第40話 同化による強化の実態

 イントルの言っている事の本質は大体予想は着くが、一応聞いておくか。


「簡易分体が居れば、電脳空間の利用方法が自分で操作出来るようになるって事で良いのよね? 」


「そうじゃ無いわね~。

 宿主が出来る事は、あらかじめやりたいことを選んで置く事と、そのスイッチを入れるタイミングの判断だけよ。

 思い付きで何かしようと思っても、何でも急には対処なんて出来ないわよ。 」


「そうか。 例えてみれば拳銃を持った様なもんかしら。

 拳銃にあらかじめ弾を込めておいて、いざという時に引き金を引くっていう感じね。 」


「その行為をする前に、どんな弾を込めるかを選ぶのに補助する存在が必要になるし、頭で意識した瞬間に引き金を引けるような仕組みがいる訳。

 けれど宿主には、電脳空間の事は認識が出来ないでしょ?

 だから、簡易分体がそれを管理する存在として必要になるのよ。 」


「話は分かったわ。

 それで、私はそれにどう関わってくるの?

 えっ? ちゃんと関われるんだよね? 」


「ふふふ、大丈夫よ~。

 ちゃんと働き場所は用意してあげるから。

 本体が成体を得て戻って来たら、簡易分体を電脳空間に常駐させるという事業を立ち上げて、あなたを社長に据えてあげるわ。

 って言うか、あなたの前世の認証コードを使っての旧コロニーの掌握の方を先にしておいて貰わないと、話は進まないんだけどね。 」


「それって、私がやらなくても良くなくない?

 イントル達の方が、好きに情報を操作して都合良く出来るんでしょ? 」


「よく考えてみて。

 何時の間にか、知らない人に何故か支配されていたなんて都市伝説っぽい事が後になって判明したら、社会的な大問題になるじゃない。

 それよりも話の筋道が分かりやすい、先祖の認証コードを偶然入手した子孫の人が、上手い事やって成り上がったっていう方がよっぽど納得出来るでしょ。 」


「そういうもんかねぇ。

 ここの人達ってば、そんな事よりも今日の晩御飯の方が興味が有りそうなんだけど。 」


「そりゃそうでしょ。

 これは、何十年か何百年か経った後の世で、歴史を調べた人達に対する配慮よ。 」


「はぁ。 そりゃまたご親切なこって。 」


 イントルは、俺の呆れた様子も意に介さないようで、そのまま話を続ける。


「あなたのお仕事の話は、細かい事をまだ色々と決めないといけないから、また今度にしましょ。

 それよりも話が途中で変わってしまったのを戻して、同化時に起きる強化関係の話の続きをしましょうか。 」


「ああ、そう言えばその話の途中だったなぁ。

 それで次は何について説明してくれるの? 」


「じゃあ、電脳空間の話にも関係する、エネルギーチップの事についてにしましょ。

 エネルギーチップの事は知ってるわよね? 」


「存在自体についてはもちろん知ってはいるけど、

 その詳しい仕組みや、どういう風に稼働しているかなんていうのはよく知らないよ。

 心臓に付属するように有るんだったよね? 」


 俺の身体の中の事だが、特に興味も無かったので今まで気にもしていなかった。

 俺の意思でどうにかなる問題じゃないしね。


「まあ、自分で操作できない事は、知らなくても死ぬ訳じゃないから、その位の認知度なんでしょうね。

 じゃあ前提条件として、これ迄の存在意義から言ってくわね。

 統括AIがあなた達の電脳を利用して作業させていた時に、電脳を使用するのにももちろん電気エネルギーが必要なのは分かるわよね? 」


「まあ、普通はそうだろうなとは思うけど、あれだよ。

 それって生体電気とかを使ってるんじゃなかったの? 」


「あんな微弱な電気量じゃ、全く足りないわよ。

 まず、電脳空間に情報を保存して置くには、常時一定量の電気エネルギーが必要なのよ。

 その供給源がエネルギーチップで、血液中に存在するマイクロマシンを経由して供給されてるの。 」


「えっ、マイクロマシンって生まれつきで血液に入ってるの?

 それは知らなかったわ~。 」


「あー、違う違う。

 素体は培養ポッドでの生育過程で入れられていて、その子孫は母体からの流入よ。

 だから今後、運用に足らない場合は適宜足していかないと駄目ね。

 それで、エネルギーチップは心臓に付随して存在していて、心臓の鼓動による振動からや血液から体温を奪う等をして発電しているの。

 それらからも分かるように、エネルギーチップは色々な用途に流用できる可能性が有るのよ。

 発電機能だけに使ってるのは勿体無い位なの。 」


 ほーん。

 エネルギーチップの潜在能力がそんなにも将来性が高そうなら、素体達の一部品にだけ使ってるのはそれこそ勿体無いよな。

 死んだ素体からそれだけ抜き取るなんて事をすると、ちょっと問題になりそうだから、何とか個別に作成出来ないかねぇ。


 あっ、そうだ!

 以前から要望していた動物性蛋白質の大規模な生産の為に、食肉用の家畜を大量生産して飼育すれば、屠殺後に労せずしてエネルギーチップが得られるじゃん!

 何と言う一挙両得な妙案を思い付くんだ!

 さすが俺だな! 


「なに急に黙って難しい顔をし出したと思ったら、ニヤけたりドヤ顔をしたり面白い娘ねぇ。 」


 俺の様子を見ていたイントルが、薄笑いしながらからかって来た。

 そんな表情も出来るんだな。


「面白いってなんじゃい!

 ちょっと良い事を考え付いただけよ! 」


「へー。 どんな良い事なのよ?

 教えて頂戴な。 」


 なんか、イントルに馬鹿にされてるような感じだ。

 あれ? これって俺の馬鹿さ加減を露呈する流れだったりする?


 ヤダよ、そんなの!

 くそ! ニヤニヤして見て来やがって!

 あ~、もう! しょうがないなぁ。

 笑われる覚悟を決めて言ってやるよ!


「食用の家畜を量産して、それからエネルギーチップを採れば良いんじゃねって思ったりしたんだけど、どう思う? 」


「へー、なんか真面まともな案ね~。

 全然面白くないじゃない。 」


「いや、私にそんな面白さを求められても……。 」


 俺はお笑いタレントとかじゃないから、そんなに面白いコメントを期待されても無理だから!

 イントルってば俺をなんだと思ってるんだよ?!


「その案についてなんだけど、家畜の量産は既に計画はされているようなんだけど、培養肉の方がコストが段違いに安いから、現在は小規模の富裕層向けとしてしか考えられていないようね。 」


「そこを何とかして、コスト削減とか出来ないの? 」


「まあ、普通は当分無理でしょと言う所なんだけど、ここで私達の同化素体の量産という手を使えば、労働力やその人件費を安く抑える事が可能なのよねぇ。

 ちょっと時間は掛かりそうだけど。 」


「おー、そういえばその手が使えるのか!

 良いじゃん良いじゃん!

 こりゃ上手く回りそうじゃね? 」


「まあ、細かい所ではまだまだ抜けてる部分は有るけど、どうにもならないって程でも無いから、その方向で考えて行きましょ。 」


 フフン、俺の思考力も中々なかなか捨てたもんじゃ無いんじゃないの?






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