第33話 無かった筈の再会

 アオちゃんが文明衰退の理由を語ってくれる。

 俺が急に死んだ事が遠因なんだそうだが、その流れについてはパッとは思い付かないな。

 何か俺が見逃していた要素なんてものが有ったか?

 取り敢えず黙って話を聞いていこう。


「始めの内は特に問題は無かったようです。

 ケイミィさん達がママの消失の穴を塞ぐ様に、バックアップ体制をあらかじめ準備されていたからの様です。 」


 ああ、うん。

 それは俺が最悪を想定して準備した奴で、ケイミィ達が作った訳じゃないよ。

 なになに? 彼奴等ってば俺が中心になって準備した、三位一体の正・副・予備での対策を自分達の手柄にしちゃってたの?

 まあ、全然関わって無いって訳でもないから、嘘ついてるっていうのは言い過ぎかもしれないけど、彼奴等ってば仕組みの本質って奴を理解していたのかねぇ。


「何も問題が起きずに時間が進み、火星への本格的な移民が行われていく内に、それまでの仕事を引退して後人に引き継ぐ事が多くなった段階で、それが上手く行えない事例が増えて行きました。 」


 ほう? そんな事になるっていう理由が特に思い付かないな。

 何でなんだろうな?


「その仕事に関しての代表者の、主に三人目から四人目以下への引き継ぎが、旧コロニーの統合AIに認知されなくなったんです。 」


 ここで出てきた【旧コロニー】というのは、俺達が元々使っていた方のコロニーの事で、対して俺が死んだ時に奪った方のコロニーは【新コロニー】と呼んでいるんだってよ。

 これ位の事情は、転生して今まで生活してきた中で察してるよ。


「その当時の旧コロニーで働いていた構成人員はエリート層の初期世代人が大半を占めていて、二期世代人以降は新コロニーを活躍の場にしていました。

 まあ、旧コロニーは居住できる階層も少なかったし、火星上に降下させるプラットホームの基礎にも流用されていたのでそうなったのでしょう。 」


 最初の頃を知っている俺からして見れば、初期世代人がエリートって言われてるのはなんか違和感が有るよな。まあ、いいか。


「そして初期世代人が次々と仕事を引退していくと、必然的に二期世代人以降が旧コロニーで働く事になります。

 ですが、ここで問題が表面化したんです。

 旧コロニーと新コロニーでは統括AIの運用システムが違っていたんです。 」


「えっ? 旧コロニーは正・副・予備の三位一体構成だよね。

 新コロニーはそうじゃなかったの? 」


「はい、そうなります。ママ、良く考えてみてください。

 新コロニーは全階層が居住可能階層ですから、その全てに各階層用のAIが必要なんです。 」


「ああーーっ! そうか、そうだよね!

 あぁ~、俺ってば新コロニーの運用開始まで生きてなかったから、その辺の知識が欠けてるんだなぁ。くそっ。 」


 アオちゃんから語られた想定していなかった衝撃の事実に、俺は思わず大声を挙げてしまった。まあ、仕方ないよね。


「これっ、汚い言葉を使わないの! 

 でも、ママも良く使っていたわねぇ。 なんだか懐かしいわね。 」


「いや、そんな事で懐かしがられてもなぁ。

 それよりも話の続きをお願いね。 」


 そこで話は遮られる事になった。


「大婆様、何か有りましたか? 」


 アオちゃんとの密談を再開しようとしたところで、扉の外から部屋の中の様子を伺う女性の声が掛けられたからだ。

 アオちゃんの娘とかかな。

 俺にとっては孫か大伯母か、どっちなんだろう? まあいいか。


「あら、起こしちゃったかしら? ご免なさいね。

 アイマちゃんと遊んでいたから、大きな声が出ちゃったわ。 」


「? ちょっと失礼します。 」


 赤ちゃんと深夜に遊んでいるなんて、ちょっと耳を疑ってもおかしくない事を言われて確認の必要性を感じたのか、女性が部屋の中を覗き込んできた。


「なんだか探検でもしていたのかしら。 私の部屋に迷い込んで来たから相手をしていたのよ。 ああ、アーリィに今夜は私と寝るって断っておいて頂戴。 」


「あ~い、ねる~。 」


 オバちゃんには、俺の渾身のあざとさ全開の笑顔で止めを刺しておいたぜ。グッナイ。

 オバちゃんが出ていった後にアオちゃんが言う。


「もう、結構遅くなって来ましたし、続きは明日の昼間にでもしましょう。 もう、遠慮無く話も出来るようになりましたしね。 」


「そうだね。 昼寝で寝溜めしたと言っても、もう結構眠たくなって来たし、昔みたいに一緒に寝よう、アオちゃん。 」


「はい。 ママともう一度一緒に寝られるなんて、まるで夢でも見ている様です。 」


「そうね。 大きさが逆になっちゃってるけどね。 」


「うふふ。そうですね。 」


 そう言って、アオちゃんは俺を優しく抱き締めた。


 ……。


 …………。


 ………………。


「アオちゃん。 今まで良く頑張ってきたね。

 良い子良い子。 」


 俺が短い手を懸命に伸ばして、アオちゃんの頭を撫でるとグスグスと鼻をすする音が聞こえてくる。


「ママ、ママ……。 」


 俺はアオちゃんが眠るまで、ゆっくりと頭を撫で続けた。


 ――――――――――


 翌朝からアオちゃんがとんでもない事になった。

 別に死にそうになったとかの悪い方への変化ではない。

 今まで寝た切りに近い状態だったのに急に起き出して、ともすればベッドから立ち上がろうとまでしだしたんだ。

 まあ、さすがに急に立ち上がれる程、筋肉の量が足りていなかったので周りに止められていたが、どちらにしても驚異的な意思力と回復力だ。

 一体どうしたのかと本人に聞いてみれば、ママとずっと一緒にいられるようにと身体に気合いを入れたら、不思議と出来るようになったと言う。

 う~ん、人体の不思議と言うべきなのかどうなのか。

 後で急にポックリとか逝かないのなら、歓迎すべき事なんだけどねぇ。

 前例が無いから、なんとも言えないんだよなぁ。

 まあ、取り敢えずこの件は放っておこう。

 それよりも昨夜の話の続きだよね。

 そう思っていたんだけど、話が違ってきてしまった。

 朝方のアオちゃんの健康面のゴタゴタがあったから後回しにされていたけど、結局は俺とアーリィママはしばらくアオちゃん家に滞在する事になった。

 まあ、アイマが来た途端に大婆様が元気になったって事で、何かの影響が有るのかもしれないと引き留められたからだ。

 まあ、有るっちゃ有るしね。

 だから、大きくて立派で清潔で快適なアオちゃんのお屋敷でずっと生活できるなら、慌てて話を進めなくても良いかなと考えを改めた。

 まあ文明衰退の原因を聞いても、この小さい身体では行動に移しようがないから、しばらくは雌伏の時として力を蓄えるとしよう。

 生まれ変わって、前より長い人生の予定だ。

 のんびり行こうよってね。






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