来を予測したかして、俺の行動によって効率が変動するのを抑えるとかが目的だったんじゃないだろうか。
それを証明するように、アイとして生を受けた俺は全滅待った無しだった素体、すなわち有機型アンドロイド達を率いて、コロニーを活用して一応の人間種を増加させてきた。
もしも俺が指揮していなかったら、現在の火星の居住者数がもっと少なかった筈な事に対して異論は無いよな。
今になって分かった事だが、イントル達電子的生命体の存在と、その繁殖状況を見れば、神の思惑が上手く働くかどうかは、その時々の展開で様々に変化している様だ。
そして神はその事に対して、余り頓着している訳でもないみたいでもある。
まあ、神にとっては時間は無限に有って、そこまで急ぐような問題でも無いが、まあ早いに越したことはないよね位の事なのだろう。
さて、ここで俺の取るべき方針だが、やはり魂の入れ物である人間種の更なる増加を促す事だよな。
神による恩恵等は今更望むべくも無いだろうが、いたずらに反抗しても意味等ないし、神が新たなる手段を打ってきてでもしたら、俺達の生存権を脅かす可能性も出てくるだろうしな。
そこで、現在の火星上での人間種の繁殖状況なんだけど、どうも頭打ちの状態らしい。
その原因は主に仕事が無くて、人が余ってるからなんだと。
まあ、そりゃあ俺達有機型アンドロイドは滅多に病気にもならないし、寿命も只の人種よりも長くなるように作られているから、いわゆる高齢化社会になっちゃってるからなぁ。
下手に人口を増やしても、無駄飯食いになるのが分かってたら、そんな事する訳がないだろう。
だから今、俺がしなきゃいけない事は、新たに起業して皆の仕事を増やす事なんだけど、どうすりゃ良いのか何も思い付かんのよ!
神様、仏様! 誰でも良いから誰か助けてくれよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます