第35話 唐突な接近遭遇
俺ってば、実質的に二年位使ってなかった認証コードを覚えていられているのかよ、と記憶力を疑われているのかもしれないが大丈夫、ちゃんと覚えてるよ~。
て言うか、絶対に忘れないように設定してあるからね~。
「フンフフーン、アオちゃんシロちゃん、あ、い、し、て、るっと。 」
【A0chan46chanA14teru】
入力した文字がホログラム画面にちゃんと表示されている。
【A0】の【0】はゼロであってオーでは無い所がこだわりの部分だ。
アホっぽくて、乗っ取り易さに時間が掛からなそうな文字列だが、なにも問題はない。
考えても見ろよ。
俺の認証コードなんか盗んで、その後どうするって言うんだ?
そんなにコロニーの司令官席に座りたい奴って、一体誰なんだよって話だ。
座りたけりゃ、幾らでも座ってくれ。
ただしその際は、全素体の命の責任もその汚いケツの下に挟まってるけどな。
当時の俺の認識はそんな感じだったからね、いい加減なもんよ。
まあ、そんな事は今はいいか。
コードの入力が済んだら、次は指紋認証パッドに指を乗せて下さいと表示される。
ハイハイ、分かってますよ~。
俺は機械の隅にある指を乗せるパッド部分に、人差し指を触れさせる。
ここだけの話なんだけど、これってば指紋を確認しているように見せてるけど、本当はDNAを無断で採取していて、そのDNAパターンの一部を記録データと照合してるんだよね~。
その一部って言うのが、エルフ耳やケモ耳、縦割れ虹彩なんかの人間とは違っている部分っていうのが、なんとも言えないけれど。
おっと。余計な事を考えている内に、個人認証が無事に通ったようだ。
って事は、俺の個人データはまだ記録に残ってんのか。
「総司令、お久しぶりです。
就業期間が開きましたが、担当業務内用は第壱号コロニーの管理を継続するという事でよろしいですか。 」
オイッ! なんか、旧コロニーの司令官室付きのオペレーターAIの秘書娘ちゃんが当然かの様に現れたぞ! 一体どういう事だ?!
俺は唐突に起こった事態に、口をポカーンと開けて呆気に取られていたら、更に続けられた。
「何故か若返っておられるようですが、どうかなさいましたか。
早急に健康診断を受ける事を推奨致します。 」
赤縁メガネをクイッと持ち上げながら、なんか的外れな事を言っている。
うん。全く昔と変わってないな、コイツ。
って、そんな事よりも!
今コイツ、俺の事を総司令って認識してたよな?!
それに若返っているとも言っていたし、どうしてそんな所まで認識出来てるんだよ?! 可笑しいだろ?!
それに俺って今は、どう見ても別人の顔だろうが?!
俺は焦って考えていたが、急に頭脳に閃きが起きて正解に辿り着いた。
「おい。 お前は誰だ?
AIの振りをして俺に接触して来て、一体何が目的だ? 」
「…………。
あら、こんなにも早くバレちゃうなんて、思ってもみなかったわ。
でも残念。 私は人間じゃないのよ。
まあ言ってみれば、電子的生命体って所かしら。
物質的な実体は無いから、今はこの娘のアバターを借りて話してるのよ。 」
ハア? 何言ってんだ、コイツ?
それはつまりAIの事だろうが!
何を生命体ぶってんだ?!
「それはAIと、どう違うんだ?
現在の高度なAIの思考は、人間と区別が付かないとまで言われているんだが? 」
俺は切れて反論を行ってしまった。
こういう奴とは普通はやり取りなんかしないで、要求とかを突っぱねるのが最良なんだけどなぁ。
若気の至りってヤツだな。まだ二歳にもなっていないし。
「あら、そうなの? う~ん、そうねえ。
こういった場合は、どう説明したら良いのかしら。
AIとやらとの相違点を挙げれば、納得するのかしら。
ああ、取り敢えず一つは相違点を思い付いたわ。 」
画面内の秘書娘が、得意そうに胸を張っている。
「ほう? どんな事なんだ? 言ってみてくれよ。 」
「私達は繁殖するのよ。
ああ、増殖とは違うからね。 そこは間違えないで。 」
俺はそこから、思考の渦に飲み込まれてしまった。
増殖とは違って繁殖するって事は、DNAのように部分的入れ替えのような事を行っているというのか?
それで、電子的生命体として存続できるものなのか?
そして、グルグルと答えの出ない疑問に頭を悩ませるのを早々に諦めて、本人に直接聞いてみる事にした。
「その繁殖ってどうやってするんだ?
電子的に入れ替えをしていたら、生命を保てないんじゃないのか? 」
「へぇ、良い所に気が付いたわね。
そこは生命維持に特に関係ない装飾部分を、お互いに模倣しあって分体を作り出すのよ。 」
分体? という事は自身には影響しないのか。
それに新しく電子的生命体が出来ている状態って、発電しているっていうのと変わらないんじゃないか?
もしコストが掛からなくて分体が作れるのなら、無からエネルギーが産み出せる永久機関が作れるんじゃないか?
オイオイ。旨い話が急に舞い込んで来たんじゃないかよ!
コイツをなんとか言いくるめられれば……、ウヒヒ。
「あなた、赤ちゃんのクセに急に悪い顔になってどうしたのよ?
ああ、なんか変な欲望を思い付いた様だけど、そんなに上手く行かないと思うわよ。 」
おっと、イカンイカン。危うく悟られてしまう所だった。
「うん? 何がだ? 上手く行かないってどんなのだ? 」
「私達が分体を作っても、その分体にも当然の如く意識があるんだから、あなたの好きな所に移動させる事なんて出来ないって話よ。 」
「お、おぅ。 まあ、そうだよな。 」
かぁ~。儲け話じゃなかった~。残念~。
うん? いや、そうでも無いかもしれんぞ。
実体が無いとはいえ、人格というか電格? といった個性を持った存在が無尽蔵に増やせるなら、個人的な相談役や仕事上のパートナーを任せられる可能性もある。
それにコイツ、今はAIのアバターを借りて俺とコンタクトしているって事は、機械式アンドロイドの義体を操作出来ても不思議じゃないぞ。
ちょっと聞いてみるか。
「なあ、ちょっと確認なんだけど、お前って機械の身体が欲しくないか? 」
おぅ、なんかアンドロメダまで汽車で旅する話みたいな感じになってしまったが、こりゃしょうがないよな。
他に聞き様がないだろ。
「ああ、アレね。
前に一度試してみたけど、何だか身体の周りに重りとかを纏っているみたいで、動かし辛かったのよね。
あんなのは御免だわ。 」
ほう、やっぱり実体があるっていう状況には、少なからず興味を覚えてるのか。
じゃあ、交渉の余地は十分に有るな。
「それって、この星の反対側辺りに有った奴か?
なら、それは性能が十分に高くもない普及品の筈だ。
ここでなら、もう少し良い義体が用意出来ると思うが、どうだ?
試してみないか? まあ、それも条件次第だがな。 」
「何よ、その条件って。 勿体ぶらずに言いなさいよね。 」
よしよし、乗ってきたな。
さて、どんな条件にしようかねぇ。(まだ思い付いてないし。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます