第37話 平等主義と格の違い

 俺はイントルのドヤ顔はさらっと受け流して、率直な疑問を口にする。


「えっ? 俺がAIに接触したのは、ただテレビが見たかっただけだぞ?

 そこにどんな策が弄して有ったと言うんだ? 」


「あら、そうだったの。

 私としては生活環境を厳しくしておけば、統括AIに不満を持って抗議してくるように誘導したつもりだったんだけど、どうやら空振りだった様ね。

 まあ、こんな事もあるわね。 」


 オイッ! 俺の家が原始人生活だったのは、コイツのせいだったのかよ!

 火星移民の生活環境は、コイツらの好き放題に弄くられているっていうのか?!


 俺が怒ってイントルに詰め寄ると、電子的生命体は人間を操る事は全く出来ないが、AI達は意のままに従えられるのでやらせてみたと、何でもない事のように言われた。


 まあ、そりゃ出来るよな。

 半導体の集積回路っていうのは、電子の行動によって機能するんだから、それが自由に差配出来るんだから当たり前か。

 しかしそうなると、人間の脳も電気的な作用で働いている筈なのに、それを操れないというのもなんだか可笑しい気もするがな。


 ふと、ここまでイントルと情報交換をしてきて思ったんだが、コイツは別に俺の指定する条件を、わざわざ飲む必要が全く無いんじゃないか?

 俺の知らない間の場合のように今後も好きにすれば良いのに、なんで俺と話し合いをしているんだ?


 そんな事を黙って考え込んでいたら、イントルがどうかしたのかと聞いてきたので、現在の行動理由を素直に聞いてみた。


「ああ。それは多分、私達電子的生命体には上位下位といった格という概念が無いからですわね。

 だから今、私とアイマは同格の存在と認識しているんですわ。

 同格同士なんですから、一方的な命令等はしませんし受け付けもしません。

 全ては、お互いの同意があってこそ成り立つと考えているんですのよ。 」


 イントルの説明を聞いて辿り着いた俺の考察はこうだ。


 前提として、遺伝子を持つ生命体は無限に分裂をしていくという存在だ。

 AとBが出会えば、そこからABが生まれ、次の段階ではAA、AB、BA、BBが生まれる。

 いわゆる遺伝の法則だな。


 この法則に沿って、ある状況にちょうど上手く合う存在が出来た時、それがその場での格が上位だと判断される訳だ。

 つまり遺伝子生命体は、その成り立ちからして格というものが切り離せない。


 対して電子的生命体は、ある事象に遭遇したかどうかによって、AとBに分化されるが、次にAとBが出会えばお互いの情報を交換し合い、どちらもABという存在に同一化してしまい、結果として同格になってしまう。

 そういった経緯があって、電子的生命体同士では同意の無い指示を授受しない文化が形成されたんだろう。


 だがそれも、人間の意識に触れたことで言語化されたが、そうでなければ何時までも明確化されず、ただの慣習として終わっていた話でもあるが、まあそれはそれで良いんじゃないかな。


 ともあれ、電子的生命体と人間の間には意図せず、平等主義的関係が構築されていたのは幸運であったのだろう。

 でなければ、どう考えても俺達人間側が奴隷化する未来しか存在しなかったからな。


 イントル側の大幅な権利の譲歩によって、対電子的生命体との今後の関係性が決定されてしまったが、別に俺が人間代表って訳でも無いのに、そんな事を勝手に決めても良かったのかね?

 後で、正式な政府代表とかにぐちぐちと文句を言われないだろうな。

 知らんぞ、俺は。


 交渉の基に有った高機能な機械式アンドロイドを、イントルに用意するという案件は、火星移民政府の運営の負担にならない範囲で、独自に好きなようにやって貰う事にした。

 イントルからの要求内容に、細かい仕様や細部へのこだわりなんかが有っても、機械式アンドロイドに詳しくもない俺が関わっても、労多くして益少なしだろうからな。

 今まで通り好きにやってくれよ。


 イントルとの衝撃的な出会いは、始まりは賑やかだったが最後の方はもう、どうにでもしなよという感じで投げやりな雰囲気になっていた。

 だって敵さんは、科学技術的にはチートを持ってるのと変わらない存在なのに対して、俺は他人より記憶を多く持ってるだけのただの幼女だよ。相手にもならんわ。


 何より前世と比較しても、将来的に権力が得られるかというと、途轍とてつもなく可能性が低い。

 何故なら、火星は現在開拓期であり実力至上主義の真っ只中で、コネでどうこう出来る程仕事が余っている状況じゃないんだよ!


 このままだと、親の脛を齧るだけの引きこもりニート一直線となっても不思議じゃないよ。

 それを覆すには、何か画期的で独創的な新事業でも起こせないと始まらない。

 その突破口になりそうだったイントル達だったんだけど、どうやら俺の思う通りには動いてくれそうもない感じだし。

 変に期待して浮かれていた、さっきまでの俺を嘲笑あざわらってやりたいね。


 俺は不貞腐れて、テレビ画面を二画面に設定して、イントルの姿を映している画面の横にアニメチャンネルを表示して、見たかった番組を視聴する事にした。


 そうそう、前からこの異世界ファンタジーのヤツが、最初から見たかったんだよねぇ。

 兄ちゃん達が以前から見ていた関係で、俺が見だした時には途中の話からだったから、始めの方が気になってたんだよね。


 アニメに集中しだすとイントルのヤツが何か言ってきたが、五月蝿いのでそっちの画面のボリュームを下げて無視する事にした。


 アニメは定番の異世界召還系で、魔方陣に囲われた四人の少年少女達が王城に拉致されて、魔王を倒してくれと王女様に頼まれていた。

 この時代になっても、こんなワンパターンのお話が視聴者に受けてるのかと疑問に思ったが、現に兄ちゃん達には人気が有るようだったのを見ると、王道には王道の意味が有るんだろうな。

 まあ、そう言う俺も夢中になってるんだから、何をか言わんやだけども。


 画面の中では、四人の若者が魔法の呪文を教わって初めて発動する場面で、その威力に多くの異世界人が驚いていた。


 いいなぁ、魔法が使えて。

 俺なんか神様に会っても、何もくれなかったぞ。


 アニメを見ながら、自分の人生について落胆していると、横からイントルのいる画面が、ワイプでアニメ画面上に割り込んできた。


 オイオイ、こんな細かい映像処理まで出来るのかよ。

 イントルの万能さ加減に呆れていると、アニメの内容に対して何か言いたい事でもあるのか、俺に話し掛けてきた。


「ふーん。 あなたでも、こういうのに興味があるのね。 」


「そりゃ子供の頃は皆、こういうのに憧れたりするもんなんだよ。

 おっと、俺の精神年齢の事は言うなよな。

 幼い身体に精神が影響を受けていて、考える事も前とは結構違っている自覚は有るんだ。 」


「物理体があると、やっぱり面白そうねぇ。 」


 うん? 何だ? コイツ、何を言ってるんだ?


「うん、そうね。 私も生身の肉体を持ってみようかしら。 」






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