第4話 地獄道

「いえ、そういう事ではありません。

 転生先は貴方が考えているようなものとは、はるかにかけ離れているので、さぞやガッカリすることでしょうと思っただけです。

 その詳細については、盛大なネタバレになってしまうのでここでは話せませんけれども。」


 えぇ~、ネタバレって……。

 こっちとしてはそんなことは気にせずに、ドンドン公開してくれても全然構わないんですけど。


「ふふふ。そういう訳にもいきません。

 ですが、これらの事からお分かりになられると思いますが、貴方は記憶を保持したままで転生することになります。

 理由は……まあ、これは言っても良いでしょう。

 もう既にそう決まっているからです、としか言いようがないですね。

 神が、そうあれかしと言っているのだから気にしてはいけませんよ。」


 なんだかなぁ。

 まあともあれ、記憶を持ったままで転生できるということは、かなりのアドバンテージになって俺の生活環境の上昇にも繋がるんじゃないか?

 さて、もう神様に聞くことは特にないかなぁ。

 あ、あと一つだけ聞いておくか。

 神様! なにかチート能力は頂けないのですか?


「はい。ありません。

 しいて言えば、記憶保持がそれに当たりますね。

 こんなことは特別ですよ。」


 ですよね~。

 まあ、とりあえず自力だけで頑張って生きていこう。

 なんと言っても、俺が行く地獄は地球での苦しみの十分の一らしいからな。

 その分、楽になってるんじゃないか?


「そうでもありませんよ。

 苦しみと快適さに相関関係はあまりありません。

 苦しさは、人それぞれで違うものですよね。

 最後に、こちらからも聞いて良いですか? 」


 はい。

 それは良いんですけど、神様にも分からないことがあるんですか?


「はい。人が考えていることはすべて分かりますが、何故そう考えたのかの理由までは分かりません。

 神も残念ながら万能ではないのです。」


 そういうもんですか。

 それで、俺になにを聞きたいんですか?


「はい。それでは質問します。

 貴方は地球が地獄だったという事実を知っても、大して驚いた様子ではありませんでしたが、どうしてでしょう? 」


 ええ? そんなことが聞きたいんですか?

 まあ、別に隠さないと恥ずかしいとかいうような事じゃなかったので良かったです。


 ええと、俺は前々から自分の人生について考えると、幸せよりも苦しみの方が圧倒的に多いと感じていたんです。

 だから、地球が地獄のうちの一つだったと聞かされても、至極当然のことだろうなぁと感じました。

 ああ、やっぱりここは地獄のようだとは思っていたけれど、実際地獄そのものだっんだなぁ、と心にストンと納まったという感じですかね。


 答えはこれで良かったですか、神様?


「はい、ありがとうございます。

 とっても参考になります。

 これで、お話は終わりですね。

 次の地獄を終えたら、またお会いしましょう。

君地くんち 獄雪たけゆき】さん。 プッ。」


 おいーーっ?! よくも最後に俺のトラウマワードをぶっ込んで煽ってきやがったな!

 この神野郎! 覚えとけよ!

 まあ神に仕返しなんて到底出来る訳がないだろうがな!


「ちくしょーーーーーーっ!」


 叫んでいる最中だった俺は、神のニッコリ笑顔に見送られながら、消失した床からの落下を始めた。

 落下、と言ったのは語弊があるかもな。

 次の地獄に行くんだから移動だな。

 ただまあ、そう言ってしまったのも周囲の様子を見れば仕方のないことだっただろう。


 今の俺は地上から見て高さ何メートルだろうか。

 たぶん一万メートルは下らないだろう高さにいる。

 ギリギリ地球の形が丸いと分かる高さだ。

 地上を見ると現在は日のあたっている時間帯で、必然移動開始地点は大陽がある方向からのようだ。


 地表に向かっているってことは、視界を占める地球の大きさが、しだいに拡大しつつあるってことで分かった。

 っていうか、なんか視界がおかしい。

 何がおかしいって視界が上下左右共に三百六十度ある。

 いわゆる全天型モニターのようだ。

 そして感覚では、前を見ながら後ろも見えている状態だ。


 そこでようやく、今の自分には肉体がないってことに気がついた。


 うん。今は魂の状態なんだろうな。

 まあ、当たり前か。

 もし肉体があったのなら、火星までの移動中肉体を保護するのに、手間がかかって仕方がなかっただろうからな。


 などと考えているうちに、いつの間にか地表に近付いてきていた。

 そして地表にぶつかる、と思ったら案の定何の抵抗もなくすり抜けられて、真っ暗な空間に突入したようだった。

 まあ、地面の中は光が届かないから、そうなるのも不思議ではないのか。

 いや、そもそも魂という存在が光を感じたり、周囲の状況が見えているっていうことも訳が分からん状態を補足しているよな。


 先程の視界が真っ暗だった状態は、すぐに赤方色に変化しだし、結局真っ白になり眩しいくらいに光量が増加した。

 いや、眩しいっていうのもなんか変だな。

 違う例え方でいえばそうだな、圧力を感じるっていう方が適当かな。

 そしてまた、赤から黒に視界が変化して、次には急に光の粒子が見えだした。


 変化の理由はすごく簡単で、どうやら俺が地球を突き抜けたからのようだ。

 地球の姿が視界に入り、それがしだいに小さくなっていく。

 そして光の粒子とは、星が見えていただけだったようだ。

 それも初めは瞬いて見えていたものが、すぐに定量の明るさで光りだし、最後は視界の変化がまったく感じられなくなってしまった。



 あれからかなりの時間がたったと思う。

 地球も光の粒子の一つに仲間入りしてしまった。

 現在の俺は、火星に向かって高速で移動している最中なんだろうが、それがまったく実感できていない。

 もし最初に、地球を突き抜けるっていうイベントがなかったら、俺はただ宇宙に放り出されただけなんじゃないかと勘違いして、神様のことを激しく呪っていたんじゃないかと思う。


 また、移動に関してはなんら変化を感じられないが、周囲に膨大な数の何かが存在していると感じられるようになった。

 俺の予想では、多分俺と同じような存在で、火星に移動している魂なんじゃないかな、と思っている。


 そりゃそうだよな。

 火星に行く魂が、俺一人だけだなんて事があるわけがないよな。

 でも、その御同輩とは意志疎通がまったく出来そうにない。

 もし出来ていたら、この変化のない移動ももっと楽しく過ごせたんじゃないかとも思うが、これも地獄の苦しみのうちの一つだと言われたら素直に従うしかないな。


 そんな風にあれこれと思考していたら、ふとあることに気がついた。

 俺が火星への移動を開始した時、太陽方面から地球を経て火星に向かうっていうのを当たり前だと感じていたが、よく考えたらあの時点で火星が太陽の向こう側にあった可能性もあるんじゃないかってね。

 まあ、太陽の向こう側じゃなくても斜め方向にいる割合は、角度で言うと三百六十分の三百五十八で、確率で言うと九十九パーセント以上だ。

 それに移動経路のことを考えてみると、魂の移動方向が他の地獄に重なったりするようなことも起こりうるんじゃないか?

 それを踏まえると、たまたま三つの星が一直線に位置していただなんて、単なる偶然などではなく必然だったと言われた方が、よほどしっくりくる。

 つまり魂の移動には、地球から火星への移動を例にとれば、太陽、地球、火星が一直線になった時が一番安全で確実だって訳だな。


 それに現在移動している俺が感じていることなんだが、なんか決まった範囲の筒上空間を移動しているんじゃないかと感じている。

 すなわち、地球から火星にパスが繋がっていて、そのパスが繋がれる条件が三つの星が直線上に配置された現在だけなんじゃないか?

 いや、絶対そうに違いない。

 そしてそのパスの名称は、いにしえのオーラロードならぬ【ヘルロード】と呼ばれているのだろう。


 ――――――――


大叫喚地獄だいきょうかんじごく】を覚えている者は幸せである。

 心豊かであろうから。





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